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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
28/35

第26話『決』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡地周辺】


<AM13:07>


 十時方向で戦闘反応、七時方向上空にローズマリーのBEの反応がある。ビスマルクはセンサーなどではなくCS越しの感覚でそう察した。戦闘反応の方に耳を傾けるとうっすらではあるが衝撃音や爆発音がビスマルクの耳に確かに届く。それは先程、レオナルドが向かっていった方向だったが、その戦闘にレオナルドは関わっていないとビスマルクは気付いていた。


「(……愚……カンムの……部下か……)」


音だけで雑な戦い方をしていると察したビスマルク再び正面に注視する。一般兵であれば周囲を考察する余裕などないだろう。何故なら十時でも七時でもなく、彼の正面には薙刀を構えるミランダが立っているからだ。

 ミランダの構えは見事である。恐らく良い修練を続け、良い師に恵まれたのだろうとビスマルクは察していた。

この戦いが始まってから二十分ほど経っただろうか? 彼女は微動だにしていない。いや、彼女自身が動けないのだろう。立ち合いでビスマルクの腕を瞬時に察し攻めあぐねているに違いなかった。何故なら今まで彼と戦った優秀な猛者は皆そうだったからだ。


「(……無益……な……勝負は……見えて……おる……)」


ビスマルクは無益な殺生は好まない。だが相手が臨んでくるならば仕方がない。彼に出来る事は正々堂々挑んでくる相手には礼節を持って全力で迎え撃つことだけなのだ。


『……行くぞ……ビスマルク・ナヤブリッ! キェェェェェッ!』


意を決したミランダは裂帛の気合を込めて吠えながら突っ込んでくる!

 ビスマルクは向かってくるミランダに向けて左手のひらを見せるように突き出す。そして右手一本で方天戟の柄の先を握ると、正面に突き出した左腕と交差させるように方天戟を真横に構えた!

ミランダの薙刀が縦一文字に振り下ろされる! ビスマルクはその斬撃を横薙ぎで迎え撃った!


――ザンッ……


という異様な音がビスマルクの耳に届く。それは真横に振り払った右腕から振動して伝わってきていた。

ビスマルクの放った横薙ぎはミランダの薙刀を弾き飛ばし、方天戟の軌道通りに彼女の身体を真横に切り裂いていた!


 ミランダの着こんでいたBEの破片、潤滑油や彼女の血液、そして彼女の身体自身が宙を舞う。その光景と同時に上空から声が響き渡ってきた。


『隊長ーーッ!!』


悲痛と衝撃が入り混じった声の先をビスマルクは眼球のみを動かして確認する。それは先程の戦闘反応と一緒に感じたローズマリーのBEだったが、もはや戦闘など不可能なほどに破損個所が見えていた。


 叫び声の後に訪れた一瞬の静寂の中でミランダが着ていたBEが落下する音が響き渡る。落下した事でBEの破片は更に散らばっていった。それは誰がどう見ても最早動くことは無いと判断できるほどに無残な姿で……

 ビスマルクは小さな歩みで横たわるミランダに歩み寄る。もう彼女は助からないだろう。それは本人も自認しているのか虫の息ともいえる息遣いで最後の言葉を振り絞り始めた。


『……ビスマルク……ナヤブリ……』


その言葉の中には彼女は悔しさと尊敬の念が感じ取れる。もう喋ることはおろか、呼吸することも儘ならないだろう。しかしそれでもミランダは言葉を続けた。


『……聞かせてくれ……我が……渾身の……斬撃は……どうで……あった……?』


それは武に生きた人間らしい言葉だった。ミランダの姿を見下ろしながらビスマルクは淡々とした面持ちで返した。


「……見事なり……」


ビスマルクは堂々と嘘をつく。それが死にゆく者への最後の敬意だったからだ。しかし、名の知れた猛者はその程度の嘘は見抜くように再び口を開いた。


『……嘘……だな……我が……斬撃は……貴様に……届いてすら……いな……かった……』


ミランダの言葉にビスマルクは僅かに罪悪感を滲ませる。しかし、彼は今までどのような敵と相対しても、最期は称賛の言葉を贈ると決めていた。例え彼を驚愕させるようなことが無くともだ。

 ビスマルクが切り裂いた箇所から潤滑油や血が流れ落ちていく。ミランダは最期の力で振り絞るような声でビスマルクの方に向き直った。


『……戦鬼……め……』


遂に事切れたミランダを見下ろしながらビスマルクは背を向ける。そこにはこちらにブラスター銃を向ける破損だらけのBEの姿があった。


「……やめて……おけ……」


そう一言告げるとBEは力なく銃を下ろしてその場に崩れ落ちた。恐らく、万全の状態であれば向かってくる程度の実力だろうが、彼女か着用するBEの状況を見れば戦闘状態に入るのは得策ではない。そんな最低限の判断は出来る冷静さは持つ人物なのだろうとビスマルクは推測した。

 ビスマルクは肩を震わせながら項垂れるBEを横切るとミランダの薙刀を拾い上げ、項垂れるBE眼前に突き刺した。


「……貴官……名は……」


『……ベロニカ……ウィストン』


「……では……ウィストン……ミランダ……ハリトーノフを……丁重に……弔って……やれ……」


ビスマルクはたったそれだけを告げると彼女に背を向けて歩き出す。もうこの場には用はない。ミランダ・ハリトーノフ……彼女の魂が今の身体の真の持ち主への弔いになるだろうとビスマルクは思っていた。

 振り向くことなく船に向かって歩く彼は、背後から殺気とも決意ともとれる気配を感じとる。薙刀が引き抜いたであろう背後のベロニカは彼にその刃を突きつけていただろう。


『ビスマルク・ナヤブリ! 今の俺じゃアンタにゃ勝てねぇ。だが、必ず、必ず隊長の仇は取らせてもらう!』


その言葉にビスマルクは何も言わずに背を向けて去っていく。


無益な殺生は好まない。


しかし多くの人間から挑まれる。


強者として相手を迎え討つ。


再び世間に名が知られる。


残された者から恨まれる。


ビスマルクはその強者だけが持つ宿命を感じていた。この螺旋がいつの日か自分を殺すのだ。それでも彼は止まらない。自らを救ってくれたダンジョウ=クロウ・ガウネリンに尽くすため……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡地周辺】


<AM13:13>


 溢れそうになる感情が抑え込まれる。いや、包み込まれると言った方が良いのだろうか?

自分の中にある怒りや恐怖は完全に克服したつもりだった。それが再び目を覚ましそうになると卑猥な感情がそれを押し隠してくれるのだ。


『いいねぇ~……もっと、もっとだぁ~!』


「そういうのは! リオの口から! 聞きたい! ……言ってくんない?」


「集中しろメガエロボケ!」


熾天式の銃剣とツギハギの棍棒の打ち合いはすでに数百を超えている。

 二着のBEは縦横無尽に動き回り、幾度となくフェイントなどを織り交ぜながら戦いを繰り広げていた。その戦いは周囲の地面を破壊し、積もった雪を吹き飛ばし、まるで先程まで吹き荒れていた嵐がその一点だけ蘇ったようになっていた。


『ほぉらぁ~? ほぉらぁ~! まぁた見えてきたぞぉ~? アーカーシャ~? お前の中にある憤怒の感情をもっと俺にくれぇ~ッ!』


「勿体なくてテメェには何もやれねぇよ!」


『フェフェフェ! んじゃあ俺からいつかの女みたいなトラウマをくれてやるよぉ~ッ!!』


「テメェマジで殺す!!」


「集中しろっての! さっきの台詞言ってあげないよ!!」


憤怒の感情が溢れそうになったところでリオが声がアークを引き戻す。彼女の声を聞くたびにアークの感覚は鋭くなっていった。それはまるで重りが完全に外されたような感覚だった。


『フェフェフェ! いいねぇ~! 動きがさっきよりも一段良くなったぁ~! 益々面白いぜぇ~? アーカーシャ~!!』


「さっきからアークばっかり! 私もいんだよこのギガサイコ野郎!!」


アークの両腕の感覚が無くなるとリオが銃剣のシリンダーを廻して振り下ろす! その斬撃は当然のごとくボロボロになった棍棒で簡単に防がれ、アークは思わず後方へ高く遠くに跳躍した。

 距離と取ってリオの間合いを作る。それと同時にすべての感覚がリオに行き渡ると、アークは熾天式の中で浮遊しながらも憤りの声を上げた。


「急に動くのやめて!? 分かっててもビックリしちゃうから!」


「アーク。アンタはバカだから口に出してあげるからよく聞いて」


遠くからリオの中にある冷たくも明るさと夢に満ちた感情が彼の中に流れ込んでくる。その感情の中でリオは続けて口を開いた。


「ハンナさんの事は私だってギガムカついてる。でもそれを利用されるなんてテラムカつかない?」


彼女の言葉にアークは思わず頷きながら同意の感情をリオに送る。その反応を理解したリオは再び言葉を連ねた。


「分かればよろしい。いい? 私はアンタがしょいこんでる過去をひっくるめてアンタが好きなの。でもそれだけじゃない。()()()じゃなくて()()()()のアンタのことも好きでいたい。だから……アークのこれからを見せてよ」


「これから……」


「そ、一先ず、この場は私と一緒にこうしてみよ!」


リオはそう告げると両手で掴んでいた銃剣を空に向けて発砲した!

 放たれた弾丸は空に向かってまるで打ち上げ花火のような音を立てて飛び上がっていく。

それを見上げながらアークは再び溶けるようにリオの心の中に入り込むと、話さずとも彼女の感情や考えがアークの頭の中に入ってきた。彼女の考えを理解したアークは左拳をギュッと握りしめた。


「うん……うん、そうね! うし! 行くぜハニー!」


「何? ダーリンとでも言って欲しいわけ?」


「むふ! そういう連れないところも好き!」


「その方がアークらしくてメガいいよ」


呆れと得意気が入り混じった感情の中でアークは思わず笑みを浮かべながら体の感覚を取り戻していく。そしてツギハギに目掛けて背部スラスターを起動させた!


『ほぉらぁ~! イチャつくんなら俺も混ぜてくれよなぁ~!! フェフェフェ!!!!』


再びツギハギと接触すると同時にアークは銃剣を振りかざす! ツギハギの棍棒と打ち合う度にまたしても火花や棍棒の破片が飛び散った!


『フェフェフェ! 穏やかだねぇ~? そんなんでいいのかなぁ~? えぇ~?』


「こっちはアンタみたいなギガクズとは違うのよ!」


「さぁ、これでケリだ!」


アークは共有するリオの視界を確認しながら銃剣を右腕で振り上げた!


『まだまだ遊ぼぉぜぇ~ッ!?』


銃剣を振りかざすその瞬間――先程リオが上空に向けて放った弾丸がツギハギの棍棒に落下する! 棍棒が爆散すると同時にアークは渾身の力を込めて銃剣を振り下ろした!


「どりゃぁぁぁぁぁッ!!!!」


『フェフェフェ!!!!』


振り下ろした銃剣をツギハギは左手で受け止めようとするが、銃剣の刃はギチギチと破壊音を立ててその左腕に沿って切り裂いていった!

 

「くっ!」


銃剣の刃がツギハギの左肩で止まる。クジャが突き出した左腕での防御策は見事だった。左腕に沿って切り裂いたおかげでその勢いが弱まったのだというリオの推測がアークの頭に流れ込んでくる。


『フェフェフェ! いい攻撃だぁ~! 良かったぜぇ~? ここでさっきの暴発をさせりゃあお前の勝ちだぜぇ~?』


クジャの言う破裂剣の弾丸はもう残っていない。それをクジャも分かっているのだろう。だが、アークは負ける気がしなかった。彼は今勝利の女神と一緒にいるのだと信じてやまなかったからだ。


「ブァーカ! こっちはブラフだよ!」


『あぁ?』


初めて見せるキョトンとしたクジャの声にアークは微笑む。そして左肩をリオに支えられるような感覚で彼は左腕を後方に下げた!


「テメェに喰らわす本命は!!!!」


「こっちだメガボケーーッ!!!!」


リオに押されるような勢いでアークは左拳をぶち抜く!

 熾天式のデュアルアイの色が白く輝く! アークとリオが撃ち抜いた左拳はとっさに防御したツギハギの巨大な右腕を貫通してその胸を砕ききった!


『……グ八ッ』


ツギハギの動きが明らかに止まる。その熱量から察するに今、ツギハギの中の人間は粒子分解していない。つまり実体化しているのだ。それは即ち、クジャの身体に拳が届いていることを意味していた。


「アーク! 離れて!!」


呆然としていたアークはリオの言葉で我に返る。貫いた右腕が火花とプラズマ音を立てている。恐らく超電磁砲の暴発が始まっているのだろう。その光景を見たアークは慌てて左腕を引き抜くとツギハギから出来る限り離れて跳躍した!


 瞬間――ツギハギの右腕が砕け散るように爆発していった。それに引火するように両足や胴体も崩れ落ちていく。

その光景を見下ろしながらアークは思わず呟いた。


「……終わった」


最愛の母を殺し、初めて好きになった女性を殺し、今まで恐怖と怒りの対象だった存在が消えていく。しかし彼の心の中に安らぎは無く、どこか虚無感に近い感情が漂っていた。


「終わったんじゃないでしょ? これで、一つの区切り」


「区切り……」


アークは思わず復唱する。するとリオはいつもの調子の朗らかさで告げた。


「あんなのがアンタのゴールなわけないでしょ? これは通過点ってこと」


「……そっか……うん、そうね。()()()()があるもんね」


「そういうこと。じゃ、まずは今からどうする?」


熾天式がゆっくり着陸する。するとアークは一考するまでもなく下衆い笑みを浮かべて告げた。


「うん、とりあえずリオ。太腿に埋もれさせて」


「……やっぱりメガエロボケ」

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