『渡り人・アヤノ』の夫君候補逆指名
今日は二話投稿します。二話目は夕方投稿予定です。
その話を聞かされて、なんともいえない気持ちになった。
子供を宿せないことはどうにもならないけれど、すごい負担を彼女に負わせてしまったんだなという自責の念みたいなものを感じるようになった。
夫達はそんなことには全く関知していない。
「夫君候補に立候補しないのか?」
と軽い気持ちで尋ねてみたら、三人とも超不機嫌になって
「絶対にしない」
「僕達は『ハルカ』だけの夫だから」
「『ハルカ』以外は要りません」
とキッパリと言い切られてしまった。
それ以上のツッコミも許さないほどの勢いで。う〜〜ん、そういうもんなのか?
子供残せるのに。長生きしてくれるよ。『マナ欠乏症』を患った私よりはるかに。実年齢が若い方がスタミナあるし、生きるパワーも強いと思うんだけど。折角皆マナや魔力がたくさんあるのに…… そう続けたかったけどできなかった。させてもらえなかった。
レオンハルトとルイスはたまたま王宮で「対策会議」をしている最中に挨拶に訪れた際『アヤノ』様と会ったらしい。クリストフも王宮内を護衛騎士と共に歩いている『アヤノ』様とすれ違ったそうだ。三人とも「初見のハルカと違って女性らしく、快活そうな印象を受けた」と口を揃える。
え? なにそれ? といった表情で三人を見返すと、クリストフが
「ハルカは髪の毛も短かったですし、服装も男装のようでしたから」
まあ、そうだったよね。確かにおばちゃんだから、あんまり気にしなくなってたから、仕方ないよ。でも改めて言われるとプンプンだよ。
「そんな『ハルカ』もかわいかったけどね」
ルイスがフォローしてくれた。
え〜、レオンハルトもルイスも最初は男だって思っていたの知ってるし。
ああ、そうか。『アヤノさん』は女性らしい女性なんだ。快活そう…… か。ここでの生活を乗り切れるのかな。どうだろうか。大丈夫なのかな?実際に会ったわけではないから判断できないけれど……
三人の反応を見ると大丈夫なのかな? とも思った。
『アヤノ』様が渡られて王宮で保護を受けてから一ヶ月が過ぎた頃から、王宮で彼女のお披露目と夫君候補とのお見合いのようなものが連日連夜繰り返されたらしい。彼女は至って前向きで「夫君を十名選ぶ』と言い切ったそうだ。
それを聞いた時、めちゃめちゃ驚いた。
「うぁ、まじ? ちょっとちゃんとここの星の人の絶倫具合を説明してあげた方がいいと思うんだけど」
「え? 複数、大丈夫? そーなんだ……」
夫達からもたらされる情報にただただ驚く。
若いって、すごいな。おばちゃんだからついていけないだけなんだろうか? お披露目会は大盛況らしい。本人が望んでいるなら、大丈夫なんだろう。『アヤノ』様、肉食女子なんだね。夫君も簡単に決まるんじゃないのかな? って思ってたら、なんとウチの三人の夫君全員『アヤノ』様の逆指名を受けた。
「十人夫を持つ代わりにそのうちの三人は自分の指名した人を入れてくれ。そうでないと夫は持たない」
とお披露目会が佳境に入った頃に宣言したそうだ。
その三人が『渡り人・ハルカ』様の夫達だ。王宮が大荒れになった。当然夫君候補に立候補していない三人の夫達はそのお披露目会場には不在だ。本人不在で、そんなことを言われたものだから、翌日国王から招集命令が下された。とはいえ、あくまで『渡り人・ハルカ』様の保護が優先なので、一名は屋敷に残った。
王宮に向かったのはレオンハルトとクリストフだ。ルイスの意志は二人に託された。青の間でガラスケースに入ったレオンハルトとクリストフを見ながら、国王フリードリッヒは大きなため息をついた。
「話は聞いているか?」
「「はい」」
「それなら話が早い。お前たちの意志を確認したい」
「「お申し出は固辞させて頂きます。これはルイスを含めた三人の意志です」」
「そうか。しかしな、他の夫君候補が納得しないのだ」
「「それではどうすればよろしいですか」」
「『アヤノ』様は子も産めない『ハルカ』様が三人の優れた夫を持つ資格がない。夫を渡せと譲らぬそうだ」
「「は?」」
二人の殺気が青の間の空気を一気に下げる。国王フリードリッヒは苦笑いをする。
「流石にそれはあり得んことよ。元とはいえ皆王族だ。殆どの夫君候補はその言葉に呆れてしまったそうだ。そうだろう? ここに来て間もなくとはいえ、全くなんの実績もできていない『渡り人』様が、あれだけ大規模な『浄化』と『恩恵』をもたらした『ハルカ』様を貶めるだなんて」
やれやれと頭を左右に振る国王フリードリッヒ。
「それに、クリストフ。お前の受けた『恩恵』を妬むものも現れた。『ハルカ』様の夫君候補に立候補していた者達だ。皆、お前達が『ハルカ』様の夫君候補から外れてしまえば、自分達もお前のような『恩恵』を受けられると考えるようになったんだ。『ハルカ』様を独占するな。会わせろとな」
国王フリードリッヒは立て続けに言葉を続けていくと、一息息を吐き、
「そこでだ。劇薬になるかも知れぬが…… お披露目会場に『ハルカ』様と共に現れてくれぬか?」
「「それは危険すぎます」」
「何故だ?」
「『ハルカ』様は大陸全土の『浄化』を終えた際、『マナ欠乏症』が進行しました」
「悪化したというのか? レオンハルト」
「はい。その為彼女の見た目はさらに若返っています」
「どのくらい?」
「現時点で二十歳かそれ以下か」
「確か実年齢は今年で五十六と聞いているが…… そうかそれほど進行したのか」
フリードリッヒの表情がさらに厳しいものになった。
「『マナ』の供給は充分なのか? 足りているのか? 無理をさせているのではないのか?」
矢継ぎ早に二人に問いただす。
「「最善を尽くしています」」
「確かに危険ではあるが、やはり一度『ハルカ』様の現状を見せた方がいいと私は思うのだ。そのあと私が弟達に『マナ欠乏症』について詳しく話そう」
「『アヤノ』様についてはどうされますか」
「彼女の申し出はお前達が望まない以上受け入れる必要はない。夫君を持たなければ『渡り人』様は保護を受けられない。その現実をご理解いただくだけのこと。保護を望まない以上は王宮におくこともできない…… 市井に降っていただくだけだ」
「「承知しました」」
「私はこの国に『恩恵』を与えてくださった『ハルカ』様の方が大事だと思う。受けた恩は蔑ろにしてはいけない。『ハルカ』様がお前達を望み、お前達が『ハルカ』様を望むなら、それが何より最優先にされるべきではないか? 私はそう思うのだ」
フリードリッヒはガラスケースの中で臣下の礼をとるレオンハルトとクリストフを優しい眼差しで見つめながらそう言葉にする。
「明日、お披露目会が再び王宮で開かれる。どうか『ハルカ』様を同行して欲しい」
フリードリッヒはガラスケースの中にいる二人の弟に向かって頭を下げた。
「国の乱れを正す為、無理をお願いするとどうか『ハルカ』様に伝えてほしい」
そこまで国王フリードリッヒに言われてしまうと、流石に否とは即答できない。
一度持ち帰り『ハルカ』様の意向を確認するということで話が終わった。
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