ハルカ 『大聖人・カイト』様の魔道具と『渡り人・アーノルド』の『遺物』 ★
物語の流れ的に「ハルカ 『渡り人・アーノルド』の『遺物』 」と一つにまとめました。
数日後、ルイスが魔法の訓練の前に『大聖人・カイト』様が作ったとされる魔道具の復元、複写したものを色々見せてくれた。
それらはおそらく彼がこの世界に持ち込んだ地球のものを彼なりに魔法で復元したものだったようだ。
スマホやタブレット、充電器のようなものもある。魔石タイプの家電の色々。自転車や魔石で動くスクーターもどき。
そう、この星の移動手段はほとんどが転移陣を使った移動なのだ。いわゆる公共用の転移陣が随所に設置されていて、魔法石でその対価を支払う仕組みになっている。さすがに公国同士の移動は関所で管理されている。特別な許可が降りない限りは国境を越えてまで移動は許されない。なので移動は徒歩になる。
『カイト』様が作った自転車やスクーター。便利そうだけど、走る道は整備されていない。作っただけなのか? 私有地内で走行したのか?
魔石タイプの家電の色々、冷蔵庫やオーブン電子レンジ? 魔石で動かす湯沸かし保温電気ポット。魔法瓶のような保冷保温機能のある大容量の容器。
魔法が使えなくても大丈夫なようになっている。魔石さえ用意できればの話だ。
蒸留機もある。もしもの時の水確保対策か? フードプロセッサーに電気(魔石)コンロもあるし、こたつもある。こたつ? これも魔石で動くタイプ。おお、扇風機も。風防ライター(魔石タイプ)まであった。オイルタイプじゃないのがすごい。
カメラやマイクといった録音録画機器類。どこかで動画撮影して録画とかしていそうだな。
スキャナー付きの普通のコピー機や3Dコピー機? メモリー?のようなものも。この中には彼が作った映像も入っているんじゃないのかな。
魔石とは関係ないようなテントや寝袋、簡易用のプール。あ、テントは魔石で中が拡張できるのか。寝袋は快眠仕様? これはすごいな。
リストバンド付きの収納袋? 魔石を設置すると時間を停止した状態で収納できる空間アイテム? 異世界冒険あるあるアイテムじゃないか。
あれ?これは足踏みミシン?レトロなミシン。これ、魔石いらないんじゃない?と思ったら残念ながら要魔石らしい。操作自体は必要ないけれど、糸だ。下糸とミシン糸。魔石で糸まで作り出せるのか。
思い出したものを思いつくままに作ったのかな? 魔法が使えなくても生活ができるように、大丈夫なようになっている。ただし魔石さえ用意できればの話だ。
見せてくれたものはほんの一部だという。これって、全部実際に使えるんだろうか? 単なる複写か? 復元か? ルイスに尋ねてみると、レシピ公開されたものだから復元したので、実際に魔石をセットすれば使えるらしい。
うぉ‼︎ ルイスよくやった! 使ってみたい。大興奮でルイスにお願いするとその勢いに驚いたのか。
「もう、ハルカ、可愛すぎる‼︎」
ルイスにまるで可愛い子供をギュッと抱きしめるかのように抱きしめられた。
その日は持ってきた魔道具の機能の紹介だけだったけれど、流石にこれらの魔道具を使えるだけの魔力を込めた魔石は今の私では作ることはできないし、作ってはダメだと言われた。『マナ欠乏症』悪化してしまうからやめてとお願いされた。
夫君達が魔石の準備をしてくれるらしい。スクーターに乗ってみたいな。自動車の免許取得のために通った教習所で乗った以来だ。
ふふふっ!なんか、楽しいな。
「大聖人・カイト』様の魔道具も楽しみではあるけれど、実は先日クリストフから見せられた『渡り人・アーノルド』様のコレクションは、とんでもない代物だった。
まあ、地球の性文化を具現化したものといえばいいのか、夜の玩具コレクションに思わず『ムンクの叫び』を再現したかのようになってしまった。
その日のクリストフとの『夫婦のふれあい』はここ最近にしてはドン引きものになってしまった。思わず頭を振ってその記憶を振り払う。
『渡り人・アーノルド』様の残した『遺物』はそれだけではなかった。
私が彼に注視したのは彼が『ドイツ語』話者だったということだ。
カラーで色付けされたイラストとともに使用感も詳細も記録したものが『遺物』として保管されていたのだけれど、それがドイツ語で書かれたものだった。
対日辞典とともに見つかったらしいので、もしかするとあの瞬間日本に旅行中か留学中か、お仕事で滞在していたのかもしれない。
日本の性文化も調べていたのか春画とかも何点か『遺物』としてこの星の記録庫で保管されているのだ。復元されたもので確認した。
単なる趣味なのか、それとも学術的研究資料なのかはともかく、おばちゃん的には驚かされたとだけ言っておこう。
私個人的には、以前少しだけ思い立って四十すぎてからウィーンに語学留学したこともあって、彼の残した、そして全てを復元された辞書の方に興味があった。昔のことを思い出しながら、辞書をパラパラめくる。
日本語はローマ字で表記(ひらがな漢字も漢字も併記されている)ものにドイツ語で意味を書いてある。表現方法も。
ウィーン大学には日本学という専門の学科がある。そのため日本のアニメや漫画に触発されて日本学のコースを取る学生も多かった。
彼がそこの出身か、ドイツの他の大学出身かは不明だけれど、対象物がなんであれに日本に興味を持ってくれたのは少しだけ親近感を覚えるものだ。
なんか、その辞書を見ていると当時の懐かしい思い出が蘇ってきた。
あの頃出会った友人達はどうなったんだろうか?
日本の友達は?
思い出が鮮明であればあれほど、ここに一人飛ばされた自分が孤独に感じてしまう。
燻る珈琲の香り、目の前に大きめのいつものマグカップにカフェオレが並々と淹れられて置かれた。
グリーンサファイヤの瞳と目が合う。
「一息入れましょう、ハルカ」
まるで私の心を見透かしたかのようにクリストフが微笑んだ。
今日はチョコタルト。濃厚なチョコムースにラム酒が入ったクリームのタルトだ。酔っちゃいそうになるけど、美味しい。本当にお店出せるよ、クリス!
「何か気になるものでもありかしたか?」
そう問いかけられて、私はウィーンの思い出話を彼にした。小さな、些細な、だけど懐かしく楽しかった思い出。歳の離れた十代二十代の若者達との寮生活。戸惑ったことや嬉しかったこと、色んなことを思い出すままに語っていた。
クリストフは時々相槌を打ちながらにこにこ笑顔で話を聞いてくれた。
でも楽しかったことや嬉しかったこと、懐かしい思い出を語れば語るほど、もう皆いないんだという現実を突きつけられて、悲しくて寂しくて悔しくてクリストフの腕の中で大泣きをしてしまった。
もう二度と会えない、自分の大切な家族や友達。
クリストフは、そんな私を慰めるかのように抱きしめてくれた。そしてその夜の彼はとても優しかった。




