ハルカ 南大公国を探索する 2
南大公国の森は広いので『浄化』を行った時のように地図上に同心円を描き点を細かに配置する。『渡り人』の媚薬フェロモンがどれくらいの規模で拡大するのかを確認しながら記された点にマーキングしていく。それは一定の法則の下で、彼等が私に接触をしやすいように予測しやすいように行う。いわゆる撒き餌だ。
もし彼等が私との接触を望めばこれに呼応するだろう。もちろん警戒もするだろう。時間もかかることは当然のこと。ただ、森自体は広いので移動はルイスの転移魔法を使う。
『マナ欠乏症』に伴う媚薬フェロモンは私が想定したよりも広範囲で影響を及ぼすことがわかった。これも公式記録として残されて、次の時に参考になるという。
媚薬フェロモンもマナと同じで可視化ができるらしく、例のマナゴーグルをつけて自分の『媚薬フェロモン』を見てみたら、濃いピンク色だった。(ネーミングとピッタリだなと思わず笑ってしまった)
森の放つ様々な色の『マナ』の中でその濃いピンク色のフェロモンが拡散した漂っていく様子はなんとも微妙だ。こんなので拡散やマーキングができるのかと思ったら、ルイスが風魔法でそれを拡散させていく。木々や草花へとそれがひっついていくのだ。ひっついた部分から周辺のマナが少しずつ色が変化していくのがわかる。植物が興奮? するのかわからないが、甘い香りが周辺に漂い出す。
それによってさらに広い範囲でフェロモンのマーキングが行われることになった。
人だけではなく植物にも影響を及ぼすのか…… 不思議だけれど、やっぱりこれは凶器だな。もはや生物兵器のようなものだ。植物でこれなら人や動物ならもっと影響が大きいんじゃないんだろうか、想像してブルっと身震いをしてしまった。
夫君達は結界を張っている。フェロモンの影響を受けると襲ってしまうと困るからと言われた。それと自分たちの痕跡を少なくするためでもあるらしい。
あちらも警戒しているのか、探索を始めて二週間が過ぎても変化がなかった。不発かなって諦めかけていた時にルイスが何かの気配を感じた。レオンハルトとクリストフも警戒している。息を潜めてあたりを伺っていた時、体の内部から突き抜けるようにポンと光が放たれた。
あっと思った時には夫君達三人の気が逸れて私の方に集中してしまったと同時にその何かの気配も消えてしまった。手がかりを自分で潰してしまうなんて、なんてこった。
深いため息をついているとレオンハルトが私の肩をポンと軽く叩いた。
「ハルカ、気にしなくていい。また接触してくるだろう」
「ごめん。せっかくだったのに。なんで肝心な時に……」
自分の突然の行動に戸惑っているとクリストフが
「何か『瘴気』みたいなのを感じましたか?」
「ん〜〜、そういうんじゃないかな。緊張したのかも」
ルイスが私の手を取る。私の左手の甲にある白い聖樹の印が点滅するように光っている。
「気に入らないな。これはどういうことなんだろう」
「わからない」
レオンハルトとクリスも表情が厳しくなる。三人の反応に戸惑っていると、ルイスが
「今日はもう家に帰ろう」
レオンハルトとクリストフもそれに同意をしたので、あっという間に帰途に着いた。
家に帰宅後、ルイスがいきなり自身の左手の甲と私の左手の甲の聖樹の印を重ねる。ボワンと強い光で二つの聖樹が一つの聖樹になって浮かび上がる。と同時にルイスがほっと息をついた。それをみたレオンハルトとクリストフも同じように私と聖樹の印を重ねる。一体何事かと呆れて見ていると何やら森で私の印にマーキングされたような気がしたのだとか。
まさかと思わず笑いそうになったけれど、ルイスもレオンハルトもクリストフもいたって真面目だ。
「どういう方法で『恩恵』を回収するのか方法がわからない以上警戒はすべきでしょう」
クリストフが強い警戒感を表す。
まあ、確かにそうだよな。彼等の杞憂が杞憂で済めばいいけど、そうでないなら警戒はすべきだろう。
この成婚の儀に交わした聖樹の印は夫婦間の印によって互いにマナの流出をロックされた状態だという。これを無理にこじ開けようとすれば一気にマナが放出される可能性もあるそうだ。つまりは私だけではなく、結果的に夫君達にも危険が及ぶのだそうだ。
自分だけならともかく彼等を危険に晒すのはいただけない。注意しないといけないな。
かといって結界を張ると撒き餌はできないし。微妙だ。
何か方法はないかと夫君達が話し合いの下、数日探索を休んで、魔法の訓練を受けることになった。
魔法の指輪を装着をする。私が使いこなせる魔法を組み合わせて、ちょっとした微弱の電気に近いものを流す。静電気でパチパチとかちょっとした漏電でバチバチといった類だ。
地味だけれど、近づかせないこと、触れさせないことを優先するというものだ。
相手が魔法士であるなら私レベルでは太刀打ちできないので、これはこれで仕方がないことだろう。
それと魔法の指輪自体に私の位置情報がわかる(GPSのようなもの)魔法もかけてくれた。万が一連れ去られた時用の対策らしい。
付け焼き刃のような気もするけれど、何もないよりはマシだろう。ルイスとレオンハルトが私が考えているよりも深刻に今の状況を考えているようだし、彼等を安心させるためにも忠告に素直に従うことにした。
数日後再び南大公国での探索が再開された。
再開後二日目
「高瀬さん」
と誰かに名前を呼ばれて、振り返った瞬間、右手を誰かに掴まれて引き寄せられた。
一瞬で光の中へと引っ張り込まれた。
揺らぎとともに景色が一変する。転移魔法?
そう思った瞬間、意識も暗転してしまった。
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