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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
23/35

第21話『化』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡区域】


<AM11:06>


 立膝をついて屈む熾天式の上に立つアークは体全身で風を感じ取っていた。彼の少しカール掛かったくせっ毛が流され額が露になる。フマーオス星人の血が流れるアークの顔はエルディンほどではないにしろ精悍で、その姿は意外にも様になっていただろう。


「……風が……強くなってきたな……」


「……そうね」


アークの正面に立つリオは腕を組みながらそう告げる。彼女の黒髪はピンクのインナーカラーが入っており、その鮮やかな桃色の髪の揺れが徐々に強くなっていく。そんなリオを可愛いとアークは純粋に心の中で思った。好意を自覚すると視覚的にもその感情を揺さぶるのだろう。それはかつて好きだったハンナという少女に抱いたものと同じだった。

 こんな時に何を思っているのかとアークは小さく「フッ」と鼻を鳴らす。そしてリオに歩み寄ると、お辞儀するように彼女の前に頭を差し出した。


「……これでいい?」


「……ん」


小さく微笑むアークをよそにリオはムスッとしながら小さく頷く。

そして彼の頭をリオは迷うことなくアームロックした!


「あだだだだだ!」


「アンタは! 見張りの! 一つも! 出来ないっての!?」


リオはそう叫ぶと払い腰のような体勢になってアークをエビ反り状態にした!


「あがががが! 駄目! それ以上は駄目! 俺のストレートネックが曲がっちゃう!」


「何で! あんな雨雲が! 近づいてるって! 言わないのよッ!! というかストレートネックも猫背も直せ!」


「だってこんな台風だと思わなかったんだもん!! グエエエエッ!!」


リオはアークの足を掴んでエビ反りの角度がさらに深くしてくる!

 呼吸も儘ならない状態でアークは悶えると、救いの声とも言うべきか熾天式の下からクレアの声が届いた。


「あのー! そろそろ移動の準備した方がいいと思いまーす! っていうかこれが“風”ですよねー! すごーい! 私、風って初めてですー!」


リオはアームロックが解除するとアークの尻を蹴り飛ばふと、アークは「グエッ!」と言って熾天式の上に倒れ込む。するとリオは彼に見向きもせずに熾天式から飛び降りるとクレアの前に立った。

 地面に届きそうなクレアの銀髪が右往左往しながら乱れ狂っている。そんな状況さえも楽しんでいるようなクレアの肩をリオは掴むと、その乱れ廻る髪を整えるように一つに束ねた。


「クレア。これから移動するけど、睡眠用ガスは切れてるし、中のクッションが駄目になっちゃってるからシェルターは使えない。私と徒歩移動するわよ」


「いいですね! この風をもっと感じたいです!」


「その元気があれば大丈夫だね。アークさっさと動かして」


クレアの時と全く違う口調でそう告げるリオにアークは「えぇ~」と言いながら熾天式からヒョイと飛び降りる。そしてリオとクレアの方に歩み寄った。


「また俺ー? 次リオが変わってよ」


「クレアとアンタを二人っきりに出来るわけないでしょ」


「あれ? 心外だね。こんな小さい子まで手を出すと思ってる? というか俺って手を出しても拒否される率が高いの何でだと思う?」


「知らん」


「じゃあせめて「行ってらっしゃい」って言って例のアレをお願いします。んぅ~」


そう言ってからアークは口を窄めてリオに付きだす。先日同じ事をした時には拳を突きつけられたが、今回は多少怒ってもいるのでハイキックの脛辺りだろう。アークはそう思いながら目を閉じるが、想定外に彼の顔が両手で包まれるようにガシッと掴まれた。アークはそっと目を開ける。すると次はリオが目を閉じてグッと唇を重ねてきた。

 まるで時が止まった様だった。風が吹き荒れるせいでリオの指の間から彼女の髪が頬に当たる。しかし、彼にはその感覚を感じる余裕はなかった。リオはそっと顔を離すとまるで気にもしていない様子で口を開いた。


「行ってらっしゃい」


「え……何で?」


「何でって。アンタがやってって言ったんでしょ」


「いや、だっていつもやってくんないじゃん。どどどどーして?」


「別に? ただの気まぐれ」


リオはそう言うと、隣で様子を見ていたクレアは目を輝かせた。


「おお! これが接吻ですね! でもお姉ちゃん。唾液の交換は細菌の交換と同じなので消毒しておいた方がいいです」


「そういうんじゃないの。大きくなったらクレアにも分かるよ」


リオはそう言って微笑むとクレアの頭を優しく撫でる。

 動揺するアークをよそに暴風とは違う衝撃音と閃光が響き渡る。三人は思わず衝撃音の方に振り返ると、そこには空に向かって一筋の光と爆発によって生じる黒煙が広がっていた。その光景を見たアークは咄嗟に走り出すと熾天式の中に入り込んでいた。


「リオ」


『ん、分かってる』


身体の感覚が熾天式と一体化するのを自覚して立ち上がると、地上に立つリオとクレアに配慮してゆっくり立ち上がる。そして黒煙の発生地点に振り返った。

 黒煙が上がる研究所跡地……あの場所でそんな事が出来る理由は一つしかないのだ。


「……クジャ……」


『アーク。ケリ、付けてきなさい』


「ん、」


『それとね。面倒くさいから言っておいたげる。……私もアンタと同じだから』


熾天式は意識だけでなく気持ちを共有する。アークには見えなかったが、彼女には自分の気持ちが見えたのだろう。

 アークは少し気恥ずかしさを感じながらも、どこか冷静に答えた。


「ん、ウチ帰ったら一緒に寝ようね」


『クレアと三人でね』


そう言い残してリオはライフルを担ぐと、クレアの手を引いて走り出す。そんなリオを見届けてからアークは研究所の方に体を向けた。


 右腰に装着していた銃剣を抜いて握り締める。アークは何故か冷静な自分にどこか驚きを感じていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡区域】


<AM11:31>


 黒煙が空を覆っていく。それは暴風雨である台風が近付いている研究所跡地から伸びていた。そしてそんなことが起きる理由をミランダは一つしか知らなかった。


「ウィストン……」


「分かってます。もう止めませんよ。でも一つ。ショルダーキャノンはもう使えませんからね」


BEの背後で整備を行ってくれていたベロニカの言葉にミランダは右手に持つ薙刀に今一度力を込めて強く握りしめた。


「構わん。この華月一振りで充分だ」


背後で整備していたベロニカが「完了です」と言って退避する。彼女が着ていたBEのパーツを使いまわしてくれたおかげでミランダのBEはまるで整備直後のような機動性になっていた。

 ミランダが立ち上がると同時に背部にクロスして装備されていたショルダーキャノンが切り離される。背中の重装備が無くなったことで体が軽くなった。その感覚を確かめるようにミランダはその場で軽く数回飛び上がった。


「でも約束ですよ。この件が終わったら残った脱出船で本国に戻ります。隊長の事は私の方からも弁護しますから」


ベロニカの言葉にミランダはBEの中でニヤリと微笑む。


「ああ、これが最後の我儘だ。私はこれより研究所に向かう。ウィストン、脱出船の準備が整ったらこちらへ。私がクジャ・ホワイトを排除したら回収してくれ」


「うす」


「いい返事だ。お前がその気ならいつでも私を好きにしてくれた構わんぞ」


「気が向いたらそうさせてもらいまーす」


右口角を上げて首を傾げるベロニカにミランダは小さく頷く。そして彼女は身軽になった体を飛躍させて黒煙の方に飛んだ。いや、BEに飛行機能は無いので正しく言えば緩やかに落下していると言えばいいだろうか。

 黒煙は遥か上空まで伸びているが右側から来る台風の強風によって徐々に左の方に流れていく。その光景はまるで清廉な青空から黒煙を洗い流しているようだった。


「……む? あれは……」


台風の中に火花が散る。それは明らかに台風の影響によるものではなく戦闘によるものだった。

 ミランダは更にズーム機能を使用してその火花の正体を垣間見た。


「……バカな……あり得ん……」


さらに視界をズームさせて浮かび上がる映像にミランダは目を見張る。棍棒を振り回すツギハギのBE……それは想定内である。しかしそれと相対するのは彼女が先程ショルダーキャノンで破壊したはずのオリジナルBEだったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡区域】


<AM11:42>


 ツギハギのBE……帝国専用BEであるデュナメスを基準にしながらもローズマリー共和国専用BEの左腕に神栄教民主共和国専用BEの脚部とフマーオス公国のパーツが所々に散りばめられ、巨大な右腕を持つその異形が徐々に近づいてくる。


「ふぅー……何でだろ……あのクソ野郎が来てんのに落ち着いてんな……俺」


あの男に会う度に彼は感情がおかしくなっていた。


恐怖、悲しみ、そして怒り……


会う度に変わる感情が変わるその相手にアークは奇妙な因縁を感じていた。しかし、その因縁が今日で終わりを告げる時だと察していた。

 台風の勢いは増していく。どうやらリオとクレアは台風の動きを予測してそれほど被害のない位置にまで避難は完了しているらしい。そんな当たり前の状況確認さえできる程落ち着いていたアークは銃剣を両手で構えながら目の前に着地したツギハギを凝視した。


『まぁた会えたなぁ~? アーカーシャ・デュラン~? 嬉しいぜぇ~?』


「あぁ。俺もちょっと嬉しいかも」


アークはそう答えるとツギハギの肩が小さく揺れた。


『フェフェフェ! そぉ~かい~? 俺たちは相思相愛のベストカップルみたいだぁねぇ~? でも今のお前はあんまり好きじゃぁないなぁ~?』


クジャはそう告げると腰にあった棍棒を手にして地面に叩きつけた。


『さっきオレを殺ろうとしたぁ時のぉ~? あの感じは良かったぜぇ~? オレを殺したくて殺したくて溜まらない感情が溢れていたのによぉ~今のお前はぜぇんぜんだぁ~? なぁんでそうなっちゃうかなぁ~?』


「ホントに。それ俺もさっきから気になってんのよ。オメーを殺したくて仕方ねーのに何でこんなに……あ」


その言葉にアークはふと気付いた。それは単純で……実に彼らしい理屈だった。つい先ほど彼の身におきた出来事。リオとの口づけという行為が彼を落ち着かせているのだ。


 「……プ……プププ! ぷはははははは!」


アークは思わず吹き出すと声を出して笑い声をあげる。するとクジャは興味深そうに口を開いた。


『ん~? なぁんだぁ~? 教えておくれぇ~? 何がお前を変えちまったのかなぁ~?』


「んふふ……愛……かな?」


熾天式の中でアークはほくそ笑み、それと同時に銃剣を振りかざした!

 背部スラスターの出力を上げてツギハギに突っ込むと同時に銃剣を振り下ろす! ツギハギは巨大な右腕でその斬撃を防ぐと、左腕の棍棒を振り払った!


「あらま。あぶねー」


右わき腹を掠めた攻撃にアークは思わずギョッとする。心の落ち着きと同時に攻撃が良く見える。そしてそれは彼の戦闘力を高めているような気がしている。にも関わらず初撃での打ち合いはクジャに分があった。


「やっぱりオメー強いんだね。勝てる気がしねーわ」


『フェフェフェ~? そうかなぁ~? 俺はぁ~楽しいぜぇ~? こぉんなに楽しいのはぁ~? 七賢者と殺り合った時以来だぁ~』


「あー聞いてんよ。オメークソ親父ともやりあってんだろ?」


『あぁ~カンム・ユリウス・シーベルかぁ~アイツもいい……まるでオレを虫ケラみたいに攻撃してくる様はねぇ~……でも特によかったのは青鬼だぁ~……圧倒的な強さとぉ~人間を殺すことへの躊躇いの無さ~……お前なぁんかの比にならんなぁ~? フェフェフェ!』


「あっそ。でもその悪趣味ももう楽しめねーよ。ここでテメーは死ぬからな!」


アークは再び突貫して体を回転させる。そしてその遠心力で右から横薙ぎに一閃した!


「廻閃ッ!」


その攻撃をツギハギは次は棍棒で受け止めるとクジャの不気味な笑い声が響き渡った。


『フェフェフェ! いいねぇ~! さっきよりもいい攻撃だぁ~』


「右腕ある方は攻撃出来ねーからね」


『へぇ~? 頭は冷えてるねぇ~? いい塩梅だがぁ~? やっぱり面白みに欠けるねぇ~?』


「そりゃいいわ。オメーを楽しませる趣味はねーからね!」


アークは銃剣を振り払って斬撃を繰り出し続ける! その斬撃をクジャは棍棒と右腕で受け止め続け、その隙に攻撃を繰り出してくる!


「残念。こっちも見えてるんだなこれが」


『フェフェフェ! カンム・ユリウス・シーベルと似た戦い方だぁ~ヤツには及ばんがねぇ~』


「でもこっちの方がオメー戦い辛そうだな?」


棍棒との鍔迫り合いの中でアークはそう告げると、視覚の右下に文字が浮かび上がった。


<シリンダー起動完了>


そのワードに彼は直感的に銃剣の引鉄を引く。すると棍棒と触れていた銃剣の刃が爆散した!

 その爆発にアークとクジャは後方に吹き飛んだ!


「うへぇ~! ビックリしたー。何これ?」


アークの問いに答えるように再び資格の右下に文字が浮かび上がる。


<シリンダー起動:破裂剣:刀身を爆散:残段数:5>


「なるほど。でも残段数考えると使いどころ考えねーとな」


アークはそう思いながら液体金属の銃剣が元の形状の戻るのを確認してから再びクジャに視線を向けた。

 ツギハギはゆっくりと立ち上がる。その棍棒は砕かれていてどうやら使い物にならないようだった。


『ほほぉ~? いいねぇ~? 面白い武器だぁ~』


クジャはそう言って背中からもう一本の棍棒を手にする。そしてじっくりとにじり寄ってくる。二人は突貫すると同時に再び攻撃の応酬を開始した! 

 数撃目の斬撃の中でアークは目を凝らしながらタイミングを見て引鉄を引く! 爆散の度に二人は後方へとはじけ飛ぶが、そのままアークは次の行動に映る!


「クッソー! まだイマイチ掴めねーな!」


アークは再度銃剣の形状が戻るのを確かめようとするが、その前にツギハギが距離を詰めてきた!


『フェフェフェ! 銃剣が元に戻るのを俺が待ってあげると思ったかぁ~?』


クジャはそう叫びながら棍棒を振り上げる!

 振り下ろされた棍棒がアークの頭上目掛けて落ちて来る。しかしその打撃がアークの頭に落ちてくることは無かった。


『見つけたぞ……クジャ・ホワイト!』


『あぁ~ん? なぁんだぁ~?』


突如現れたローズマリーのBEにアークはニヤリと微笑む。


「おねーさん助けてくれんの?」


『妙な呼び方はやめろ。我が名はミランダ・ハリトーノフ……貴様にも用はあるが、まずは目の前のこの男だ』


ローズマリーのBEを着たミランダはそう言って薙刀を構える。

 吹き荒れる暴風の中で三体のBEが向かい合う。その光景は正に天王山と呼ぶべき光景に見えた。

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