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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月24日>
34/35

第32話『解呪』

【星間連合帝国 帝星ラヴァナロス 帝国立マケルセン総合病院 特別個室】


<13:50>


 身体も重くて腰が痛い。だがそれ以上に瞼が重い気がしてならなかった。しかし、人間の身体とはよく出来ているもので、目覚めと同時に瞼というのは開くものだ。その証拠にクレアはハッと目を見開き、それと同時に教育システムで見た動物や虹がデフォルメされたホログラムイラストが彼女の視線に飛び込んできた。


「ん……んん?」


宙に舞うイラストが天井に映し出されていると気付いたクレアは思わず戸惑う。起き上がろうにも起きれない。それは寝起きの気怠さではなく、物理的に身体が拘束されていたからだった。

 藻掻くように身体を揺らすと左腕に小さな痛みが走る。何やら管が繋がっている事を見たクレアは思わず狼狽した。研究所内で見た教材データの中に毒薬を管で送る殺人方法があったのを思い出したのだ。


「あぅ、し、死んじゃう!」


にじり寄ってくるしという恐怖から逃れるためにクレアはまるで釣りあがった魚のように身体をジタバタさせていると、彼女が存在にする気付いていたかった自動扉が開いた。


「あら~? 眠り姫のお目覚めね~?」


中に入って来た女性の特徴的な間延びした声……ではなくクレアは思わず女性の身体に視線が飛んだ。その女性が持つ()()()()()はリオを超えるものだったからだ。

 女性は優しい微笑みのまま近寄ってくると「キツくなかった~?」と言いながらクレアを拘束していた器具をガチャガチャと取り始める。身体に自由が戻るとクレアはゆっくり上体を起こそうとするが身体が思いの外うまく動かなかった。やはり妙な薬を投薬されたのかと不安になるクレアをよそに女性は壁の方に歩いて行くと、壁に嵌めこまれている機器を操作した。


「あわぅ!」


クレアは思わず声を上げる。女性の捜査と同時に壁の上面が透明になると、人を乗せた移動機械が規律正しく動き回り、遠くには巨大な樹木がそそり立つ世界が広がっていたのだ。


「ここはラヴァナロスっていう星よ~。クゥちゃん知ってる~?」


「あ、え? ラヴァナロス……あのラヴァナロスですか!? いつの間に来たんですか!? あの動き回ってる機械はもしかしてエアカーですか!? 遠くに見えるでっかい樹は何ですか!? クゥちゃんって何ですか!? それと……貴女は誰ですか?」


矢継ぎ早に声を上げるクレアにミヤビは口元を隠してクスクスと笑う。その仕草は上品であり妖艶にクレアの目に映っていた。

 女性は再び歩み寄ってくると、クレアのベッドの足元に腰を下ろした。


「私の名前は~ミヤビ・ブラックよ~貴女のお姉ちゃんやお兄ちゃんの保護者ってとこね~つまり~クゥちゃんのママっていうことかしら~?」


「クゥちゃんって……私の事ですか? 私の名前はクレアです」


「知ってるわよ~だから呼び名はクゥちゃんね~」


「呼び名……もしかして渾名というやつですね!」


クレアは虹色の瞳を輝かせると思わずゾッとした。ミヤビは美しく柔和な笑みを保ちながらもどこか笑っていないような眼をしているように見えたからだ。

 ミヤビはそっと手を差し出すと同時にクレアの頭に手を置いてくる。そして何か思い出すように目を閉じると、先程とは打って変わって優しい瞳を見せてきた。


「そうね~とりあえずクゥちゃんが起きたら聞くことがあったのよ~」


「はい、ミヤビさん」


クレアは礼儀正しくそう返事をすると、ミヤビは口を窄めながら人差し指を左右に振って舌を鳴らした。


「ダメよぉ~? 私はクゥちゃんのママなんだから~そんな他人みたいな呼び方しちゃ~」


「なるほど……学ぶことがメガ多いですね。分かりましたママ」


クレアの返答にミヤビは微笑みを保ったまま話を戻した。


「クゥちゃんはね~ヴェーエス星で眠ってから三日間も起きなかったのよ~。それで~私たちがここまで運んで~ここに居るっていうわけ~」


「三日も? メガ寝すぎですね……怠惰の極みです」


「それはいいのよ~それでクゥちゃんに聞きたいことがあってね~? クゥちゃんはあの研究所でどうやって生まれたか覚えている~?」


妙な事を聞くとクレアは思った。自分の生まれた時の事など覚えているはずもないからだ。もしくは普通の人間は誕生した瞬間の事を覚えているのだろうか? と心の中で思いながらも、クレアは腕を組んで首を傾げながら記憶に残っている過去を思い返した。


「物心がついた時から同じことをしていたので……必然的に音声で服を着る事や食事をすることを覚えていって」


「人に会ったことは一度も~?」


「お姉ちゃんとお兄ちゃんが初めてです。それから毎日同じことを繰り返していました」


「……そう~」


ミヤビはそう言ってから何か確信したように再び微笑む。

 彼女は徐に立ち上がると、大きく背伸びを始めた。おかげで大きな胸がより大きく見え、クレアは思わず彼女の胸囲とぷっくりした臀部を見て美しいと思った。


「んふふ~そんなに見ちゃって~アッ君の影響かしら~?」


「アッ君……ああ、お兄ちゃんですね。私は美しいものを美しいと思う心はありますがあそこまで変態性は持ち合わせていません」


「辛辣ね~まぁいいわ~それでねもう一つ確認……というかクゥちゃんに決めてほしい事があるのよ~」


「決める? 決めるって何ですか? あ、待ってください! ん~……決断するという事ですか?」


「正解~」


大きな胸の前で小さく手を叩くミヤビにクレアは得意気に胸を張る。しかしすぐに我に返るとミヤビに問いかけた。


「私が決断するんですか? 一体何を?」


「単純な話よ~これからどうするかという事~クゥちゃんには難しいかもしれないけど~貴女はこの国の中でもトップクラスに謎で重要な存在なのよねぇ~だから~この星の王様の下で何不自由なく暮らすことが出来るわぁ~ほぉら~!」


ミヤビはそう言って胸の谷間から取り出した端末を起動させると、穏やかで豪華な施設が整った生活環境が映る二次元ディスプレイを浮かび上がらせる。その情報を虹色の瞳で見ていたクレアは「おぉ」と呟いた瞬間に二次元ディスプレイが消え去った。


「でもそれが嫌ならね~? 私やアナタのお姉ちゃんと一緒に暮らすことも出来るわぁ~。ただし~変態のお兄ちゃんと~皮肉屋のお兄ちゃんと~大食いのお姉ちゃんも付いてくるけどね~? あ、でもとぉっても素敵な……」


そう言いかけてミヤビは両手で自らの頬を覆う。

 顔を赤くして身体をクネクネさせると、ミヤビは少し恥ずかしそうに告げた。


「……パパもいるわよ~?」


「パパ?」


「そうよ~? 逞しくて寡黙で優しくてつよーいパパよ~?」


「ママはパパがギガ好きなんですね」


「ギガじゃないわ~! テラかエクサよ~……って言わせないで~! キャ~!」


顔を覆って身体を振るミヤビを見てクレアは確信した。きっとミヤビとパパと称される人はアークとリオのような関係なのだろう。悶えるミヤビをよそにクレアは窓の外に広がる壮大な光景を見た。

 この世界はまだまだ自分が知らない事が多い。ただ、それを学ぶには今の自分であればきっとどこでも構わないのだろう。となればどのような生活が送れるかが大切なのだ。


「ママ」


「ん? なぁに~?」


「私、お姉ちゃんやお兄ちゃん、ママと一緒に暮らしたいです」


その返答にミヤビは染めていた頬を通常通りに戻すと、相変わらず妖艶で優しい笑みで再びベッドに腰を下ろした。


「本当にいいのね~? さっきも見せたけど~こっちの環境はすごく快適よ~?」


「はい。同世代のガキなんかよりもお姉ちゃんと一緒の方がギガ楽しそうです」


ミヤビの言葉にクレアは考える素振りも見せずに答えた。

 クレアの虹色の瞳をじっと見ていたミヤビはニコリと微笑むと、扉の方に振り返って口を開いた。


「ですって~」


彼女の言葉と同時に扉が開くと、クレアは「いっ!」と小さく声を上げる。しかしその声がかき消される勢いでリオが飛び込んでくると、彼女のギュッと抱きしめてきた!


「クレア~! 良かった! 本当に体は大丈夫だよね? どこも怪我してない?」


「君より優秀な医師が問題ないと言っているんだから大丈夫だよ」


「本人しか分からない事があんでしょ?」


クレアからゆっくりと離れたリオは後ろからゆっくりと着いてきた美青年にそう告げると、彼は小さく肩を竦めながら誰もを魅了するような微笑みで手を差し出して来た。


「はじめまして。僕はエルディンだ。そうだな……エル兄様とでも呼んでくれると嬉しい」


差し出された手をクレアはそっと握ると、彼は優しくその手にキスをしてくる。その光景を見たリオは「やめんか!」と告げるが、エルディンと同じくリオの後ろからついてきたもう一人の少女が彼女をの両脇に手を入れて「まぁまァ」と諫めていた。

 微笑むエルディンを見ながらクレアは少しドキドキしながらも思わず本音が口からこぼれ出た。


「エル兄様……貴方は……ギガ女たらしっぽいです!」


「ほう。一般常識に欠けると言うが難しい言葉を知っているね。だが、僕は誑し込まないよ。相手が勝手に好意を持ってくれるだけさ」


「こがん歳の子まで口説かんでええじゃロ」


そう告げる少女は何とか落ち着いたリオから離れると、エルディン同様に手を差し出して来た。


「ウチはメアリーじャ。そうじゃネ……ウチの事はメー姉ちゅうてもらおカ?」


「メー姉……はい、よろしくおねが、えぃ!?」


クレアは思わず声を上げる! たった今握りしめたメアリーの腕が急に重くなり、ベッドの上にポロリと落ちたからだ! あまりにも想像できない展開にクレアは口をパクパクさせながら「あばばば!」と声に出していると、メアリーは急にゲラゲラと笑い出した。


「キャハハハ! なんちゅーいいリアクションじャ! こりゃ揶揄いがいがあるばイ!」


メアリーはそう言って落ちた右腕を左手で拾い上げると、ワンタッチで装着しなおした。


「ぎ、義手という奴ですか?」


「そうじャ。右腕だけじゃのうテ、左腕も両足もじゃけン。今度お風呂場でつなぎ目ば見せちゃげル」


「実に教育上よろしくなさそうだな」


「そうだよ。クレアに変な事教えないでよね」


エルディンとリオのツッコミにメアリーはケラケラと笑う。

 三人の姿を見てクレアはどこかホッとした気分になった。彼女の直感的に彼らは善人とは言い難いが、決して悪人ではないという事が理解できたからだ。そんな面々と暮らせるならばと考えれば、僅かな不安もゆっくりと消え去っていくように感じた。しかし、彼女の中には一つ疑問があった。もう一人が足りないと感じたのだ。


「お姉ちゃん、あの、お兄ちゃんは?」


クレアの問いにリオは少し訝しげな表情を浮かべて口を開いた。


「アイツは仕事がギリギリまで終わんなくてそのまま帰るって。晩御飯ちゃんと用意してくれてんのかな?」


「多少の時間はある。ただ、この前のような料理はゴメン被るがね」


「みんな食わず嫌いじャ。あん料理ばまぁまぁ美味いけんネ」


「ネーミングが良くないのよね~。さ、マイドータークレアちゃんが目覚めたことだし、そろそろ帰りましょうか?」


クレアには内容が分からず、終わりそうにない会話を止めるかのようにミヤビがそう告げると、リオが改めてクレアの頭を包み込むように撫でてきた。


「これから戸籍上の名前はクレア・フェスタね。本当に私の妹ってことだから」


「クレア・フェスタ……それが私の名前ですね」


「そう。さ、今日は家でゆっくりして明日はみんなで日用品買いに行こうね!」


そう告げるリオ、そしてミヤビ、エルディン、メアリーは優しく微笑んでいる。彼らと暮らしていくことに今のクレアに不安はない。しかしその前に聞いておくべきことが彼女にはあった。


「あの、お姉ちゃん」


「なぁに?」


「日用品って、何ですか?」

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