ハルカ 異世界での鍛錬と『光の剣舞』★
物語の流れ的に「ハルカ 異世界の『光の剣舞』に酔いしれる 」と一つにまとめました。
今日はレオンハルトはオフの日らしい。ここのところ『遺物』の複写の為に王宮へ出突っ張りだった。というのも『渡り人の遺物』を複写するにはレオンハルトに付与された権限が絶対必要なのだとか。久しぶりにレオンハルトと日中を過ごすことになった。実はレオンハルトに以前から頼んでいることがあった。
『鍛練』つけて欲しい。
ここに来てから何かとすぐに体調を崩すようになった。その原因は『マナ欠乏症』によるものなのだけれど、やはり体を動かす(夜の運動はともかく)ことが一気に減った為に基礎体力が落ちてきたんだろうって思ったからだ。
なんといってもレオンハルトは聖騎士団の団長だったわけだし、ソードマスターとかいうものでもあるそうだ。いわゆる熟練者。
とりあえず屋敷の外にある庭に出た。確か家を作った時はこぢんまりしていたけど、色々な花が植えられた庭や薬草園や野菜を作る畑、果実をつけた樹木が植えられて。あっという間に拡大していった。もちろん屋敷や庭も強固な結界を張っていて、外からは認識されない仕組みになっている。もともと外部からの訪問者はいないということが前提で作られたものだ。
目には見えない結界。マジックミラーのようなもので、敷地内からは外の風景や様子が見られる仕組みになっている。なので、最近は庭に出てのんびり散歩や日向ぼっこして背中で光合成をしていることも多くなってきた。完全に隠居生活だ。
レオンハルトが自分が使用している剣を持ってきた。主に魔獣や魔物が出た時にそれを退治する為に使用していたらしい。大規模な『浄化』を終えた後は瘴気そのものが無くなったので、魔物や魔獣も発生しなくなったそうだ。お役御免で終わりそうだけど……
レオンハルトはそれでも毎日朝夕鍛錬を続けている。真面目だ。三人の中ではどちらかというとバキバキ系なんだよね。
うっ、重い。ずっしりとくるその重みに驚いた。でも、中学の時に短期間だけど剣道をしていた経験があって、なんとなく持ち方、重心の取り方を考えて持ってみたら、なんとか持てた。
中学の時、盲腸の手術を受けてから、ある意味生活が一変した。たかが盲腸、されど盲腸だ。術後、母が思ったより時間がかかったと言われたけれど、それほど気にはしていなかった。治ればまた普通に運動ができる。そう単純に思っていた。
ところが、手術の傷跡は十五センチ。縫ってひっつけば終わりだと思っていたけれど、普通の体育の授業を受けて腹部に激痛が走った。子供の頃からお世話になっていた当時の掛かり付け医の先生に傷口が癒着して腸捻転を起こしかけていると診断された。以後数回、ちょっとしたことでそれが再発した。そこから運動部は諦めた。運動不足はドラム缶直行だ。
子供の頃から食べて燃焼タイプだったので、食欲は変わらないけど燃焼できないからだ。単純に食べなきゃいいだけの話なんだけど。
この星で受けた健康診断ではそういったことも忘れていたから確認もできなかったけれど、盲腸はどうなったんだろうか? あれも再生されたんだろうか? 歯も再生できたんだから、内臓も? でも、傷跡は残ってた。そう、盲腸の手術痕は残っているのだ。もはや再生の基準がわからない。
夫君達の初夜の時に、それぞれに説明をして以降、彼らはそこを念入りに舌で愛撫するようになった。
ふるふる頭を振ってそのことを思い出すそうとするのを振り払う。う〜〜ん、癒着はそのままなんだろうか? 夜の営みの時は大丈夫…… あれっ? て相当ハードなはず。だから大丈夫な気がする。
少しくらいの素振りなら大丈夫かもしれない。そう思って剣を振り上げようとして、レオンハルトに止められた。レオンハルトはすぐに私の背後に回ると剣を持つ私の手に自分の手を重ねる。
「ハルカ、手首を痛めてしまう」
深いバリトンボイスで耳元で囁かれると一気に力が抜けた。
レオンハルトにすっぽりと抱きしめられた状態になっている。彼の甘く熟れた果実のジュレのような芳香に包まれる。その瞬間ここ最近特に濃密になった彼との閨を思い出す。
「ハルカ?」
耳元で私の名前を囁く声が腰にくる程甘い。
ち、力が入らない。そんな私の様子に気づいたのか、レオンハルトは剣を私の手から奪うとギュッと後ろから抱きしめてきた。そこから逃れようと身を躱そうとするけれど全く敵わない。ああ、まずいと自覚しながらも、青い地球の色をした瞳に吸い寄せられるように唇を重ねた。
レオンハルトとの夜もあの約束以降大きく変化した。なんかやばい扉を開いたような気がする。大きな剣を振り払う、そんな鍛錬をしている猫科の大型動物のようなしなやかな肢体美しい男が自分の愛撫で行為で喘いでいる。それは想像を遥かに超えてしまうくらい悩殺的なのだ。
媚薬フェロモンの影響を受けていないってことはこれが彼本来の性癖でもあるということだ。地球人なら後ろの口攻略されちゃうタイプなんだろうな。ああ、ルイスも微妙に同じタイプかもしれない。双子だからか。
クリストフは…ひょっとするとひょっとするかもしれないけれど、これ以上刺激すると病んでしまうかもしれない。なんか微妙な狂気に近いものを最近感じてしまうからだ。
この星の人は愛情が深いのかもしれない。物質社会の地球に比べて。夫君達だけしか関わっていないからかもしれないが、なんとなくそう感じる。
あ、聖樹の刻印の影響もあるのかな。動物の番つがいみたいなものなのか。番つがいか、よく唯一無二とか言われるけれど…… 実際の話、地球の動物にしてもほぼ唯一の番だなんて本当に一握りの種だけだ。選ばれた雄だけが子孫を残せる。その相手も時と場合によって変化するのだし。唯一無二の番自体伝説のようなものだと認識をしている。
たまたま今の時点で落ちてきたのが私ではなく、他の女性、つまり同じ境遇の女性が落ちてきたなら今ここにこの美しい男の腕の中で眠っているのは私ではない別の女性だったんだろう。たまたま偶然が引き起こした出会い。
もし私ではなくあの『由奈さん』が今、この時点に落ちてきてたら、彼女は死を選んだんだろうか? それとも私の夫君になった彼らを彼女は受け入れたんだろうか?
レオンハルトの腕の中でまどろみながらふとそんなことを考えてしまった。
翌日仕切り直しのために、レオンハルトに『聖剣を使った浄化』を見せてもらった。
それは瘴気冒された魔獣や魔物を倒す時に使われる剣で、薙ぎ倒しながら浄化を同時に発動するのだそうだ。瘴気に覆われた闇の中では『聖剣』もそれを手にするソードマスターのレオンハルトも光り輝いているそうだ。それは「光の剣舞」だと称されているくらい美しい舞だという。
『浄化』活動中に、聖騎士団のフィリップ副団長が、よく話してくれたことを思い出す。結局自分の仕事が精一杯でレオンハルトの『浄化』を目にする余裕もなかったのが正直なところだ。
日中は私の『浄化』によって既に瘴気自体が消えているので、夜ならと日没を待って夜一つ(午前一時)にそれを見せてもらうことになった。
その準備のため、少し早い時間に先にお昼寝をした。レオンハルトと私の二人だけかと思ったら、ルイスとクリストフも立ち会うらしい。
「久々だな、レオン」
「錆びついちゃってるんじゃないんですか?」
クリストフが軽く笑顔で揶揄る。
レオンハルトはラフな格好で一振りの大剣を手にしていた。一見なんの変哲もなさそうな剣。
レオンハルトが正面に構えて意識を集中させる。すると手元が光りだし、大剣へとその光が流れ大剣全体を光が纏い出す。やがて、レオンハルトの手元から全身へその光が逆流するかのように全身を覆おう。大剣とレオンハルトの全身が強い光で覆われる。
一呼吸するとレオンハルトの体がゆっくりと動き出す。
しなやかに厳かにゆっくりと光の剣で剣舞を踊るレオンハルトは言葉ではいい尽くし難いほど神秘的だ。聖なる光を放ちながら舞う姿は天女が舞っているかのようにこの世のものとは思えないほど美しい。
時折剣を振りかぶり『浄化』を発動していく。放たれた『浄化』が強い光の剣のように暗闇に放たれていく。光の残像と新たに繰り出される光によって、夜の闇にまるで緻密な魔法陣が描かれているかのように幾何学模様が刻まれていく。
あまりにも圧倒的なパワーと浄化の光による芸術作品に呼吸をするのも忘れるくらい魅入っていた。
やがてレオンハルトの体が開始当初の立ち位置へとゆっくりと戻っていく。全身から大剣から光がスーッと消えていった。
私は両手で精一杯の拍手と称賛を贈った。レオンハルトはすごく嬉しそうに、気恥ずかしそうに私を見る。
そんな私たちを見て、クリストフとルイスはレオンハルトの肩をポンと叩くとスッと自室へと戻っていった。
レオンハルトは大剣を背中のホルダーに戻すとあっという間に私をお姫様抱っこをする。満面の笑顔を向けられてどきっとする。そして、そのまま、レオンハルトの部屋へと連れて行かれてしまった。