ハルカ 異世界でいきなり死亡フラグ
「ううん、お一人様だよ」
「恋人は?」
「いない」
そう答えると、二人の表情がぱっと明るくなった。
「そうなんだ」
にこにこしてる。何故なんで、にこにこしてるんだろう?
「僕達も独身で恋人もいないんだ」
え? こんなに美形でフェロモン全開なのに? 思わずルイスを見る。
「ずっと忙しくって、そんな暇もなかったし」
二人が子供の時から張られている結界がいくつも破られて、魔物や魔獣や瘴気等で被害が出始めて、その対応に駆り出されることも多かったらしい。子供も駆り出されるの? びっくりだな。
「一応王族だからね。国を第一線で守るのが王族の役目だから…… それに僕やレオンは魔力が桁違いにあったからね。
そのおかげで鍛えられて二十代半ばでソードマスターや大魔法士になれた訳だけど。それから三十年殆ど休みなく前線にでずっぱり、出会いなんてあるわけない」
王族? 二十代半ばでソードマスターになってそれ以降三十年休みなく⁇
え? ちょっと待て…… 単純計算でも二人の見た目と年齢が合わないんだけど。
「あの…… お二人はおいくつですか?」
「今年で五十七歳かな。あ、昨日のクリストフも同じ年なんだ」
え~~~‼︎ 思わす声が出る。五十七歳? 私より年上⁇
どういうこと⁇ どう見ても二十歳後半、せいぜい三十歳までにしか見えないんだけど。しかもあの宰相殿まで同じ年⁇
「僕達はソードマスターや大魔法士になって以降あまり年を取らなくなったんだ。魔力やマナが多いのも理由だけどね。ハルカと同じで『浄化』や『結界』を発動していたから…… 自己治癒力が高まったという説が当っているんだろうけれど……」
そういって、ふっと笑う。その笑顔が少し悲しそうに見えた。それにしても見かけと違いすぎでしょと私が一人ぶつくさ言っていると
「僕達から見れば、ハルカはずっと年若のお嬢さんにしか見えないから、中身年齢とかいわれても信じがたいよ。それに一応王族だし、魔力やマナが多すぎてうかつに女性に手を出せない。気がついたらこの年になっていたというところかな」
「王族って?」
「この国の現国王は僕達やクリストフの実兄なんだ。僕達は同腹兄、クリストフにとっては異母兄にあたる。陛下と僕達三人の他七人異母兄弟がいるし。とはいっても、兄上が王位を引き継ぎ、その息子も同時に王太子になっているからね。その時点で兄弟全て臣籍に下っている。それぞれは領地をおさめながら大陸の結界を守る役目を担っているんだ。臣籍だけど、王位継承権のない王族。
ただし『渡り人』様の夫君になる権利を有するもの。それが僕達なんだ」
さらっととんでもないこと言ってるんだけど……
『渡り人』の夫君になる権利? 何、それ⁇
私の疑問を読み取るかのように、ルイスを引き継ぐようにレオンハルトが言葉を続ける。
「おそらく、今日にでも王命が下されると思う。『渡り人』様の夫君を選ぶお披露目が開かれる。そこで、貴女が自分の夫君を三名選ぶことになる。
希望があればそれ以上でもいいと思うけれど」
そこで言葉をきって、私の目を見て
「私は貴女の夫君に立候補する」
とレオンハルトが明言する。ルイスも続けて
「僕も貴女の夫君に立候補するよ」
この展開ついてけないんだけど…… こんな超美形が私の夫君に⁇
ありがたいっちゃありがたい? のかもしれないけど…… これ、どっきりじゃないよね。えっと、だから、中身五十五歳のおばさんなんですけど。それに子供とか望まれても無理なんですけど…… 心のつぶやきがそのまま口に出る。
動揺している私の反応を見ながら二人は顔を見合わせて
「全然問題ない。ハルカが気に入ったから」
そう言ってにっこり微笑する。
まあ、参考までにといってルイスが説明をしてくれた。
一応、私の自己申告に基づいて候補者の年齢層が決められるらしい。私の年齢に合わせて前後五、六歳。直系王族は除く王族の中から最低三名選ばれる。一応独身は現在はレオンハルトとルイスのみ。
宰相殿は若い頃奥方が流行病で亡くなられて、それ以降独り身とのこと。後の候補者は、皆さん結婚されていて、中には第一夫人の他に第二、第三夫人も既にむかえているらしい。
基本的にこの国は一夫多妻制。直系のみ十名まで妃を迎えることができる。その他の王族は三名まで夫人を迎えられる。ただし『渡り人』様が現れた場合特例として夫君になることができる。
『渡り人』の夫君になる権利は、本来『渡り人』様が渡ってきた地域の領主、王族を最優先とされていて…… 今回はレオンの馬上の上に落ちてきたので、レオンがその権利を有しているらしい。その他、選考方法が色々あるらしく、それは王宮に行って詳しく説明をさせるとのこと。
何故三人も夫君を選ぶのか? それは『渡り人』様を守るために必要な最小限の人数とされているそうだ。『渡り人』様の血や肉、骨ですら恩恵を授かれると言われている為に、常に危険にさらされてしまう。なので、本来は王族全てと婚姻関係という名の保護によって安全を確保していたのだけれど…… 『渡り人』様が女性の場合、一婦多夫制を受け入れられず、命を絶ってしまうケースもあったそうだ。
ん…… その気持ちは理解できる。いきなり十人とか、おばちゃんでも無理だ。
そこで、『渡り人』様の人権保護と安全確保の為に『大聖人・光様』によって『渡り人法』が策定されて、夫君は三名。それ以上を望まなければ婚姻を結ぶ必要はないということになったとレオンハルトが説明してくれた。
それにしても…… 血、肉、骨まで恩恵って怖すぎるよ。日本人の感覚から言えば一婦多夫制は厳しい。しかも王族全員とだなんて…… 十名…… 無理、無理、無理、全体無理‼︎ 多いよりは少ない方がいいだろって言うのも、ありえん。
昨日に引き続き、この話題もかなり精神的にきてる。結構病みそうだ。大体こっちに来てすぐに夫君を選べとか。人となりとかわからないのに、無理だと思う。
どこにも誰にもぶつけられない怒りがふつふつ沸いてくる。そんな私の様子を伺いながら、ルイスが言葉を続ける。
「ハルカは昨日の夜のこと覚えている?」
「昨日? 号泣してそのまま寝ちゃっただけじゃないの?」
何かやらかしてしまったんだろうか? 訝しむ私をじっと見つつ、ルイスはふっと溜息をつく。
「正確には断定できないけれど…… おそらくハルカは昨夜から『マナ欠乏症』を発症してしまっていると思う。王宮の典医に診てもらうとすぐわかると思うよ」
『マナ欠乏症』?
「僕はマナの状態を可視化できるんだ」
『マナの可視化』?
「ハルカはこの世界に来た直後から大規模な浄化を繰り返し、数十回以上連発してる。その反動で『マナ欠乏症』が引き起こされてる可能性が高いんだ。
『マナ欠乏症』は一度発症してしまうと完治はできない。他者からのマナを供給を受けない限り、常時マナが消費され死に至ってしまう。『渡り人』様にとって致命的なものになるんだ」
え‼︎ いきなり死亡フラグたった⁇
「今朝、どうして僕達が貴女に密着したまま寝ていたのか……
抱き心地が良かったせいもあるのだけれど、それだけじゃないんだ」
一度息を大きく吐くと言葉を続ける。
「大量にマナが流出してしまうとある種のフェロモンが放出される。それは一種の媚薬のようなもので…… 生きる為に他者のマナを求め、供給しやすい状態を作り出してしまうといわれている。僕達のような魔力やマナが多い人間はなんとか制御できるけれど…… それほどのレベルでない場合だと貴女のフェロモンに完全に魅了されてしまう」
ルイスはそう言うと小さく咳をする。
「言い訳をするようで申し訳ないけれど…… 勿論、意識のない女性を襲うこと等ありえない。いかんせん貴女のフェロモンは強力な浄化力に比例するかのようにものすごく強烈だったんだ。僕達がほとんど初対面の女性に対して許可なくこれほど密着してしまうということはないからね」
つまり、私が媚薬フェロモンを無意識に出して、あなた方を引き寄せているということ? んな、馬鹿な……
「今はそれほどでもないけど、伴侶を決めてマナを補給しないと生死にも関わることになるから。できるだけ早く決断をした方がいい」
え? マナの供給って、そのための伴侶って…… もしかして性的な意味を含んでる? 決断てそんなに簡単に…… そんなのできるわけない。そんなに危険なら、密閉隔離してくれたらいいのに。それに人間死ぬ時は死ぬよ。私が悪いの? 黙り込んだ私をレオンハルトは自分の方に引き寄せて強く抱きしめた。
「ハルカは悪くない。大丈夫。私が貴女を守る」
そう言って落ち着かせるように背中をぽんぽんしてくれる。
いやいやいやいや…… 今、それされちゃうと…… だめだ…… すごく…… 眠たくなってきた。
「少し眠った方がいい」
レオンハルトの低い声で、意識がふっと遠のいていく。
「兄上、甘いな」
「ハルカに罪はないだろ? これ以上彼女に負担をかけるのは良くない。ただでさえ、環境が大きく変わって大変なのはお前もわかるだろう。感情の揺れ幅が大きいとマナが消費される。それにこれ以上『マナ欠乏症』を悪化させるのはまずい。眠らせておいた方が彼女にとって負担も少ない。それにしても確かに強烈なフェロモンだ。これほどだとは。ただし、最悪のことも想定して準備しないと…… とにかく時間がない」