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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
26/35

第24話『鬼』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡区域 上空 ローズマリー脱出船】


<AM12:26>


 流れが変わっている。そうベロニカは肌で感じていた。いや、肌というよりもそれは明確に視認出来ていた。

脱出船の中でベロニカは重厚で小さなフロントガラスに頬を付けながら上空を見上げ心の中で呟いた。


「(あの戦艦……戦皇団のエンブレムじゃん……もう一個は宇宙海賊……レオナルド=ジャック・アゴストが来やがったのか? つーか待てよ……ジャネット・アクチアブリはフマーオスと神栄教の方に行ってんじゃねぇのか? いや、聞いた話だがあの女は海陽系でも屈指の操縦士だ。……でも待て、ジュラヴァナの宙域からこんな辺境までだと位置的にも一週間は掛かるぞ?)」


混乱のせいで少し思考回路がおかしくなる。しかし何とか届いている情報を頭の中で巡らせながらベロニカは上空を凝視し続けた。そんな彼女の目にあり得ない光景が映った。

 戦艦から二つの影が舞い降りてくる。おかしいのは二つという事だ。帝国にはインドラの矢があるというのに爆撃攻撃を行うのもおかしい。となれば増援という点が正解なのだが、二つというのは増援の規模から考えても少なすぎるのだ。


「……嘘だろおい」


遂にベロニカは心の中の声を口から漏らして、腰が砕けたように尻もちをついた。降りて来る二つの影は赤と紫……問題は紫の方だ。それは帝国軍では一人の人物にしか使用を許されていない色と彼女は聞いていた。


「……ビスマルク・ナヤブリ……ってことは今はラヴァナロスには皇帝一人って事かよ!? つーか今回って戦鬼が動くレベルなのか!?」


ベロニカは思わず取り乱す。それと同時に這いつくばってコクピットのセンサーにしがみつくとミランダのいる場所を確かめた。


「ヤベーぜ隊長……もう終わりだ。さっさと帰還すんぞ」


自動飛行モードになっていた脱出船をマニュアルに切り替えてベロニカは操縦桿を握りしめる。

 彼女はかつての軍事教官に見せてもらった戦時中の映像と教官の言葉をひと時も忘れたことは無かった。それほどまでに鮮烈な記憶だったからだ。


――「これが皇帝の懐刀、帝国の赤鬼と青鬼と呼ばれるビスマルク・オコナーとベンジャミンン・ナヤブリの戦闘記録だ。覚えておけ。戦場において敵としてこの赤鬼と青鬼に遭遇した場合はすぐに退却しろ。女傑軍ではこの者達と相対した場合に限り敵前逃亡を許可している」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡地】


<AM12:32>


 ゆっくりと大地に足を付ける。数日振りに平坦ではない無骨な地面に足を付けると違和感を感じるのは一般的人間の思考だろう。当然だが、ビスマルク・ナヤブリにそんなものはない。

彼は特別な感覚を噛みしめることなく、まるで我が家に帰って来たかのような落ち着きで佇むと、眼前のモニターに浮かぶ情報から呼吸が可能な事を確認してヘルメットを収容した。

 ヴェーエス星の空気を彼は顔で実感する。かつては雪原に覆われていたというヴェーエス星は所々陸面が露になっており、純白の惑星と言われていた面影は全くなかった。


『気はお済になりましたか?』


通信越しに聞こえるのは背後に立つレオナルドの声だ。しかしビスマルクは振り返ることなく目を閉じて大きく息を吸い込んだ。

 彼の中に様々な過去の出来事が蘇る。それは心と体で違うものを感じるせいか、無数に呼び起こされた。


豪胆で明るいダンジョウ


皆を事実上束ねるシャイン


美しく刀を振るうカンム


巨大なランスで戦うレオナルド


操縦桿を握るジャネット


知的で理屈屋なヴァイン


美しく聡明なイレイナ


そして、必死の形相で掴みかかってくる青い肌の男


その青い肌の男の顔が今や自分の顔になっている。その事実にビスマルクは普段の無表情の中に不快感を滲ませた。


「……不快だ……な……」


『その言葉には称賛と批判が入り混じっているように感じるのは僕の気のせいですか?』


レオナルドの言葉にビスマルクは一瞬口を噤む。

 この身体は自分の物ではない。自分の身体が使い物にならなくなった際、彼が選ばざる得なかったのはこの世で唯一彼が勝ちきれなかった男の物だったのだ。


「…………某にとって……唯一……」


そう言いかけて彼は再び口を噤む。ビスマルクの心中を察しているのだろう。古い付き合いであるレオナルドは苦笑してから少し真面目な口調で再び口を開いた。


『奇跡だそうですよ。全機脳移植をしてここまで拒絶反応が無いというのは。本来であれば脳と身体が拒絶してどこかしらに異常が生じる。しかしビスマルクさんとあなた……ベンジャミンさんにはそれが無かった』


久しく聞く自身の本当の名前にビスマルク……いや、ベンジャミンは無表情のまま振り返る。そして明らかに怪訝さを交えた口調で答えた。


「……ベンジャミン……ナヤブリという……弱者の名は……捨てた……某の……名は……ビスマルク……ナヤブリ……皇帝陛下に仕えし……真の強者だ……」


『そうでしたね……失礼しました。その失礼ついでに言わせてください』


次はレオナルドの口調が少し険しくなる。そして彼はまるで子供を注意するように口を開いてきた。


『シャインさんが居なくなった時に決めた筈です。生き残った僕ら四人、いずれかが常にダンジョウさんの傍から離れないと。僕もカンムさんもジャネットさんも今までそれなりに自由に動いていましたが、それは貴方がダンジョウさんの横にいたからだ。今回は状況的に僕ら三人は動かざる得ない状況にある。そんな中でこうやってダンジョウさんの傍を離れるのは今回限りにしていただきたい』


立場的に考えればレオナルドは彼の部下にあたる。しかしその言葉は明らかに分かにする注意と同義だった。しかし、ビスマルクは彼の言葉を真摯に受け止めた。それは彼自身が痛感している事だった。


――このヴェーエス星に来る意味を知るダンジョウであれば許可をくれない訳がない。


というダンジョウへの甘えがレオナルドにとっては不快だったのだろう。

 ビスマルクは彼の気持ちを察しつつ小さく頷いた。


「……承知……」


短い一言に感情を込める。恐らく初対面の人間なら不貞腐れていると思われるだろう。しかし長い付き合いのレオナルドはそんな様子を見せなかった。

 ビスマルクは今一度目を閉じてヴェーエス星の空気を顔で受け止める。それは彼なりの最も嫌い、最も憎み、最も憧れた男への手向けだった。そんな彼の行いを邪魔するかのように奇妙な気配をビスマルクは感じとり目を開ける。それはレオナルドも同様だったのか、二人は揃って研究所跡地の方に振り返った。


『さて、我儘を聞いたのですから働いてもらいますよ。()()()()()さん』


レオナルドの言葉にビスマルクは物も言わずに頷いてからヘルメットを展開して顔を覆いこむ。二人の視線の先にはまるで蟲のように蠢く機械兵器が闊歩していた。それは報告にあった研究所の防衛兵器であるスコルピオンという無人兵器に違いないだろう。


『カンムさんに頼まれているので、僕は彼の部下の方に助太刀に向かいます。中央突破しますので残りはお任せしてよろしいですか?』


「……心得た……」


『あのスコルピオン、一体で一個小隊くらいの力があると言われています。大丈夫ですよね?』


「……愚問……」


ビスマルクがそう答えると、BE越しに笑っているレオナルドの顔が過る。彼はBE背負っていた巨大なランスを手にすると一言だけ告げた。


『では、後ほど』


彼はそう言い残すと同時にランスを突き立ててスコルピオンの群れに突貫していく! レオナルドに気付いたスコルピオンの群れはまるで気でも触れたかのように彼に飛び掛かるが、レオナルドはそんな中を全く意に返さない様子で突破していった!


 スコルピオンの群れの中央にごっそり穴が出来上がる。残りは恐らく百数機だろう。ビスマルクは右手の方天戟と左腕のナックル付きの盾を確認してから、ジワジワとスコルピオンの群れに歩み寄っていく。

標的をビスマルクに変えたスコルピオンの群れは土煙を上げて攻め入ってくるが、ビスマルクはCSの中で眉一つ動かしはしない。

先頭を走るスコルピオンがビスマルクの間合いに入る。その瞬間、彼は胸を開くように左腕を振り払うと「ベキッ!」という音を立てて先頭のスコルピオンの頭部はグシャグシャに崩れ去った!


「……久しいな……」


彼はそう呟くと瞳を左右上下に動かして次々と襲い掛かってくるスコルピオン全てに焦点を合わせる。それと同時に彼の方に近付いてくる()()にも気付いていたが、今は目の前の障害の排除を優先した。

 ビスマルクの戦い方はシンプルである。敵の攻撃を躱す。躱しきれない攻撃は防ぐ。体のどこかを使って攻撃する。ただそれだけである。しかし、そんな単純な戦い方が許されるのは絶対的強者だけであり、彼にはその強者たる力が確かにあった。

スコルピオンは四方八方から攻撃を仕掛けて来るが、その攻撃をビスマルクは全て躱すか盾で防ぎきっていく! そして方天戟の一振りで十数機のスコルピオンを一掃していった!

 スコルピオン一機の戦闘力は一個小隊に匹敵する。それが百数機となれば一個大隊と言えるだろう。そんな禍々しく蠢いていたスコルピオンの群れはものの数分で無残な兵器の残骸へと姿を変えていた。


「……貴様には……過ぎた……弔いだな……ビスマルク・オコナー……」


残骸だらけの中でビスマルクは左腕に装着していた盾を外して地面に突き立てる。それはまるで墓標のように見えなくもなかった。


『ビスマルク・ナヤブリッ! 見事なりッ!!』


小さな丘の上から響き渡った声にビスマルクは驚いた様子も見せずにゆっくりと振り返る。先程感じていた接近する影の正体だろうと察していたからだ。

 そこに立っていたのはローズマリー共和国の紋章を付けたBEだった。その姿を見てビスマルクは向き直ると方天戟を肩に抱えた。


「……何用だ……」


『我が名はミランダ・ハリトーノフ! 女傑軍にしてローズマリー共和国に名を轟かす武人なり! この地でクジャ・ホワイトに辛酸を舐めたが、貴様が居るならば話は別だ! ビスマルク・ナヤブリ! 貴殿に一対一の決闘を申し込むッ!』


薙刀を回転させてから構えるその姿と、天にも届きそうな名乗りは正に威風堂々としたものだった。その姿に柄にもなくビスマルクは感心する。何よりミランダ・ハリトーノフの名前は彼の耳にも入っていた。ローズマリー共和国内では屈指の実力者であり武闘派の女として勇名を轟かせていたのだ。

 ビスマルクは方天戟を振り下ろすと、今一度ミランダの方に体を向けなおした。


「……女と……戦うは……気が進まぬ……が……武人を……名乗るならば……話は……別だ……」


『感謝する。では、いざ尋常に!』


「……勝負……」


その言葉を皮切りに二人の見えないせめぎ合いが始まった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡地周辺】


<AM12:41>


 エルディンから連絡があったのはほんの数分前の事である。仕事においてリオはアークやメアリーよりも彼を信頼している節が少しあった。それは単純で、エルディンは指定した時間を狂わせないという事にあった。その証拠に彼が指定した時刻に上空を見上げれば小型戦艦の腹が見えたからだ。

 小型戦艦がゆっくりと着陸すると同時に扉が開く。それと同時に見るも麗しい美男子がホッとしたような笑みでCSを乗せた手押しのホバー台車を押しながら降りてきた。


「遅くなって悪かったね」


「ホントに。でも今日ばっかりはギガ助かったわ」


リオはそう言ってエルディンに歩み寄る。そしておぶっていたクレアを彼に託した。

 エルディンはクレアをお姫様抱っこして受け取ると微笑んだ。


「この子がさっき言っていたクレアちゃんか。リオちゃんの説明以上の可愛い子のようだ」


「手ぇ出すんじゃねーわよ」


「それはこの子次第さ」


「そこら辺の倫理観はまともじゃないんだよねー」


リオはそうボヤキながらエルディンが持ってきたCSを着込み始める。そんな彼女にエルディンはいつも通りの口調で話し続けた。


「すまなかったね。CSしか用意できなくて。インドラの方もBEに余裕がある訳ではないようでね」


「全然。助かったよ。これであのテラスケベを助けに行ける」


「一つだけ言いたいんだが、考えを改める気はないかい? 僕の援護爆薬があればアークを連れてクジャからも逃げきる事は可能だ」


エルディンの言いたいことをリオはどことなく……いや、ハッキリと理解していた。

 彼とメアリーはもっとも古くからアークを見てきた人間だ。だからこそアークが抱くクジャ・ホワイトへの感情をリオよりも熟知しているのだろう。それ故に彼はアークを失ってしまう可能性がある事を危惧しているのだ。リオは彼の言葉を聞きながらもCSの着用を終えて振り返った。


「大丈夫。アイツは勝つよ」


「それは君の勘かい?」


エルディンの苦笑にリオは微笑みを向ける。そして彼女は恥ずかしげもなく心の底から思う感情を言葉にした。


「ううん。好きな男を信用してるってだけ」


その言葉と表情を見たエルディンは珍しく驚いた表情を浮かべる。しかしすぐさま小さく「フッ」と鼻を鳴らした。


「愛は盲目なんて言葉があるが……君たちのは信じてみようと思うよ」


「お、合理主義のエル君にしては珍しいね」


「友人の言葉は信用する。それは君とアークから教わったことさ」


エルディンがそう告げると風の勢いが徐々に弱まっていった。

 彼はクレアを抱えながら小型戦艦に乗り込むと再び振り返った。


「上空に待機しているよ。ケリが付いたらさっさと帰ろう。……アークを頼んだよ」


「うん」


リオは力強く頷いてからヘルメットを展開した。小型戦艦の扉が閉まると同時に上空へと上がっていく。その光景を見送りながらリオはライフルを肩に担ぎ背部スラスターを起動させて移動を開始した。

 メインカメラを望遠にして状況を確認する。土煙の中に火花が散り、中から熾天式とツギハギが姿を現す。銃剣と棍棒が重なる度に飛び散る火花と二人の動きからその戦いは互角のように見て取れる。そんな中、センサーに彼女と同じくアークとクジャの方に近づいていく影が浮かび上がった。


「これって……レオナルドさん?」


レオナルドの存在に気付いたリオは急遽進行方向を変える。

 この戦いはアークとリオの手で付ける。彼女はそう決意していたからだ。

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