ハルカ 魔法のお水
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回より第三部開始です。
今回はハルカが自分のマナを使って魔法を使うお話です。
『マナ欠乏症』の現状維持という延命のための第四夫君との結婚は効果があったのか、マナの流出量が減少した。そのせいか確かに体の気だるさも減り、日中眠りに落ちていくことも減った。
ただ、これも暫定的なものだ。あとは再度夫君を増やすか、そのまま延命を打ち切るかだ。
とりあえずは『アヤノさん』がいい環境で子供を持ち育てられる状況になってからだ。
そんなことをルイスの定期的な診察を受けながら考えていると、ルイスがゴーグルのようなものを取り出して目の前に置いた。
「何? これ」
「いいから、着けてみて」
頭の後ろを伸縮性のあるベルトで固定してゴーグルをセットする。
わ~~~。すごい。すごいよ、ルイス。
そこには以前見せてもらった『マナの可視化』で見えていた世界が広がっていた。
「え?これってマナ使わなくても見えるの?」
「マナの代わりに魔石を使っている」
「これ、すごいよ。すごく綺麗」
「この魔石って、特別なものなの?」
確か魔石は使用用途によって込められる属性が異なるって聞いたことがある。
『マナの可視化』ができる魔石って特殊なんじゃないだろうか。
そういう意味を込めてルイスに質問すると
「ああ、その魔石は『マナの可視化』ができる人間にしか作ることができない。現時点では僕だけしか作れないものだよ」
「あの鏡のように?」
以前、体内に流れるマナを見せてくれた大きな鏡。ルイスは軽く頭をふり、
「あれは魔石ではないけど、確かに僕の魔力が主に使用される。あとは受信側のマナの消費も大きいんだ。
でもこのタイプだと消費自体も少なくて済むし、何よりハルカのマナを消費しなくて済むからね」
でもすごいよ。そこから見える世界はあまりにも煌めき、美しい。
「ハルカ、それをつけた状態で魔法を使ってごらん?
どのようにマナが魔力に変換され、魔法を起こすことができるのか。見ることができるから」
ルイスは魔力変換の指輪を私に渡した。それを中指に嵌める。
一度両手を合わせて揉み込む。指全体に刺激を加える。それから両手の人差し指の指先をくっつけるように胸の前に持ってくる。くっつけた指先に青い電流溜めて、それが流れるようにイメージをする。
ルイスのくれた『マナの可視化』のゴーグルで見るとくっつけた指先を通じて青い電流が強くはないけれど確実に流れているのが分かる。指先に小さな青い火花が爆ぜるように散っているのも見える。指先がいつもあったかくなるのはこのせいか。面白いな。
その状態をキープしながらゆっくりと指先を離していく。指と指との間、目に見えない空間にも青い光線が繋がっている。これってゴーグル無しだと何も見えないんだよね。
今指先から魔力が流れている状態? これを近くにあるテーブルの上にある中身が空のコップに水を注ぐようなイメージで両指先をコップの中に向けてみる。
あら、不思議。指先から水が流れ出し、コップが水で満たされる。
「ああ、よくできたね。どう? 魔力の流し方がわかったからやりやすくなった?」
「うん! 凄いね。 感動ものだよ。こうやって見えるって、素晴らしいよ。みてよ、これ。自分でお水が作れちゃったよ。めちゃめちゃ嬉しいよ。ありがとう!」
超ご機嫌になった私は夫君達皆に自慢するかのように水で溢れそうなコップを見せて回った。
皆、一緒になって喜んでくれた。
このお水は飲めるらしい。一応アレクサンダーが鑑定してくれた。
鑑定というのは物の成分とかを瞬時に判定できるらしい。
人と物とか、というか物質そのものを鑑定できるそうだ。ちなみにこれも夫達は普通に持っている能力らしい。大魔法士を起源とする王族ならではだとアレクサンダーが説明してくれた。
だから第三者が作り出すものは一通り鑑定をするのが王族のお約束だそうだ。
よく散策で買い食いをする時もちゃんと鑑定をしてくれているそうだ。なるほど、自分では選ばせてくれないのはそのせいか。
まあ、私が生み出した水は飲んでも大丈夫だと判定されたので、一人で飲もうかと思ったら空のコップが四つテーブルの上に置かれた。
「えっと、みんなも飲むってこと?」
「当然ですよ、ハルカ」
クリストフが何を今更と言った感で即答する。
え? 私のマナだよ、いいのかな?
躊躇しているとレオンハルトがあっという間にコップの中の水を空のコップへと振り分けた。
見事に五等分だ。
「いただきます」
すっかり恒例になった我が家の食事の挨拶を口にして夫君達が私の魔力で作った水を飲んだ。
「「「「甘い」」」」
「「「「美味しい」」」」
まるで少し歳の離れた四つ子が声を揃えていうかのようにハモりながらそう言った。
面白い。そんな様子もなんだか微笑ましい。そんなことを思いながら自分もコップの中の水を飲んだ。
「お、美味しい」
ここに来て以来、お水って意識したことなかったけど。意外と味に差があるのかもしれない。地球的には硬水軟水とか、蒸留したものとか。口に馴染むのは軟水を飲んで育った記憶が根強いからかもしれない。
自分で生み出した水は自分が美味しいと感じる軟水系のものだった。それを自分の水を飲んで改めて気がついた。夫達も興味深そうに私の水を分析するかのように味わいながら飲んでいた。
そういうのって結構恥ずかしいものだ。夫達がさらに不思議なことを言った。
「ハルカのマナの味もする」
所謂キスとか夫婦の営みとかでマナを交換する時の私のマナの味がするらしい。へえ〜そういうものなのか。でも夫達が入れてくれるお水にはそういうものは感じなかったけれど。今思い返しても夫君達が入れてくれるマナは無味無臭でマナの味などしないのだ。
「水のレシピを再現しているからね」
ルイスがいかにも当然といった風に言う。
「水のレシピ」?
彼らがいうには料理をする際マナや魔力の味がすると台無しになることがあるのでレシピの再現をするという方法で混入を避けているらしい。
夫達のマナの味は私にとっては問題ないけれど、夫君間では微妙になるそうだ。飲料水とかは特に気を使うので誰が作っても同じものが作れるレシピを使うらしい。
そういうものなのか。繊細なものなんだな魔力って。だから、常に「レシピが云々」て言ってるんだな。
夫君達が料理をする時、全員の食事を担当する時は必ずレシピを使っていたのはこのためらしい。それがどんなに作り慣れている料理であってもだ。
だからこそ、外食の時の鑑定も毒物云々というよりかはレシピを使って作っているかを主軸に置いてしているのだとか。
興味深く奥深い。マナや魔力って不思議なもんだと空になったコップを見ながらそう思った。
この時の私も夫君達も、まさか私の作りだす水にも『恩恵』があるとは想像もしていなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次の更新は水曜日の正午になります。
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