ハルカ 『大聖人・光様』の日記
レオンハルトとルイスは『渡り人の遺物』の複写や復元の作業を続けていた。それらはある程度溜まると転移陣を使って屋敷へと運ばれてくる。同封されたリストと共にクリストフと一緒に整理整頓しながら用意された保管庫へと運び込む。その作業の繰り返しなのだが、たまにクリストフが『遺物』を手に取り、これは何でどのように使われるのかと質問してくるので、その名前としよう方法とかを説明する。それをクリストフがまとめて報告書を作成している。
『遺物』はあくまでその復元されたものだけれど、一般に公開されることがあるそうだ。それは公式に認められた『渡り人』様に限定されたもののみらしい。いわゆる博物館の臨時展示のようなものなのか。
一番人気は『大聖人・光様』と『大聖女・サクラ様』、『大聖人・カイト様』の三大聖人の残した『遺物』だそうだ。こうやって定期的に『渡り人』の足跡を公開することで『渡り人』への保護を確立させたいと『大聖人・光様』のアイデアが彼の死後も引き続き形として継承されてきた結果だとクリストフが説明してくれた。
その『光様』が残した『日記』を復元されたものが私の手元にすでにレオンハルトによって手渡されていた。それは日本語で書かれた日記。ここに来てから亡くなるまでに書かれた、忘備録のようなものだった。
『由奈さんの手紙』ではないが、他者の私信や日記の類は読むことへの抵抗が強い。日本語で書き残すってことは、もちろん日本語しか使えないからだろうけれど、この星の人に読んで欲しくないという気持ちもあるからだと私は思う。
それでも『光様』は日記の最初の頁に『いつかこれを読む同じ星の同じ国から来た人達に送る』と書かれていた。その同じ頁に簡単な自分の紹介が書かれている。彼は自分の書き記し、残していく『遺物』は全て後にこの星に渡ってくる『渡り人』の参考になって欲しいと考えていたのか。そして、自分にはプライバシーは存在しないと腹を括っていたのか。いずれにしても相当な人物だったんだろうと感じずにはいられなかった。
その最初のメッセージを読んでから、次の頁を捲ることがいまだにできていない。『日記』の数は彼がここで過ごした年数の数だけあった。ざっと見ても五十冊以上。最初の頁にはメッセージのほかに書かれた簡単な自己紹介によると
『大聖人・光様』こと『佐山 光』さんがここに渡ってきたのは関西にある大学卒業後大学院で研究についていた時で、彼は医師になりたてだったそうだ。年齢は二十五歳。両親と弟二人の五人家族。柴犬二匹と猫一匹を実家で飼っていたと書かれていた。学生時代からの彼女もいたらしい。出身は名古屋。血液型はB型。
簡単な箇条書きのように書かれたプロフィール。男性にして丸みのある優しくて綺麗な文字。彼が書き綴ったここでの彼の人生。その意味の重さが心に重くのしかかってくる。二十五歳。やっと医師免許も取れてこれからだと思っていたはずだ。恋人も家族もいたのに。彼もまたその全てを奪われた一人なんだと悲しくなった。
彼はここで幸せだったんだろうか?
いつか、どこかで自分の大切な誰かが落ちてきた時のために、彼はできる限り可能ななことを後に続く人のために尽力して生きてきたんじゃないだろうか。彼が『渡り人』の『遺物』や情報を収集したのは大切な誰かを見つけるためだったんじゃないだろうか?
愛する人へと想いを綴った『由奈さん』の手紙と同じ想いを感じてしまった。