ハルカ 異世界でスクーターに乗る
レオンハルトとルイスがオフの日。ルイスが色とりどりの魔石を大量持ってきた。王宮で模写の合間にレオンハルトと二人で魔石作りをしていたらしい。
「ハルカ」あれに乗ってみよう」
満面の笑顔で言ってくる。
「あれ? もしかしてスクーター?」
え? いいの?
自転車は少し前からの試乗して、夫君達もチャレンジして、なかなかバランス取れなくて、かなり盛り上がったんだよね。あくまで私有地内でしか乗れないんだけど、面白かった。ここは徒歩か転移魔法陣を使っての移動だけだもんね。
馬車とか王室の特別行事以外はないそうだし、あとは各騎士団用の軍馬。それ以外は動物を労役に従事させることは基本禁止らしい。普通は農作業とかに馬や牛とか使いそうなものだけど、その辺は魔法で全部やっちゃうからってことなのか。
いずれにしても地球とは交通手段が明らかに違う。
そういえば『カイト様』って気球も魔道具で作ってたんだよね。試してみたいと言ったら、危険だからと却下されたけど…… 実は諦めていない。スクーターか。楽しみだ。皆で外庭へ行く。
デザインは可愛い系、欧州の街並みで走るのが似合いそうな丸みを帯びたフォーム。乳白色をベースにオレンジと緑でアクセントがついている。ヘルメットもゴーグルもちょっとレトロっぽいいい感じだ。試しに座ってみる。エンジンはなんと右ハンドルのすぐそばに魔石を入れ込むタイプらしい。赤い色の魔石をルイスがかちりと入れ込んだ。
鍵はないので左ハンドルの側のボタンを押すとエンジンがかかるらしい。片足を地面につけハンドルブレーキをかけながら、ボタンを押す。昔風の独特のふかしとは無縁のモーター音もほとんど無音、静かな振動だけが伝わってくる。
夫君達に距離をとってもらって、ついていた足を上げて、ハンドルブレーキを緩めるとるとするりと走り出す。結構安定感もあって乗り心地もいい。夫君達は驚いたように見ていた。
このスクーター、すごいと思うのはエンジンを入れた直後、見えない柔らかな風船のような膜が半径一一メーター位の規模で全体に張られるのと接触事故防止のため、同規模の範囲に何かがあると自動停止する仕組みになっている。
おそらく風船は停止しても相手が気が付かないまま接触して事故にならないために二重の対策をとっている。
この星だとこういう乗り物が普及することはおそらくない。つまり、スクーターに乗っているドライバーの自損事故防止のためのものだろう。
優先の膜は弾力性があってぶつかっても怪我を負いにくいようになっている。とはいっても猛スピードを出して暴走すればそんなものは意味をなさないかもしれないけれど。子供が仮に走ってぶつかりかけても事前でそれが足止めしてくれるということを想定すればあった方が良い機能だろう。
私が試乗したあと夫達も挑戦した。最初は自転車と違って結構危なかったけれど、ブレークをかけながらとかハンドル操作の仕方を教えると新しいおもちゃに興奮する子供のようにスクーターを三人で乗り回していた。
私有地内だから、違反にはならないだろう。きっと。気に入ったのか夫君達はみんなで揃えるか?とか言い出していたから、屋敷の庭園規模だとそんなにいらないんじゃない?と冷静にアドバイスすると残念そうな顔をした。
いやいや自転車もスクーターも道路の整備や交通法規、信号や標識とか色々システム構築して揃えないと公道は走れないからね。風船張りでも危ないから。
『カイト』さんという人の作った魔道具はここの人たちにとっても刺激的なものらしい。博物館で展示はされていても自転車やスクーターのように試乗できるかできないかで、そのものの価値も変化する。動かしてなんぼの世界なのだ。
魔石というこの世界の原動力を取り入れながらものづくりをした彼の功績は確かに素晴らしいと思った。実は彼は様々なカメラを作っている。地球式のものもあれば、3Dカメラもある。3Dカメラで物をレントゲン撮影のようにその構造やしくみをデーターに取り込み、3Dプリンターで復元をするというものだ。これとよく似た仕組みの魔法を使ってルイス達は『遺物』の復元をしているらしい。まあ、それの魔石バージョンだ。色んな意味で面白い発想をしているなあと感心せずにはいられなかった。
こうやって異世界での夫君達との『余生ライフ』はそれなりに平和で穏やかな日々がしばらくの間続いていた。
まさかの出来事が起こるまで……
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