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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月21日>
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第5話『有害惑星の夜』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 バルトルク研究所跡地】


<PM23:44>


 海陽系からもっとも離れたヴェーエス星は極寒の星である。長い年月をかけて各惑星を人が住める環境に整えてきたが、太古の時代からこのヴェーエス星と有害の大気に包まれるスコルヴィー星は全種族共通の星には出来なかったのだ。

 その星にかつてバルトルク研究所というヴェーエス星でも二番目の規模を持つ研究所があった。しかし、その星はかつてのヤシマタイトの暴走事故によって消滅し、その事故によってこの星は長い年月に渡って立ち入る事さえできないしの星になっていたのだ。


「故郷は麗し思い出の~♪ 錦を飾って戻る場所~♪」


海陽系全土にわたって知られる卒業の民謡を歌う男は、()()()()()のBEを纏いながら、事故によって作られた大きなクレーターを見下ろしていた。地軸の傾きにより白夜を迎えているため周囲は明るく、その日はやけにクレーターの奥底が見えていたのかもしれない。


「クジャ・ホワイト隊長! 準備整いました!」


規律の整った声に歌を歌っていたクジャはゆっくりと振り返る。CSに身を纏ったフマーオス星の兵士に対してクジャはBEとは思えないようなフラフラとした足取りで歩み寄った。


「ん~? なぁんでCSなのかな~?」


「はっ! 自分は神通力がなく、BEは装着が」


――バシュッ


兵士の言葉は途切れその体が崩れ落ちる。左腕のブラスター銃で兵士の胸を貫いたクジャは再びクレーターを見下ろしながら先ほどまで口ずさんでいた歌詞を変えながら歌い始めた。


「王様は無知な人間の~♪ 髑髏を飾って墓参り~♪ フェフェフェ! 上手いねぇこれが!」


クジャは不気味な笑みを続ける。すると銃声を聞きつけたのかBEエネルゲイアを纏った別の兵士が駆け付けた。


「た、隊長! こ、これは」


「あぁ~キミ。キミは何て名前だったかなぁ?」


BEを纏っている以上、この極寒の寒さを感じることは無い。兵士は死体を前にしても平然とするクジャへの恐怖心から纏ったそのBEを震わせながら答えた。


「ユ、ユージン・グラスゴー大尉であります!」


「んふぅ~ユージン君。そろそろデセンブル研究所に向かおうかぁ~? 全員にそう伝えてくれるかなぁ~?」


「は、ははっ! 承知いたしました!」


逃げるように去っていくユージンを見送ると、クジャは再びクレーターを見下ろした。

 底が見えないほどに深いクレータの底を見下ろしながらクジャは自身が開発したBE……通称ツギハギの中でニヤリと笑う。そして徐に巨大な右腕をクレーターに向けると、超電磁砲を放った!

凄まじい轟音と閃光が辺りに響き渡る。深い底に達するまでに時間が掛ったが、やがて超電磁砲の爆散する光がクレーターの奥で小さく光った。


「手向けだぁよぉ~ミヤビちゃ~ん」


クジャはそう告げるとようやくクレーターに背を向ける。それと同時に迷彩機能で透明になっていた戦艦が姿を現した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【星間連合帝国 ヴェーエス星 旧エルディラン大陸上空 戦艦アンナマリー号】


<PM23:48>


 外の吹雪を見つめながらローズマリー共和国元EEA工作員であるミランダ・ハリトーノフは、戦艦の中からその暴風を眺めていた。


「航行に支障はないかしら?」


「はっ! 問題ありません! しかしこのような入星ルートがあったとは……」


「その点は感謝するわ。レイラ・コックス」


ミランダは背後に立つ美女に微笑みかける。するとレイラは小さく会釈してから口を開いた。


「いえ、このような事造作もありません」


「一つ聞きたいことがあったのだけどいいかしら?」


「何なりと」


レイラは大人しく頭を下げ続けるが、頭頂部からはミランダの冷たい視線を感じていた。


「貴女は昨年までフマーオス星宙域の諜報が担当だったわね? それがラヴァナロス宙域担当になったと聞いている。一体何故かしら?」


彼女の言葉にレイラは僅かに体を強張らせた。

 一年前……彼女はフマーオス星宙域の諜報活動を行っていた。その最後の年、彼女はフマーオス星の成層圏で怪しげな遊覧飛行を行うパーティに潜入していた。そこでフマーオス星の要人が会合を開いているという情報があったからだ。しかし、その遊覧飛行は富裕層が性を楽しむいわば仮面パーティだった。如何に任務とはいえ、そのような遊覧船に乗り込んでいたことが性交を忌み嫌うローズマリー共和国においてご法度だったのだ。


「私があの潜入任務で別の形での諜報員になったと思われているかもしれませんが……天地に誓ってそのような行為は行っておりません」


「そうね。私は貴女を信用するつもりよ。今までも、これからもね」


ミランダはそう言ってレイラの頬をそっと撫でる。

 それは明らかな彼女からの誘いに他ならなかったがレイラは拒絶するように一歩後ずさりしてから顔をあげた。


「はっ。その信用に応えられるように、これからも邁進いたします。では私はこれより準備に入りますので……」


レイラはそう言って逃げるようにブリッジを後にした。

 通路を歩きながらレイラは無意識の中で頬を拭うように手で擦うと、思わずそっと自らの唇に触れる。妙な噂を立てられたあの潜入任務……あの場で彼女は自らの貞操は守り切った。……しかし、あの時に交わした美青年との口づけを彼女は未だ忘れられずにいたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【星間連合帝国 ヴェーエス星宙域 ヴェーエス星監視人工衛星インドラ 控室】


<PM23:59>


 青天の霹靂とも思しき光景がそこに広がっていた。二次元ディスプレイを睨みつけながら何かを調べるメアリーの隣で同じくアークも真剣な眼差しでディスプレイを眺めていたのだ。やがてメアリーは何かを終えると「フーッ!」と一息ついてから天を仰いだ。


「終わったの? どうだった?」


アークは休ませる様子も見せずにそう尋ねると、メアリーは六本に分かれていた両腕を元の状態に戻してからタバコに火を点けた。


「ン、ヤシマタイトじゃネ。間違いないワ」


その言葉にアークは「ぃよしっ!」と小さくガッツポーズを見せると、まるでくじが当たった子供のように小さく飛び上がって見せた。

 そんな彼に対してメアリーは煙を吐き出すと、憐みが入り混じった苦笑をアークに向けながら口を開いた。


「アッちょン? 喜んどるところ悪いけド、こい値打ち無いけんネ」


「え?」


引き攣った笑みで振り返るアークに対して、メアリーは彼から調べるように頼まれた赤い小さな石を分析ボックスから取り出すと、アークに向かって放り投げる。するとアークはしっかりと石を受け取りながら口を開いた。


「え? な、何で? だってヤシマタイトなんでしょ? めちゃくちゃ高く売れんじゃん!」


「ヤシマタイトなんは間違いないヨ? ばってン、そい色付きのヤシマタイトじャ。特殊な波長当てればどデカいエネルギーば出て来るんは無色透明じゃけン。色付きは珍しいけド、その辺の石ころと価値は変わらんばイ。大体、もしそうじゃったら今頃アッちょんの身体ば粒子分解されとるじゃろうネ」


「んだよそれぇ」


アークは気が抜けたように椅子に座り込むと二人がいた控室の扉が開いた。


「やぁ。今到着したよ」


「おかえりエっちょン」


部屋に入ってきたエルディンを見てメアリーはタバコの煙を再び吐き出す。するとエルディンは彼女に歩み寄ると、メアリーが咥えるタバコを取り上げて吸い始めた。


「ここに来るまで禁煙席しかなくてね。ようやく人心地が付いたよ」


「有給日に仕事入るなんて災難じゃったネ」


「いいさ。どうせ大したこともしていないからね」


「アイゴティヤで何してたの?」


赤いヤシマタイトを小型ボックスに収めてから懐にしまうアークはエルディンに尋ねる。彼は再びタバコを咥えながら肩を竦めた。


「向こうにいる女の子が寂しがりでね。君も付き合うならサッパリした女の子にするといいよ。まぁ当分予定はないだろうがね」


「まっ! 嫌味な人!」


ハンカチを噛みしめるような素振りで悔しさを滲ませるアークを他所にエルディンは椅子に腰を下ろすと、再び扉が開いた。


「あ、エル君。おかえりなさい」


「ただいまリオちゃん。ボスとミヤビも」


入ってきたリオとカンム、ミヤビにエルディンは笑顔を向けると、カンムは小さく頷いてから全員が見える場所に立って口を開いた。


「早速だが、今回の仕事についてはもう聞いているな?」


そう告げるとメアリーはエルディンに取られたタバコの代わりに新たなタバコに火を点けながら答えた。


「うン、ウチば研究所内のデータ削除じゃロ?」


「僕はその研究所を確実に破壊するよう爆破するんだったね」


メアリーに続いてエルディンが答えると、次にリオが答えた。


「で、私とアークは研究所内にあるっていうBEのオリジナルフレームの確保でしたね」


それぞれの言葉にカンムは小さく頷くと、アークとリオの方に視線を投げながら言葉を続けた。


「エルディン、お前はデセンブル研究所に降下後に四人が研究所内に入ったらすぐに作業に当たれ」


「了解した。……待ってくれボス。四人?」


エルディンが眉を顰めると、それまで黙っていたミヤビが相変わらず露出の多い格好で口を開いた。


「今回は私も行くからね~研究所内の事はそれなりに分かるし、中にちょっと欲しいデータがあるから」


「何でミヤ姉が研究所内の事知っちょるン?」


メアリーが尋ねると、ミヤビは事も無げにあっさりと答えた。


「私はここで生まれたからね~そしてここで運命の人と出会ったの。ね?」


ミヤビはそう言ってカンムの腕に抱き着く。胸を押し当てられながらも全くいつもと変わらないカンムはそのままアークの方に視線を向けた。


「アーク。オリジナルフレームに関してだが、中で起動実験をしてみたい。その時はお前が着用しろ」


「え? 俺? 何で? リオでもいーじゃん」


「オリジナルフレームとはいえ無暗に動かすのは危険だ。そんな事をリオにさせるつもりか?」


「もうちょい俺の心配せんかい」


ジト目を向けるアークに対してもカンムは小さく苦笑するだけで話しを続けた。


「起動する様子が無かったらそのままいつものデュナメスでコンテナに格納して運び出せ」


「はいはーい」


アークが適当に返事をするとカンムはようやく小さく口角を上げる。するとそれまで座っていたメアリー達もゆっくりと立ち上がった。


「既に別箇所から帝国管轄ではない船が降下しているという情報もある。だが、連中はそれぞれ目標の研究所よりかなり離れた場所に降下しているはずだ。厄介ごとにならないようにするためにも仕事は早めにな」


カンムの言葉にメアリー達は無言で頷く。


こうして彼らの長い一日が始まった。

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