ハルカ グリーンサファイヤの瞳
その日の夜はクリストフと過ごした。
おそらく彼自身も思うところがあったのだろう。いつも以上の激しく、切なく、優しかった。
「貴女に彼女の手紙を読んでもらって本当に良かったです。彼らは貴女によってここで再会することができました。結果は非常に残念だったとは思いますが……」
続くクリストフの言葉を唇で塞ぐ。
考えれば考えるほど、自分たちの選択したすべての結果が引き起こしたことだ。
あの戦争が全面核戦争まで発展することなんて誰も想定していなかった。当事者以外は所詮他人事。小さな火種を本気で消そうとせずただ傍観していただけだ。いやむしろその日を煽り続けたではないか。まさか自分たちが巻き込まれるなんて想像もせずに。
その結果があまりにも残酷すぎて悲しすぎて、何もできない自分がもどかしい。
彼らの子供はどうなったんだろう。クリストフに確認したけれど、子供の『渡り人』の報告の記録は残されていないらしい。父親のように森の中に落ちてしまえば誰にも見つけられることができなかっただろうし、市井の中なら明らかにこの星の子供ではないのでなんらかの記録は残されるそうだ。まだ渡ってきていない可能性もあるわけだ。その時に手厚い保護が受けられるようになんらかの法的整備を整えてもらえないか。とクリストフに話すとベッドの中でぎゅうと抱きしめられて
「貴女という人は…… わかりました。陛下にその旨伝えます」
グリーンサファイヤの瞳が一際優しさを含み私を見つめた。
同じ時代に渡ってくる『渡り人』はいないとされている。つまり、あらゆる可能性を考えて保護してもらえる法整備が必要なのだ。
だから『光様』と呼ばれる青年は『渡り人保護法』という法律によって『渡り人』の人権を守る法律を作った。もちろん彼の背後には国王バルトがいたからできたことだろう。私にできることは小さいけれど……
「ハルカ。私には彼女の気持ちが痛いほどわかります。貴女がある日突然消えてしまったら? おそらく僕は地の果て、世界の果て、否、時空間に触れる禁忌を犯してでも貴女を探すでしょう」
特別な存在というのはそういうものだから。グリーンサファイヤに琥珀が灯る。
切ないくらい、狂おしい、そんな吐息と共にクリストフに翻弄され夜が明けていく。
目覚めるとガラス張りのテラスの中で珈琲を燻らせている色香だだ漏れの美青年が微笑んでいた。
クリストフはやばい。クリストフの美貌が直視できないほど眩しいなんて、ドキドキときめくなんて、おばちゃん的にはかなりやばい状況に自分で焦ってしまってるのには今更ながらも驚いてしまっている。そんな私の戸惑いなんておそらく彼は気付きもしないんだろう。不思議な男ひとだ。
面談の日以降のクリストフはそれまでの彼と全く変わった。
言葉では説明できないとろとろの甘さ。口付けも肌に触れる愛撫も。そうずばり愛し方が変わった。
昨日の『遺物』のことも影響したのかもしれない。この世界に二人しかいない、絶対に失いたくない。そんな狂おしさのようなそんな愛し方をするようになった。そういう意味ではルイスのあの指摘は正しかったんだろう。
クリストフとゆっくりめのブランチをとって、自室の戻った。今日は『遺物』に関することはお休みと言われた。クリストフは昨日の二件の『渡り人』に関する報告書を作成をして、法的提案も含めて陛下へ報告をするらしい。王宮に行くクリストフと入れ替わるかのようにルイスが家に戻ってきた。おそらくクリストフから昨日のことを報告を受けていたんだろう。ルイスは初っ端から甘々モードだった。
ルイスがあるものをプレゼントしてくれた。
それは指輪。
成婚の儀に三人から与えられたものとは違う。指輪型の『マナ』を魔力へ変換するための魔道具だ。指輪の中央には虹色の魔石がいくつも埋め込まれている。不思議な色合いの指輪。
ルイスによってそれは私の左の中指にそれをはめられた。魔力の暴走によって大量の『マナ』を消費しないように微調整を繰り返す。それは不思議な光景で光の魔法陣がいくつも展開され魔石の中へと組み込まれていく。
生活魔法が使えるようになりたい。という私の願いを形にしてくれた。さすが大魔法士だ。
で、これで何をするのか?
魔石を作る。つまり、ここでの通貨を自分で作るのだ。お出かけして、確かに夫達が作った魔石でお買い物もいいかもしれないが。やっぱり自分の魔石(お金)で…… と思ってしまうのだ。
ウキウキしながら大きめの箱に敷き詰められたたくさんの魔石の原石となる白い乳白色の丸みのある石を見つめた。