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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
14/35

第12話『交』

【星間連合帝国 ヴェーエス星―人工衛星インドラ航路】


<AM05:21>


 中に居ては外からの景色は分からない。

ヴェーエス星はその言葉を象徴するかのように、氷に覆われたように真っ白な星だった。この宙域に入るまで熟睡していたメアリーは初めて直にその星の姿を見て、珍しく感慨深げな表情を浮かべていた。


「……カカカ」


自らの心情を察した彼女は思わず小さく笑ってしまう。

 ここは自身が生まれた……いや、無理矢理産まれることになった星であり、彼女の両親が死んだ星でもある。と言っても映像や画像でしか見たことが無い両親の存在は彼女にとってそれほど愛着もなかった。ましてや二人とも海陽系に名を轟かす人物であるため、身内というよりも歴史上の人物という印象の方が強かったのだ。


「何を笑ってるのー?」


操縦席に座るミヤビが正面に顔を向けたまま尋ねて来るが、メアリーはいつもの調子でスナック菓子を口に頬張った。


「自分が生まれた星を見てセンチになったんヨ」


「そー? てっきりメッちゃんのパパママの話を聞く気になったのかと思ったわー」


「そぎゃん情報これから役立つとも思えんけン。ウチが知りたいんはもっと世間を騒がせられることじャ」


メアリーはそう言ってまたしてもケラケラ笑う。

 彼女の父はその知略と交渉術で皇帝を支えた八賢者の一人ヴァイン・ブランド、母は帝国のフィクサーであるガンフォール家の次期家長と呼ばれたシャルロット・ガンフォールである。その血を引くメアリーの存在は世間に知らされてはいない。それほどの血統を持つ彼女の存在は利用されれば危険だったからだ。

 そんなメアリーと同じく八賢者の母を持つエルディンは訝しげな表情で窓から宇宙に漂う人工衛星インドラを見上げていた。


「せっかくの男前が歪んじょるヨ」


頬を窓に突き付けて見上げるエルディンはメアリーの揶揄う言葉に反応を見せず、座席から立って操縦席に向かって早足で駆け寄ると口を開いた。


「ミヤビ。インドラの映像を出してくれ」


「何ーどーしたのー?」


「いいから早く!」


珍しく焦った表情と声にミヤビだけでなくメアリーもただ事ではないと察した。

 ミヤビが機器を操作して操縦席の後ろにある映写機を起動すると、その上に三次元のホログラム映像が浮かびあがる。そこに浮かんだ人工衛星の形状を見てメアリーも思わず絶句した。


「インドラの矢が……起動している」


「……どぎゃんことじャ……ミヤちゃん!」


「私に言われても分かんないわよー」


間の抜けた口調の中に戸惑いを見せるミヤビを見るに彼女も本当に状況が分からないのだろう。

 インドラの矢。それは人工衛星インドラからヴェーエス星に放たれるレーザー兵器である。その破壊力は放たれた地点から半径15㎞を焦土と化すと言われていた。


「……ヴェーエス星は元々研究惑星だ。インドラの矢は各研究所で起きた他宙域にまで被害が及びかねない事故を処理するために製造されたと聞く」


「ばってン! 今はそこまでの状況じゃないじゃロ!? クソが!!」


メアリーは憤慨しながら声を荒げる。エルディンは冷静さを保ちながらも怒りを押し殺しすように声を振り絞った。


「今回僕らが受けた仕事はデセンブル研究所内にあるデータの収集、そしてオリジナルフレームと呼ばれる初期BEの奪取だ。そしてそれを狙いにフマーオスやローズマリーまでもが動いている。僕らが奪取しようとしているのはそれほどの価値があるという事だ」


「敵にくれてやるくらいじゃったらブチ壊すっちゅうわけかイ。ウチの身内ば殺してモ」


思わず力を込めた拳をメアリーが壁に打ち付ける。すると内装がパラパラと崩れるのを背後に感じたのか、ミヤビは再び間の抜けた口調で諫めてきた。


「メッちゃーん? アナタが本気で殴ると船に穴が開いちゃうんだから落ち着いてー?」


そんな彼女の言葉にメアリーは益々目を吊り上げた。


「アッちょんとリッちょんが残っちょるんじャ! 落ち着いとれるわけないじじゃろがイ!!」


メアリーはそう叫ぶと普段は情報操作に使う右腕を三本に分割させると、まるでトライデントのようにしながらミヤビに詰め寄った!


「ミヤちゃン。すぐ戻るんじャ。ウチがデータ持っちょる以上、上の連中も撃てへんじゃロ」


「落ち着けメアリー」


同様の気持ちを持っているはずなのにミヤビと同じく諫めようとするエルディンを彼女は睨みつけるが、エルディンは分割したメアリーの腕を掴みながら続けざまに口を開いた。


「仮に降りても僕らごとインドラの矢を浴びせるだけだ。あれを撃つ理由は手に入らないなら壊してしまえと言う思想からくるものなんだからね」


「じゃあどうせぇっちゅうんじャ!!」


「今はインドラに向かうしかない。あそこにはボスがいるんだ。あの人がこんな作戦をやすやすと進めるとは思えないからね」


エルディンの言葉にメアリーは論破されたような悔しさを感じながらも三つ又になった腕を通常の状態に戻すと、追い打ちをかけるようにエルディンが彼女の肩を叩いてきた。

 それが何を示すのか察したメアリーは口をすぼめながらミヤビの方に向き直った。


「ミヤちゃン。ゴメン」


「いーのよー。分かんないかもしれないけどー私だってちょっと怒ってるんだからねー」


ミヤビはそう言いながらいつもの調子でインドラを一点に見つめている。

 今はインドラに向かい状況を調べるしかない。そしてもしもの場合は……メアリーは少し決意したようにエルディンの方に視線を投げると、彼は小さく頷きながらブラスター銃を腰から胸に仕舞いなおしていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星宙域 人工衛星インドラ 通信室】


<AM05:25>


 ザズール・ワインスタインは合理主義者である。彼が所属する宇宙海賊ホーンズはそれほど歴史がある海賊団ではなかったが、先代の頭領ががむしゃらに突き進む人間だったため、彼は合理的に動くしかなかったのだ。それは先代の息子である現頭領のレオナルドになってからも変化はなかった。


『感謝するよ。ザズール・ワインスタイン』


そんな彼にそう告げる狐のような耳を持つレオンドラ星人の男……セドリック・ガンフォールは不遜な態度でそう告げる。

 顔は笑いながらも明らかに見下すような態度を見せるセドリックにザズールは眼鏡変わりのゴーグルの位置を直しながら口を開いた。


「お前さんの為じゃねえ。俺は俺の意思でインドラの矢を動かしただけだ」


『……口の利き方には気を付けた方がいいぞ?』


「そうかいそりゃあすまなかったな。アイゴティヤ星知事さんよ」


ザズールは吐き捨てるように建前の謝罪を見せる。合理的に考えれば一惑星の自治権を任せられる知事とのパイプは大切にするべきである。しかし、ザズールは彼を信用してはいなかった。対義の為にこのインドラの矢を使おうとする自身と違い、セドリックは明らかに私欲のために今回の件を消そうとしているように見えたのだ。


「(ま、その私欲の先にいんのは宰相だろうがな)」


ザズールは心の中で悪態をつきながら立ち上がると不服そうに睨みつけて来るセドリックに向かって再び口を開いた。


「とにかく、インドラの矢は射撃体勢に入った。今近い惑星への手回しはしといてくれ」


『君に言われるまでもない。そちらも私の足だけは引っ張ってくれるなよ』


「足を引っ張るだ? 生憎だが今までもこれからもお前さんのつまらん野心に付き合うつもりはねぇ」


『その言葉……いずれ後悔するだろうな』


そう言い捨てるとセドリックのホログラムはパッと消え去った。

 いかにも彼らしい捨て台詞にザズールは思わず鼻を鳴らす。そして外と遮断されていた窓を透過させると、窓からヴェーエス星を見下ろした。真っ白な星を見下ろしていた彼はゴーグルを外すと使い物にならなくなってしまっている目を見開く。


「許せよ……わけぇ連中……()()()()は絶対に外に出すわけにはいかねぇんだよ……」


そう呟くと彼はそっと目を閉じて自らのせいで犠牲になる若い世代の命に祈りを捧げた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所敷地内】


<AM05:30>


 先程の恐怖心は完全に消えていた。その恐怖を抱かせた対象は、今やリオにとってまるで愛玩動物のような愛おしさに溢れている。少女の歩く後ろ姿どころか、裸足でペタペタと床を鳴らす足音すら愛らしいかったのだ。しかし、リオが少女に愛おしさを抱くのはその愛らしい姿や仕草の為だけではなかった。


「んで? ホントに知ってんの?」


辺りを見回しながらそんな少女の後ろを歩くアークがそう尋ねると、少女は振り返りもせずに愛らしい足音を鳴らしながらぶっきらぼうに返答した。


「何回も言わせないでください。私はずっとここで暮らして来たんですから知らない場所なんてありません」


「そうなの? じゃあ研究所内のことは全部頭に入ってるんだ?」


リオが笑顔でそう問いかけると、少女はニコッと微笑みながら振り返った。


「いいえ! 実はまだ深い階層があるんですけどそこは入れなくって……ごめんなさい」


「あ、ううん! あー泣かないで? 別に責めてるわけじゃないんだよ?」


涙目になる少女をリオは反射的に抱き寄せる。

 それは人に限った話ではない。元々愛らしい姿かたちをしていればどうしたって人間は可愛がるものである。そしてもしその愛らしい生物が自分にだけ笑顔を見せてくれれば可愛さが倍増……いや数千倍にまで膨れ上がるものなのだ。


「それで、えっとキミ名前は?」


「ナマエ? なまえって何ですか?」


「お嬢ちゃん。名前っていうのは」


「私はこちらの方にお聞きしているんです」


少女はそう言ってリオに抱き着いてくる。

 そんな少女を見てアークは「あっ! 羨ましい!」と悔しそうな表情を浮かべる。


腰をギュッと締めてくる少女にリオは益々愛おしさを感じていると、リオは少女の頭を撫でながら腰を屈めて目線を合わせた。


「名前っていうのはね。その人を表す言葉だよ。例えば私はリオ。そっちのメガボケ面がアークね」


「え? ボケ面はいいけどメガ付いちゃう?」


益々間抜けな表情になるアークを見た少女はそのままリオに視線を戻した。


「なるほど……確かに他に人がいる場合は呼んだりする時にあると便利ですね。じゃあ私もリオって名前にします」


「えぇ! 何その可愛すぎる発想! もう抱きしめちゃう!」


リオは思わず少女を抱きしめて頬擦りすると、少女も「えへへ」と小さく笑う。蚊帳の外から二人を見ていたアークは何故か股間を抑えながら悶えていた。


「エロ太腿とロリっ子……あ、変な扉が開いちゃう」


「リオさん。あの人何か変です」


「そうなの。それが私の悩みの種。あと私の事はお姉ちゃんって呼ぶといいよ」


「おねえちゃんって何ですか?」


「お姉ちゃんとはテラ深い絆で結ばれた人の事!」


「あ、もしかしてデータ内で見た姉ってやつですね!? じゃあ私は妹。つまり姉妹ということ!」


姉妹(スール)!? それはイケない! そんな早いうちからッ! 妄想が蔓延っちゃう!」


会話に勝手に割り込んで勝手に一人で悶えているアークを尻目にリオは何とか冷静さを取り戻す。

 このままでは収拾がつかなくなってしまう。ここにエルディンがいない以上、自分が冷静でいなければいけないのだ。


「それとね。名前はそれぞれ違うもんなの。じゃあ君の名前は……」


リオは辺りを見回す。そして一つの扉に掛けられた札に書いてある文字を見つけた。


「クレア……しっかり考えたいけどとりあえず今はクレアね!」


「うわ、テキトー」


立ち上がってジト目を向けて来るアークの脛をリオは蹴りつけると彼は「あぐ!」と呻いて脛を摩る。そんなリオの付けた名前を聞いた少女は驚いていた様子から再びパァッと虹色の目を輝かせると、嬉しそうに頷いた。


「はい! 私はクレア!」


「あ、ううん。後でちゃんと考えるから」


「いいえ! クレアでいいです! お姉ちゃんがつけてくれた名前ですから!」


「え? 何なのこの可愛さ……ヤバい! もうメガ辛抱溜まらん! 冷静とか無理ーッ!」


リオはまたしても少女……クレアを抱きしめて頬擦りをする。

 そんな二人を見ていたアークは股間と脛を抑えながらゆっくりと口を開いた。


「ねぇ。それでオリジナルフレームっての探すんじゃないの?」


「あ、そうだった」


リオは改めて冷静になる。そしてクレアの両肩にやさしく手を添えながら尋ねた。


「じゃクレア。でっかい人形がある所教えてくれる?」


「あ、その部屋ですよ」


クレアはそう言って扉を指さす。それは縁というべきか「クレア」という札が掛けられた扉だった。

 再びペタペタと可愛い足音を鳴らしてクレアは扉を開ける。その先にある光景を見てリオとアークは目を見張った。


「……ねぇリオ。宇宙人の存在を信じる?」


「信じない。となるとあの造りって……」


扉の先にあるオリジナルフレームと呼ばれるBEはその待機状態の典型というべき四つん這い状態で鎮座している。

 そのBEは背を向けて鎮座していた。BEの背部は解放されており、着用者が四肢を差し込む穴が見えている。四肢と言えばその名を冠するとおり四本というのが普通なのだが、何故かそのBEには八本の穴が開いていた。

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