ハルカ 『マナ暴走』未遂事件? 4
『彩乃さん』は艶やかなオレンジと赤のデイドレスを綺麗に着こなしている。私は夫君達が作ってくれたパンツスーツだ。ルイスが『彩乃さん』を所定の席へと促す。彼女の夫君達は彼女を聞き取りする席から少し離れた応接セットへとクリストフが案内する。
私を含め彼女の夫君達には珈琲が『彩乃さん』には『フレバーティ』がレオンハルトによって振る舞われる。ほんの少しの歓談の後聞き取り調査が開始される。
クリストフがアレクサンダーの時のように国王フリードリッヒによってこの場が設けられ、映像と公文書として記録されることを『彩乃さん』に話す。
『彩乃さん』はそれを承認する。
「こんにちは『彩乃さん』」
「こんにちはハルカさん。今日はどうして……」
彼女はなぜ自分がこの席についているのかわからないといった風に私に問う。私は手を抜かず直球で彼女に向き合うことにした。
「それは『彩乃さん』が今非常にまずい状況に置かれているからだよ」
「まずい状況?」
「うん、それもかなりまずい」
私は『彩乃さん』に彼女の置かれている状況を端的に話す
まずは私が『マナの暴走』を起こしかけたこと。その原因はアレクサンダーが私に光様の『日記』の翻訳の度々の要請と『青の星の最後の記憶』の映像を見るように誘導しようとしたこと。そしてそのきっかけが『彩乃さん』からの『相談』であったこと。
『彩乃さん』からの『相談』の中に『渡り人』の『恩恵』の移し替えができるという噂は本当なのかというものであったこと。その移し替えは『マナ欠乏症』を患った『渡り人』を殺すことで可能なこと。つまりは現段階で殺人という意図はなかったかもしれないけれどアレクサンダーが私にしたことは明確に『渡り人保護法』に抵触すること。
『彩乃さん』はそれを『教唆』したと考えられていること。
『彩乃さん』は自分も罪に問われると聞いて驚いている。『教唆』という言葉を知らないとでもいうかのように。
「あのさ『彩乃さん』、地球ではそんなことはよく耳にしてたでしょ? 人をうまく誘導し、罪を犯させることを『教唆』っていうんだよ。知らなくはないよね? 子供じゃないんだし。そんなに甘いから騙されるんだよ」
あえて口調の厳しさを緩めない。
「騙される?」
「うん、そう。あなたの弱さに付け込まれて利用されたんだよ。森の長老っていう人に。そしておそらくこれは私の私見だけれど…… あなたも殺されるところだったと思うよ。彼? 彼らにね」
「殺される?」
物騒な言葉に『彩乃さん』が驚く。あくまで可能性の一つだけれど……
「その噂の確認なんだけど彼は「マナ欠乏症』を患った『大聖女』を弑せば『渡り人』に『大聖女の恩恵』が移るって言われたんだよね?」
『彩乃さん』は頷いて肯定する。
「つまりは『大聖女の恩恵』を取り込めた『渡り人』を同じように弑せば他の『渡り人』にその『恩恵』を移すことも可能だってことなんだよ。ってことも意味するんじゃないのかなって、私はすぐ思ったんだ。理解できる? マネーロンダリングのようなものだよ。もしこの仮定が正しければ、貴女は彼らにとって都合のいい『中継器』に過ぎないってことだよ」
あっと小さな声を発する『彩乃さん』。
「『渡り人』が私達だけだって思い込むのは危険だと思う。それとね、貴女はもっと周囲にも注意を払わなくてはいけないと思う。貴女の周囲は必要な情報を貴女に与えていないから。『マナ欠乏症』についても貴女は全く知らなかったし、『恩恵』というのが、まあ、あくまで仮説だといっているけれど、『恩恵』の発動条件に『マナ欠乏症』を発症することというのがあるらしいんだよね。つまりその条件で『恩恵』を発動すれば『マナ欠乏症』もどんどん進行していく可能性があるってことなんだよ。『マナ欠乏症』を罹患すれば不治の病で、常に『マナの暴走』をしないように制御し続けなければいけなくなる。『マナ欠乏症』の罹患者が『マナの暴走』をすれば即死に直結するからね。だからこそ、今回の事例は非常に深刻なことになっている」
『恩恵』と『マナ欠乏症』の関連性もおそらく知らされていなかったんだろう。可哀想なくらい混乱をしているみたいだ。
『防音』魔法が展開されているので彼女の夫君達は私たちの会話を聞くことができない。ただ『彩乃さん』がひどく混乱をしているのがわかるのか、三人とも私と彼女を心配そうに交互に見ている。
兄弟従兄弟に当たるからか私の夫君達によく似ている。いい夫君達じゃないか。愛されていると思うよ『彩乃さん』。
「それとね、なんか『私のこと』をずいぶん甘く見てるけど、おばちゃんだから私。一応この歳までしぶとく生きてきたんだよね。この星で生きるためにかなり頑張ってきたと思う。やっと一仕事終えて、ゆっくり『余生』を楽しもうと思っているのに、何で邪魔されなきゃいけないの? 私、聖人君子じゃないからね。悟りを開いた人でもないんだから、誰かの欲望のために自分の大切の夫達を奪われなきゃいけないの? そのために殺されなきゃいけないの? そんなの真っ平ごめんだよ」
一旦言葉を切って、『彩乃さん』に対して警告する。
「私、自分で死ぬ時は選ぶから。それ以外でもし貴女が関与して命を奪われたら、貴女を恨むから。恨みつらみは瘴気のもとになる。『恩恵』ではなく『瘴気』を貴女に移してしまうかもしれないよ。貴女はそれを払うために『恩恵』を発動し『マナ欠乏症』を発症し、死に怯えた一生を送ることになるんじゃないかな。それほど、人の過ぎた欲望に払われる代償は重いものなんだよ。足るを知ることも大事。貴女は自分の要求ばかりで彼ら、私の夫君達の気持ちをおざなりにしている。そして、貴女の夫君達の気持ちもね」
『彩乃さん』の顔、引き攣ってる。まあ、そうだろう。恨みつらみとかいう概念はここには存在しない。地球的? 日本的発想だ。面と向かって恨むとか言われたら、怖いだろうけど、きっちり釘を刺す意味合いもある。そうしないと、彼女はことを甘く見て、再び繰り返し『加害者』になってしまうだろうから。
「私は自分がいつかは死を迎えることはどうにもできないことだってわかってるけれど、誰かに命を奪われるのは違うと思うんだよ。それに、その時が来たら、私は夫君達を『解放』するよ、彼らを。その結果、貴女を受け入れるか拒むかは彼ら次第だと思う。でも、私の命をどんな形であれ奪ったら、彼らは手に入ることはないと思うよ」
『彩乃さん』は私の夫君達の方を見る。三人とも美しい相貌に非常に冷たい冷気のような殺気を伴って彼女をみている。『彩乃さん』はそれに一瞬見惚れ、次の瞬間表情に怖れを表し引き攣らせていた。
…… 怖いよね。綺麗な人ほど、怖いよ。瞬殺されるんじゃないかと思うくらい。
「『彩乃さん』は夫君を選考する時彼らのマナで作った『装飾品』を選んだんでしょ?」
恐怖で固まってしまっている彼女の意識をそこから外させる。彼女はほっとした表情を浮かべている。私の問いに頷く。
「私の時もそうだった。それってね、容姿や家柄とか人柄とかそういうのじゃないマナの相性らしいよ。貴方が貴女の夫君達を選んだんだよ。あれ見てて感じなかった? ものによってはどんなに綺麗でも、素晴らしくても自分のために作られたものじゃないって、そんなものも混ぜられていたと思うよ」
思い当たるのだろう。そんな表情で私を見る『彩乃さん』
「それと成婚の儀の時の口付けは、嫌だった?」
頭を横に振って否定する『彩乃さん』。その時のことを思い出したんだろう。やっと自分の夫君達の方を見た。
「地球のとは違ってた? 美味しかった?」
私の言葉に『彩乃さん』は少しドギマギしている。
「それも相性がいいと美味しいらしいよ。ほんと驚いちゃうよね」
私の『相性がいいと美味しい』という言葉に反応をする。
「見てごらん、『彩乃さん』の夫君達ずっと貴女のことを心配そうに見ている。すごく愛されているよ。大事にしてあげないと」
再び彼らの方に視線を戻す『彩乃さん』。
「これは私が立てた仮説なんだけど、『彩乃さん』に検証してみてほしいことがあるんだよ」
「?」
「夫婦の閨のことなんだけど、『彩乃さん』は彼らと一対一で一晩愛し合っている?」
突然、何を言い出すんだって顔で私を見る。少し言い淀み、これも頭を振って否定する。
「そう、やっぱり違うんだ。多分それも原因の一つだと思う。一対一で相手と向き合って愛し合っていると、自然発生的に『恩恵』が発動されると思うんだよね。体の快楽っていうより心が満たされる方が重要な気がするから。激しさとか回数とかではなくて。自分はそうだったから。まあ、試してみてよ」
驚いたように私を見る『彩乃さん』。突然ぼっと顔を真っ赤に染めた。何か妄想した? まあ、いいや、そんなことより……
「あのさ『彩乃さん』、森の長老との接触はこれ以上は駄目だよ。もし相手が接触を図ってきたら必ずアレク公に話を回して。貴女は接触しては駄目。それが貴女をアレク公を守ることになる」
『彩乃さん』は頷く。大丈夫かな? 大丈夫だろう。
「それと『渡り人』に関する質問をアレク公になるべく多く質問してほしい。気になることは自己完結しないでどんどん正しい情報を手に入れてほしい。彼にもそうお願いしているから」
正しい情報を待っているだけでは手に入れられないからねと彼女に念を押す。
「アレク公は、どんな時でも貴女を優先している。今回のこともそう。私の命よりも貴女のお願いを優先したんだから。だから、安心して貴女は彼を頼ればいいと思う」
そう、彼は私と彼女という二人の『渡り人』のどちらを優先すべきかというところで、結局は彼女を優先したのだ。理由はともあれ。
「ん、じゃあ、こんなところかな。『彩乃さん』は何かある?」
頭を振って否定する。
「そう、ではこれで私からの聞き取りというかお願いは終わるね。何か相談したいことがあればいつでも聞くから。一人で考え込まず、勝手に判断してはいけないよ。
ここは地球じゃないから。『渡り人』が危険だと判断されたら排除される可能性があるんだよ。私や貴女の行動一つで『渡り人』が危険だと判断されたら、この先落ちてくる人たちが落ちてきたら即排除されてしまう可能性もあるんだから、ちゃんとしようね。子供じゃないんだから。先の、そのまた先のことまで考えてね。『光様』の『渡り人保護法』で私たちが守られているように。先人のその努力を無駄にしてはいけないよ」
せっかく先人達が守ってくれるものを作ってくれても自分がそれを壊して仕舞えば、後に続く『渡り人』を守れなくなる。これは強い警告だ。これくらいの理解はして欲しいよ、お嬢さん。
「はい。わかりました」
『彩乃さん』は私の顔を直視してそう言い切った。大丈夫そうかな?
「ごめんね、おばちゃんは口うるさいよね。でもいつこうやって話せる機会ができるかわかんないし。人って次の瞬間に何が起こるかわからないから、伝えておきたいこと伝えなきゃって思ったから」
めちゃ説教垂れてしまった。何様だ、私って思いつつ、とりあえずはこんなところか。クリストフの方をチラリと見る。クリストフが最後締めてくれて、本日の予定を終了した。ルイスが転移魔法で彼らを送り、その後私たちも屋敷へと戻った。
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