『ポンコツ三兄弟』の迷走と『浄化』活動の再開
おかしいな…… 今週は二番目の外円にある中公国じゃなかったっけ……
三人の夫君達に連れてこられたのは三番目の外円にある南大公国の森の中。えっと確か三人の叔父さんに当たるアレクサンダー公の領地だよね?その中にある鬱蒼とした、今にも魔獣とかが出てきそうなくらい暗い森の中に小さな光のドームがある。中に小さな小屋のような家がある。その家の前に夫君達と共に転移してきた。ドームの中は明るいが周囲は闇に包まれている。この闇は瘴気だという。
何故⁇ レオンハルトの顔を見上げる。レオンハルトは笑顔を向けてくる。
「アレク公の許可をもらった。ここで『恩恵』を可視化した状態で記録することになる。ああ、でもハルカの要望通り、行為そのものの記録はないよ。『瘴気』で覆い尽くされたこの森が『恩恵』によってどれほどの規模で『浄化』されるかを記録に残すためだから。この森自体は『王宮ドーム』に匹敵する面積がある。『王宮ドーム』はすでにハルカによって『浄化』されているから、その違いをね、検証しようということなんだ」
その言葉の後を続けるように
「それに、最近は『浄化』作業が優先になってるから、僕等との触れ合いもないからね…… 流石に寂しいなと…… ちゃんと防音魔法もかけているから、声が外に漏れることはないよ」
防音魔法までかけてるの?
触れ合いがないって言われてもそもそも体力的にも差があるし休日があっても全員ととか無理だし……
えっと、つまりは『恩恵』の調査を兼ねて夫婦生活も充実させたいと…他領地なのにいたしたいということなのかね、君たちは!思わず『絶倫ポンコツ三兄弟』を見てしまう。
魔獣や魔物に襲われるかもしれないのに……? それもスリルさとか言い出しそうで口に出せない。実の叔父さんだから許可してくれたんだろうけれど……
「ハルカ、『マナ欠乏症』ってマナがずっと漏れ続けている状態だって『マナの可視化』の映像で確認したのを覚えてる? 『浄化』作業中は出来るだけハルカの負担にならないよう、食事等経口でマナを供給してたんだけど…… 実際のところそれだけでは本当は足りないんだ。だから休日はよく眠るようになったでしょ? 無理させられなくて寝かしてあげていたけど、それってよくない状態なんだ。それで、今回検証も兼ねて、その辺も補充できたらってことになったんだ」
ルイスのスカイブルーの瞳が覗き込むながら言う。
『マナ欠乏症』とかいわれたら、断れないじゃん、ずるいよ。仕方がない…… ぶつぶつ文句を言いながら小屋の中に入る。外観は掘建て小屋なのに建物内に入ると結構しっかりめのログハウス。どちらかというとお金持ちのセカンドハウスっぽい感じだ。奥行きも結構広め。これも魔法のなせる技?
ベッドもワインレッドの天蓋付きで広い…… いや、二人用としてはデカすぎる…… ちょっとしたキッチンやバスまでついてる。いやいや、ここで住むつもり⁇ 森にこもるつもり⁇
「せっかくだから、ハルカもきっと心地よくいたしたいんじゃないかなってことで選んでみました」
ルイスがお茶目っぽく言ってくれるんだけど…… ついジト目で見てしまう……
ああ、もう…… 腹括るしかない。三人の夫君達を横目に大きなため息を一つついて、シャワーを浴びにバスルームへ向かう。シャワーを浴びながら、気持ちを整える。
相手は夫。仕事で抱かれるけど…… きっと大丈夫。まだ、大丈夫。自分に言い聞かせるように心の中で呪文を唱えてしまう。
「ハルカ、着替え置いておくよ」
ドア越しにレオンハルトが呼びかけてくる。大丈夫……
「ありがとう。レオン」
気持ちを作るように返事した。
本当は逃げ出したい。でも、そんなことはできない。この建物だってわざわざ用意してくれてる。でも、なんか、気持ちがついてこない。踏ん切りがつかないまま、もやもやした気持ちを洗い流そうとしていると
「ハルカ、無理なら、今日はやめましょう」
出てこない私を心配してのことだろう…… 今度はクリストフが扉越しに言う。
「…………」
「一度、家に帰りましょう。出ておいで、ハルカ」
その言葉でようやく扉の外に出れた。クリストフは私の体と髪を温風でさっと乾かすと帰宅用の着替えを手渡してくれた。それに着替えるとレオンハルトがギュッと抱きしめてくれる。
「ごめん、ハルカ。いつも無理させて。今日は家に帰ろう。美味しいもの食べよう」
そう言って額にキスしてくれた。
「じゃあ、帰ろう。みんなで」
ルイスはそう言うと転移用ゲートを開く。
その中を四人一緒に足を踏み入れた。一瞬の揺らぎの後、すでに馴染んだ我が家に戻っていた。
レオンハルトは背中越しにずっと私を抱きしめたまま、離れようとはしない。ルイスとクリストフがキッチンで食事の支度をしている。レオンハルトは視座の上に私を乗せたままソファーに座っている。私はレオンハルトに抱かれたまま、ルイスとクリストフが食事の用意をしているのを眺めていた。
「簡単なものになっちゃったけど…… 今日は、具沢山のシチューとオムライスにしたよ」
「デザートはアップルパイ」
ルイスは四人が一緒に暮らすようになってから、メインとは別に数種類のサラダや副菜を大きな器に盛って、それぞれがお好みで選べるようにしてくれている。各々がそれを器に取り席につく。
「いつもありがとう。ルイス、クリス。では、いただきます」
夫君達は今日のことには触れない。それが彼らにとって優しさなのだろう。でも、それじゃあ、だめなんだよ。表面上、和やかな食事タイムが終わりそうな時になってから、今日の話題を振ることにした。
「あの家、あのまま放置してても大丈夫なの?」
ルイスがそれにすぐに反応する。
「結界張ってるから、大丈夫」
「そうなんだ…… 今日は本当にごめんなさい。頭ではわかってるんだけど…… どうしても気持ちがついていかなくて…… 家も結界も結界内の浄化もしてくれていたのに……」
三人に向かって改めて謝罪する。レオンハルトが私のところに来て抱き締める。
「ハルカにちゃんと説明しなかった僕達が悪いんだ。悪いのは僕等の方だ。すまなかった」
「検証っていうのもわかるんだけど…… どうしても、なんていうのかな、夫婦の営みって私の中ではかなり支えになっていて…… なかなかそれを仕事だって割り切れなくて…… 大丈夫だって思い込もうと思ったんだけど…… できなくて。本当にご…… めん…… なさい」
最後は嗚咽で言葉が紡げない。
「ハルカ」
前からレオンハルト、後ろからルイス。横からクリストフがギュッと抱きしめてくれた。
「大丈夫なんて思い込まなくていいです。嫌なら嫌ってちゃんと伝えてくれたらいい。仕事だから割り切れなんていいません…… 心配しなくていいですから」
クリストフがそう言い切る。
「でも…… そうしたら、後の人(『渡り人』)が困るんだよね?」
「…… ハルカ、貴女が嫌なことを僕達はさせたくありません。後の人…… できる人がすればいいだけのことなんです。貴女が全てを追う必要はありません。貴女は本当によく頑張ってます。心を殺してまで、しなければいけないことなどないんです」
「だって、クリス……」
「僕は貴女が僕たちとの営みを支えにしてくれているっていう言葉の方がとても嬉しい。僕にとってもハルカとの夫婦の営みはとても大事ですから。それを仕事だって割り切りたくないというのはすごくわかります。陛下にもちゃんと報告します。通常の『浄化』に切り替えればいいだけです」
その言葉に続くようにルイスが
「あの家を拠点に『浄化』の下準備と『結界』壁を展開すればいいだけだから。問題ない」
そう言って後ろから力を込めて抱きしめてくれる。
もちろん、レオンハルトもだ。三人にそう言って、抱きしめられて、すごくほっとした。しばらく抱擁した後、ルイスが
「珈琲淹れるから、アップルパイ食べよう」
それを合図に、みんなで珈琲タイムをした。
「クリスのアップルパイ、美味しい」
「そうですか? 嬉しいですね。たくさん食べてくださいね。バニラアイス添えても美味しいですよ」
「パイも生地から作ってるってレオンが言ってた。結構手間かけてくれてるんだよね。ありがとう」
「菓子作りも楽しいですから。宰相してた時は自分の時間などなかったですからね。楽しませてもらってます」
「『結界』壁展開するのも大変なのに、本当にありがとう、クリス」
「まあ、厳しいルイス団長に酷使されてますけどね。でも実際、魔法が自由自在に使えるようになったというのも嬉しいので、楽しみながら仕事しています」
「え? ルイス厳しいの??」
「いや、そんな、厳しくないよ、僕は。クリス、なんてこというんだ!」
「……」
無言で抵抗するクリストフ。
そんな二人を諦めがちに見ているレオンハルト。こういう何気ない緩やかな日常が心地いいなって思っていた時、
「ハルカ、ここでならいい?」
とクリストフは不意にそういうとにっこり笑って口付けをしてきた。
……そういうことか。そうだよね…… 触れ合いが足りないから今日みたいなことになったんだし…… コクリと頷くと、
「じゃあ、片したり、準備してるから待っててね。」
そういうと三人がパッとそばを離れて動き出した。あれ? 何で皆で動いてるの?
その後の夫君との異世界ライフは、まあ地球でも普通にあるような小さなことから、夫婦の営みに関する見解の相違によって夫婦喧嘩のようなものをしたり、夫君達と個人面談で仲直りしたり…… 夫婦の営みの規則を決めたりといった感じで夫婦面談をしたり、家族会議をしたり、夫君も三人いれば三者三様ということでお互いが本当の夫婦になるためにいろいろなことがあった。まあ、そういう意味で時空を超えて異世界にあっても見知らぬ男女が夫婦となり家族となる、そういう意味では人生って常に勉強なんだなと痛感させられることも多かった。
そんなこんなもありながらも『浄化』活動は続いていく。
****
目覚めたら昼前だった。
私とレオンハルトは朝食と昼食を兼ねた食事の後、ルイスとクリストフの元へと合流した。
ルイスとクリストフは先に南大公国の瘴気に冒された森、『浄化』のために建てた別宅(臨時の小屋?)を中心とした『結界」壁構築の準備の為に先に向かっていた。現場についてみるとルイスとクリストフの所属する魔法士団とレオンハルトの所属している聖騎士団の団員達がいつのも手順通りに『浄化』と『結界』壁の構築をしている。到着早々、ルイスに小屋の中で少し大きめの規模の『浄化』の指示を受けた。『結界』壁の展開方法を少し変えたらしい。
言われた通りいつもの基準の規模より八割増しぐらいの規模で『浄化』をしてみる。ドンと軽い衝撃を伴いながら強烈な光が放たれる。それに伴い空気が一気に澄み渡る。きらきらと光の粒子が煌き視界が明るくなる。
小屋の外で大きな歓声があがる。ルイスと共に外に出た。瘴気によって真っ暗で禍々しかった森が光で満ち溢れている。最初は小屋周辺だけに展開されていた光のドームがさらに強化され団員達が構築している『結界』壁の三層目まで拡大されているとのこと。
「上出来だね」
ルイスの表情が明るい。
「体調はどう?」
「大丈夫」
「そう。今ね、四方しほうに転移陣の準備をしてるから、それができたら引き続き作業を再開しよう」
「了解」
それからしばらくすると魔法団員から転移陣の構築が済んだと報告があったので、ルイスと共に『浄化』作業を再開することになった。
『浄化』作業に伴って作られる転移陣は簡易のものらしく数回使用したら自然に消滅するという代物だ。これは他のエリアでの『浄化』作業でも使用されている。というのも一応他領地なので勝手に転移陣を構築できない様に法整備されているからだそうだ。
今回は東西南北の『浄化』されたエリア外に近い『結界』壁の内側に設置されたもので、これを起点に『浄化』をすることになった。あくまで内側、『浄化』が終わったところから、重ねる様に『浄化』を発動していく。というのも汚染地域に入った途端ものすごい悪臭に過剰反応をして『浄化』を制御できなくなる為だ。その結果『マナ欠乏症』を悪化させることになるからだ。
透明の煌めく『結界』壁を境に内側では光が、外側は暗く瘴気の闇に覆われている。瘴気を臭いで判別している私的には視覚においても光と闇で見える形で汚染された部分が明白なコントラストになっている様はある意味衝撃的だった。
転移陣を構築した後、ルイスとレオンハルトは全ての団員を『浄化』済みのエリアから引き上げさせていた。これから実験が行われるらしい。『浄化』の規模は直前に行なったものと同程度ということなので、それに従って魔法陣を起点に『浄化』を試みる。衝撃と光に包まれた瞬間、目の前の光景が一変する。
「ハルカ、後ろを見てごらん」
ルイスがすでに『浄化』され、重ねて『浄化』されたであろう後方を確認する様に促す。
「あっ」
そこはルイスとかつて『恩恵』の効果を確認した風景と重なった様な光景が広がっていた。
『浄化』作業一回目の時、そう丁度たった今『浄化』したばかりの『結界』壁の外側のように、目の前に広がっていたのは瘴気という暗闇から解放された光に包まれながらも草花も生えていない枯れ木の森の残骸だった。おそらくそれは時間をかけて自然に回復していくのだろうといった感じだったのだけれど……
二回目、『浄化』が重ねられたエリアは青々とした緑と色とりどりの花。枯れ木は甦り若葉が繁り、花をつけているものもある。全く居なかった鳥や虫達も……
『渡り人』に与えられるこの力に凄いと畏敬の念すら持ってしまいつつも、こんな風に『before』『after』を目の前に突きつけられたら…… クリスの見た目年齢が一気に若返ったことも…… この力、かなりやばいよなあ……
『渡り人保護法』ができるまで時には身も肉も血も骨すらも奪い合うっていうこともあったそうだし……
ルイスはおそらく私の中にある怖れを感じ取ったのか
「ハルカ、あと三か所で今日は切り上げよう」
そういうと次の『浄化』ポイントへと転移陣で移動をした。
ルイスは事務的にサクッと『浄化』作業を終わらせると小屋の中へと戻り、クリストフを通信用の魔道具を使って呼び出す。
「お疲れ、ハルカ。今日はこれで上がっていいよ。クリスと一緒にお家に戻ればいい」
にっこり私にそう告げると、クリストフが小屋の中へと入ってくる。
「ハルカの今日の作業は終了したから、一緒に戻るといい」
ルイスはクリストフに近付いて何やら耳打ちをする。一瞬クリストフの表情が厳しくなったかと思うとそれを打ち消すかのように
「ハルカ、お腹空いていませんか? 何か美味しいものを作ります」
クリストフは私に向けてにっこり笑うと私の手を取るとすぐに私達は転移陣で家に戻った。
一瞬の揺らぎの後、目の前は見慣れた風景。今日はクリストフの執務室。外での作業だったので、各々でお風呂タイム。一緒にと言われたけれど、理性があるうちはそういうのにはやっぱり抵抗感がある。軽く躱わして自分の部屋に戻る。クリストフも強いることはない。
着替えは一応クリストフの用意したものを着ている。たとえば下着やチュニックぽいもの、ジーンズとか、何気ないものも全てどこかに夫の瞳カラーが刺繍等でつけられている。
仕事(『浄化』作業)以外のものは全て夫達が用意してくれている。一見同じ様なものでも、名前を書いているかのように何処かにカラーが入っている。レオンハルトは濃紺色。ルイスは空色。クリストフは黄緑色。
夫婦の営みのある場合はそれがサインになるし、逆に何らかの形で全色身につけていると今日は駄目ってことになっている(ちなみに複数との営みは拒否権発動している状態)
今日はクリストフとの『ふれあい』の日ということなので、クリストフの色の入ったものを身につけている。で、その日の妻の世話は彼がするということになる。この辺はかなり抵抗があるのだけれど、いかんせん魔力もなく、魔法も使えないので本来全部自分でできるのことでもできないのが辛い。
例えば、お風呂の準備や洗濯とか食事の用意とか……
魔道具使うのも魔力がいるってどういうことよ…… っていつも思う。ただ、この辺のストレスは『浄化』作業が全て終了した後、ルイスが色々考えてくれているらしい。「待っててね」とお茶目なウインク一つと共に約束してくれている。
私が着替えるのを待ったかのようにクリストフが脱衣場に入ってくる。洗濯カゴに入った作業着を片手持ちながら、もう一方の手で風呂場の戸を開き、洗浄魔法であっという間にお掃除する。見慣れた光景だけど、やっぱり魔法って便利だよなあって羨ましく思ってしまう。クリストフは生活魔法は以前から問題なく使えていたらしい。
あの初夜以降多様な魔法が自由自在に使える様になったのには本人が一番驚いたそうだけれど……
見た目年齢も一気に若返ったこともあってか、アンニュっぽさも消えて、健全な美青年に見える。黙っていれば夜の帝王ぽさなど微塵も感じさせないんだけど…… そう、クリストフとの夜の営みは絶倫さもテクニックもハードすぎて初心者の自分としては歯が立たないレベルなのだ。それに刺激を受けて同じ初心者だったはずのレオンハルトやルイスまでもあっという間にレベルを上げてきてしまった……
「ハルカ?」
心配そうに覗き込むグリーンサファイヤの瞳。ふと我に返る。
「ん?何でもないよ、ちょっと疲れちゃったのかな」
「珈琲淹れますね。パンケーキも焼けましたよ」
キッチンに行くとテーブルに焼きたてのパンケーキにブルーベリーとバニラアイスが添えられている。ミルクたっぷりのカフェオレが自分専用の大きなマグカップに淹れられている。
「夜までまだ時間がありますからね」
昼一つ、地球時間的には午後四時。この星は二つの太陽を持っているため一日二十四時間にもかかわらず、時間配分が地球とは大きく異なる。夜は午前零時時から五時。朝時間は六時から十四時、昼時間は十五時から二十三時。まあこの特殊な時間配分で時差で体調を崩したこともあったのだけれど…… 時間の数え方もシンプルだ。夜一つ、二つと数えていく。面倒だけれど、基準を決めれば何とかなった。
六時、十五時、零時。起点を決めて数えれば問題がない。とはいえ、おばちゃん的にはかなり難しい。
昼はおやつ時って覚えて何とか凌いでいる。
柱時計には私用にわかりやすく三(黄色)と六(赤)と十二(青)のところに色分けマークがつけられている。
クリストフの焼いたパンケーキはふわっふわっとしていてすごく美味しい。添えられているアイスクリームもクリストフの手作りだ。
材料はマナで用意して、最初は購入したレシピ本に従って手順を学び、後はオリジナルで色々創意工夫をして腕を磨いている。料理だけは魔法で手抜きってことにならないらしい。
ブルーベリーはルイスの温室栽培されたもの。定番のブルーベリーは大粒で美味しい。カフェオレと一緒に美味しく頂く。向かいの席で綺麗な所作で飲食するクリストフはザ・王子様。(実際元王子様なんだけど)
正直なところ、三人の夫君達はさすが兄弟だけあって、よく似ている。骨格も瞳の色も違うし、声も違うんだけど…… 似ている。銀髪も…… 王家血筋によるものだというのは、今回『浄化』作業で魔法士団や聖騎士団の団員達との接触で気がついた。
とはいえ、黒や茶色っていう人もいなくて、なんていうか、パステルカラー?赤とか緑とか青とか…… アニメカラーっていうのかそういう感じの世界観なのだ。紫とかオレンジとかもいたりする。若者だけではなく、明らかに年配かなあって思う厳ついおじさまが髪の毛が紫だったりする。その絵面はなかなかだ。まあ兎に角あまりのカラフルさに驚いてしまったのも事実。
そんな中、夫達の美しさは群を抜いていた。見た目だけで見れば、クリストフは傾国の美青年といってもいいくらいだ。レオンハルトやルイスほど身長も高くない。骨格も二人に比べると若干華奢。元宰相だけあってインテリジェンスぽさは抜けていない。
なんていうか、三人の夫君の中でというより、おそらく自分が出会った人の中で一番好みの外見だったりする。微妙な華奢さ…… 性格はともかく…… あくまで観賞用的側面だけど……
…… こんな綺麗な人間がいるなんて…… 営みの後、間近でクリストフの寝顔を見るたび、美しさにドキドキしてしまうのだ。この外見と「夜の帝王」のクリストフはなかなか結びつかない。
「どうしましたか?」
まじまじ見過ぎていたのが気になったのか声をかけてくる。
「ん~~~、クリスって本当に綺麗だね」
「…… ハルカ?」
「本当に綺麗」
「…… 貴女の方が美しいですよ」
いやいや、それはないわ…… 思わず空笑い。
「あっ……」
何かに気づいたように妖艶な笑みを浮かべるクリストフ。
「…… お誘いですね、ハルカ」
花が綻ぶかのような美しい笑みを浮かべ、クリストフは満足げに私に向けてそう言うと、あっという間にテーブルの上の食器が片付けられ、洗浄魔法で洗いものを済ませると、クリストフはさっと私をお姫様抱っこをすると自分の部屋へとスタスタと移動する。