ハルカ 南大公国を探索する 1
南大公国への入国許可をもらおうとしていた時に、アレクサンダーの妻君方から『お茶会』の招待状が届いた。
せっかくだからということで夫君達と共に参加する。アレクサンダーには三人の妻君がいる。これは彼が臣籍に下る前に成婚をしていたからだ。現国王と年齢的に三歳とほぼ変わらないのだけれど、彼が王位第二継承者だったため、優先的に成婚をすることができたのだそうだ。
これがほんの少し時期がずれていたら、レオンハルトやルイスのように結婚できる女性は現国王に全て取られていたらしい。なので前国王は王弟であるアレクサンダーの成婚を優先したそうだ。
みなさん穏やかで優しい。中身年齢はあまり変わらないので話していくとすぐに仲良くなった。そのおかげか、南大公国の森での探索に許可をもらえることになった。
南大公国を後にして、現在の居留地である西大公国に戻るとホッと息をついた。
「どうしたの? ハルカ」
ルイスが声をかけてきた。
「アレクが元気そうで安心したよ。妻君達の側の方が彼にとっては落ち着くみたいだ」
三人の夫君達は穏やかな笑みを浮かべている。
「叔母上は皆さん、優しいから」
ルイスが口にする。彼のためだと言いながらも、追い出しちゃう形になったことは事実だったので、正直彼に会うことは怖かった。
でも彼の妻君達は私を見て最初は見た目年齢と実年齢の差に戸惑いつつも、そのままの私を受け入れてくれた。そして、彼女達は私にこう言ったのだ。
「旦那様の旦那様に会えて良かった」
と。最初聴き間違え翻訳間違えかと思ったら、そうではないらしい。それを確認するためにお茶会を開いたのだと。
南大公国の屋敷に戻ったアレクサンダーはかなりの情緒不安定になっていたらしく、妻君達はかなり驚いたそうだ。外見も二十歳は若返っていたせいもあって、彼女達は彼を夫というより息子に接するように接したそうだ。とはいえそういう状況を越えれば以前のような彼女達の夫に戻ったのだという。落ち着いたところで私の話題になり、私のことを彼は『自分の夫』のような存在だと話したらしい。
男としての競争心を煽られ、男に接するように嫉妬する。限界まで追い込めたいと思う。それでも勝てなかったと話したらしい。今回のこともそれが一因だったと。
マジか、アレクサンダー。私が動揺するなんて考えてもなかったんじゃないのかというのがまさか本当だっただなんて。これにはかなり衝撃を受けたよ。
唖然としている私に彼女達はさらに追い打ちをかけるかのように
「レオンやルイス、クリスの様子を見てもそれが納得できたわ」
と言われた。思わず、三人を見ると、ちょっと気まずそうに、でもそれを否定しない。
そうか、やっぱり、自分も意識はしていながらも、彼等も同じように考えていたのか。う~~ん、でもねえ、彼等の方が乙女的なんだよね。おばちゃんすぎておじさん化してるのかもしれない。地球人の方がサバイバル的すぎるのか。
妻君見てもみんな本当に穏やかっていうか、大人っていうか。達観しているというか。そういえば現国王の王妃様や妃の皆さんも同じだったよ。この星の人の気質なのかな。いや地球人の方が未熟なのか? そういう意味でも『渡り人』っていうのは異質な気がする。自分もだし『彩乃さん』も。
夫君の逆指名とか、絶対なさそうだよね。人間的には遺伝子がとかいっちゃうけど、この星の人的にはそういうのもなさそうだし。強い魔力やマナの持ち主にしても受け入れる側にも制限があるし。星それぞれなんだろう、どこに価値を見出すかは。
そもそも生きるために食物を奪い合う地球人と、食物すらも自分の『マナ』で作り出せるこの星の人とでは全く違うよなあ。
あれこれ考えているとアレクサンダーの第一妻君に
「『ハルカ』様と『アヤノ』様は同じ『渡り人』様なのに全く違うんですね」
と不思議そうに言われた。彼女達から見ても『彩乃さん』は女性らしい女性。ということらしい。
ん? なんかあったのか? 彼女何にかやらかした? 微妙なニューアンス。
「叔母上、ハルカの方が女性らしく、可愛いのですよ」
クリストフの援護射撃が突然入った。よくわからないけど『彩乃さん』のことになるとクリストフは過剰反応しているような気がする。
ルイスとレオンハルトもすっと私の座っている席の背後に立つ。
そんな彼等をみてアレクサンダーの妻君たちが苦笑いをしている。
「レオンやルイス、クリスまで。ふふふ、愛されてますわね、『ハルカ』様』。本当に驚きましたわ。彼等がこんな風に反応するなんて」
三人の夫君たちの反応に驚いたらしい。どう反応すればいいのかリアクションに困っているとアレクサンダーが
「ところで森の探索をするというのは本気か」
と話題を変えてくれた。南大公国の方でも大規模な探索は行われたそうだが、森の長老の居住らしきものや痕跡も見つからなかったそうだ。
「おそらく、森の長老は魔法士ではないのかなって思うんだよ。アレクも屋敷全体に結界を張ったり転移ができることを知っているでしょ? それと同じで、探索されそうになったら、結界を張って移動しているんじゃないかなと」
私がそういうと、アレクサンダーも成程と言葉にする。
「それで、私が囮になってあっちから来てもらおうかと」
「ハルカ。それは駄目だ」
アレクサンダーが大きな声で制止する。三人の夫君達はとりあえず説得しているから沈黙している。アレクサンダーは彼等に対しても
「なぜ、ハルカを止めない。彼女の命が危険にさらされるんだぞ。お前達わかっているのか」
アレクサンダーを落ち着かせるように
「アレク、大丈夫、彼等も同行して守ってくれるから。それに、ちゃんと片をつけないと。アレクも『彩乃さん』もこのままってわけにはいかないでしょ? 少なくとも『彩乃さん』は絶対関与させることはできないんだから。彼女を守るためにも私が動くしかないと思うんだよ」
「ハルカ……」
「すぐにあっちが反応するかどうかはわからないけどね。だから、結果が出るまで森の探索を自由にできる許可を出してほしいなんだ。アレク、お願いできるかな」
アレクサンダーは私を止めようとしたけれど、私の意志がかたいと知って少し泣きそうになりながら(そんな彼を見て妻君達はとても驚いていたけれど)許可を出した。
アレクサンダーも参加を希望したけれど、私に何かあったらアレクサンダーの責任になるから関与させられないと強く固辞したら、最終的には彼もそれを受け入れた。
南大公国の許可も下りたという事で三人の夫君達と共に南大公国の森を探索することになった。
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