ハルカ 「次元の間」のお話1
二週間前、ここに戻ってきた前日(夫君達にとっては一年前)『マナ暴走未遂』の原因とされていた『森の長老』を南大公国の森の中で探索をしていた最中に、自分を呼ぶ声が聞こえたのに反応をして『あそこ』に引っ張り込まれた……
そう話始めてすぐクリストフが反応をする。
「名前ですか」
「ん〜〜、正確には名字かな」
「名字?」
「ファミリーネームの方。私の名字は高瀬なのでそっちの方を呼ばれたの」
「名字は限られた人しか知られていませんね」
「そうなの? でもはっきり『高瀬さん』て呼ばれたよ」
「つまり、王族や関係者以外であなたのことを知っている人ということですか?」
「ん〜〜、そういうことっていうか、ちょっとややこしくなるんだよ。自分でも納得いっていない現象が起こってしまったので」
これから説明する不可解な事情になんとも説明しづらいな、と反応する私に対してルイスが
「でもハルカが今回話してくれた中で、彼らが君を知っているということはあり得ないんじゃないの?」
「うん、それはそうなんだけど……」
夫君達にはあの場所でいた人間の話を既にしていた。
そう、あの空間には本来なら存在していないはずの人間がいたのだ。おそらく私の話も夫君達からすれば半信半疑だろう。
アレクサンダーが一つ軽く咳払いをする。
「ハルカ、君の話だと二千年も前の人間がそこに存在したということになるんだが……」
そんなことはあり得ないだろう。という風な面持ちで私を見た。
「でも、今回のハルカの失踪のことを考えればあり得なくもない」
ルイスがそう言うと夫君達は黙り込んでしまう。レオンハルトは私に対して確認を取るかの様に質問してきた。
「ハルカ。君があそこにいた時に出会ったのは本当に『大聖女・アイコ』様とその第一夫君の『アルフレッド』様だったということは本当なのかい?」
「うん。本当だよ。なぜそれが可能だったのかはともかく、彼らはそう名乗っていた。その真偽は確認はまだできないんだけどね。ただ、彼女は『大聖人・光様』のことを知っていたから…… おそらく彼の残した『日記』に何かヒントがあるんじゃないかと思って…… できれば彼女達に翻訳してもらえたらって思ったんだ」
私の言葉にアレクサンダーとクリストフが反応する。
「「翻訳…… 」」
そんな彼らを見ながら話を続ける。
「アレクサンダーからも強く頼まれていたし。彼らなら、あなた方のような少なくとも『光様』の血縁者じゃないから。おそらく客観的に『日記』に書かれたことも単なる事実として『翻訳』できると思うし、その翻訳されたものを読むか読まないかは各々が決めればいいと思うから」
『光様』の血縁関係である彼らにとって客観性を求めるのは難しいことだと思う。
私が日本語で書かれた彼の『日記』を読んだものをこの星の言葉へと書き記すだけのこととはいえ、何が書かれているのか予測不可能なのが『日記』と言う代物なのだ。
そう例えばこの星に対して批判的であるとか、不満があったとか、王族の誰かをdisるって事もありえるのだ。
いや、寧ろその可能性が全くないなんてそんな『聖人』はいないんじゃないかな。だからこそ、注意書きの意味を込めて後世の渡り人に『日記』を残したんじゃないだろうか。え? そんな人はいない? いや、私ならそうするけれど。『日記』を残すという決断をするということはそういうことだ。
自分は『日記』は残さないけれど、こうやって全てを公的記録として残されていくのだから。
「でも『光様』の知り合いって……」
ルイスが不思議そうに口に出す。
「ん…… 元カノらしいんだよね。だからこそ客観的にも見れるらしいし」
『元カノ』と言う立場にも色々あるだろうけれど彼女が言うには大学生の頃短期間だけお付き合いした二学年上の先輩が『光様』なのだそうだ。両者とも医学部だそうで意気投合はしたものの、二学年差は色んな意味で行き違いも大きかったそうだ。そんなこんなで、恋人関係は解消したものの先輩後輩という良好な関係を築いていたそうだ。そうとはいえ、他人の日記を読むのは抵抗を感じてはいるみたいだけれど、そこは『アルフレッド』様が『光様』と血縁的に全くの無関係というのもあって、私達よりはマシだろうということで引き受けてくれたのだと説明をした。
「まあ、私が読んで彼に翻訳してもらった方が一番いいのだろうけれどね」
そう私がいうと、
「「「「駄目」だ」」です」
四人の言葉が見事にハモる。思わず苦笑してしまった。
「だと思ったから、あちらからも申し出があったけど断ったよ。だから、今度行くときは『日記』を持っていく約束なんだ。とりあえず一冊ずつ。翻訳が終わったら次をお願いするという形にしようって思ってて。アレクサンダーは駄目? 皆はどう?」
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