ハルカ 第四夫君と家族になる
いつも読んでいただいてありがとうございます。今回で第二部が完結になります。
新たに第四夫君という家族も増え、ハルカと夫君達との異世界生余生ライフは次のステージに入ります。
涙? 閉じていた目を開くと深いグリーンサファイヤが私を見ながら泣いていた。
ん〜〜〜、これは、どうすればいい?
仕方がない、この男は、不器用な男だ。突き放そうにもこんな顔されたらできないじゃないか。
自分より遥かに年上の男の切なそうな縋り付くような瞳に絡め取られていく。
私は彼の頭の後ろに手をやり、自分から深くアレクサンダーの舌に絡めていく。一瞬彼は驚いたように私の目を見る。アレクサンダーもそれに返すように深く深く結びつくように舌を絡めエネルギーを送り込んできた。
「アレク、約束して。私に何かあったら絶対『アヤノ』のところへ戻るって。彼女を守るって」
アレクサンダーはまたくしゃりと子供が泣くような顔をして唇に口付けてくる。
「ア…… レク」
名前を呼ぶ。そうするとやっとこくりと頷いた。
ん、だったらいい。私の最期の時まで手を繋いであげよう。それまではアレクサンダーの叶わない恋心も一緒に受け止めよう。彼女を守りたい気持ちはそう変わらない。よくできました。という代わりにアレクサンダーに口付けた。深く深く受け止めていく。
きっと触れることも叶わない『彼女』への切なく狂おしい想いもぐっちゃ混ぜになりながら、そんなアレクサンダーを丸ごと受け入れた。深く激しくお互いに貪り合い、達し続けた。
この時の私は…… まるでクリストフの初夜の翌日のような状況に驚かされるとは想像もしていなかった。
そう…… 翌朝、目覚めると隣に眠っていたのはどう見ても三十代半ばのイケオジ予備軍のようなアレクサンダーだった。
やっちまった!
と思った私の表情をどう捉えたんだろうか、アレクサンダーは掛布をがばりとめくりあげると一糸纏わぬ姿のまま、化粧台の鏡を覗き込み、驚いたように私を見る。
そうそう、それが『恩恵』だよ。言葉に発する前に再び唇が塞がれる。
え? 起きるんじゃないのか、まだするのか?
その私の意思を象徴するかのようにきゅるるとお腹が盛大に鳴った。
その途端、アレクサンダーが破顔する。わしゃわしゃと私の頭をちょっと乱暴に撫でる。それから、少し考えた後、自分のシャツを私に渡した。
「ちゃんと用意するから」
アレクサンダーは着替えるとすぐ朝食を作りにダイニングへと向かった。
ダイニングでは三人の夫君達、レオンハルト、ルイス、クリストフがアレクサンダーの容姿の若返りに騒然としているのが聞こえた。
私は、ゆるゆると起き上がり、すでに用意されていたマナの源泉入りの湯に浸かってアレクサンダーのことをあれこれ考えた。
気持ちはすぐに切り替えるのは難しいだろうな。この星の男の人って地球人と違って恋をすると相当一途な気がする。
あのまま突き放すことができなかったのは自分の甘さだろうけど、後悔してるわけではない。だから、まあ、いいか。と前向きに考えることにした。
なんだか、やっぱり自分の方が夫のような気がしてくるのは何故なんだろうか?彼らが乙女すぎるのか?微妙に複雑なんだけど……
湯船から出ると、アレクサンダーが用意してくれたシャツを身につける。
アレクサンダーは身長骨格もルイスに近い。一八五センチくらいある。
辺境の地を治めるというのは瘴気を浄化しつつ、魔獣や魔物と対峙しなければいけない。自ずと体が鍛えられていく。無駄のないしなやかな筋肉がつくそうだ。ああ、だからマッチョというより、しなやかな肉食動物のような肢体になっていくのか。
今のアレクサンダーは南大公国の領主の仕事に専念しているらしい。次の領主は現皇帝の王太子を除く王子たちのいずれかだ。十の公国の領主は基本世襲制ではない。
王太子が王位を継承した後、王弟は臣籍に降る。魔力やマナが多い者が東西南北の大公国の領主となる。何らかの事情で引き継ぎ期間に空白が生じる場合は、領主の息子が一時的に業務を引き継ぐがそれはあくまで暫定的なものとされている。新しい領主を迎えた後、前領主の一族は領地を離れ王都へと移動する。
ただしそれは『渡り人』の夫君になれば例外扱いになる。彼らは常に王都以外の移動可能な領地(かつて領主をしていた地域)を家ごと点々と移動して暮らしていく。一箇所にとどまらないのは『渡り人』の保護のためだ。
『アヤノ』さんは夫のうち一人は南中公国、他の二人は南大公国のため、この二国間を家ごと移動しているそうだ。
そんなことをあれこれ考えていると、アレクサンダーに食事の用意ができたのでダイニングに来るようにと声がかかる。ダイニングに入るなり、レオンハルトとルイス、クリストフに呼ばれた、
「大丈夫か? 無理してないか?」
三人三様に同様のことを聞いてくる。
たった一夜でクリストフと同じくらいの若返りをしたということは相当激しかったというのは周知されているからだろう。クリストフのように無理やり覚醒させながらされたのではないかと危惧しているらしい。
「そんなことするか!」
横から否定するアレクサンダー。クリストフは苦笑する。
ただ、ルイスはクリストフのように『媚薬フェロモン』の影響を受けていないかを心配していたが、それは杞憂に終わった。
レオンハルトが、アレクサンダーも自分と同じ第二王位継承者になった時に
『媚薬フェロモン』に対処する秘術を受けているそうだと教えてくれた。
そうだった。私が彼を選んだのも『媚薬フェロモン』に影響を受けずに冷静に判断できるからだ。
ただし、この二十歳以上若返るというのは、相当まずいらしい。元の見た目が五十半ばだったとはいえ、そもそも実年齢六十八歳の彼が見た目が三十半ばなのだ。彼を知っている人から見れば驚愕するだろうし周囲に与える影響も大きいだろう。
当初通い婚だったのがそのまま一緒に住むことになった。未だ『恩恵』の発動がない『アヤノ』様へのプレッシャーになるし、仕方ないか。
というわけで、アレクサンダーは自分の部屋を魔法で展開をして増設していく。自分の身をつけるものも使用する家具も全て自分のマナで作り出していく。改めてそういう魔法を駆使してものを作り上げていく様を見て、内心(すご〜〜い!)を連発していたのは私だけだった。
こうして我が家に家族が一人増えた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回より第三部になります。更新は日曜日(8月20日)の正午になります。
引き続き第三部もよろしくお願いします。
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