ハルカ 異世界の桜桃
今日は二話投稿します。二話目は夕方の投稿予定です。
『彩乃さん』との文通や夫君達との『余生ライフ』は穏やかにすぎていった。
私がここに落ちてきてから二年が経とうとしていた。日本なら三月だ。桜の季節。もう見ることは叶わない満開に咲いた桜並木。懐かしい。
この星にも桜の木はあるにはある。桜桃の生る方の白い桜は咲いている。クリストフの『西大公国』の森の中に群生しているのを去年の秋の収穫祭で見つけることができた。
『西大公国』も『南大公国』の森のように瘴気の影響で森は枯れてしまっていた為、果実も全く実ることもなくなっていたそうだ。それが『恩恵』のお陰で領地全域生き返った。その結果森も再生され、枯れ木には緑。花。果実。と再生された。それで桜桃の木が群生しているのが発見された。白い花が満開に咲き誇った後には大粒の桜桃。それを収穫し、ジャムやリキュール、ドライフルーツなど加工品が生まれていく。クリストフもその加工品を使ってよくお菓子作りをしていた。
収穫祭の時期以外にも夫君達の領地に行くことが多くなってきた。それぞれ領主としての仕事もあるので、それを兼ねて、彼らが領主の仕事をしている傍ら他の二人の夫君達と街中を散策する。夫達は互いの領地の気になるところを報告し合い改善策を講じていくのだ。そして収穫祭が間近になると各領地では国へ一年の領地に関する報告を上げなくてはいけないのでかなり忙しくなるようだ。
ただ、この星には租税というものが無い。領主は領民のため守る。領民は各々の生活をすることで領地を守る。という具合だ。つまり領地があってもそこに領民が住まなければ荒廃してしまう。人が住まなければ家も朽ちていくのと同じだ。荒廃すれば瘴気が満ち溢れ、魔物や魔獣が蔓延り、疫病も流行る。いずれそれは国の存亡に関わることになる。なので、領地は領民に解放されている。というわけだ。
領民は魔法が使えるので、自分のマナや魔力で全てを賄える。誰に働かされることもない。趣味で働いているだけなのだ。
このシステムに最初驚いてしまったけれど、ここに住んで二年が経つと、地球がいかにブラックだったのかが思い知らされてしまった。
桜桃の加工品にしても、作るのは単純に食べたいから。誰かに食べさせてあげたいからという非常にシンプルな考えから作られているのだ。作りたい人が作りたい量だけ作る。それだけなのだ。
桜桃の加工品にしても、たわわに実っている大粒の桜桃を見て、美味しそうという私のつぶやきの反応したクリストフが最初始めたものを領民が自分たちで作り始めたというのがそもそもの始まりだった。
そう考えると地球人の貪欲な食欲というのは彼らから見て不思議に映るのかもしれない。
こうした地域の特化した加工品は公国が魔石と交換して買い上げることもあるそうだ。そしてそれを王宮に収めたり、他の領地の特産品と交換したりするらしい。
そういえばルイスの北大公国は白桃の木が群生していたらしい。なので、西と同様に北でも白桃の加工品をあれこれ作り始めているらしい。
『恩恵』の効果が思いもかけない波及効果を生んでいることを最近実感するようになってきた。
ふぁ、眠い。
地球暦の名残りだろうか、本来なら冬の冬眠が終わって草木も芽吹く季節だ。
春眠暁を覚えず…日本古来の古文を異世界で口ずさむなんて変な気分だ。
夜の営みの激しさが増しているせいか、それとも季節によるものなのか、最近よく昼寝をするようになっていた。眠くて起きてられないのだ。
まあ、そんな時は無理せず寝た方がいい。そう思いながら寝落ちしていく。
大きな桜の大木の桜が満開で、一陣の風に降り注ぐ桜吹雪。子供の頃見た、桜の記憶だ…… 懐かしい地球の記憶。その春のひだまりの中へと意識が溶けていった。
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