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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
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第6話『忌』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所】


<AM02:21>


 極寒と吹雪に覆われた人が住めない死の星……そう聞いていたアークだったが、その雰囲気は思っていたものとは違った。その日は白夜のおかげで深夜にも関わらず明るく、吹雪も落ち着いていたのだ。静かでまっさらな景色の中にある重力が崩壊した箇所では渦を巻くように氷が宙を舞っている。その幻想的な光景は正に科学の及ばない異世界のような雰囲気を醸し出していた。


「実際の肉眼で見れないのは少し同情するよ」


隣で爆薬の最終チェックに入っていたエルディンがそう告げる。折角の彼の美形もCSを身に纏えば見えなくなることの方が同情すべき点であると思いながらアークはBEの中でほくそ笑んだ。


「可愛いお姉さんのパンチラならともかく、たかだか風景でそうなるかい」


「君の事は親友の一人と思っているが、この美的価値観の違いは埋まりそうにないね」


「俺はエル吉が女の子だったらとつくづく思うよ。きっとベストカップルだったぜ俺たち?」


「互いに同性愛の感情が無いのが悔やまれるね」


エルディンの苦笑にも近い鼻を鳴らす音が響くと、彼らの前で研究所の扉を開く作業に当たるメアリーを見守っていたリオがBEを纏った状態で振り返った。


「うっさい。もうちょい緊張感持ちなさいよね。メッちゃんどう?」


リオはそのまま元の体制に戻ると、メアリーはキーボードを叩きながら答えた。


「もうちょイ。……ほレ!」


メアリーがそう告げると同時に閉ざされていたデセンブル研究尾の扉がゆっくりと開いていく。それと同時に長年吹雪に晒されていたおかげで纏わり付いていた氷が、バリバリと音を立てて剥がれ落ちていった。

 まるで巨大迷宮へと繋がるような大きな扉は、明らかに運搬用の宇宙船が入るサイズだった。それを見越していたアークたちは入星に使用した船に向かって合図を送った。


「ミヤさーん! 入っちゃってー」


『はいは~い』


色っぽい声がアークの耳に届く。それと同時に操縦席に待機していたミヤビが船を操作して、ようやくアークたちは研究所の中に潜入した。


 再び扉が閉ざされると同時にメアリーが機器を操作すると、宇宙船のライトのみで照らされていた研究所内に明かりが灯った。


「よし! さすがメッちゃん!」


BEを脱いでいたリオはホッとしたようにそう言ってメアリーの背中を叩くと、CSのヘルメットを収納していたメアリーは小さく息をつくとボキボキと首を回した。


「いんヤ。こげん年月経っちょるんに電源生きちょる方が不思議なくらいじゃワ」


「これだけ大きな研究所だ。それくらいの対策はしていたんだろう」


同じくメアリーを見守っていたエルディンがそう告げるがメアリーは首を傾げた。


「ばってン、ここが使われんくなったんは十年以上前じゃロ? それにしては送電が上手くいきすぎな気がするんヨ」


「整備されてたって事? ということはここに誰かが……」


「こ、怖いこと言わないでよ! 俺、オバケとニブロの実だけは苦手なんだから! ねぇ?ミヤさん?」


含みを持たせたリオの言葉にアークは体を強張らせながら振り返る。しかしそこにミヤビの姿は無かった。


「あれ? ミヤさーん? どこ行ったー?」


「ちょっと、こんな所で一人にするのはメガ危険だよ? ミヤビさーん?」


アークとリオは思わず首を振りながら周囲を見回す。そんな二人を他所にエルディンは爆薬の入ったバックを肩に背負うと、まるで何の心配もしていない様子で口を開いた。


「ミヤビなら一人でも問題ないだろう。戦闘能力は無いが、上手く機転を利かせて生き延びるさ。兵器開発と面倒事の回避は一級品だからね」


「いやいや、だからこういうのってもっと連携して」


「まぁまぁリッちょン。こうなったら仕方なかヨ。こっちも先に仕事に入るばイ」


心配する素振りを見せずに準備を始める二人同様にアークも頷きながらリオの肩を叩いた。


「そーね。とりあえず俺とリオはオリジナルフレームってやつの捜索に入ろーや。薄暗い中を二人っきりで……ムヒヒ!」


「……」


ジト目を向けて来るリオは手首のスイッチを押してダボダボのツナギを身体にフィットさせると、早々に自分のBEの方へと歩いて行ってしまった。


「あれ? ちょっと? リオさーん?」


「この広さだからBEで捜索に入りまーす」


「な、何で!? 何もしないって!」


「じゃあBEでいーじゃん。ほら、アンタもさっさとBE着て行くよ」


先に歩を進めていくリオを見送るアークを尻目にエルディンとメアリーも動き出した。


「じゃ、僕も準備に入るよ」


「ウチもデータベース室に入ったら通信信号送るかラ、みんなその波長で通信ばイ」


「あれ? 不満あんの俺だけ?」


仕事に取り掛かる三人を見て、アークは大きなため息をつくと、渋々再びBEを身に纏った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



<AM02:48>


 無機質な壁、異様なまでに平面な床、そして様々な機材が通るための大きな造り。その何もかもにミヤビは懐かしさを感じずにはいられなかった。


「(ここに居たのは六歳までだから……二十三年ぶりか……)」


彼女の身体が震えるのは寒さの為だけではなかった。少しの懐かしさと同時にここを出るきっかけとなった事件を思い出したのだ。

 ミヤビは起動していないエレベーターを使わずに階段を下り切り、とある扉の前に立った。扉の横に設置されている入力板に頭の中に残っているパスワードを打ち込んだ。


「(……aa48ty85vhwHF4nfiltehavzwiehtrhhvjdsbvno49y8t4rhfpqh839g9hgwir)」


頭の中に残っていたパスワードに間違いはなかったらしく、閉ざされていた扉がゆっくりと開き始めた。

 扉の先にあったのは広い開発室だった。設備の施設はすでに旧式の物だが、彼女にとってそんなことはどうでもいい。ミヤビにとって大切なのは製作途中として鎮座している様々な兵器だった。


「……あった……あったぁ~!」


ミヤビは思わず子供のような声をあげて複数の兵器に目を輝かせる。そして設備機器を操作しながら搬出の準備を始めた。


「大丈夫。操作機も生きてる! もうこんな所じゃ完成もさせられないし……大丈夫! 私が持ち帰って完成させてあげるからね~」


まるで迷子の我が子を見つけたような猫撫で声でミヤビはルンルンと操作にあたった。

 そんな彼女の身体の振動と同時に大きな胸の谷間に入れていた端末が震え出し、ミヤビはポケットからインカムを取り出して耳に装着した。


「はい~?」


『ア、ミヤちゃン? 急に居らんくなってビックリしたばイ』


「ごめんごめーん。実はちょっと気になる物があるのよ~そっちを見つけてからアッ君やリッちゃんと合流するわ~」


『ミヤビさん。そういうのは先に言っておいてくれなきゃ』


「ごめんね~リッちゃん。あ、でもアッ君と二人っきりじゃん! 押し倒しちゃえ! 私が許す!」


『あ、やっぱりそう思う?』


『このギガボケが本気にするからやめて』


頭を抱えるリオの顔を思い浮かべながらミヤビは小さく微笑む。

 そんななごやか空気を一変するかのようにエルディンの声が耳に届いた。


『面倒なことになったよ』


『エル君? 今外だよね? どうしたの?』


『迷彩機能で姿を隠しているが熱源反応だ。恐らくローズマリー共和国の戦艦だろう』


『ローズマリーってあの女の子だらけの楽園? 何で? まさか種馬として俺を攫いに!?』


『入星した別反応があったらしいけんネ。そいの一つじゃロ。リッちょんどぎゃんすル?』


今回の任務に限らず、現場での指揮官は監査役であるリオに一任されている。そんな彼女はすぐに状況を把握するために全員に確認を始めた。


『メーちゃん、情報コピーと削除はあとどれくらい?』


『まだ始めたばっかりじゃけン。一時間は掛かるばイ』


『エル君は?』


『状況を踏まえてパターンを変える必要があるな。同じく一時間ほど掛かるだろう』


『ミヤビさんは?』


「私はそんなに掛からないわ~」


一緒に行動しているアーク以外の反応を聞いたリオは一瞬の黙考の後にすぐさま次の行動の指示を出し始めた。


『メーちゃんとエル君はそのまま作業を続けて。ミヤビさんは何やってるのか知らないけど、それが終わったら脱出準備、あと余裕があればオリジナルフレームの場所を見つけて』


『あれ? 俺は?』


通信越しに聞こえるアークの問いにリオは変わらない冷静な声で続けた。


『アンタはこのままオリジナルフレームの捜索を続けて。私は外に出て迎撃する。みんな動いて!』


『ん、分かった』


『了解だ』


『OKばイ』


彼女の指示にそれぞれが返答する。リオの的確な指示にミヤビは感心しながら「はーい」と返事をすると通信が一時途切れた。

 ミヤビは改めて搬出作業をオートモードにして進めると、脱出準備の前にオリジナルフレームの場所を研究所内地図の確認しながら監視映像を映し出した。


「(確かオリジナルフレームは三着あったはずよね~)」


ミヤビはそう考えながらすぐさまオリジナルフレームの場所を見つけ出す。そこに映った映像を見て彼女は眉を顰めた。監視映像には何故かBEの影が二つしか映っていなかったのだ。


「……あれ? 二着だけ? ……これって」


この星から脱出する瞬間を彼女は思い出す。オリジナルフレームと呼ばれるBEの一つに助けられながら逃げる際に映った光る巨大な球体……その光景と同時にミヤビは思わず遥か上空の人工衛星インドラにいるであろうカンムとレオナルドの顔を思い出した。

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