ハルカ 異世界でイケメンにサンドウィッチにされる
背中と前が温かい。
気持ちいいけど…… なんか妙な堅い圧迫感…… と思って目を開ける。
え⁇ 前と後ろからサンドウィッチのように挟まれ抱きすくめられている。
何⁇ どうして⁇
身体を起こそうとすると前から肩を後ろから腰をぐっと引き寄せられる。
後ろから耳元で
「すごく甘い香りがする」
ささやく低めの声に背中にぞくぞくっと何かが走り、ギョッとしながらも顔が火照るのが自分でもわかる。思わず身震いをする。
それを見たのか、耳元で「可愛いな」とクスッと笑う。
「食事の用意をするから、まだ休んでてね」
声の主はそう言うと、後ろからぎゅっと私を抱きしめると身体が離れていく。
どういう状況? 身じろぐ私の身体が今度は前方からぎゅっと抱きしめられる。
これ、何? 怖すぎるんですけど? 半泣きの状態で、少し視線を見上げる。
大きなのど仏が目に入る。うっすら髭らしきものが生えている。髪の色と同じ銀色。眉毛も閉じられた瞼が際立てさせる長くて多い睫毛も銀色。彫りの深い綺麗な顔。閉じられていた瞼がぱっと開く。澄んだ南国の海のような、時には青空のような入り交じったような蒼い瞳が私の瞳を捉える。
「そんなに見つめられたら穴があくな」
深いバリトンボイスがすぐ近くで囁く。
「もう少し、眠った方がいい」
そう言うと私の腰にまわしていた手で頭を撫でる。
大きな手。ほっとする。
いやいやなんでこの状況で、ほっとできてるんだ、おかしいぞ、私‼︎
普通ならとんでもない状況なんだけど…… そんなこと気にもしないように…
レオンハルトはその大きな手でポンポンと子供をあやすかのように私の背中を軽く叩く。こ、これは絶対夢だ。こんなことは現実じゃない。パニクっているはずなのに…… 何故か急に眠気がして、そのまま再び眠りに落ちていった。
どれくらい眠っていたんだろう。気がつくと一人で寝具にくるまるように眠っていた。右手で右の瞼をこする。窓から光りが入ってきて、少しまぶしい。目の前で銀色の美青年二人がいつの間にかセッティングされた机に食事を並べている。ああ、ここは地球じゃないんだっけ…… 私はむくっと起き上がり
「おはようございます」
と声をかける。
「「おはよう」」
二人がそれに反応するかのように笑顔を返してくる。
二人とも身支度を整えてすっきりさわやか青年だ。昨日の甲冑姿とは違いかなり軽装だ。身体を起こしてみれば、昨日用意された簡易ベットの上ではなく、二人の為に用意されていた寝具を二つ引っ付けるようにそこで川の字になって寝ていたことに気付く。
「夢じゃなかったんだ」
出会ったばかりの男性二人に前と後ろからとで抱きすくめられて眠るという人生初体験で衝撃を受けていると大魔法士殿が私の目の前に来て、何やら短い呪文を唱えると私の身体の周りがぱっと輝く。
「ここはお風呂とかがないから、軽く洗浄魔法をかけたから、これで許してね。女性なのにこんなところでごめんね」
一瞬ですっきりした。こんな便利な魔法があったなんて。
「ありがとう」
そう言って一礼すると、
「どういたしまして」
ルイスはにっこり笑って、丁度二人にはさまれる席の椅子をひくと、私にそこに座るように促した。
席に着くと昨日とはうってかわって豪華な食事が並んでいる。
家事をしている痕跡がないのに、温かな料理もある。朝昼兼用らしくたっぷり用意されていた。
これを作ったんだろうか? 驚いていると大魔法士殿の屋敷で作らせたものをゲートを通じて運んだらしい。久々のまともな食事を堪能すると今度は大将軍殿が空中からデザートをあれこれ出してきた。魔法って便利だな。デザートは別腹ということで、ぱくぱく口に運ぶ。とろけるような甘さについ笑顔を連発してしまう。二人も甘党なのか美味しそうに食べていた。
「お茶がいい? 紅茶も珈琲もあるよ」
大魔法士殿が聞いてきた。
「珈琲お願いします」
「ハルカは珈琲派なんだ。美味しいの入れるから、ちょっと待っててね」
空中からあれこれ取り出してきた。部屋に珈琲豆にいい香りが充満する。昨日から非現実的な、異常な状況下が続いているのに、珈琲の香りが心に染みわたる。目の前に置かれた珈琲カップを両手で包み込むように持って、一口飲む。ほっと一息つく。
「美味しい」
「良かった。少しは落ち着いたみたいで」
そう言うと大魔法士殿は私にぐっと顔を寄せると極上の笑みを浮かべた。
やばい、ち、近すぎる…… 超美形の笑みは、おばちゃんの心臓に悪すぎる。どきどきする。それにしても昨日に比べると二人とも随分距離が近い。グイグイ押してくる。いつの間にか両隣でぴたっと密着されている。
緊張する。昨日は普通の見知らぬ人用のパーソナルスペース…… 適度な距離感だったはずなのに…… なんでこんなにくっついてくるんだ⁇
昨日、号泣して不覚にもそのまま寝落ちしてしまってから記憶が飛んでしまった。差し出された緑色の液体にはさすがに手を付けなかった。それなのに…… 知らない人、しかも男性がいるのに寝落ちするなんて、さすがに失敗した。
自分の脇の甘さに悶々とする。何もなかったはず…… 昨日会ったばかりの男性に何故前後から抱きしめられて眠っていたのか、その経緯が怖すぎて聞けない。あれは夢だったんだとか、無視しようと思っているけれど、なんか距離をぐっと詰め寄られて内心焦る。
「ハルカ、改めて自己紹介したいんだけど、いいかな」
大魔法士殿が私の右手をとってそう言う。
左手は既に大将軍殿がにぎにぎしている。なんで、にぎにぎしているの⁇
「昨日も少し紹介されたけど、僕の名前はルイス・ユータリア。この国の魔法師団の団長で大魔法士をしている。ルイスと呼んで欲しい。左隣にいるのがレオンハルト・ユータリア。僕の双子の兄。聖騎士団の団長で大将軍。ソードマスターでもある」
やっぱり、双子だったんだ。髪型や身長差(骨格差)、瞳の色の微妙な違いがなければクローン人間みたいにそっくりだから。あっ、でも少し声が違うかな。ルイスよりレオンハルトの方が声が低い。ソードマスターか、大魔法士にしてもアニメか漫画や小説の世界みたいだ。
「高瀬春香タカセハルカです。よろしくお願いします。美味しい食事や珈琲、色々なお気遣いありがとうございました」
両サイドの二人に対してそれぞれにぺこりと頭を下げて、お礼を言う。
うんうん、と頷きながら、ルイスは私の右手をにぎにぎしつつ、少し甘えた口調でスカイブルーサファイヤの瞳をうるっとさせて
「今更だけどハルカって呼んでもいい?」
このかわいい生き物何⁇ と思いつつ、おばちゃんだから許してしんぜようと開き直る。
「いいですよ、ちょっと恥ずかしいけど」
「私のこともレオンと呼んで欲しい。そして、私もハルカと呼んでもいいか?」
左の耳元で低いバリトンボイスが耳に息がかかるくらいの距離で囁く。
ぞくぞくぞくっと身震いする。フェロモンだだ漏れ状態なんですが…… ここはホストクラブか。真っ昼間からヤバい。お、おばちゃんからかったらあかん、止めてくれ。思わず立ち上がろうとすると、止められて席に着くよう促され、リアクションに困って笑ってごまかそうとすると
「いいよね?」
再度左耳元で囁かれる。それ、止めて。耳がヤバい。
「どうぞ、ご勝手に」
視線を合わせることもできず正面を向いて答える。
珈琲で酔っぱらってる⁇ 耳元攻撃を防止する為に握られている両手を振り払って耳を塞ぐ。さっきからぞくぞくっとして身震いが止まらない。そんな私を見てレオンハルトがまた頭をなでなでする。年下なのに子供をあやすように接してくる。
「ハルカは結婚しているの?」
ルイスがいきなりど直球の質問をしてきた。