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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
21/35

第19話『弔』

【星間連合帝国 ヴェーエス星上空 海賊船モーティアス号】 


<AM10:00>


 宇宙から見るとどんな星でも美しく見える。そしてそれは現在の状況も同じくらいに確認ができる。メアリーはベンチに腰を下ろしながら備え付けの窓からヴェーエス星を見下ろすことで星の状況を把握していた。


「(面倒なことになっちょるネ)」


ヴェーエス星の上空には無数の渦が蠢いている。その速度は一般的な惑星の物を凌駕しており、もしも並の人間が渦の中に入れば身体が引きちぎられるほどの物だろう。


「随分とくつろいでいるね。この状況が分かっているんだろう?」


いつの間にか彼女の背後に立っていたエルディンの声にメアリーは驚く素振りも見せずに膝の上に置いていた端末に視線を落とした。


「暫く降りるんは無理じゃネ。じゃけン、今は出来る事をやっとくしかないじゃロ。ほイ」


メアリーはそう言って端末から小型のチップを抜き取るとエルディンに差し出す。

 エルディンは小さく息をついてから小型チップを受け取ると、壁に手を当てながらメアリーが覗いていた窓からヴェーエス星を見下ろした。


「あのハリケーン、研究所まで届きそうだね。あと二、三時間といったところか」


「二時間と四二分じャ。ばってン、そいは普通の星の気流での話じゃけェ。早くなるかもしれんシ、遅くなるかもしれン」


「アークたちはこの状況を分かっているのかい?」


「さァ? あん通信の後から連絡が通じんけン。マ、まだ敵が残っとるんじゃロ。そいよりあん船長さんば何テ?」


「突入してすぐに脱出が必要だからね。今そのルートを再度検出中だそうだ」


エルディンはようやく窓から視線を外すと、小型チップを握り締めてメアリーに背を向けた。


「エっちょン」


メアリーが声を掛けるとエルディンは振り返ることなく人差し指と中指で挟んだチップをゆらゆらと振った。


「いいのを作っておく。安心してくれ」


後姿まで美しくエルディンはそのまま去っていく。彼の後姿を微笑で見送ったメアリーは膝の上にある端末を閉じようとしたところで、メールの受信を告げるランプが光るのに気が付いた。

 浮かび上がる差出人名を見てメアリーの表情が幾分か朗らかになった。


「……ププ! もう“留学生”じゃなかろうニ」


メアリーは思わず吹き出してから浮かび上がる二次元ディスプレイに指を当てて新しいページを開いた。


[留学生:こんにちは。どなたかいらっしゃいますか?]


[キャタピラ:留学生ちゃん久し振りー]


[キャタピラ:元気だった?まだラヴァナロスにいるの?]


[留学生:キャタピラさんお久しぶりです!私は留学も終わって自星に帰ってきてます]


[留学生:空気が美味しいです]


[キャタピラ:そうなんだー私はここ数日宇宙にいるからそろそろ自然重力が恋しいわ]


[SR:どうもお久しぶりです。懐かしい方が居ますね]


[留学生:SRさんお久し振りです。自星でのゴタゴタが落ち着いたので久し振りに開いてみました]


[キャタピラ:留学生さんの住んでる所って帝国じゃないの?]


[留学生:実はローズマリーの人間です。留学というのも帝国に留学だったんです]


[SR:へー! いいじゃないですか。共和国の方にも神栄教徒の方沢山いらっしゃるんで一度行ってみたいです]


[キャタピラ:そうなんだ。そういえば共和国って今どうなの? 帝国は神栄教とフマーオスで三分しちゃっててちょっと混乱状態なんだけど]


[留学生:こちらの国はそこまで混乱はないですよ。政府の方は帝国ともう一回同盟を結びたいみたいですけど]


[SR:へぇ。でも帝国とは仲良くできないでしょ?]


[留学生:もしかしてバルトルク研究所の爆発事故の話してます? ローズマリーが裏で動いてたとか完全な陰謀論ですから]


[SR:でも日のないところに煙は立たないですしね]


[キャタピラ:神栄教も一枚噛んでたって話もあるよね。ほら、犠牲者に一人も神栄教関係者が居なかったから]


[SR:そうですけど、あの時にウチの教皇はヴェーエス星にいましたからね。トップいる星でそんな危険なことしないでしょ]


[キャタピラ:ま、妙な陰謀論は置いておこうよ。今日は掃除屋さん居ないけど久しぶりの再会ですし。留学生さんも何か聞きたい事とかあったんじゃないの? それとも世間話?]


長い会話を終えメアリーは小さく息をつく。久し振りのこの空間の居心地の良さは捨てがたいものがあるが、今はそうも言っていられない。メアリーは落ちるつもりで立ち上がろうとしたが、次の一文が彼女の表情を歪ませた。


[留学生:最近知ったんですけどトソヤマ星で完全隔離で個人入院してる人がいるらしいんですよ。しかも八年前から]


引っ掛かったのは八年前というワードである。

 八年前……アークやエルディンと出会った孤児院が閉鎖され、三人でハートレスチルドレンという呼称が付けられるほどの事件を引き起こした年。


「……考え過ぎじゃネ」


メアリーは自嘲気味に小さく首を振る。そしてそっと端末をスリープ状態にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星上空 海賊船モーティアス号 船長室】


<AM10:11>


 レオナルドは思わず笑ってしまっていた。ホログラム越しとはいえ懐かしい顔と久しく一対一で会ったというのに彼の表情は昔と全く違うのに変わらなかったからだ。


「でもまぁ、こういうのは今回が最後にしてくださいね」


『……』


正面の男は無言で頷く。そんな無骨な態度にレオナルドは益々頬を緩ませながら送られてきた時間を確認した。


「約二時間後に到着の予定は変わらずですね。こちらはそれまでに突入ルートを算出しておきます。滞在時間は十分も無いとお考え下さい」


『……承知した』


久しく聞いた声にレオナルドは「では」と告げて通信を切る。それと同時に整備室へと回線を開いた。


「僕です。二時間後には僕も出ます。整備の方お願いしますね」


『お頭ぁ誰に言ってんだ? もうピカピカに磨いてあるってなもんよ!』


整備士の元気のよい声にレオナルドはニコリと微笑む。そして眼帯を外して見えない左目を見開いた。


「二十年待たせましたからね……今行きますよ……ビスマルクさん」


レオナルドの脳裏に青鬼と戦慄された仲間の顔が過る。

 今回の件は自分たちにとって戦いではない。弔いなのだとレオナルドは改めて感じていた。

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