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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
19/35

第17話『愚』

【星間連合帝国 ヴェーエス星上空 人工衛星インドラ】


<AM08:19>


 両足の義足を慌てて装着したせいか走りづらい。しかし、メアリーは居ても立ってもいられなかった。何より、この喜びを早く共有しなければならない相手がいるのだ。

 通行人を急停止させ、台車を運ぶ人とぶつかる旅に「何だぁ?」「あぶねぇな!」と声が届くが彼女は気にしない。そうやって走り抜けた彼女は息を切らしながら客室の前で立ち止まった。

扉は固く閉ざされている。しかしメアリーは液体金属で形成された義手で無理矢理引っ張ると「バキッ」という完全に何かが壊れた音を立てて扉はこじ開ける。簡素ながらも他の関係者よりはまともな室内に居たのは半裸の男女だった。二人は驚いた様子でこちらに振り返るが、メアリーは気にすることなく叫んだ。


「エっちょン! アッちょんとリッちょんば無事じゃったばイ!」


「そうか。……よかった」


半裸でベッドに座っていた一人、エルディンは開けたシャツの隙間から肉体美を見せつけながら立ち上がると、冷静さの中にどこかホッとしたような表情を見せながら小さく微笑む。そんな彼を尻目にメアリーはベッドの上でほぼ全裸状態のカルキノス星人女性の美しい肌を見てニヤリと笑った。


「お姉ちゃン。男前もええけド、同性の方がもっと喜ばせて上げられるばイ」


メアリーはふと優しく微笑むと、カルキノス星人の女性は慌ててシーツでその美しい身体を隠す。

 恥じらいというよりも身の危険を察しての行動に見えるのがメアリーにとっては癪だったが、今はそれどころではなかった。


「すぐに救援に向かうばイ。ミヤちゃんにはすぐに船ば出せるようドッグに行ってもらったけン」


「分かった。だが、まずはボスの顔色を伺うとしよう。後でまた何を言われるか分かったものじゃないからね」


シャツの前を閉めるエルディンは冷静にそう告げる。

 先のインドラを占領しようとした一件で、実はあの後二人はこっぴどくカンムから説教を受けていたのだ。その事を思い出したメアリーは面倒そうに頷いた。


「サ、行くばイ」


「ああ……それはそうとメアリー。義足が左右逆だよ」


着替え終えたエルディンはそう言って微笑むと、裸のカルキノス星人の女性を置き去りにして部屋から出ていく。

メアリーは「おオ」と言ってベッドに残された女性の横に腰を下ろすと、左右の義足を取り換える。そして「ウシ」と一言呟くと、女性の手を取ってそっとキスをした。


「寂しかったらあぎゃん男よりウチに言イ」


彼女はそう言って出来る女のような強かな微笑を浮かべてウィンクをすると、エルディンの後を追った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


<AM08:31>


 三つの球体の中にそれぞれ配置された駒……それを眺めながらカンムは「……ムゥ」と小さく唸り声をあげた。そんな彼にレオナルドは眼帯の位置を整えてから頭をポリポリと掻いた。


「あの、もう詰んでますって」


「……まだ分からん。十三手先にこちらの穴を」


カンムが盤上を睨みながら言いかけたところでレオナルドは遮るように口を開いた。


「その場合は次の手で陣替えしちゃいます。その次は攻撃に転じようが防御だろうが火中の陣に変えて終わりですね」


先読みを見越してレオナルドは小さくほくそ笑む。

 腕を組んで唸るカンムを見てレオナルドは少し得意気な表情を浮かべながら立ち上がった。


「二百四十五勝二百四十四敗。これで僕が抜けましたね」


「……一年ぶりにな」


「いいえ。十ヵ月と九日です。それと勝ち抜けの回数は僕の方が二回多いですからね」


レオナルドはそう言ってニヤリと微笑むと、カンムはどこか悔しさを滲ませながら「フッ」と小さく鼻を鳴らす。

 盤上として使用していた三つの球体をレオナルドが消し去ると、勢いよく扉が開いた。しかしレオナルドもカンムも動じることは無い。そんな二人の方に向かってズカズカとザズールが走り寄ってきた。


「お頭、またガキどもが騒ぎ出したぞ」


ゴーグル越しにも怪訝な雰囲気が伝わるザズールにレオナルドは余裕の微笑みを見せながら振り返った。


「そうですか。カンムさんの予想通りでしたね。本当に活きの良い部下さんたちです」


「皮肉のつもりなら笑えんな」


「単純な称賛ですよ。ザズールさん、救援の準備を」


既に何が起きたのか聞いたかのような返答にザズールは驚きを見せるがその表情はすぐに打ち消された。長い付き合いの彼ならば、レオナルドの洞察力など頭に入っているからだろう。

 そんなザズールだったが、怪訝な雰囲気は残したまま反論してきた。


「あまり賛成できねぇな。()にゃセブンスカーやローズマリーの軍勢がいんだろ?」


「ローズマリーの女傑軍ならすでに撤退しているでしょう」


「あん? そんな話聞いてねぇぞ?」


ザズールはゴーグルを操作して情報を収集するが、レオナルドは身支度を始めながら話し続けた。


「スカーフェイスが来た時点で並の軍勢では太刀打ちできませんよ。彼は災害みたいなものですからね。ココはカンムさんに任せますので、組員の皆さんにもそのように伝えてください」


「おい待て。お頭……アンタまさか」


ザズールはレオナルドが何をしようとしているのか察したのだろう。怪訝から次は完全に驚きの雰囲気に切り替わっていった。


「救援の指揮は僕が執ります。ザズールさんも一緒に来てくださいね」


「久し振りにお頭が戦場に出るのか!? そうなら早く言ってくれってんだ! 野郎ども! とっとと起きやがれ!」


驚きから歓喜に変わったザズールは部屋から飛び出していく。

 その後姿を見送ったレオナルドは笑顔のままカンムの方に振り返った。


「と、いう訳でココはお願いしますね」


レオナルドの言葉にカンムは不服そうにタバコに火を点ける。そんな彼にレオナルドは歩み寄ると、カンムさえ見切るのは難しい速さで腕を動かして咥えられていたタバコを奪い取った。

 カンムは怪訝な表情でレオナルドの方に視線を送る。しかしレオナルドは笑顔のまま奪い取ったタバコを一吸いしてから素手でもみ消した。


「ケホッケホッ……この部屋は禁煙です。……もう一度言います。ココはお願いしますね」


子供のような体格のレオナルドはその小柄さに見合ったようにタバコの煙に咳き込んで、眼帯を付けていない右目に涙を浮かべる。そんな彼の再びの言葉にカンムは苦笑しながら両省の頷きと共に羨望の言葉を口にした。


()()()の戦いを拝見できるのは今や貴重だ。ウチの者……特にアークには見ておくように言っておいてくれ」


「承りました」


「……私もお目にかかりたかったがな」


最後に恨み節のような言葉をカンムは残す。すると通信機の着信音が響き渡った。

 レオナルドが通信機に手を掛けようとすると、カンムが「いい」と言って立ち上がり通信機の前に立ち着信を受け取った。


『お頭! 報告っス!』


「暫くは私が預かる。何かあったか?」


カンムがそう告げると、通信士らしき元宇宙海賊の男は意気揚々と語り始めた。


『お客さんの方から連絡があったッス。正午にはヴェーエス星に入るらしいっスよ』


「……分かった。道中の無事を祈るとだけ伝えておいてくれ」


『ウッス!』


元気のよい返答を聞いたカンムは通信を切ると、レオナルドの方に振り返る。その通信を聞いていたであろうレオナルドは小さく肩を竦めた。


「では」


「ああ」


それだけを言い残してレオナルドは部屋を後にする。

 彼らの勝利は揺るがない。その理由が正午に到着する。それがカンムの中で一つの結論を導き出していた。


「(レオナルドめ……正午まで引き延ばすつもりだな……無様な真似を……いや、それは私もか)」


その愚考を彼は咎めることは無い。何故なら、自分でも彼と同じ行動をしたと自覚できていたからだ。

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