ハルカ 「次元の間」のお話3
まあ『初恋』っていっても多分ありふれたものだろう。彼との出会いは高校一年の時だった。
当時は運動部はともかく文化系はいくつかのクラブの掛け持ちとかみんな結構やっていたので、私も彼も彼の最愛もたまたま共通のクラブに入っていた。
最初は全く意識とかしていなかったんだけど、その年の秋の文化祭で彼が所属していた写真部の作品を観て何となく意識するようになった。動物とか人とか、生き物の一瞬を撮るのがうまいなってそんな感想を持った。
その時に彼は既に最愛の女の子と出会っていて、その子をモデルに写真を撮って展示していた。何気ない表情なんだけど、ドキッとするくらい愛らしく撮られた写真を見て、彼女のことが好きなんだなって、その作品を見てわかってしまった。
気がついてみれば会話の端端で彼女を特別にしているのにも気づいてしまった。と同時に自分の気持ちにも。
フラれるのがわかっていながらも告白する勇気もなく、彼らも付き合ったりとかはしていなくて、程よい距離感を保ちながら友達とも言えない微妙な距離感を保ったまま卒業をして、それぞれ別々の大学へと進学をした。
卒業後、私は地元の企業に、彼は県外に、彼女は地元に戻って就職をした。
共通の所属していたクラブは先輩後輩が結構仲が良く、高校卒業しても夏と正月に同窓会みたいなものをしていて、細々だけどつながり続けていた。
そんな会でも付き合ってはいないけど、彼女は特別みたいな彼らを横目に、どうにもならない気持ちを持て余しつつお友達っぽい関係が続いていた。
流石に社会人一、二年が過ぎるとちょっと踏ん切りつけなきゃ、このままではまずいと感じるようになって、告白っていうより、諦めるわ宣言を彼にした。
最初は面食らいながらも、何を血迷ったのか去ろうとする私を彼は引き留めた。
へっと戸惑っていると、自分も卒業しなきゃと言いながら、私を抱きしめた。
思ってもいなかった彼の言動に、つい期待をしてしまった瞬間、おそらくそれを『彼女』に見られたのだろう、彼は私を突き放し、彼女のところへと走って行った。
その後彼らは正式に恋人関係になり、結婚をして、孫もできて幸せに暮らしていると共通の他の友人たちから聞いている。
このことがちょっとしたトラウマになってしまって、まあ仕事も忙しかったり、体調を崩したりで、全く浮いた話がなかったわけではないけれど、踏ん切りがつかず気が付けば四十近くなっていた。早期閉経というのもあって、婚活も諦めた。で現在に至る……
そうつらつらと他人事のように語る私を、切なそうに夫君たちが見てくれる。
そんな、可哀想な子見るように見ないで欲しいよ。彼らが悪いわけじゃない。諦めが悪くて、墓穴を掘っただけだよ。
そう、自分の中では遠い昔の話になっていた。今回のことがなければ。
彼とは似てもにつかぬ銀髪で、レオンハルトのようなアースブルーサファイヤの瞳を持つ、夫君達と良く似た容貌を持つ『アルフレッド王子』は、『青の星の記憶』を持っていて、自分は『彼』であると宣った。
彼の話は私の経験している事実と全然違っていた。
彼がいうには、私と彼とは結婚を前提に恋人関係だったけれど、『彼女』と再会して諦めきれない思いに気づいて、私と別れて彼女と結婚したそうだ。最初は良かったけれど、どうもしっくりこない微妙なずれが生じて、数年で別れたのだそうだ。
その後、他の女性とも付き合いをしたけれど、上手くいかず、私を探したけれど見つからず、そんなこんなであの日を迎えたのだそうだ。
アルフレッド王子としてこの星で生を受けたものの、十二歳で『青の星の記憶』が発現してから、私を探していたそうだが、見つからなかったそうだ。そうこうしているうちに『渡り人』であるアイコ様が渡ってきた。当時は自動的に王位第二継承者は『渡り人』の夫君になることになっていたそうなので、彼は『アイコ様』と成婚の儀を行ったそうだ。
記憶の齟齬というよりかは全く別物だったため、彼の話を聞きながら、突っ込みまくって『アイコさん』に苦笑されまくってしまった。
いや、『彼』の記憶の私、可哀想過ぎるだろう。結婚前提の付き合いまでしていながら、捨てられるなんて…… しかも自分に都合よく解釈してんじゃない! 最後には説教しまくっていた。
そこまで話すと夫君達も『彼』に呆れていた。
若干怒り心頭だったのを思い出し興奮気味で話してしまっていたことに羞恥を覚えたので、こほんと小さく咳をした。
「それで、まあ、彼の記憶が途中で都合よく書き換えられたのかどうかを判断したいと思って、記録を見せて欲しいと思ったんだよね。無理かな?」
夫君達はお互い顔を見合わせる。と、アレクサンダーが
「ハルカの言いたいことは理解した。陛下には私から話そう。それから、行方不明になっていた『リン様』のことは、先にレオンハルトから聞いたが、事実なのか?」
「うん。おそらくね。これは『アイコ様』と『アルフレッド様』から聞いた話だから。これも四人に見て判断して欲しいんだ。映像の記録も許可されているから、公的記録として残してほしい」
私がそう返すと四人とも頷いた。
「いずれにしても『アルフレッド様』の言い分が正しいのか、記録を確認させてもらってからの方がいいと思う。やっぱり、ちょっと信じ難いし、時間的なラグがなぜ起こったのかというのも、正直怖いでしょ?」
私がそういうと四人とも同意をした。
その後すぐに転移魔法でアレクサンダーは国王フリードリッヒに経過報告と私からの要望について話をしに行った。ルイスも同行して。
そんなこんなで少しの間、再びゆるゆるライフが始まった。
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