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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月23日>
30/35

第28話『ローズマリーを継ぐ女たち』

【ローズマリー共和国 トソヤマ星 バラライカ医療救護センター】


<12:38>


 衝撃のニュースがローズマリー共和国を覆っていた。それは皇宰戦争を生き延び、その戦果によって皇族派の勝利、ひいてはかつての帝国との同盟に大きく貢献したと言っても過言ではないミランダ・ハリトーノフが戦死したという訃報だった。

 ベロニカ・ウィストンによって持ち帰られた遺体は丁重に扱われ、二次元ディスプレイにその姿は美しく映っている。しかし、それが仮初めの美しさだとサヨ・ゴールべリは知っていた。

 サヨは控室というべき部屋の中で椅子に腰を下ろしながら中継されているミランダの葬儀を見ながら溜息をつくと、彼女をこのトソヤマ星に呼び出した張本人の従者が口を開いた。


「ミランダ将軍……美しい死に化粧ですね……実際のご遺体は見るに耐えない程に損傷していたそうですし」


「遺体をいじるなんて……ただの冒涜よ……」


従者の言葉にサヨは複雑な表情を織り交ぜながらそう告げる。二次元ディスプレイの先で行われている葬儀では元老院代表として参列しているマルグリッド・チェンが喪服に身を包みながら険しい表情で弔辞を述べていた。


『女傑軍の英雄……そう問われれば国民の大半が貴女の名を述べるでしょう。先の大戦の生き抜き、そして多くの戦果を挙げ、誰よりも優しく、そして強かった貴女が、帝国を含む各国の卑劣な罠によって命を落としたことを……誰もが哀しみ、そして怒りを抱いています』


弔辞の言葉を聞きながらサヨは眉を顰める。このマルグリッドはもとよりこのローズマリーにおいて急進的なタカ派である。彼女の言葉には今回のミランダ・ハリトーノフの死を最大限利用しようとしているというのが見えていたからだ。しかし、そんなことを述べても仕方がない。今や、ローズマリー共和国内でミランダの死はパルテシャーナ星圏内に接近してきたフマーオス公国と神栄教民主共和国の軍事演習、そしてそれを監視していた帝国軍の戦闘に巻き込まれたというプロパガンダが広まっていたのだ。


「……人の死さえ利用して我を通す……か。この方はロクな死に方が出来ないわね」


「急進派の勢いはこれで更に増すでしょう」


「まったくね」


サヨが答えようとした言葉が壁の方から響く。サヨは慌てて立ち上がりながら振り返ると、相変わらず重々しい重厚な装いを身に着けた元老院議長、ミリアリア・ストーンが姿を現した。

 ミリアリアはサヨの方に歩み寄ることも、ましてや彼女の正面にある椅子に腰を下ろす素振りさえ見せずに口を開いた。


「タカ派の勢いが増せば帝国との衝突は避けられないでしょうね」


「先生、私も決して戦争賛成派ではありませんが……」


サヨは口にするのを憚れるようにモジモジとした仕草を見せる。そんな彼女の心情を察したのか、ミリアリアは優しい微笑みで告げてきた。


「言ってごらんなさい? 但し、移動しながらね」


ミリアリアはそう告げると、彼女が入ってきた入り口から室外に出ていく。サヨは慌てて彼女の後を追いながら妙な違和感に気が付いた。ミリアリアが入って来た入口……そこは先程まで間違いなく()()()()()()()はずなのだ。

 サヨは彼女を追うように入り口の先に続く。すると扉は音もたてずに閉じていき、彼女はハッと振り返ると頭を下げて見送る従者の姿があった。


 入口の先は小さな個室……というには小さすぎるスペースだった。個室というよりは物置というべきかもしれない。その小さなスペースは扉が閉じると同時にまたしても音もたてずに下降していった。


「それで? 貴女の意見を聞いておこうかしら?」


ミリアリアの言葉にサヨはハッとしながら彼女の方に向き直ると口を開いた。


「あの、先生。一体どこに向かって……」


「それは後のお楽しみよ。それよりも貴女の意見を聞かせて頂戴」


ミリアリアの優雅な微笑みにサヨは小さく息を飲んでから口を開いた。


「戦争は反対です。ですが、男性という性別がいる限りは争いの種が持ち込まれるとも危惧しています。先の大戦も現帝国皇帝と当時のハーレイ=ケンノルガ・ルネモルン宰相による権力争い……その後に帝国内で起きたクリオス星の反乱もミドガルド・アプリーゼによる惑星間における地位向上を目的としたものと聞いています。私が思うに、今は帝国が提案するように属国となるのが効率的かもしれません。ただ、その場合は我が国の元老院議長に独立執行権を付与する事、それにより他惑星より優位性を持つことが出来るでしょう。そして帝国と同等の力を得て、帝国の弱体化を狙い、そこで改めて再度独立をする。気が遠くなるような話かもしれませんが、それが我が国の進むべき道と考えています」


サヨが並べる言葉をミリアリアは感心したように何度も頷きながら微笑む。

 やがて室内の下降が停止すると、ミリアリアサヨに背を向けた。先程とは逆方向の扉が開くとミリアリアは扉の先に歩を進めながら口を開いた。


「よく勉強したわね。貴女の年齢でその境地に至れるのは大したものよ。名家ゴールべリ家に相応しいわ」


「恐縮です」


「でも視野が狭い。貴女の幼馴染たち……今回ハリトーノフ将軍の遺体を持ち帰ってくれたベロニカ・ウィストンや諜報活動をしてくれているレイラ・コックス……私はね。貴女達三人がこれからのローズマリー共和国を背負っていくのだと思っているのよ。そんな貴女たちにはもっと広い視野を持ち合わせてほしいのよ。このままだと貴女自身が嫌悪しているお母様と同じ道を辿る事になるでしょうね」


「……」


ミリアリアの口調はいつもと変わらずに穏やかだ。間違いなく悪意のない言葉だが、母親であるエリーゼ・ラフォーレと比較される言葉はサヨの心に深く突き刺さった。

 ミリアリアに続いて個室という名のエレベーターを出たサヨは思わず声を上げた。


「レイラ! ベロニカ!」


先程ミリアリアが口にした幼馴染の顔にサヨは思わず驚きの表情を浮かべる。レイラとベロニカもまた驚いた様子で二人は駆け寄ってきた。


「サヨ。直に会うのは久し振りね。元気そうでよかったわ」


「ええ、レイラは少し瘦せたんじゃない? ベロニカも」


そう言いかけてサヨは口を噤む。

 ベロニカは先の任務でミランダ・ハリトーノフの死を確認した唯一に人物である。どのような形だったかは知らないが、つい昨日に上官の死を目の当たりにした人間に掛ける言葉をサヨは持ち合わせていなかった。しかし、ベロニカは力なく微笑みながらサヨの肩にそっと手を置いてきた。


「大丈夫だ。俺はそんなにヤワな女じゃねぇ。あとありがとよ。お前がレイラに送った情報のおかげで研究所内に入ることが出来た。まぁ結局無駄足になっちまったが……それでも目的が出来たよ。俺が隊長の敵を討つ。絶対に……ビスマルク・ナヤブリは俺の手でな」


「ビスマルク・ナヤブリ? 待って? ヴェーエス星に行ったのよね? あの場所に帝国の戦鬼が居たというの?」


サヨは矢継ぎ早に質問を投げかけるが、ベロニカとレイラが答える前にミリアリアが小さく手を叩いた。


「はいはい。お喋りは後にして。さっきサヨにも言ったけど……私が貴女達を呼んだ理由は分かっている?」


ミリアリアの言葉にサヨは振り返ると、彼女ではなくレイラが答えた。


「私たち三人にご期待を寄せていただいている事は理解しています。だからこそ私は疑問に思っています。何故、このトソヤマ星に召集を? この惑星には医療研究所しか存在しない筈ですが……」


レイラの言葉にミリアリアは微笑みながら廊下を歩き始める。

 三人はミリアリアの後を追うと、彼女は一本道の先にある扉の前で立ち止まる。そして厳重に閉ざされているロックを一つずつ解除していった。


「これも三人に言ったわね。私は貴女たちに期待している。だから広い視野で最上級の教育を受けてほしいのよ」


ミリアリアがそう告げると閉ざされていた扉が開いていく。

 そこにあるのは見覚えのある機器だった。損傷した肉体を修正する培養液の入ったカプセルであり、それはローズマリー共和国では最も高度であり、帝国も持ちえない海陽系最高の医療技術だった。しかし不自然な事もある。その一室にはカプセルが一つしかなかったのだ。


≪遅かったわね。で? その子たち?≫


カプセルの前に浮かぶ二次元ディスプレイに文字が浮かび上がる。その言葉の羅列を呆然と見ていたサヨたちだったが、カプセル内に浮かぶ栗色の髪の童女を見て妙な感覚に陥った。それは今まで過去の資料でしか見た事の無い顔にそっくりだったからだ。

 二次元ディスプレイの文字に応えるようにミリアリアは小さく微笑んだ。


「三人とも忙しいのよ。優秀だからね。さぁ、三人ともご挨拶なさい。これから貴女たちの指導をしてくださる……シャイン=エレナ・ホーゲンさんよ」


ミリアリアの口にした名前に三人は思わず閉口する。

 目の前にローズマリー共和国……いや、海陽系史上最高の知能を有した天才がいる。聞けば、星間連合帝国のダンジョウ=クロウ・ガウネリン、神栄教民主共和国のコウサ=タレーケンシ・ルネモルン教皇、フマーオス公国の星王ランジョウ=サブロ・ガウネリンという海陽系の中心人物が彼女を探し求めているという。


「なぜ……ここに」


サヨがそう口にすると二次元ディスプレイに文字が浮かび上がった。


≪生きるための交換条件でね。さて、自己紹介してもらおうか≫


フランクな言葉の羅列ながらもサヨは思わず生唾を飲み込んでいた。

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