ハルカ 異世界で初めての魔法の練習中! ★
物語の流れ的に「ハルカ 異世界で初めて魔法を使う!」と「ハルカ 只今魔法の練習中! 」とを一つにまとめました。
もっと簡単だと思ったのに……
指輪を嵌めたらあっという間に『マナ』が魔力に変換されて魔法が使える。そう安直に考えていた私を見てルイスが吹き出した。
訓練は必要なんだよ。幼子に言い聞かせるようにルイスは言う。
まあ、元々魔力自体が無い状態なのだから焦らないで。とポンポン肩を叩かれた。
確かに魔力があっても魔法が駆使できなかったクリストフでさえ、初夜の後は自由自在に魔法を使いこなせるためにした訓練は大変厳しいものだったそうだ。
『マナ』が魔力に変換されるってどういうイメージなんだろう。
あの温室でルイスは『マナ』モードで魔力を使う様子を見せてくれたっけ。確か指先でレーザー光線を操るように……
色も色々変えていたっけ。えっと、青が水で赤が火? 両方の人差し指を引っ付けるようにして指先に青い色を貯めるイメージをする。それからほんの少し指を離しその僅かな隙間に両方の指先から青いレーザー光線を流すようなイメージをしてみた。
両人差し指の指先が熱くなる。でも目には見えない。
そのまま試しに魔石の原石に向けて両指先から青いレーザー光線を流すイメージを込めながら続けてみた。
乳白色だった原石がぼわ〜んと柔らかい光を放つ。白いキャンバスに水で薄めた水色で染められるように、うっすらとほんの僅かに水色が重ねられる。
お‼︎ ルイスも驚いたように私と原石を見る。まさかといった表情だ。
え? できた⁇ これでいい?
子供が初めてできたのを親に確認するかのようにルイスを見ると、ルイスは満足そうに頷いてくれた。
ルイスがいうには本当は『マナの可視化』をした状態で訓練をした方がいいらしいのだけれど『マナ欠乏症』を発症していると負荷がかかるらしい。
なんかメガネみたいな魔道具はないのかなあ。それをつけると『マナの可視化』ができるみたいな。
私が何気なくそう呟くとルイスはふむっと考え込んでしまった。
もしかしたら作ってくれるかもしれないなあと淡い期待を持ちつつ、指先から目に見えない色付きのレーザー光線を出すイメージを何度も何度も注入し続けて、それでもほんの少し青く光る魔石を一つ作ることができた。ものすごく疲れた。
疲れ切った私の耳元でルイスのバリトンボイスが囁く。
「今夜ちゃんと供給してあげるから」
へっ? っとルイスの顔を見るととびきりの笑顔とウィンクを投げかけてきた。
ああ、今夜も眠れないな。そう覚悟した瞬間だった。
でも生まれて初めて魔法を使ったんだ! っていう興奮の方が優っていて、私はうっすらと青く光る魔石の表面を指ですりすりしながらニマニマ笑っていた。
その夜はルイスが腕を振いまくったかのように豪勢な料理がテーブルに並んだ。
レオンハルトやクリスもものすごく喜んでくれた。ここに来て自分的には最高に嬉しい夜になった。
『マナ』を魔力に変換をして魔法を使うという作業は思いの外負荷がかかったらしい。翌日から三日ほど熱を出して寝込んでしまった。
レオンハルトから、なんでも程々にしないとは体を壊すということで、せっかく習得したこの魔法の訓練は一日一時間。無理をしない程度という条件付きだ。ルイスの指導のもとの訓練だけということで指輪はルイス預かりとなった。
信用云々ていうより、絶対自分で訓練するだろうって確信されている。まあ、確実にそうだよね。魔法が使えるんだよ。絶対指輪はめてたら使うよ。なんか、私の性格見抜きすぎてる気がするわ。
レオンハルトはともかく、ルイスやクリストフまでもが『マナ欠乏症』が悪化することに敏感になってきている気がした。
『浄化』も終わったんだからそうピリピリすることもないだろうにとこの時の私は楽観視していた。
『マナ』を魔力化するのは考えていたより難しかった。まず、自分では『マナ』や『魔力』というものを見ることができないので、あくまでイマジネーションを駆使して心臓から血液が全身に送り出されるイメージをしながら血液を『マナ』に置き換えるように全身を巡らせ指先に持ってくる。それを指先に溜めるだけ溜めて両方の人差し指を空中で交差させるイメージで光線を放つという、結構手間のかかる方法を繰り返していた。
最初は一日一回ほんの小さな水の塊や火が交差ポイントにできるくらいのものだったけれど、それを一日二回、三回と連続してできるようになった。
回数をこなすことで、集中力をキープさせる時間も増えてきた感じがする。とはいえ、無理をするとほぼ半日は使い物にならないくらい『マナ』を消費するので意識がプッツリ飛んでしまうことも少なくはなかった。
夫君達のように部屋を一瞬で増築なんて、きっと自分には不可能なんだろうなと思いつつも、自分の指先から目には見えない魔力の放出で水や火、風が生まれるのはいつも感動してしまう。
「『マナの可視化』ができればいいのに…… 」
私がそういうとルイスが
「今色々考えているから、もう少し待ってて欲しい。だけど、ハルカ、こうやって訓練をするともっとスムーズに『マナ』の『魔力化』ができるようになるし、魔法も使えるようになるから。頑張ろうね」
優しい微笑みを浮かべながら、なかなか厳しいお師匠様だった。「魔法の杖」とかないのかな?って聞くと、そういう道具に頼るといざっていう時に反応できなくなるらしいので却下された。
「そういうものなんだ」
っていうと、ルイスは真面目な顔つきで、
「そういうものなんだよ、ハルカ。でもこうやって微量とはいえ水や火、風を起こせるようになっているから、魔力の適正自体はあると思うよ」
そう言って魔道具の指輪をルイスはなぞるようにいじってきた。
「『マナの欠乏症』さえなければ、制限をつけることなく魔力が使えるはずなのに。残念だよ、ハルカ」
ああ、そうか、そういえば一気に『魔力化』しないように制限つけているって言ってたっけ。『浄化』で放てる『マナ』の量が使いこなせれば、こんなにちまち増した結果にならないのか。
「ハルカ、これは制限を緩和した時に魔力の暴走を防ぐ訓練でもあるんだ。だから毎日少しずつ、自分の魔力を自由自在に操れるようにイメージを強化しながら続けると結果は出るから」
『千里の道も一歩から』『雨垂れ石を穿つ』なんて言葉が脳裏に浮かぶ。
『急がば回れ』ってことなのか。まあ、自分が望んだことだから。と仕切り直して、訓練を再開する。
なかなか一足飛びには『ハリー』君にはなれないもんだ。そんなことを考えながら澄み切った青空に浮かぶ二つの太陽を見上げた。
それにしてもこんな地球からかけ離れた場所でこんな時でもことわざが頭に浮かぶなんて…… ちょっと笑えるなあ、なんてこと思ってしまった。