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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
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第18話『神』

【星間連合帝国 ヴェーエス星上空 デセンブル研究所跡】


<AM08:45>


 違和感……生きていればそう言った感覚に陥ることは得てしてあるだろう。ミランダはその感覚に今まさに陥っていた。倒壊した研究所から現れた見た事の無いBE。恐らくこれこそがエリーゼから指示のあったオリジナルフレームと呼ばれるBEなのだろう。となればこの奪取こそが彼女の最大の目的でもある。このオリジナルフレームと研究所内の情報のために彼女の愛する部下たちは散っていったのだ。


「停止しろ! これ以上抵抗するようなら破壊もやむなしだ!」


ミランダはそう叫んで左腕に装着していた実弾式の小型ガトリング銃を発射する。一秒に数十発発射されるそのガトリングの弾雨を謎のBEは華麗な側転やバク転、時には膝をつきながら這いつくばって全てを躱していた。


『ねぇ! ちょっと! 一回休戦! 一回休戦! 聞けやメガボケ!』


『もうほっといて逃げようよ。ちゅーかリオ避けんの下手だね。ププ! あ、しばらく交代無しでいい?』


『接近戦はアンタの仕事って取り決めたでしょーがメガエロボケ!』


「何なんだ貴様らはーーッ!」


一つのBEから二つの声がする。いや、それだけではない。近距離からの凄まじい攻撃の後に瞬時に距離を取る遠距離攻撃。まるでタイプの違う攻撃が交互に繰り出されるこの違和感が彼女を苛立たせていたのだ。


「ええい! ちょこまかと!」


ガトリングの照射をやめたミランダは腰元から小さな柄を取り出す。その柄は左右に伸びると、先から液体金属で形成された薙刀となった!


「姉様……貴女の残したこの華月……最初に吸わせるのが()()()の血ではない事をお許しください」


額に華月の刃を突き合わせる。そして大きく振りかぶると謎のBE目掛けて突貫した!


「チェストーーーーーーッ!」


ミランダの振り払う薙刀はその細さに似つかわしくない大木のような唸り声をあげる!

 その斬撃は謎のBEを捕えたかに見えた。しかし謎のBEはまるで残像を残したかのように消え去り、振り払った薙刀の風圧は瓦礫を吹き飛ばした!


「(……動きが変わった……よもやあのBE……二人で着用しているのか……?)」


 舞い上がった土煙の中に入り謎のBEの姿は見えない。熱源センサーのおかげでその位置はハッキリと見えているが、それは向こうも想定済みなのだろう。現に熱源は一か所に留まることは無く常に移動している。


「(見事な動き……これは天性のものではないな……彼奴より師に興味が沸く……)」


姉を殺した()()()以外にミランダは初めて興味を持つ。彼女は薙刀を振り払って土煙をかき消していく。そしてBEの中で目を見開くと、スラスターを起動させて残った土煙の中に隠れる熱源に向かって突っ込んだ!


「いい動きだがこれまでだッ!」


 熱源センサーから目視に切り替わって確認したBEにミランダは薙刀を振り下ろす! すると謎のBEは腰元に折りたたまれていたリボルバーを引く抜いた!


「ッ! 何だその武器は!?」


薙刀を受け止めた謎のBEが持つ武器……それは長筒と言える銃口に刃が備わっており、その形状はククリ刀に似ていた。

 振り下ろした薙刀を受け止める謎のBEの足が地面にめり込んでいく。すると再び奇妙な二つの声がミランダの耳に届いた。


『ちょっと! リオ! 説得すんなら早くして! この人スーパー力強い!』


『一回聞いてって! 瓦礫の下に』


「貴様たちと問答するつもりはない! まずはそのBEを脱げ! そして我が同胞たちの仇……クジャの居場所を言え!!」


薙刀と銃剣の刃から火花が飛び散る。形状記憶の液体金属である以上、刃こぼれの心配は無いが修復には時間が掛かる。次のクジャとの戦闘を考えるならば、ここで無駄な消費を避けるべきとミランダは判断した。そして一度距離を取るように後方へと飛ぶと、まるでその間合いを保つかのように謎のBEも突っ込んできた!


『もうイヤ! 逃げてばっかり! やっつけたる!』


『落ち着けメガボケ! 簡単に勝てる相手じゃないでしょーが!』


謎のBEは急に体制を変えると右足の踵でブレーキを踏むと後方へと下がっていく。その行動はフェイントというよりも慌てて停止するように見て取れた。

 ふざけた動きの連続は彼女の目には挑発のように映る。それが益々彼女を苛立たせた。


「いい加減にしろッ! 我が同胞たちの無念……貴様たちの命で償ってもらう! その後はあの頭のおかしなツギハギだ!」


ミランダはそう叫ぶと上空に飛び上がる! そして背部にクロスして収容されていたショルダーキャノンの発射体制に入った!


「……司令には謎のBEは破壊したと報告しておこう」


『ギャー! このギガ分からず屋! ダメダメ撃っちゃダメ!』


『だから言ったじゃん! あんなの放っておいて逃げればよかったんでしょ! イヤだーー! 死にたくないー! まだ俺リオの乳首を見てないのにーーっ!』


『……ちょっと待って? 何で今嘘ついたの?』


『……え? いいいいや、な、何です?』


『アンタの感情流れ込んできてんだけど!? お風呂覗いたってどーいうこと!?』


『おおおおおお風呂じゃないよ! 脱衣所だもん!!』


『はぁ!? つーかガッツリ私の身体見てんじゃん! お前だけ死ねぇッ!!!!』


「痴話喧嘩の続きはあの世でするがいい!」


ショルダーキャノンの砲身に熱がこもっていく! エネルギーの充填も完全に完了したことが彼女の眼前に浮かび上がった!


『もうだめだぁ! 最後に白状します! 俺は別に好きでもない子の太腿に擦りつけたりしてません!』


『擦りつけたって何を? ギャーーーーーーッ! エクサ変態ーーーーーーッ!!』


「くたばれッ!!」


双肩から伸びる砲身の熱が最高点に到達する……ミランダは目を見開くと閃光が走った! 

その瞬間――双肩から二本の光が放たれる。発射された二本の光が重なり巨大な光が研究所跡を包み込んだ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星上空 デセンブル研究所跡】


<AM09:27>


 轟音と爆発、それは正に戦場と呼ぶに相応しい光景だった。そしてその爆発に巻き込まれて死ぬ。それは戦場に出た人間であれば覚悟しなければならない事でもあった。


「…‥何? どういうこと?」


熾天式の中でリオは冷や汗を流しながら思わず戸惑いの声を上げる。それも当然だ。ショルダーキャノンが放たれた瞬間、彼女は何とか逃げようと背部スラスターを最大にして研究所跡地から飛び出そうとした。しかし、間に合う事なく光に包まれそうになった事が目に残っていたのだ。


「え? 何でこんなとこにいんの? リオ何かやったの?」


「ううん。逃げようとはしたけど」


アークの思考が流れ込んでくる。その戸惑いは彼女にとっても同意の物だった。

二人が立っていたのは先程までいた研究所跡地ではなく、爆発地点から数キロメートル離れた場所だったのだ。

 研究所跡地から煙が上がる。あの場にいた筈の自分たちが今ここまで離れた場所にいる。それはワープと呼べるようなものだった。


『あのー』


急な声にリオはハッとする。しかしそれは彼女にとって大切な懸案事項を思い出させた。背中に背負っているシェルターの安否である。


「クレア! 大丈夫!?」


『はい。あの、あまりにも振動がすごくて起きちゃいました。睡眠用のガスも足りてないみたいで』


「何か分からんけどみんな無事でよかったね。とりあえずメー子たちに位置情報変更の連絡しとこーか。もうイヤここ。早く帰って風呂入って三人で同じベッドで寝よ」


アークの言葉にリオは小さく首を振った。


「ダメ。今は通信を傍受される可能性があるでしょ」


「じゃどーすんの? あれ? 待って? 一緒に寝るのはOKってこと?」


まるで何も考えていないアークの言葉にリオは溜息をついた。


「アンタね。少しは頭使いなさいよ。……とりあえず、もう少し研究所から離れましょう。で、降りて来る船の反応があったらそこまで移動しよ。それともうツッコむ気力ないから」


「はーい……というか突っ込むって……にゅふふ! 何かエッチじゃない?」


「あー! もうメガ気持ち悪い! ハッチ開放!」


リオがそう叫ぶと同時にリオの身体に実体の感覚が戻っていく。そして熾天式の背部ハッチが開かれると、彼女は「ぷは!」と息を吐き出して外に這い出した。


「あれ? リオ出ちゃうの? もっと一緒にグヌ!」


何かを言う前にリオはアークの後頭部を踏みつける。そして解放された背部ハッチをよじ登ると、取り付いているシェルターを開いた。

 シェルターの中で小動物のように愛らしく丸まっていたクレアが見上げて来る。その愛らしさにリオは思わず笑顔を作った。


「あれ? 出るんですか?」


小首を傾げる仕草にリオは蕩けそうな気分になりながら彼女の両脇に手を入れてシェルターから持ち上げた。


「うん。護衛は変態に任せよ」


「おい! 聞こえたぞ! スケベは良いけど変態はダベフッ!」


顔を上げていたアークの顔面を踏みつけてから地面に降り立った。

 クレアを地面におろしてリオは周囲を見回してから自分のこめかみに汗が滴っているのを感じ取った。


「え? あ、あっつ!!」


リオは慌てて腰元のボタンを押して身体にフィットしていたスーツの中に空気を入れると、ダボダボのツナギ状態にして上半身をさらけ出した。


「暑い! 何これ!? ヴェーエス星って海陽から一番離れてるんじゃないの?」


「核が傷ついたせいで地熱が溢れている場所があるんです。ココが正にその地点ですね。他にも重力崩壊した場所や吹雪が止まらない場所、それに呼吸ができない場所もあるみたいですね」


クレアも少し暑そうに手で顔を仰ぎながらそう告げる。そして腰にぶら下げていた小型タブレットを見せてきた。

 過去の事故でヴェーエス星は人の住めない星になった。それは知っている。しかしその影響がここまで出て来るとはさすがのリオでも想定外だった。


「とりあえず念のためにビバークできるようにしておこうか。クレア、住環境可能な地点ってある?」


「あ、はい。ココから南に十八キロ地点に行けば」


「よし、じゃあとりあえずそこで待機しよう」


「じゃあもう一回お兄ちゃんと」


「それは駄目。確かにこのBEは凄いけど二人で連携するんならもっと呼吸を併せないと……今の私とアークじゃ連携がうまくできないのよ。アーク! 護衛は交代ね!」


「えぇ……俺一人で?」


「何か文句あんの? ()()()()()許してないんだけど?」


「あ、ハイ」


大人しく返事をしてアークは一人で熾天式を起動させる。

 まだ予断は許さない。そして危険はまだすぐそこにある。そんなリオの予感は残念なことに外れることは無かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星上空 デセンブル研究所 地下】


<AM09:42>


 瓦礫の山がパラパラと崩れ落ちる。その中から巨大な右腕が飛び出るとツギハギのBEが姿を現した。床に散らばった瓦礫をツギハギは足蹴にしながらヨタヨタと歩くと、胡坐をかくようにドカリと腰を下ろす。それと同時に背部ハッチが開くとクジャがヌッと這い出てきた。


「フィーッ……フェフェフェ……フェフェフェフェフェフェ!!」


笑いが止まらない……クジャは笑ったままツギハギから降り立つとまだ笑いながら室内に設置された機械の前にヨロヨロと歩み寄っていった。


「あー、えー? 面白いなぁ~なぁんでかなぁ~? なぁんでこんな面白いんだぁ~?」


クジャはそう言って残されたデータを見つめた。研究所内のデータはほぼ消滅されている。恐らく先に到着していた帝国軍が持って行ったのだろう。しかし時間が足りなかったのかデータの完全削除にはまだ少し時間が掛るようだった。

 だが、クジャはそんなものに興味はなかった。彼が知りたかったのはもっと単純な事である。


「えー? んー? 誰なんだぁ~? アレを着ていたのはぁ~?」


クジャは先程戦闘したオリジナルフレームの着用者を調べ上げる。するとそのデータがあっさりと浮かび上がった。


「ん~? アーク・デュラン、リオ・フェスタかぁ~……フェフェフェ! いいねぇ~! イイ名前だぁ~? 記憶したよぉ~?」


浮かび上がる二次元ディスプレイをクジャは涎に塗れた舌でベロりと舐める。

 クジャの感情は複雑だが分かりやすい。彼は単純に理解しているのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()ということを……


「あぁ~あと……お世話になったねぇ~? 三流王様~?」


それは彼なりの手切れ金なのだろう。だが、当然彼にそれを支払う義理感情はない。

クジャはそう思いながら僅かに残っていた研究所内のデータをフマーオス星に向けて送る。それが順調に届いたとしても彼らの手に届くのは数か月後だろう。

 それが後に多大な悲劇を巻き起こすなど、この時は誰も知る由が無かった。

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