『次元の間』と『星の核の記録』
王宮 青の間
「まだ『ハルカ』様は見つからないのか? クリストフ」
ガラスケースの中にいる男に対して玉座から低い声が青の間に響き渡る。
「残念ながら、今持って足掛かりになるものも見つかっておりません」
ガラスケースの中の男は深く息を吐きながらそう報告をあげる。
「もう、半年にもなるではないか。もしも……」
その言葉を強く否定するかのようにガラスケースの中から声がする。
「陛下、『ハルカ』様は存命しております。私達の指輪もそれを証明しております」
「ああ。それは、何度も聞いておる。『ハルカ』様に何か甚大な危機があった時にはそれが反応し、知らせるのであろう。だがな、クリストフ、すでに半年が過ぎようとしている。全くなんの痕跡も残さないというのも無理があるのではないか」
陛下の指摘はもっともだ。だが……
「ルイスが申しますには、『ハルカ』様はいまだ森の中から移動はしておりません。おそらく『次元の間』に入り込んでいるのではないか、その為に目の前にいても『見えない』だけではないかと……」
『次元の間』…… 御伽話のようなことをいうとは一笑することはできない。それは『渡り人』そのものを否定することになるからだ。
国王フリードリッヒは『渡り人・ハルカ』様が彼女の夫君達の目の前で消えてしまったと報告を受けて以降、過去の二人の大聖女の失踪事件の記録を国王のみに許されたこの星の『核の記録』から再検証を行なっていた。一体彼女達に何が起こったというのか。『星の核の記録』には明らかに記録の改竄の痕跡があった。それができるのは国王のみであり、複数回にわたってそれが試みられていた。近々では国王バルト。自分たちの曽祖父だ。とはいえ、試みようとしてもそれを実現することは不可能だ。あくまで改竄を試みたがそれをすることは無理だったのだろう。改竄をしようとしたという記録のみが記録された。
公文書として国王以外に公開されるものは一見抹消することはできても『核の記録』の改竄はできないのだ。
二千年前の『渡り人・アイコ』様と彼女の第一夫君『大魔法士・アルフレッド』公は南大公国の森の中で自ら消えた。今回の『渡り人・ハルカ』様のように。
ただ、『大魔法士・アルフレッド』公はその後もその姿を確認することができている。一年に数回。食料の調達をしていたのだろうか。ただし、それは二千年の時を超えて現在まで彼の姿は記録されていた。おそらく最初の一千年はこれが記録されていると想定もしていなかったのか、彼はまるで無警戒のようにその姿を晒していた。だから確認できたことだが、おそらく彼等のいる『次元の間』は我々とは違う時の流れをしているのだろう。何故なら彼は失踪した時点から全く歳をとっていないからだ。
彼等が姿を消してから非常に長い時間が経った頃だろうか、森の様相が段々瘴気に汚染され瘴気の森へと姿を変えていく。時折森が光を放ちながらも瘴気は森を闇へと飲み込んでいく。その真っ暗な闇に包まれた瘴気の森の中に彼が光を放ちながら姿を現しているのが記録されている。
そしておそらく二人目の『大聖女?』によって瘴気に覆われた森が一気に『大浄化』されて行く映像も記録されていた。
彼女は彼女の夫君達であろう十人の男達と共に森の浄化を行っていたのだろう。その姿が確認できた。
それからしばらくして『大聖女』の姿が森の中で確認できた。たった一人、追われているのか、迷っていたのか、時折彼女は後方を確認しながらふらふらと森の中を彷徨っていた。やがて体力が尽きたのか大きな木の根元へと座り込んだのだろう。そんな彼女の目の前に再び『大魔法士・アルフレッド』公が現れる。
そして彼がその後南大公国の森の中に迷い込んできた彼女、おそらく『渡り人・リン』様の失踪にも絡んでいたことも記録されている。というのも『リン』様が彼と共に『次元の間』に移動したことが映像に残されているからだ。
その後数年経ち、再び彼が映像の中に姿を現し、特殊な魔法陣によって『誰か』を召喚したのも記録されていた。そう、記録には残されていない星の『渡り人』だ。
その姿から見て『渡り人』様達と同じ星の人間だろう。それが『召喚』できたことにも驚いた。
そして彼はその誰かを伴って再び『次元の間』へと姿を消した。
さらに数年後、一人の男が南大公国の森の中に姿を現す。身なりを見ると明らかにこの国の王族だ。誰かを探し続けてかのように彷徨いながらも何かの痕跡を辿るかのように彼等が姿を消した場所まで辿り着くと魔法陣をいくつも展開をし『次元の間』の扉をこじ開けるようにしたかと思えばその中へと吸収される姿を確認できた。その直後、何かが爆発するかのように巨大なエネルギーが放出されるとしばらくしてこじ開けるようにして入っていった王族の男がその光の中から弾き出されれるかのように姿を現した。しばらく呆然と自分をその弾き出した光をただただ見つめる男の姿が記録されている。
一体何が起こったというのだろう。
長い時間を経たのち、男は再び南大公国の森の中へとふらつきながらと消えていった。場面がかわり男の亡骸を検分しおそらく当時の国王へと報告が挙げられたのだろう、その場面が映し出される。そこで初めて男の名前が明らかになった。彼は『渡り人・リン』様の第一夫君の『大魔法士・レオナルド』公だった。
それから数十年後、再び南大公国の森の中に『大魔法士・アルフレッド』の姿を確認することができた。そう、彼は全く何もなかったかのように再びそれ以前と変わらないかのように一年に数度その姿が記録されている。ただ時間と共に彼はその姿を隠すかのようにフードを深く被り始める。
やがて長い年月を経て再び森が瘴気の闇に覆われていく。時折、森の中で単発的に光が放たれては消えて行くのを繰り返しながら。
画面の中に見覚えのある男達の姿と共に小さな小屋とそれを光のドームで覆う姿が映り込む。
レオンハルトとルイスだ。時折クリストフもそこに加わる。『大浄化』の前準備をしていたのだろう。それから少しして『渡り人・ハルカ』様の姿が加わった。ただ、少し時間を経て何もしないまま彼等は再び姿を消す。数日後、再び現れると彼女達が『大浄化』を開始しているのが確認できた。それらは夫君達の報告通りだろう。彼女達が『大浄化』を行っている間『大魔法士・アルフレッド』公の姿は確認されることがなかった。
彼が動いたのは『大浄化』が終わってしばらくしてだ。
彼はかつて彼が『誰か』を召喚した場所へと姿を現したのだった
。
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