ハルカ 異世界で『聖女』認定をされる
黒いフードの…… この男性も銀髪だ。目は二人と違って碧い、先の二人はブルーサファイヤ系だが、彼は若葉を思い起こさせるようなグリーンサファイヤだ。それに二人に比べると少し小柄だけれど背が高い。一八〇センチ以上はありそうだ。骨格もがっちりしている。細くも太くもない。顔も二人に似て非常に整っている。こちらの方がさらに柔和な印象を受ける。
ただ、二人よりは年配の…… う~ん、四十歳半ばか後半かくらいかな。一言で言えば、イケオジ? 若ければ二人と同じレベルの美青年だったんだろうなという感じだ。
それにしてもここは銀髪の世界なんだろうか。銀髪なんて身近では見たことがなかったけど、綺麗なもんだなと思いつつ目の前の三人の男性を見ていると空中から少し大きめの木の長机と椅子が四脚、ポンと出される。
また空中⁇ なんなのこれ⁇ しかもこんな大きな机まで。
日本の代表的アニメ『どらちゃん』のポケットじゃないんだから。
机の周りに向かい合うように椅子が置かれる。黒いフードを着ていた男性が座った丁度真向かいに座る席にレオンと呼ばれる男性に椅子が後ろに引かれ席に着よう促される。仕方がないので言われるまま席に着く。他の二人も少し離れた位置で同様に席に着く。レオンと呼ばれる男性は空中からペンと何やら書類のような紙を取り出す。ルイスと呼ばれる男性は何やら彼の手の平に収まるくらいの丸い物を手に持ち、私の方に向ける。黒いフードを来ている男性が二人の方を指差し、私にゆっくりと話しかける。よく通るテノール。この男性もいい声をしている。
「彼等はここでの尋問を記録します。映像によってその尋問が正しく行われているかも同時に記録されます。なので安心して応えて下さっていいですよ」
黒いフードを着ている男が話を続ける。
「初めまして『渡り人』様。私はこのユータリア国の宰相を務めるクリストフ・ユータリアと申します」
ルイスと呼ばれる男を見ながら
「映像を記録するのがこの国の大魔法士ルイス・ユータリア」
ルイスと呼ばれていた男性が席に着いたまま私に対して一礼する。
「公文書として尋問内容を記録するのがこの国の聖騎士団団長で克つ大将軍のレオンハルト・ユータリア」
レオンと呼ばれていた男性も同じく席に着いたまま私に向けて一礼した。
同じ姓? しかも国名と同じ⁇
「この三名で『渡り人』様の最初の記録を取らせていただきます」
そう言うとクリストフと名乗った男性も私に対して一礼をした。
それに返すように私も彼等に一礼する。
「早速ですが貴女の事を教えていただけませんか」
顔や声は柔和なのに、目は笑っていない。
どうしようか。状況がつかめない。ユータリア国なんて聞いた事がない。
『渡り人』ってそもそも何⁇ 大魔法士って⁇
敵か、味方なのかもわからない状況で応えていいのかな?
思い切って疑問に思う事を尋ねる事にした。
「その前に質問があります」
緊張して上擦っている自分の声に戸惑う。三人が自分に注目するのがわかる。
「なんでしょうか」
静かに問い返される。
「『渡り人』とは何ですか?」
耳にしたことがない、ここでは頻発されている単語の意味を問う。
するとまるで準備されていた問いかけのようにすらすらと説明がされる。
「我々の世界とは別の世界、異世界から渡ってきた人を総称して『渡り人』と呼ばせていただいております」
異世界?
「古くは三千年前から記録されています。およそ百年か百五十年の間隔で渡ってこられています」
三千年前? ということはざっと二、三十人名の人がここに来たということ⁇
「一番最近の『渡り人』様は百五十年前に渡ってこられた『大聖人・光様』といわれ、この国の王族と婚姻を結ばれ、私達三名を含む王家の血筋の祖の一人になられております」
この国の宰相と名乗る男は話を続ける。
「『渡り人』様を保護する為の『渡り人法』を定められたのも『大聖人・光様』によるものです。この法に則って『渡り人』様を保護させていただきます。又『渡り人』様に関する記録は全て公的に保管される事になります」
大聖人? 渡り人法⁇ 保護⁇ なんじゃらほい……
「『大聖人』とは何ですか?」
「『聖人』の規定は大規模な『浄化』・『治癒』ができるかどうかによるものです。この世界は残念ながら瘴気が満ちてしまっています。それを『浄化』・『結界』を張る事で私達を救って下さる人を『聖人』とさせていただいております。『大聖人』はそれらの規模や功績に基づいて冠せられるものです」
成程…… 瘴気? また知らない言葉が出てきた。
「『瘴気』とは何ですか?」
「『瘴気』とはこの世の全ての不浄です。それは全ての命を蝕み、腐らせ、滅ぼします。瘴気がたまると魔の森が生まれ魔物が生まれ人々を襲います」
腐らせかあ…… あの呼吸もできないくらいのものすごい悪臭の事か。
「『聖人』と私を呼ぶのは何故ですか?」
そんな大それたことをした記憶がない。
すると宰相と名乗った男性がすくっと席を立ち窓際に移動する。
私の方を振り返り、今度は驚くような破顔で手招く。
「こちらに来て下さい」
促されて席を立ち窓のそばに行く。窓の外を見る。辺りは日が暮れて真っ暗だ。
その中を遥か彼方から砦に続く光りの道が一本強い光を放っていた。
「あの光の道は、貴女が『浄化』したものです。非常に大規模で強い『浄化』によるものです」
暗闇に強く光を放つ一本の太い道を指差しながら宰相殿は私にそう言った。
「貴女は『渡り人』様であり『大聖女』様ということになります」
私がしたの⁇ 『浄化』⁇
「ものすごい悪臭で呼吸ができないから『空気洗浄』を呪文のように繰り返しただけなんだけど……」
そうぽつりと言う私を驚異の目で三人が見た。その目に敵意はない。
賭けに出るかのように私は言葉を続ける。
「わかりました。質問にお答えしましょう」
私は再び席につき、この国の宰相殿を見て言った。
「ご協力ありがとうございます。早速ですが…… 『お名前』『年齢』『お産まれになった国名』『こちらに来られたときの日付』を教えていただけますか」
先程の鋭い視線は感じられない。全ての警戒心が解かれる訳ではないが、応えることにする。
「高瀬春香タカセハルカ。高瀬タカセは姓。春香ハルカは名前。五十五歳。出身国は日本ニホン。ここに来たのは二〇二X年三月X日」
「「「五十五歳だって???」」」
私の言葉に驚きの声を放ち三人が席を立って私を見る。
「すみませんが、もう一度『ご年齢』は?」
確認するかのようにもう一度質問が繰り返される。
「五十五歳」
何⁇ もっとおばさんに見えるっていいたい訳⁇
あんぐりと口を開いたまま私を見る三人にちょっとむっときてしまう。
「どう見たって二十代半ばにしか見えん」
大将軍殿が声に出す。
二十代半ば⁇
いくら東洋人が若く見えるからって、それ、さすがにサバ読み過ぎでしょ。
「一体どういう事ですかね、ルイス大魔法士」
宰相殿が大魔法士殿に問う。
大魔法士? ハリーほなららのファンタジーの世界観。
あの空間からいろいろ出てくるのは魔法だったのか。
どらちゃんの見えないポケットかと思ってた。
「あくまで私の推測ですが、あまりにも大量の『浄化』を繰り返したので、彼女のマナが消費されたのではないでしょうか」
ん? 大量消費するなら
「それなら老化するのでは?」
二人の会話に割り込むように私は疑問を口にする。
私の問いかけに応えるかのように大魔法士殿は私の方を見て答える。
「いいえ、単にマナを浪費するなら老化でしょう。ただ貴女は同時に『浄化』をしているので、『浄化』はその人自身を先ず『浄化』します。つまり老廃物が全て無くなって、マナを含めあらゆる細胞が活性化します。なので老化ではなく若返る事になります」
なに? それ⁇ わかるようでわからない。
でも残りの二人は納得しているみたいに見える。そもそも……
「マナって何?」
私は彼らに声に出して質問した。