ハルカ 『魔力酔い』になる
アレクサンダーによって元アレクサンダーの部屋(現客室)に攫われた私がレオンハルトによって救い出されたのは翌日の夕方。
既に初めての『魔力酔い』で意識が戻るのにさらに三日を要することになった。
『魔力酔い』…… ほぼ自分専門医になったルイスから説明を受けた。
この星の『夫婦の営み』は魔力とマナの両方を相互に交換するのだそうだ。
ただし『渡り人』である私には魔力はない。マナについてもどちらかというと『マナ欠乏症』のこともあるので完全受身になっている。
『魔力』の量に著しい格差がある場合『魔力酔い』という状況に陥る。それは時として健康障害を引き起こすことになる。身近な例を挙げればクリストフの亡くなった妻君だとルイスは言う。
『渡り人の夫君教育』の一つにはこの『魔力酔い』についての注意事項も含まれていて、ルイスもクリストフもレオンハルトも細心の注意を払いながら『夫婦の営み』やマナの供給をしていると教えてくれた。
当然、元第二王位継承者であるアレクサンダーもそれに準じていたはずなのだけれど、彼自身精神的にも想定外の状況に追い込まれていたらしく、いわゆる正気を失ってしまったのだそうだ。その上、他の夫君とは違って彼の三人の妻君に対しては『魔力酔い』の心配もなく『夫婦の営み』が可能だったからと言う背景も影響したのではと言うのがルイスの見解だった。
成程、レオンハルトやルイスは私が初婚だったし、クリストフについても亡くなった妻君との夫婦生活の影響もあって、魔力やマナの大幅な格差もあって、おそらく通常の『魔力やマナの交換』もほぼできなかったんだろうから、ほぼほぼ初婚状態と変わらなかったと以前クリストフ自身からも聞いていたので三人の夫君にとっては『渡り人』対策が当たり前の状態だった。
だけど、アレクサンダーは既に三人の妻君を持っていて成人した子供もいるのだ。彼にとっての普通の『営み』と言うのはこの星方式だ。つまりは魔力やマナの相互交換だが、魔力もなく『マナ欠乏症』の私にはそれができない。正気を失った彼の無意識に放出される魔力をもろ浴びてしまって『魔力酔い』になったというのが今回の結果だったのか。
う〜〜ん、どうやって使い分けているんだろう。やっていることはいつもの『営み』と大差はなかったんだけど。そういえば口付けの段階から確かに比べ物にならないくらいのエネルギーが流入してきた。あれが普通なら、確かに他のみんなは相当注意しているんだろうか。おそらく体の作り自体が違うからだろうけれど……
まあ、悪気があったわけではないし……
当然アレクサンダーは他の夫君達から厳重注意を受けたらしい。
『魔力酔い』の症状は二日酔い? 乗り物酔いのような感じで加えて回転性目眩が起こった状態。めちゃくちゃ気持ちが悪い。血流が逆流しているかのような苦しさもあった。
実際目覚めてルイスの説明を聞くまでに二日間ほど時間を要したのだった。
目覚めた当初、もう二度と経験したくない。そう言うとルイスは苦笑しながら、皆に話しておくからと言いながら、互いの両手を重ねるように合わせると澄んだ水のようなエネルギーを私の中へと巡らせて、大きく乱れたエネルギーの流れを正してくれた。
それにしても確かにタイムラグの影響もあるのだろうけれど、夫君達のあまりの熱量に私としては若干引き気味だったりもする。
一日と一年の認識の違いもあるんだろうけれど。これって、もし私が『マナ欠乏症』によって逝ってしまったら、そのあとどうするんだろう。いや、彼らはどうなってしまうんだろう。
『次元の間』で見た驚愕の光景が目に浮かんだ。
私の夫君達である彼らは正気を保つことができるんだろうか?
そんなことを考えながら、ルイスの説明を受けた後、夫君達全員を呼んで貰って今後の話をすることになった。
着替えをして夫君達のいる共有ラウンジへと向かった。既に夫君達は全員揃っていて、クリストフは彼が焼き上げたであろうアップルパイを大皿から小皿へと切り分けている。レオンハルトは全員分の珈琲を淹れていた。
アレクサンダーは私の姿を見ると立ち上がり頭を下げて謝罪をする。なんともいえない表情だ。私としては『魔力酔い』というのはかなり最低な気分だったのだけれど、大型犬が主人にコテンパンに怒られて大きな耳を垂れてしょぼくれている姿と大いに重なってしまったので、今後は注意してくれたらということに止めることにした。
反省をしてくれてたら、まあ良しとする。犯罪行為を起こしたわけではないのでその辺は他の夫君からも厳重注意も受けているだろうし…… まあ、そんなことより
「えっとね。アレクサンダーも揃ったことだからあの日あそこで何があったのかってちゃんと説明するね」
と話しはじめようとすると、レオンハルトから目の前に珈琲の入ったマグカップが置かれる。クリストフも小皿に分けたアップルパイをそれぞれに置いていく。
「まあ、その前にちょっとお茶しておこう。色々訊きたいこともあるし。一応今回の会話は公的記録として残すから」
ルイスがまとめる様にそう言うとそれぞれが珈琲とアップルパイを堪能していた。気持ちを落ち着かせると言う意味でも効果は高いなあと思いつつ…レオンハルトが淹れてくれたミルクたっぷりのカフェオレを飲みつつ、果肉たっぷりのアップルパイをあっという間に平らげるとクリストフはそれを見て満足そうな笑みを浮かべた。
夫君間でも情報交換はされているのか、アレクサンダーも落ち着いて珈琲を飲んでいる。気がつけばこっちに戻ってから二週間が経っていた。夫君達の様子を伺いながら、カフェタイムを終えると本格的な聞き取りタイムが始まった。
私はあの時何があったのかを話し始めた。
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