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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
22/35

第20話『迫』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡地】


<AM10:11>


 想定外の事態とは常に連続するものである。それは想定外の中にある事象が自身の理解の及ばない場所にあるからである。目の前の問題を解決したところで、その問題の中にある別の問題が襲い掛かってくる。その事実を目の当たりにしながらミランダは薙刀を振るい続けていた。


「ええい! 何という数かッ!」


研究所に放ったショルダーキャノンはオリジナルフレームであろう謎のBEを抹消した。しかし、その爆発と同時に弾け飛んだ瓦礫の下から、先程襲い掛かってきた研究所の防衛を司る四足歩行の巨大兵器が無数に襲い掛かってきたのだ!


「ふんぬッ!」


ミランダが薙刀を振るう度に防衛兵器であるスコルピオンは吹き飛ばされる。しかし、その殆どが再び立ち上がり襲い掛かってきた。

 孤立無援のミランダの周囲には完全に沈黙したスコルピオンの残骸は無数にある。しかしそれ以上の数のスコルピオンが沸いて出て来る。彼女はその群れに応戦し、常に移動をしながらも周囲に視線を投げていた。こうなってしまえば出所である場所を叩くしかないと思ったのだ。


「あれかッ!」


彼女の眼前のモニターの一か所が赤く光り焦点となる。そこには地下に繋がる階段があり、そこからまるで軍隊蟻の群れのようにスコルピオンが噴出してきていたのだ!

 見る者によってはグロテスクなその光景にミランダは思わず顔を顰める。それと同時に再び上空に飛び上がると、ショルダーキャノンを起動させ、地下に繋がるルートを断つために照準を合わせた!


「忌々しい蟲共めッ! まとめて塵にしてやるッ!」


双肩のキャノンに熱が溜まっていく。しかしその照準が急にガクリとズレてしまった!


「なっ!」


ミランダは思わず違和感を感じる右足に視線を落とす。そこにはそれぞれが手足や踏み台となったスコルピオンの疑似建造物ともいえる塔が出来上がっていたのだ!

 頂上に届いたスコルピオンがミランダの右足を掴み上空から引き摺り下ろそうとしてくる!


「ひっ……」


その力にミランダは久しく恐怖心を感じる。それはかつての戦争で見た()()()()()を見た時に近いもの……いわば死を感じた瞬間と同じものだった。


「るああああああああッッ!!」


その声と同時に右足に再び負荷がかかる。彼女の右足に絡みついていたスコルピオンに見覚えのあるBEがしがみ付くと、そのBEは槍を振り上げてスコルピオンの背中に向けて真っすぐに突き刺した!

 突き刺されたスコルピオンは機能を停止して地面に落ちていく。それを踏み台にベロニカのBEは跳躍すると同時にミランダの腕を掴んで、更に上空へと舞い上がった。


「隊長、無事か!」


「……ウ、ウィストン。すまん。助かったぞ」


心の内が震えている事を悟られないようにミランダは気性に声を絞り出す。そんな彼女を尻目にベロニカは背部スラスターの出力を最大にして落下速度を最大限まで落としながら言葉を連ねた。


「あの研究所はもう駄目です。帰還しましょう」


「ダメだ。まだ私はツギハギを見つけておらん!」


「研究所があの様なんです。奴も無事とはいかないですよ。何よりクジャ・ホワイトとやり合う前に()()が来ます」


「何?」


ベロニカがクイッと顎を動かす。

 晴天が広がるその先は暗闇に覆われている。視覚を望遠に切り替えるとそこには雷と共に瓦礫を巻き込みながら巨大な渦を巻く暴風があった。


「バカな……予測ではこの地域の天候は問題なかった筈だ」


「この星に予測は通用しないみてぇですね。それにツギハギの野郎も無事じゃあ済みませんよ。コイツを見てください」


ベロニカがそう告げるとミランダの眼前に研究所のデータが浮かび上がってくる。その情報を見た彼女は驚愕した。


「これは……どこでこんなものを!?」


浮かび上がるのは研究所内の立体見取り図だった。所々にノイズはあるが、それは彼女らが作戦前に手に入れたかった代物だった。

 目を見張るミランダをよそにベロニカは淡々と告げる。


「ローズマリーにいる身内が色んな手使って送ってくれたんです。出所は聞かねぇ約束なんでそこんとこお願いします」


何やら不穏な空気を感じとる。しかし、それ以上詮索をするのは今は要らないとミランダは感じ取った。本来であれば軍の上層部としてこのような非合法なやり口は見過ごすわけにはいかない。しかし今の彼女にはそれを気にする余裕がなかった。


「ウィストン。私は此度の件で失態が多すぎた。恐らく本国に帰れば降格……除隊を命じられるだろう。となれば汚名を返上するほどの戦果を挙げなばならん。あのツギハギを討ったとあれば、執り成していただけるやもしれん。散っていった女たちのためにも……私はここで終わる訳にはいかんのだ」


「いや隊長。聞いてました? この見取り図からすりゃ研究所の地下は今頃あの防衛兵器がウジャウジャしてるって訳っすよ? あのツギハギ野郎もくたばってますよ。今頃ミンチになってんじゃねぇんですか?」


「その可能性はある。だが、このノイズが入った地下……ここに奴が居たとすれば……」


ミランダはBEの中で唇を噛みしめる。

BEに包まれれば痛覚は無くなる。しかし彼女はその時確かに唇に痛みを感じたような気がしていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所跡区域 平野】


<AM10:37>


 先程まで空は快晴なのだが、大きな入道雲が海陽の姿を隠している。乾いた風と少し高めの気温……その心地よい空気がアークに眠気を齎していた。もうすぐ起きてから二十時間が経過する。出来る事なら早く帰って風呂に入り眠りたいところだったが、就寝時間は恐らくまだ先になりそうだった。


「ねむい」


「寝てていーわよ。交代で休憩って言ったでしょ?」


「多分寝たら当分起きれん気がする」


アークはそう言って欠伸をしながらライフルを抱えて岩の上に座るリオの横に腰を下ろした。

 研究所の跡地からさらに移動をして三人は小さな岩陰に身を隠していた。熾天式をクラウチングスタートの状態にして屈ませ岩陰と密着させる。そして熾天式の下をシェルター代わりにしていた。


「簡易シェルターの中にあったもんじゃ腹も膨れんし……ウチ帰ったら俺特製の臓物のパルセーヌ煮込みを食おう」


「うげ……来る前にも言ったけど私は絶対に食べないからね!」


顔を顰めるリオに対してアークは不服そうな表情を浮かべてから岩の上からチラリと熾天式の方を見下ろした。


「んで? どうだったの?」


「何が?」


「あのお嬢ちゃんのサンプル取ったんでしょ?」


アークの言葉にリオは目を逸らす。それは現実からも目を逸らしているように見えた。

 リオは小さく溜息をつくとポケットから端末を取り出して「……ん」と差し出して来た。そこから浮かび上がる二次元ディスプレイをアークは眉間に皺を寄せて確認する。そこに浮かび上がる<

Not applicable>の文字に益々表情を顰めた。


「ちゅーことは?」


「この海陽系にある惑星の人間の遺伝子とは合致しなかった。つまり……本当にどの星の人間でもないって事」


「ふーん。つまりあれ? 宇宙人って事? はたまた人造人間?」


「分かんない。でも身体の構造は私たちと変わらない。問題は何であの場所にいたのか……」


「研究所内のデータコピーしたんでしょ? 覗いてみれば?」


「それは駄目でしょ。機密事項なんだし」


「お国に渡してないからまだ誰のモンでもないもんね~」


そう言ってアークは悪い笑みを浮かべる。そして両手を岩に付けながら背伸びするように腰を逸らしてさらに言葉を続けた。


「メー子にあとで見せてもらえば何か分かるかもよ? 大体そーでもしねーと訳も分からずにお嬢ちゃんは連れてかれて人体実験に……そしてあんな事やこんな事を……クソっ! もう十年待てばいいのに!」


卑猥な身体検査を思い浮かべてアークは思わず股間を抑え込む。そんな彼を尻目にリオは深く考え込むように口元を抑えて俯いていた。そんな彼女にアークは溜息をつきながら背中をポンと叩いた。


「ま、気楽に考えればいーじゃん。大体そのデータなんてお国に渡してねーんだからまだ誰のモンじゃねーしね」


「盗人の考えね」


「危ない仕事してる特権だと思わね?」


アークはそう言ってケラケラと笑う。そんな彼をよそにリオは小さく溜息をつく。そして熾天式の下で眠るクレアの方を見下ろした。


「……駄目だよ。でも……クレアは守ってあげないと……絶対に……そんな気が……」


「どうやって?」


「分かんない。でも何とかする。手、貸してよね」


「えぇ? 俺が?」


「当然でしょ? 私とアンタはバディなんだから」


リオは一瞬微笑みながらアークを見てから再びクレアに視線を落とした。

 とんでもなく身勝手な台詞にアークはウンザリとした表情でリオの横顔を見つめる。雲から海陽が顔を出して彼女の横顔を明るく照らすと、アークの心の中に単純な言葉が思い浮かんだ。


「(あー……俺、コイツの事心底好きなんだなー)」


逃れられないような呪縛を感じながらアークはウンザリした様子で頬杖をついて視線を正面に戻す。その先には地平線と目で見て分かるほどの近い範囲での気候の違いが見て取れていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国-神栄教民主共和国 宙域境界線 フマーオス公国第八番艦 艦橋】


<AM10:58>


 「状況は?」


そう告げるフマーオス公国国防大臣ベアトリス・ファインズの赤い肌が電飾によって照らされどこか艶があるように見える。そんな彼女を見上げながらセルジュ・アドリクズは代理で腰を下ろしていた艦長席から立ち上がった。


「遠路はるばる視察ご苦労様です! 問題はございません。先日の射撃訓練におきましては我が軍が七十八%、ザイアン隊の命中率が八十二%となっております」


「我が軍が劣っているではないか。もう少し気概を見せよ」


「はっ! 全艦隊に通達! ベアトリス・ファインズ国防大臣がお見えになられた! 一層の緊張感を持って演習に当たれ!」


セルジュの言葉が通信越しに艦隊全域に響き渡る。その言葉に各艦隊からは声援が上がるように見えた。その光景はセルジュにとって仮初めである。今しがた告げたベアトリスへの報告はあくまでも事情を知らない他の隊員の前での演技に過ぎなかったのだ。

 フマーオス公国と神栄教民主共和国の合同軍事演習。それがヴェーエス星への潜入任務から視線をそらすための議事演習という事は軍内でも上層部にしか情報共有はされていない。セルジュはダミーの会話を終えると艦長席に腰を下ろすベアトリスの耳元に顔を近づけると小声で真の報告を行った。


「変わらず宙域沿いに帝国軍が待機しております。こちらへの攻撃姿勢は見られませんが……」


「牽制だな。向こうの指揮官は掴めたか?」


「ジャネット・アクチアブリです」


その報告にベアトリスの表情が小さく歪ませながら口を開いた。


「七賢者の一角を差し向けてきたか……帝国としても我々の存在は無視できない状況にあるという事だな」


「大臣、差し出がましいようですが、別動隊にラヴァナロス星を襲撃させては? 七賢者をここにおびき出した以上、帝国は手薄になっているはず」


セルジュの提案にベアトリスは小さく首を振った。


「無駄だ。……我が軍を用いても七賢者と互角に張り合えるほどの力を持つ者はいない」


「ですが、ジャネット・アクチアブリがこの宙域に、レオナルド=ジャック・アゴスト、カンム・ユリウス・シーベルはヴェーエス星にいるとの報告があります」


「問題はそこだよ」


ベアトリスはそう言って背もたれに体を預ける。そして忌々しそうに口を開いた。


「帝国皇帝の元には常に七賢者の誰かがいる。ヴェーエス星の衛星に駐留しているレオナルド=ジャック・アゴストを除けばカンム・ユリウス・シーベルとジャネット・アクチアブリは自由に動ける立場だ。今の状況は別段帝国にとって危機的状況ではないのだ」


「どういうことです?」


「分からんか? 帝国皇帝の元には常にビスマルク・ナヤブリがいる。……覚えておけ。この合同演習に参加している我が艦隊とザイアン隊の艦隊が合わさってあの男に戦いを挑んでも勝利を掴むのは難しい。仮に討ち取れたとしても我が軍の被害は帝国と比較して甚大なものになるだろう」


その鬼気迫る表情と口調にセルジュは思わず息を飲む。そして自らの軍と帝国の間にはまだまだ大きな力の差がある事を痛感していた。

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