ハルカ 『大聖人・カイト』様の『遺物』
情けないことに、あの本を読んでから熱を出して三日ほど寝込んでしまった。
ルイスが『マナ欠乏症』に伴うものだろうと診断を下す。感情を表に出さなくても影響するなんて…… なんてめんどくさい。
「食事だよ」
と、ルイスが部屋に薬膳粥を運んでくれた。
懐かしく、優しい味付けだ。私の中ではルイスは『母親』に近い位置付けになっている。本人には内緒だ。
「美味しい」
「しっかり食べて、元気にならなきゃ」
「ありがとう、ルイス」
「体調が整ったらうちの領地のお祭りに行こう」
「『北大公国』の? そう、収穫祭があるんだ」
「いいね。行きたい」
「その前に、この前、ハルカからお願いされていたアレの試作品ができたんだ。それも試してみよう」
「アレって、あれ?」
「でも、ハルカのマナの状態が整わなければ無理だからね」
「うっ。だって、自分ではどうにもできないんだよ」
「感情って押さえ込みすぎてもダメなんだよ」
「難しい。地球の時は大丈夫だったのに」
「多分、本当は大丈夫じゃなかったんだよ。たまたま『マナ』っていうバロメーターがここで機能しているからだと思うよ」
「まあ、確かに……」
『マナ』の流出を可視化で見てしまったこともかなり影響しているんだろう。どうしても敏感に反応してしまう。
「でも、すごいね、ルイスは」
「ん~~ありがとう。でも今回はたまたま『遺物』の中にヒントがあったんだ」
「『遺物』?」
「『カイト様』の遺物の中にそれに近い魔道具が見つかったんだ」
『大聖人・カイト』様というのは千二百年前に渡って来たとされる『渡り人』だ。この星で数々の魔道具を生み出したそうだ。そう、魔道具だ。魔力を持たない、魔法を使えない地球人が魔道具を作り出す。これはほぼ不可能だ。
私の場合はルイスが。『光様』にはバルト国王がいたから色々なものが作り出せたのだとクリストフが言っていた。つまりアイデアを具現化するには相当魔力が強く魔法を使いこなせる存在が必要だということだ。
おそらく『渡り人』のほとんどは同様だったはずだ。王族の保護の下、夫君なり妻君なりが高い魔力と魔法を使いこなせる存在がそばにいたはずだ。ところが『カイト様』という『渡り人』は自らのマナを魔力に変換できた。
そしてそれによって自分のアイデアに基づく魔道具を多く残したと言われている。なぜそれが可能だったのか?
「その秘密が『遺物』の中にあったってこと?」
「そう。以前から可能性としては取り上げられていたんだけれど、実物が発見できたんだ」
「そのレシピを元に『遺物』を復元できたんだ」
少年のように目をキラキラさせながらルイスは語る。
「だから……早くハルカに元気になってもらわないと!」
すこぶるご機嫌な美青年の破顔にドキドキさせられてしまった。