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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月23日>
32/35

第30話『秘密の話』

【神栄教民主共和国 ジュラヴァナ星 マリンフォール大聖堂】


<13:57>


 ホログラム越しながら、フマーオスの将軍であるベアトリス・ファインズは女性とは思えない程の巨体だとコウサは感じていた。元来よりスコルヴィー星人とは大柄というのは周知の事ではあったが、それを差し引いても彼女の身体は大きかったのだ。そんなベアトリスは礼節を持ち合わせた礼節な口調で報告を続けていた。


『故に、我がフマーオス軍の損傷を踏まえていただき、しばしは休戦状態に持ち込むべきと考えます。再起となるは恐らく四年は掛かるかと』


ベアトリスはホログラムながらもその視線は明らかにコウサを捉えている。しかし、彼女の回答に応えたのは、枢機卿であるメルティ・ラフロレインとザイアン隊隊長であるアンディ・ラフロレインの姉弟だった。


「よう分かりましたわ。ただ一つ不満がありますなぁ」


『こちらは教皇様がお受けしてるちゅうのに、そちらは星王様がお顔を見せなはどないなこっとすか?』


出来ない人間であればここで詫びの言葉をまず述べるだろう。しかし、二人の言葉にベアトリスは毅然とした態度で応じた。


『星内においてヤシマタイトの流入問題が起きています。そちらは直近で国民に関わる問題という事もあり、そちらの対応に当たらせていただいています。決して神栄教民主共和国をないがしろにしたという事はございません。後日、改めて星王様とティリオン丞相の連名でご挨拶をさせていただけるかと』


「そうどすか。ほなそちらを待たしていただきまひょ」


「もうええ」


コウサはくだらない国家間の見栄の張り合いに辟易しながらそう告げる。そしてベアトリスの方に向かって微笑みかけた。


「星王はんの意見は分かった。こちらも悪いようにはしいひんとお伝えしなはれ」


『お心遣いありがとうございます。では』


ホログラムから巨躯な赤い肌が消えていく。コウサは大きく溜息をつくと、背もたれに身体を預けながらコップを手にして水を飲んだ。

 ゆっくりと目を閉じて思考を巡らせる……コウサの頭の中にランジョウとトーマスの思考を入れ込み、自分が彼等ならば何を考えているかを考察した。僅か十数秒の間に彼は再び目を開けると、コウサの言葉を待っていたであろうメルティとアンディの方に視線を向けた。


「何か手に入れおったな」


『何か……とは?』


アンディは怪訝な表情を浮かべる。

 彼にはデセンブル研究所に残されているであろう懸念すべき情報には候補が二つあった。しかし、その一つを身内である彼らに言うのは危険だった。その話をすれば彼らは今の神栄教の戦力でも帝国に総攻撃を仕掛けると言い出しかねないものだったからだ。しかし、既に答えを待つメルティやアンディに対して話を逸らす意味もかねてもう一つの候補に持っていくように話を進めた。


「研究所にありそうなもんや。オリジナルフレームを持ち帰れたなら隠す必要があらへん。となったら知られたらめんどい物や」


「そんなんは、あの研究所に沢山ありそうどすけど」


「ちゃうね。その中でもとびっきりの奴や。大方、粒子分解弾ってとこやろうな」


コウサが発した単語に一同は目を見張る。彼の言葉に初めて反するかのようにメルティは戸惑いの声を上げた。


「待っとぉくれやす。そら帝国法によって破棄されたものどすなぁ?」


『そうどす。あないな事件があったのに皇帝が残すとも思えしまへん』


メルティに続いてホログラムのアンディもまた同様に告げる。

 二人の意見はもっともだった。その反応を見てコウサもまたニヤリと笑いながら答えた。


「ま、そうやな。今は考えたとしてもしゃーないやろ。アンディ、ウチの戦力値としてはどんなもんや?」


『へぇ、今回の件にウチは噛んどりまへん。以前報告させてもろうた通りになります。フマーオスと組んだ場合の総戦力を十とするなら、帝国側の総戦力は四十ほどでっしゃろう』


「そらそうやろな……しゃーない。ウチももうチョイ増強しよか。メルティ、反対するやろうけど、リョクレイとシャオロンをそろそろ本格的に育てるで」


「気は進ましまへんがそうも言うていられしまへんなあ」


不満気ながらも承諾するメルティに微笑みながらコウサは手を一度叩いた。


「ほな、話は以上や。アンディ、仕事が終わったらはよ帰ってきぃ」


『承知しました』


そう告げると同時にアンディのホログラムは消え去っていく。

 他の面々も立ち上がる中、コウサはふとメルティに呑み声を掛けた。


「メルティ」


「はい?」


他の面々がコウサに一礼して退出しきるのを見届けると、コウサはホバリングする椅子を回転させて彼女の方に身体を向けるとゆっくりと口を開いた。


「アンディは今、フマーオスの衛星に居るっちゅう話やったが……ホンマに居る場所を当てたろか?」


全てを見透かしたようにコウサはそう告げると、メルティは一瞬表情筋をピクリと動かす。その表情から彼女の意図を察したコウサは、メルティの回答を聞く前に再び口を開いた。


「下手なことはせんでええ。好きにやらしとき」


「その情愛をなんでシャオロンとリョクレイにも注いでくれへんのどすか?」


メルティの言葉にコウサは小さく鼻を鳴らす。彼女は大きく勘違いをしている。彼からすればすべての人間に対して持ち合わせる情愛は等価なのだ。

 コウサは立ち上がってまだまだ未熟な妻に歩み寄ると、彼女の頬をそっと撫でた。


「みーんな僕にとっては大事やで?」


「ほなもう一つ聞かせとぉくれやす。あの研究所にはほんまは何があるんどすか?」


人の感情ではなく、状況の推察という面では彼女は秀でている。そう思いながらコウサはメルティを横切りながら小さく告げた。


「僕らにとって許されへんもんや」


コウサはそれだけを告げて窓から外を見上げる。

 海陽第二惑星であるジュラヴァナ星は基本的に他の惑星と比べても気温は高い。しかしこの時、珍しく空から小さな雪が降り始めていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【星間連合帝国 衛星ジオルフ 某酒場】


<14:28>


 シルセプター城から衛星ジオルフまではすぐにたどり着いた。それもこれも直結のエレベーターがあるおかげだろう。エルディンはそう思いながら、肌寒い街の中を一人で歩いていた。簡単な書類も片付けられないアークを城に残すのは多少気が引けたが、今の彼にはリオという女性が付いている。その事実が彼にどこか余裕を齎していたのかもしれない。


「(メアリーもどこかに行くと言っていたが……ま、大方ご隠居にでも会うんだろう)」


エルディンはそう思いながら先ほど別の地区へと向かっていったメアリーの事を思い出しながら歩いて行く。やがて辿り着いた酒場に入ると、彼はカウンターの先でグラスを磨くマスターに声を掛けた。


「待ち合わせなんだが……」


「ああ、奥にいらっしゃいますよ」


マスターはそう言って片手を奥に差し出す。まだ昼の時間と考えれば当然かもしれないが、店内は閑散としていた。しかし珍しい事にカウンターの奥に女性が一人座っている。エルディンは声を掛けたい衝動を抑えながら再びマスターに声を掛けた。


「どうも、ああ、それとベーラを」


エルディンはそう言ってマスターから琥珀色の泡立つ酒を受け取ると、そのグラスを片手にカーテンで仕切られた小部屋の中に足を踏み入れた。


「やあエルディン君。久し振りだね」


青い肌とふくよかな体系をした壮年男性の微笑み、そして帽子を深々と被りながら仏頂面で腕を組み顔を隠した大柄な男に対してエルディンは輝くような美しい笑顔を見せた。


「お久しぶりですマウント社長。いや、昔のようにタクミおじさんと呼ばせていただきましょうか」


軍需産業の頂点に立つライオットインダストリー社……帝国専属の兵器製造を謳いながらフマーオスや神栄教にも武器を横流ししていたことで、今や帝国内で指名手配されているタクミ・マウントはそんな事など気に留める素振りも見せずに微笑んだ。

 タクミの笑顔を受け入れながらエルディンは彼の正面に腰を下ろすと隣に座る大柄な男も含めて二人に対して話し続けた。


「ご存じでしょうが、先日までインドラに居ましてね。そこに行けばおじさんにも会えるかと思ったんですが、どこにいらっしゃったんですか?」


エルディンの問いにタクミはパフェを食べながら答えた。


「今は転々としていてね。ダンジョウ君からヴェーエス星で一悶着あるから別に行くように言われたんだよ。でもま、これからまたインドラを拠点に戻すだろうけどね」


「指名手配犯でありながら帝国皇帝と繋がりさらに匿われる……貴方と皇帝の関係が僕にはよく分かりませんよ」


「僕らの関係はギブ&テイクだからね。彼は今でも僕を友人だと思ってくれている。ただそれだけさ。それにしてもエルディン君。益々美形になったね。若い頃のお母さんを思い出すよ」


「それはどうも」


エルディンは愛想よく謝辞を告げるが、内心では少し苛立っていた。このタクミ・マウントは何かを隠している。しかし決してその腹の内を見せることは無い。ただ直感的に理解できるのは彼は間違いなく商売人であるという事だけだった。

 そんな彼の心情を知る由もなく、タクミは飄々と話を続けた。


「ま、今日の僕はただの立会人だよ。君に会いたいという彼をここに導くためのね」


タクミはそう言ってパフェをかき込み始める。そんな彼を尻目にエルディンは隣に座る大男に視線を向けて微笑んだ。


「アンディさん。お元気でしたか」


「ん」


神栄教民主共和国ザイアン隊隊長アンディ・ラフロレインはそう言って帽子を取ると、ようやくその顔を露にしてエルディンの方に視線を向けてきた。


「お久しぶりどす」


「敬語はよしてくださいよ」


「いいえ、あんたの立場上、敬語は続けさしていただきます」


「……それが嫌だから僕は貴方たちの場所を嫌ったんですよ。血統なんて言うくだらないものに縛られている事にね」


エルディンは初めて冷たい表情を浮かべると、正面のタクミは肩を小さく揺らした。


「おいおい。それは実家を継いだ僕に対しても随分失礼な発言じゃない?」


「おじさんが無能な勘違い野郎だったらそうだったでしょうね。でも違うでしょう?」


エルディンの返しにタクミは小さく肩を竦める。

 エルディンは話を戻すようにアンディに尋ねた。


「それで? 兄妹揃って何の用です? タクミおじさんを使ってまでね」


「姉上……メルティ・ルネモルン枢機卿と同じどす。そろそろ神栄教に戻る気にはなりませんか?」


「ありません。そう言っても何か説得材料があるんでしょう? あるならそちらを出してください」


エルディンはここで初めてベーラの入ったグラスを口に付ける。するとアンディは背筋を正しながら話し始めた。


「先ほど、教皇様や枢機卿を含めた会議がおました。これより停戦状態に入り、神栄教は軍備増強に入る。その為にはどないしてもうちと姉上……ルネモルン枢機卿はあんたを引き戻したい思てます」


「停戦状態か……つい昨年に宣戦布告しておいて間の抜けた話だね」


「戦力差を考えたらしゃあない事でっしゃろう。我々は優秀な人材をそろえる必要がある。その為にもあんたが必要どす。そやさかい、うちはあんたに問いたい。あんたは何求めてはるんどすか?」


「決まっている。僕は僕が好きな人間と自由に暮らす。それだけさ」


「自由とは力どす。そやけどその力は二種類に分かれる。実力と権力どす。あんたには実力しかあらしまへん。我々に協力してくださったら権力を得ること出来るんどす。そこからあんたの自由を始めたらええ」


エルディンは再び鼻を鳴らしてから手にしているグラスに視線を注ぐ。彼が何も告げずにいると、アンディはそのまま話し始めた。


「このままではあんたの実力は埋もれていく。その時は後悔しますえ? 下手をしたらあんたが今大事にしてる人たちにも危害が及ぶかもしれしまへん。……確かシャドーウルフズどしたか? それとも……マッドドッグ?」


アンディはそう言って卓上に小さな機器を置くと、そこからアーク、メアリー、リオ、ミヤビ、カンム……そして彼らも知り得ない複数の人間のホログラムが浮かび上がった。

 エルディンは怪訝な表情を浮かべながら手にしていたグラスをテーブルにそっと置く。その光景を見ていたタクミは思わず小さく笑いながら口を挟んできた。


「フフフ……いや失敬、若い頃を思い出した。いつの時代も変わらないと思ってね」


そんな立会人を尻目にエルディンはゆっくりと立ち上がった。


「……答えは変わらないよ。アンディさん。僕に脅しをかけているんだろうが、それは悪手だね。君たち程度の組織じゃ僕の()()()()は消せないよ。話がそれだけならこれで失礼させてもらおう」


彼はそいって再びグラスを手にして残りを一気に飲み干す。

 二人に背を向けてエルディンは歩み出すと、アンディは勢いよく立ち上がった。


「ミュリエル殿! 大人になっとぉくれやす。どの道、あんたは我国に戻ること必要になる!」


その言葉にエルディンは振り返る。そして今日一番の美しい微笑みを見せて口を開いた。


「権力は確かに力だ。だがそれは所詮血統によるものに過ぎない。それを理解できないうちは僕と貴方たちは相容れない。あーそれと、確かにいつの日か僕はそちらに戻るかもしれないね。だが、それは決して君たちに言われるからじゃない。僕にとって君たちに利用価値が出た時だ」


エルディンはそう告げて個室を後にする。そしてカウンターに未だ座る女性、グラスを磨くマスターに目もくれず、雪が降る外に出た。


 彼の選択はどう見ても子供じみている。しかし彼は曲げない。それがけれの持つエゴイズムだったからだ。

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