第23話『代』
【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡区域】
<AM12:00>
吹き荒れる暴風の勢いが徐々に弱まっている。それでも強風には変わらない。その証拠に地面には小石や遠くに積もっている雪の粉が舞い上がっている。そんな中でミランダの薙刀とクジャの棍棒が交差し火花を散らしていた。
「うへぇ~おっかねぇ~」
岩陰に身を隠すアークはまるで竜虎の戦いを見ているような気分だった。
彼の目から見て二人は自分より上の実力を有している。となればまともに戦っても彼に勝ち目はない。そんな状況を理解しながら彼は銃剣のシリンダーを廻す。
シリンダーの穴は六つ。そのうちの一つであり、今設定しているのは破裂剣と称される刀身を爆散させる機能である。しかしこの強風の中では爆散した刃の液体金属が元に戻るのに時間が掛った。
「えーと? あとは何の機能があんの?」
シリンダーを廻すごとに視界の左下に弾倉に秘められている機能が映し出される。
最長刀、鉄塊斬、繊細針、追落弾、遠光弾
それぞれに説明が浮かぶが、状況以前に彼の戦闘スタイルからして使えるのは“最長刀”と呼ばれるものしかなかった。
「ふぅーっ……っし!」
彼は意を決して岩陰から飛び出す。そして幾度となく打ち合う二人の間合いから半歩前で立ち止まると、踏み込みながら銃剣を横薙ぎに一閃した! それと同時にトリガーに指を掛けて引鉄を引く。すると銃剣は形状を変えて細く、そして長く長く伸びていった!
『ぬっ!』
『へぇ?』
そんな彼の奇襲を嘲笑うかのようにクジャは飛び上がって長刀を躱す。しかし、ミランダは薙刀を縦にして長刀を受け止めた!
『このような軟な斬撃で私を斬れると思ったか?』
BE越しに睨んできていると感じたアークはトリガーから指を外すと、伸びていた銃剣の刃は一直線に元に戻った。
熾天式の中で引き攣った笑みを浮かべるアークは誤魔化しにもならない言い訳を口にした。
「だってあの狂ってんの殺ったら次は俺でしょ? だったら出来れば一緒に二人ともと思いまして、はい」
『フェフェフェ! 俺がぁ変態~? お前も充分に狂ってるぜぇ~?』
上空から落下してきたクジャが棍棒を振り下ろしてくる! アークは横に飛んで避けると、その動きを読んでいたミランダが薙刀を振るってきた!
「がぬっ!」
『ほう。今の体勢から防いだか。男にしては中々見どころがある』
「お、お褒めの言葉嬉しいけどそう思うんなら殺さないでくんない?」
『出来ぬ相だ……ぬ!?』
急に浮かび上がる光にアークとミランダは視線を投げてから鍔迫り合いをやめて互いに後方へ飛ぶ。その光はツギハギの巨大な右腕から放たれていた!
『んぅ~? さぁてどっちにしようかなぁ~? ……面倒くさそうなのは君だね』
クジャの不気味な声が急に今までとは違う雰囲気の声色になる。その急な変換にアークは驚きを感じていたが、それどころではなかった。ツギハギの右腕がアークの方に向けられていたからだ!
「え? ちょタイムタイム!!」
ツギハギの右手の光が増していく!
次の瞬間……一線の光と衝撃音が広がった。それと同時にツギハギの右腕は逆方向に向き、超電磁砲はミランダの方に向かって放たれた!
『なっ! おのれっ!!』
急な標的の変更にミランダの戸惑いの声が聞こえる。超電磁砲の閃光に紛れてミランダは吹き飛んでいった!
弾道を変えるきっかけを作った閃光。その閃光が飛んできた場所にアークは焦点を合わせて望遠にする。そこには予想通りの人物の姿があった。
「……おほほ、寝ててもお尻の形分かるわ」
うつ伏せ状態で射撃体勢に入っているリオの姿を確認して、アークは右腕から火花を散らすツギハギに向かって突貫した! 銃剣を通常モードに切り替えて斬撃を繰り出す! しかしツギハギはたどたどしい動きで何とかその斬撃を受け止めた。
「……アンタ誰?」
『年下の癖に無礼な口の利き方ね。教育が行き届いていない証拠だわ』
「やめてよ気持ち悪い。アンタの事殺したいくらい嫌いなのに口調が俺好みの綺麗なお姉さんって複雑な気分……何ていうか身体は好みなのに顔が身内に似てる感じ?」
『面白いこと言うのね。古い友人にそっくりだわ。……アナタ、もしかすると』
「んな事より最初の質問に答えてちょーだいよっ!」
そう叫んでアークは銃剣を振り抜くと、ツギハギは尻もちをつくように倒れ込んだ。
アークは倒れ込んだツギハギに銃剣を突きつける。完全に勝者の敗者の構図なのだが、ツギハギから響く口調からは焦りが全く見れなかった。
『私が誰か……そうね。パネロ・デセンブル。そう言えば分かるかしら?』
「……舐めてんの?」
『仕方がないじゃない。それが本名なのだから』
「俺は神栄教徒でもねーし、ロクな勉強もしてねーけど名前くらい知ってんよ。女神メーアに仕えた三人のうちの一人でしょ? だから舐めてんのかって言ってんの」
『信じられないでしょうね。でもこれなら少しは信じてくれるかしら?』
ツギハギはそう言って破損した右腕を持ち上げる。
右腕は酷く損傷していて超電磁砲の起動も儘ならない状態だった。まるで血のように円滑油などが噴き出る右腕を見たアークはゾッとした。そのグロテスクな右腕にではない。自身に迫る本物の死の宣告が来たように感じ彼は逃げるようにツギハギから距離を取った!
「なっ!」
アークは思わず目を見張る。彼がそれまで立っていたツギハギの前にある地面が半径三mほどごっそりと消えてしまったのだ!
「……てめぇ……何をした」
『ディスセンブリーという魔種……アナタ達の時代で言う神通力よ。じゃあ次は私の方から聞かせてもらおうかしら』
ツギハギ……いや、本人が語るならパネロ・デセンブルはそう言って立ち上がると、まるで礼節の行き届いた貴婦人のような立ち方で再び声を響かせてきた。
『私の名を冠するデセンブル研究所……あそこには少女がいた筈。彼女は今どこ?』
「少女?」
『そう。虹色の目をした少女よ。この時代にはいない筈の人種だから分かるでしょう?』
その特徴を聞けば頭の悪いアークでもすぐに分かる。間違いなくクレアの事だ。しかし、その居場所を軽々しく口にする訳にはいかない。その理由を彼はパネロに向かって告げた。
「居たとしてソイツをどーすんの?」
『それをアナタに教える必要がある?』
ツギハギ越しのせいでパネロの表情は掴めない。いや、仮に見えたとしてもアークの洞察力ではその本心を見抜くことは出来ないだろう。だが中身がクジャである以上、彼が選ぶ答えは一つだった。
「……いたよ。でも死んでた」
『………………そう…………』
長い沈黙の後にパネロは一言そう答える。そしてツギハギは一瞬俯くと、再び棍棒を振りかざして突貫してきた!
そのツギハギの攻撃は重い。それは明らかに先程までよろけていたパネロを名乗る人物の動きではなかった。
「がぬぬ! 今度は何!?」
『フェフェフェ! 帰って来たぜぇ? アーカーシャ~?』
「あぁ? 何よ! お前よりかさっきのヤツの方が話通じそうだったのに!」
『そう言うなよなぁ~? もっと愛し合おうぜぇ~?』
アークはシリンダーを廻して銃剣の機能を考える。しかし、選ぶ余裕もなくクジャは棍棒をフルスイングしてきた!
『さぁもっとだぁ~ッ!!』
「とにかく当たり出ろ!」
アークはがむしゃらに引鉄を引き棍棒を受け止める! すると銃剣の刀身が短くなると同時にまるで戦斧のような形状に切り替わった!
バキッ! という音と同時に銃剣は棍棒を受け止める。棍棒は斧の刃にめり込んでいたが、その密度から何とか防ぎきっていた。
「おほっ! 当たり出たね!」
『やるねぇ~? でもそう当たりが続く……んぅ~?』
ツギハギの右腕に再び閃光が無数に飛んでくる! それは遠くからのリオの援護に違いなかった。アークは一度距離を取るために後方に飛ぶと、ツギハギの右腕に刻まれた弾痕を見てハッとした。
<usual>
弾痕は無様な文字ではあるがそう描いている。その文字を見てアークは思わず熾天式の中で笑ってしまった。
「ははっ……そうね。そうしましょ」
アークはそう言って銃剣を突きつける形で八相の構えになる。
彼の様子を見たクジャもまた動きを止めると、嬉しそうに肩を震わせ始めた。
『フェフェフェ! そうだったねぇ~? お前らは一人よりも二人だったねぇ~?』
クジャはそう言って棍棒を片手上段で構えると二人の間に静寂が流れる。
静かだった。……風もいつの間にか収まり、二人は硬直した状態でそのまま睨み合っている。アークは不思議な感覚でただ一転にクジャを見ていた。その集中により、熾天式の視覚上部に上空から戦艦が降りてきている情報さえ見えていなかった。
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【星間連合帝国 ヴェーエス星 戦艦レッドラビッド ドッグ】
<AM12:09>
台風が熱帯低気圧に変わったという情報を聞きガルガロン・ウィローは大きく深呼吸をした。
もうすぐ戦闘状態に入る。情報ではかつて大戦を荒らしたというクジャ・ホワイト、ローズマリー共和国でも指折りの実力者として知られるミランダ・ハリトーノフ、そして研究所の防衛兵器スコルピオンが複数体、かなり危険な地帯と言えるだろう。そんな彼の後頭部に小さな衝撃が走った。
「なーに緊張してんだ?」
「サルフェ中尉」
振り返ると立っていた自分より小柄なアイゴティヤ星人の立派な角を持った先輩にガルガロンは背筋を正す。
歩き出すスノウの後ろに付き従いながらガルガロンは再び深呼吸してから口を開いた。
「本格的な戦場はほぼ初めてでして、武者震いという奴でしょうか。それで次の指示は?」
「んーCS着用して待機」
「え? 第一種戦闘配置では?」
「は? あーそうかキミ知らないんだ。今日は私たち出番はないよ」
スノウはケロッとした様子でそう告げると二人はそれぞれの専用CSの前に辿り着くと、スノウは腰のボタンを押して戦闘スーツを身体にフィットさせる。そしてCSを着用する姿を見てガルガロンも慌てて彼女に倣って着替え始めた。
「どういうことです? 我々は今回」
「私たちはただの送迎役。こーんなCS着たってどうせ何もやる事ないんだけどね」
「し、しかし戦地にはクジャ・ホワイトやミランダ・ハリトーノフといった」
「確かに有名だよね。でもそれは結局私たち三下にとってはって話」
スノウはそう言ってCSの着用を完了する。
帝国軍は強大にして巨大だ。各惑星に配備された軍は勿論だが、皇帝のお膝元である帝星ラヴァナロスに配備される帝国軍人はエリート中のエリートである。その中でもさらに一握りは戦皇団と呼ばれる皇帝直轄の帝国最強部隊に配属される。スノウが着用するCSの胸には戦皇団のエンブレムが大きく刻まれていた。
「三下にとってとは……というのは一体?」
「それより早く着て。今日は戦闘の為じゃなくて失礼が無いように式典に出るつもりでね」
「益々分かりません」
ガルガロンはそう言ってCSを着込む。そしてライフルを肩に背負うとドッグの扉が勢いよく開いた。
「全員! 整列!!」
ドッグ内に響き渡る声の主は戦皇団参謀にして武闘派として知られる帝国大佐ダイバダッタ・グレコーズである。すでに老齢に差し掛かっているというのにその声は世界中に響き渡りそうな大きさだった。
ガルガロン達は慌てて隊列を組むと、更に訳の分からないダイバダッタの言葉が響き渡った。
「送迎の陣に広がれっ!」
彼の言葉に戸惑う者はガルガロンだけではなかっただろう。彼らはその言葉に一瞬体を硬直させるが、すぐさま迎賓する隊列を作った。
「(中尉。一体どういう事なんでしょうか?)」
「(シッ! ほら)」
隣のスノウの小声にガルガロンは目線だけを動かしてダイバダッタの方に視線を向ける。すると不気味な音が彼の耳元に届いた。
……コツ……コツ……コツ……
一定のリズムで近付いてくるその足音の先をガルガロンは注視する。暗がりの中から現れたその人物に彼は思わず声を出しそうになるのを必死に堪えた。
「(……まさか……そ、そんな……な、なぜこの方が……)」
帝国軍の中で唯一の専用カラー……紫色のCS、そして露にしている頭部は間違いない。
そこに現れたのは帝国皇帝の懐刀、帝国の戦鬼、帝国軍元帥……様々な異名と肩書を持つ帝国……いや、海陽系最強と称される男、ビスマルク・ナヤブリだった。
「(中尉……どういうことです!?)」
「(静かにって)」
「(なぜここに元帥閣下が!? アクチアブリ大将は神栄教とフマーオスの監視に向かっているはず! 皇帝陛下のお守りは!?)」
「(それを投げうってでも、元帥閣下はコチラにいらっしゃった……理由は分からんがな)」
彼女がそう告げると、紫色のCSを着たビスマルクが二人の前を横切る。
その風格や覇気は別格だった。ビスマルクが右手に持つ方天戟を一振りすれば彼の胴体は真っ二つになる。そんな当たり前の事実を感じさせる何かが目の前の男にはあったのだ。
「……皆……ご苦労で……あった……」
重厚で、そして途切れるような声にガルガロンは身体が僅かに震えるような気分になった。
「……少しでも……学びある事を……祈る……」
ビスマルクがそう告げると外に繋がる射出口が開く。すると赤いBEが現れ、船内に侵入するとゆっくり着地した。
『ビスマルクさん、お迎えに上がりました』
その声と特徴的な赤いBEにガルガロンは確信した。そこに居るのは間違いなく八賢者の一角、レオナルド=ジャック・アゴストに違いないのだ!
「(ぼぼぼ僕の目の前に……八賢者が二人!!!!)」
既に身体が震えている。そしてそれはどうやら彼だけではなかったらしく、周囲のCSは戸惑いを隠せない雰囲気を醸し出していた。
ビスマルクは何も言わずにガルガロン達に背を向ける。そして東部のヘルメットを展開させると、レオナルド共にドッグから飛び降りていった
その間は僅か数分にも満たない。しかしその体験はまるで数時間のように感じられた。ガルガロンは思わず自身の頭部ヘルメットを収納すると、まるで短距離走を全力疾走した後のように息を荒げながらその場に膝をついた。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「大丈夫? いやー緊張したよね。でもこれで分かってでしょ? 私たちが待機な理由」
スノウの声にガルガロンは下を向いたまま大きく頷いた。
「ハァ……ハァ……はい……あのお二人が戦地に向かわれるとなれば……勝利は確定したようなもの」
「そうじゃないよ」
スノウはそう言って小さく微笑むと二次元ディスプレイに映し出された降下していくビスマルクとレオナルドの姿が映し出された。
「私たちが行っても、邪魔にしかならないって事」
「……っく!」
その言葉にガルガロンはようやく顔を上げながらも歯を食いしばる。
彼は早く手柄を立て、絶対的地位を得ようとしていた。
彼女を……リオ・フェスタという女性を自らの部隊に引き入れ、彼女の力をいかんなく発揮させる。それこそが彼の野望だったのだ。だからこそ戦果を挙げるのは彼にとって最優先事項だったのだ。
しかし、この納得せざる得ない状況と実力差は明確である。その事実に彼は悔しさを感じずにはいられなかった。




