ハルカ 第四夫君を迎える
今日、二話投稿します。二話目は夕方に投稿予定です。
それから僅か二日後、『ハルカ』と南の大公アレクサンダーとの成婚の儀が執り行われた。アレクサンダーは『ハルカ』に自身のマナを使って作った『指輪』と『足飾り』を贈った。
ただ不思議な事にアレクサンダーの用意した指輪は他の夫君達の指輪の時のように一つに重なることはなかった。が、『ハルカ』はそれには触れず何もなかったかのようにただ先に贈られた夫君達の指輪の上に重ねてその指輪を嵌めた。
アレクサンダーとの初夜は他の夫君達と同様に公的記録として記録された。
いつものことながら、怒涛のような一日だったな。昨日のアレクサンダーとの成婚の儀をベッドの中で振り返っていた。先の夫君達との時とは全く違ったな。
アレクサンダーはあくまで政略的なものだというのを隠さなかった。どうして彼は断らなかったんだろうか?
自分が言い出したから? 責任を取るつもりで? とはいえ、昨夜の彼はとても優しく私を抱いた。まるで宝物みたいに。
いや、彼は彼の妻達にはきっと優しかったんだろう。彼には歳の近い三人の妻がいるそうだ。仲睦まじく幸せな夫婦。そこから彼を奪うような形になってしまった。すでに全員の妻からはお褥辞退されて随分経つということで今回のことについての反対はなかったそうだ。ただ、彼は週一度の通い婚になった。
あくまで『マナ欠乏症』のための延命措置としての結婚。アレクサンダーの生活の主体は南大公国の家族に置かれた。
隣で眠っている一見五十代半ばの、私の実年齢に近い相貌の初老の男性はおそらく彼もまた実年齢との乖離者だ。彼の実年齢は私の実年齢よりも十三歳年上だと言っていた。つまりは六十八歳。
見えないな。ただ見た目年齢的にも年相応なのか、それ昨夜は淡白だった。他の夫君達が絶倫すぎるのだろうけれど。
でも、綺麗な顔をしている。やはり王族だからか。銀髪で、クリストフよりは深いグリーンサファイヤの瞳。
このくたびれ感が、実は安心感を感じるのはなぜだろうか。
成婚の儀の時のキスの味はレオンハルトよりももっと熟成された、ほとんどリキュールに近い濃厚なジュレの味がした。
そういえば、アレクサンダーも私とのキスに驚いていた。クリストフの時以上に獰猛な肉食動物に食べられてしまうくらい迫力があった。でも一転初夜は丁寧で優しいけれど怖くはなかった。
なぜだろう。眠っているアレクサンダーの顔をじっと見ているとぱちっと深いグリーンサファイヤの瞳と目があった。
「どうした? そんなに見つめられると襲いたくなるじゃないか」
「へ?」
「これは記録されているのか?」
「えっと、多分」
「そうか…… 『渡り人』と伴侶にはプライバシーがないというのも本当に問題だな。当事者にならないとわからないものだな。ああ、そうだった。『ハルカ』様が全てを背負って下さったから『アヤノ』様は守られたわけだ…… あなたの犠牲の上でこれから渡ってくる女性の『渡り人』様は守られるんだな。そういう意味であなたは尊いな」
「あ、ありがとうございます」
初夜明けに、労われてしまって礼の言葉しか出てこない。
「閨の記録は初夜だけだと聞いたが」
「そう見たいですね。確か夫君達は制御する魔道具を使っているそうです」
「確か、ルイスが言ってたな。それを使えば『記録されない』と」
「みたいですね」
「それをもらってこよう。そうしないとあいつに見られるのは嫌だからな」
「あいつ?」
「フリードリッヒだ。なぜ甥に妻との営みを覗かれなければならんのだ」
陛下のことか…… 何? もしかして記録されるから手を抜きましたとか言ってるのかこのおじ様は。
昨日の成婚の儀の時の獰猛なキスを思い出す。まさか、あっちが本来のとか、言わないよね? 会話の流れて警戒心を持ったのがバレたのか、艶のある流し目を送ってきた。
「もしかして『ハルカ』は昨日の夜程度のものだと思ってるわけではないよな?」
「え? 違うんですか?」
「今夜は本気を見せてあげよう。甥っ子達にはまだまだ負けないからな」
え? なんでそんなにやる気満々なわけ? 競争しなくていいのに。思わず困惑していると、
「『ハルカ』は夫君が三人もいるというのに、おぼこいな」
そういうと私の唇に軽くキスをした。
「食事の用意をしてくるから。マナの湯を張ってあるからゆっくり浸かるといい」
アレクサンダーはさっと着替えると部屋を出ていく。手際がいいな。そう思いながらバスルームへと向かった。
「着替え用意してあるから」
湯に浸かっていると扉の向こうから声がかかる。
「ありがとうございます」
とお礼を言ってから湯船から出る。
用意された着替えを見て一瞬戸惑う。う〜〜ん、これは。どういう意味だろうか?もしかして彼は…… ちょっとした違和感を感じつつも用意されたものに着替えてからダイニングへと向かう。そこには三人の夫君もいた。アレクサンダーに用意された服を見て、三人が、おやっ? とした表情をした。
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