ハルカ 『マナ暴走』未遂事件? 5
感情をセーブして二人と対峙したはずなのに屋敷に着いた途端に熱を出してさらに三日間寝込んでしまった。
結構喋り尽くしたからなあと反省しつつ、事態がこれ以上悪化しないように願いながらただひたすら回復に努めた。
アレクサンダーが南大公国に戻ってしまったから、余計に気をつけないと三人に心配かけちゃうからなあと思いつつ、クリストフの作ってくれたレアチーズケーキを堪能する。
めちゃ、美味しい。
最近デザートがかなり充実している。というのも食べ物から『マナ』の吸収を増やそうということにしたそうだ。食べ物は『マナ』だからか食べても太らない。これ大事と思いながらガッツリ食べてレオンに鍛錬をつけてもらって体力もつけていく。デザートも太らないから食べ放題だ。
夫君達からの直接的な『マナの供給』とは違って、一度マナを物質に変化させることによって『マナ』の形状がほんの僅か変化をしているらしい。これが『マナの流出』に微妙に関与しているそうだ。
夫君達の領地に行くたびに現地で新鮮な果実も手に入るので、ある意味地球にいる時より健康的だったりする。
そういえば、太った人って見かけないなあ。『彩乃さん』の夫君候補選びの時のお披露目会場には元王族とかもいたけど、でっぷりおじさんというのはいなかった。お髪の少ない方々も見かけなかった。なぜだ?
「なんですか? ハルカ」
「ここの人って太ったり、お髪が少なくなっておじさんになっている人いないなって思って」
「ああ…… そう、でしょうね。私たちの世代は『渡り人』様が渡られるかもしれないと言われていた世代なので、いつ渡られても大丈夫なようにある程度心算していたからだと思いますよ」
クリストフが微妙な笑みを浮かべながら話す。
「え? 来るってわかってたの?」
「ええ、父である前王が必ず来るっていうことで、魔力やマナの特に多い私達三人と叔父上の四人に特別に『夫君教育』を受けさせましたから」
「それって、時期的に来るだろうって思ってたから?」
「それもありますが、ルイスが『マナの可視化』という能力が発現したからです。ハルカはそれをみたのでしょう?」
「見たけど、それがなんの関係があるの?」
「その能力は特殊なもので『渡り人』が渡られる時に産まれると言われています。特に『大聖女や大聖人』級の『渡り人』の時に」
面白いことを言う。
「『大魔法士』?」
「ええ、そうです。『大聖女・サクラ』様には『大魔法士・ルーファス』、行方不明になられている『大聖女・アイコ』様には『大魔法士・アルフレッド』。実は『アイコ』様と共に彼も行方がわからなくなっています。それから『大聖女? リン』様には『大魔法士・レオナルド』。彼は『リン』様を探す放浪の旅先で亡くなられたそうです。そして『ハルカ』には『大魔法士・ルイス』。該当する『大魔法士』は『マナの可視化』という能力を持ち、その能力で『大聖女』を守っていたそうです。ルイスもですが」
『マナの可視化』で自分の『マナ』が流出するのを見せられたら、感情の揺れとか自重するよ。
「確かに。あれ見せられたら『マナ欠乏症』の怖さと『マナの暴走』の危険性がわかるもの。自重するようになるよ」
「ハルカは自重しているんですか?」
え? クリストフの意外そうな顔はどういう事?
「何、それ? 自重してるよ、ちゃんと。ひどいなあ、クリス」
「すみません。揶揄ってしまいました」
「でも感情の制限はかなり難しくて。言葉や行動に出す出さないレベルじゃないもんね。感情の波を起こさないって難しい」
「生きてますからね、仕方がありません」
そんな会話を続けているとレオンハルトとルイスが会話に加わってきた。
「叔父上から報告があった」
「アレクから?」
「森の長老が何度か接触を図ろうとしたらしいが叔父上が拒絶して、城内に入れないように結界を張ったらしい」
「『彩乃さん』は?」
「『アヤノ』様はおとなしくされているようだ」
「森の中も何度か捜索を続けてはいるが全く手掛かりも掴めていないそうだ」
つまりは餌投下が必要ってことか。反対されるだろう…… けれど
「アレクにお願いをして私が森の中を探索する許可をもらって欲しいんだけど」
「「「駄目だ! ハルカ」」」
やっぱりね。でも
「いや、私一人が行くわけじゃないよ。みんなも来てくれると心強いけれど」
「「「………」」」
「あのね。おそらく相手も魔法士なんじゃないのかなって思ったんだよね。その~、ルイスだとそういうのも見破れるだろうし。何かあってもレオンとクリスがいるとすぐ対処できるだろうし。森の中なら私の結界なしでも問題ないでしょ?」
私の言葉に
「ハルカ」
ルイスが呆れたように私を見る。レオンハルトやクリストフは厳しい表情のままだ。おそらく私が『囮』になると思っているんだろう。まあ、事実そうなんだけど。
それにしても『森の長老』かあ…… 彼は何故『青い星の最後の記憶』の記録の映像のことを知っているんだろう。『渡り人』がそれを見て相当衝撃を受けることも知っているかのようだ。
王族なのか? でもそれがどんな映像なのか知っているのは限られた人間だけだとレオンハルトが言う。
王位第一位と第二継承者のみ。現時点で該当する人の中で『森の長老』らしき人は存在しない。この星の人であっても不老不死というのはあり得ないそうだ。つまりは『渡り人』が他に存在するとして、彼か彼女を保護できる人がいないということだ。
長老っていうんだから高齢なんだろう。あの瘴気で汚染されていたであろう森の中で生きてこれたんだっていう方が驚きだ。『大浄化』の前から住んでいたってことなんだろうし。どうやって生活していたんだろうか?
それにどうやって『マナの回収』をしているんだろうか?
湧き出る疑問の答えが見つかるのは、直接彼らに会わないと難しいだろう。
その前に『南大公国』に入国許可もらわないと。
アレクサンダーか、元気にしているんだろうか?
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