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EgoiStars:RⅡ‐3380‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3380年 <帝国標準日時 12月22日>
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第8話『想』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所】


<AM03:14>


 研究所と言えば何を思いつくか。恐らく最新鋭の設備が整った分析室や、ビーカーなどが並ぶ実験室を思い浮かべる人が多いはずだ。当然デセンブル研究所もそれに該当するのだが、ヴェーエス星では外で過ごせない環境にあるせいか、研究員用の一般的な居室や娯楽室も多く存在する。しかし、外に防衛のための銃機器が設置されているのはリオにとって想定外だった。

 その防衛用銃機器にワイヤーを張り巡らせていたリオは「ふぅ」と一呼吸置くと通信先に向かって話し始めた。


「エル君。こっちは準備OK。そっちはどう?」


『研究所内は問題ない。しかし外はもう少し時間が掛りそうだね』


爆薬を設置するエルディンの言葉にリオは少し疑問に思った。


「いつも仕事が早いエル君にしては珍しいね」


『ローズマリーの船が来た時点で不穏だからね。中に二通りのパターンを用意したんだよ』


「何? 二通りって?」


『ちょっとした予防策さ。メアリー。君の方はどうだい?』


エルディンは話を逸らすかのようにメアリーに声を掛ける。するとメアリーはいつものように飄々とした口調で答えた。


『データ量が膨大じゃけェ。そぎゃん早う終わらんヨ。あと一時間くらい掛かるじゃろうネ』


「ローズマリーの戦艦への連絡は?」


『しちょるけど拒絶されっぱなシ』


「そっか……接触で強制回線するしかないね」


『あと、一個気になる事があるんヨ。研究所ん中にロックされちょる部屋がいくつかあるんよネ』


『君でも開けないのかい?』


『ハッ! 愚問じゃネ! データコピーはもうオートじゃけン。アッちょんとミヤ姉の地下捜索とエっちょんの準備よりか先に開けちゃるわイ』


エルディンの言葉に負けん気を見せるように鼻を鳴らす。そんな二人のやり取りを聞きながらリオは立膝状態からゆっくり立ち上がると、愛銃であるブラスターライフルを肩に抱えながらワイヤーが張り巡られた屋上を見回した。


「ま、二人の事は信用してるからよろしくね。私はあの戦艦に行って話してくるわ」


リオはブラスターライフルを持ち直して撃鉄を下ろした。

 そんな彼女に対して、通信先の二人はその表情が読み取れるような冷やかしの口調で告げた。


『信頼か。うれしい話だね。アークがこの通信を聞いていたら嫉妬されそうだ』


『そん素直さばアッちょんにもしてやればええの二』


「二人ともメガ鬱陶しい。大体そういうのは男の方から言ってくれる方が嬉しいでしょ?」


リオは柄にもなく素直な気持ちを口にすると、二人は益々嬉々とした笑い声をあげた。


『ギャハハ! 何じャ! リッちょんも意外と初い奴じゃネ!』


『リオ。君のその乙女心は見た目と相反するね。所謂ギャップ萌えというやつだ』


二人の返答にリオは自分でも柄にもない事を言ってしまったとBEの中で赤面する。

 リオはまるで我に返ろうとするかのように頭を振ると、気を取り直して……いや、怒りと恥じらいを滲ませながら叫んだ。


「ホラ! 時間ないんだからさっさと手ぇ動かして! 私行くから!」


リオは気恥ずかしさを紛らわすかのように高く飛翔する。それと同時に彼女の耳には『照れちょるばイ』『可愛いじゃないか』と冷やかす言葉を背にローズマリーの戦艦に向かっていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所上空 戦艦アンナマリー号】


<AM03:30>


 静寂に包まれていた館内にアナウンスが響き渡る。その内容を聞いた現ローズマリーの諜報員であるベロニカ・ウィストンは怪訝な表情を浮かべた。


『繰り返す。敵BEが接近している。これより本艦は第二種戦闘配置に入る。各員は……』


「(敵? ただの研究所調査とオリジナルフレームの奪取じゃなかったのか?)」


レーションを食べていたベロニカは残りを口に放り込んでから急いで咀嚼する。丁度CSを整備していた彼女はついでと言わんばかりに制服を脱ぎ捨てると、下着姿の上からCSを着込んだ。


「(キナ臭ぇ感じになってきやがったな。下の連中にも知らされていない裏があるって訳か。また妙な貧乏くじを引かされなきゃいいんだが……)……だぁークソっ! またCSのサイズを変えなきゃいけねーのかよ!」


大きく育ち過ぎた胸をベロニカは無理矢理CSの中に収める。

 胸部のロックを無理矢理閉めたベロニカは若干の苦しさを感じながら大きく息をつく。それと同時にいつの間にか横に立っていた人物を見て驚きの表情を浮かべた。


「うぉ! 何だ、レイラじゃねぇか」


「久し振り」


そう言って微笑むレイラに微笑を返しながらベロニカはCSの装備を整える。そしてそのまま彼女に話し続けた。


グラハム(おっちゃん)が寂しがってんぞ。たまにはウチに帰ってやれよ」


「仕事が忙しいの。お父様も理解してくれているわよ。お父様なんかよりサヨ様は? お元気?」


「帝国留学以降考えが変わったってよ。やっぱりお袋さん……いや、帝国宰相とそりが合わねぇんだろうな」


ベロニカは苦笑気味にそう告げると、レイラは服を脱ぎ始めた。


「おいおい。何だ? オメェみたいな非戦闘員まで出なきゃならねぇほどの事態かよ?」


「……帝国が動いている。多分、フマーオスと神栄教の連合部隊もね」


「マジかよ……面倒くせぇな。規模はデカいのか?」


「さぁ。ただ話では帝国に雇われた凄腕チームが動いているらしいわ。フマーオスと神栄教に関しては分からないけど」


先程のベロニカと同じく下着姿になったレイラは適当に見繕ったCSを着込み始めた。


「帝国に雇われてる凄腕集団……八賢者の一人が率いてるっていう例の民間軍事組織か?」


「恐らく。帝国も表立って動けない案件のようだから尚更ね。貴女にもう一つ情報よ。その民間軍事組織にBEを扱う人間がいるらしいのよ」


「それが何だってんだ?」


「元煉獄隊って話よ」


レイラの言葉にベロニカは思わずニヤリと笑う。それと同時に後頭部に収納されていたヘルメットが彼女の頭部を包み込んだ。


「面白れぇじゃねぇか……で? オメェが出る理由ってのは何だ?」


ベロニカが問いかけると胸部のロックを閉じたレイラは普段と変わらない無表情ながらも若干頬を染めながら口を開いた。


「別に。ちょっと会っておきたい人間がいるかもしれない。ただそれだけの話よ」


久し振りに見るレイラの人間らしい表情にベロニカはCSの中で微笑んだ。


「従姉妹同士似るもんだなおい」


「そういうのじゃないから」


表情を読み取られないようにレイラは頭部をヘルメットで隠す。そんな従妹にベロニカは親近感と愛おしさを感じずにはいられなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所上空】


<AM03:39>


 BEは一着で戦況をひっくり返す海陽系最大の戦術兵器である。しかし、それはあくまでも白兵戦における話だった。戦艦や無数のCSと対抗するには無理があるのだ。そんな大規模な部隊と対抗して戦果を挙げられるのは、元の着用者が異常なまでの戦闘力を持つ人間だけだった。


「(例えば、ウチのボスとか……私にそれが出来るかね……)」


近くで見るとあまりにも巨大な戦艦を前にしてリオは両手を挙げながら胸部の通信ワイヤーを飛ばす。それと同時に強制回線が開き、リオは努めて落ち着きを見せながら口を開いた。


「(ローズマリー共和国の戦艦に告げます。私は帝国軍中尉リオ・フェスタです。この星は帝国領内であり、貴艦は領星侵犯を犯しています。直ちに船を停止し、ここに来た目的を告げなさい)」


『こちらはアンナマリー号、私はミランダ・ハリトーノフ大佐である。我々の目的は帝国が保有している情報を奪いに来た』


「帝国と共和国の間には不可侵条約があるはずです。これは明らかな交戦行動とお見受けします。そちらが船を停止しない場合は本件を本国に報告させていただきます」


『ここで死ぬ人間がどうやって報告を?』


「……!」


『こちらはこれよりデセンブル研究所の制圧行動に入る。貴官はここで死ぬか、もしくは投降する事を勧める。……声を聴いたところ女性兵と見受ける。我が国で人生をやり直すのもいいぞ?』


不敵な笑みが含まれた過激な発言にリオは眉を顰める。それと同時に戦艦の主砲がこちらに向いているのを確認した。

 背中に背負うブラスターライフルを構えれば恐らく敵はこちらを撃ってくるだろう。無論、攪乱して攻撃する事も出来るだろうが、隣国の戦艦にこちらから攻撃を仕掛けるのは今後の外交問題的にも得策とは言えなかった。


「(……どうする。エル君の準備もまだだし……何より地下にはまだあのバカが……)」


『リッちょん聞こえル?』


緊張下でリオはハッとする。それと同時に別回線で届いたメアリーの声にのみ答える形で応答した。


「うん。どうした?」


『閉じ取った部屋の解析が済んだばイ。ヤバいもんがあっタ』


「ヤバいもん?」


『BEよか一回りデカい起動兵器じャ』


「オリジナルフレームじゃないの?」


『AI搭載型の防衛兵器じャ。研究所への攻撃か防衛兵器が使用されたら自動で動くようになっちょル。しかも面倒な事に攻撃対象は生体認証ばされちょる研究員以外、じャ』


「マジ?」


『マジじャ』


急に齎された情報にリオは頭の中を整理する。その中で優先すべきことは研究所の爆破ではあるが、面倒な事態を避けるためにも防衛兵器の起動は避けるべきだった。


『さ、返答を聞こうか。ここで死ぬか。それとも我が国に投降するか』


「……投降の必要はありません。ここでの戦闘行為は危険です。研究所には危険な起動兵器があります。戦闘行為があればその兵器が起動する恐れがあり」


『そのような話をこちらが信じるとでも?』


「確認する価値はあるかと思いますが?」


説明を遮るミランダに被せ気味でリオは答える。

 BEの中に居る以上、彼女の身体は粒子分解され実態が存在しない。それでもリオは自身のこめかみから一筋の汗が滴るように感じた。相手の返答次第では事態は急転するのだ。それも最悪な方向に、である。


『こちらの行動に変更はない。投降するかここで死ぬか。次は貴官の返答を聞こうか』


「……テラクソババァ」


リオは唇を噛みしめる感情で背部のブラスターライフルを構えると同時に戦艦から無数のCSが発艦してきた。

 リオは後方に飛ぶと同時にライフルを構える。それと同時に引鉄を引いて複数のCSのスラスターを撃ち抜いた! 


「敵の主砲もすぐには撃てないはず……その前に何とか……」


リオはライフルの照準を敵戦艦の主砲に合わせる。その瞬間、ライフルの銃口が何かに弾かれた!


「ぐっ!」


リオは自らの銃口を弾いたのは回転する巨大な何かである。その巨大な獲物は回転しながら宙を舞うと戦艦から出てきたBEの下に戻っていった。


『光栄に思うのだな。共和国最強と謳われるこの私自らが相手をするのだからな』


「ミランダ・ハリトーノフ? 指揮官が自ら!?」


地面に突き刺さる巨大な戦斧を手にしたミランダの背後には先程以上に多くのCSが飛び出してきていた。


『リオ・フェスタ中尉だったな。今からでも投降するなら考えてもいいんだよ?』


「頭の固いオバさんの所に行きたい可憐な美女がいると思う?」


『その気の強さ。益々気に入ったよ』


ミランダは戦斧を振りかざすと同時にこちらへと突貫してくる。リオはライフルを構えて引鉄を引こうとするが、銃口が折れ曲がったせいでそこから光の矢が飛ぶことは無かった。


「メガクソったれ! この銃気に入ってたのに!」


リオはライフルを投げ捨てると同時に両腰の銃を引き抜くと両手で交互に撃ちながら応戦した!

 ミランダの戦闘力は口だけではなかった。BEであれば対CS戦闘において明らかに分がある。CSは着用者のサイズに見合ったスーツであり戦闘力がそのまま反映されるが、BEは全高三m近くあり着用者の戦闘力を三倍は飛躍させるのだ。だからこそ、同じBE同士の戦闘であれば着用者の戦闘力がそのまま反映されるのだ。


「(テラヤバ……コイツ口だけじゃないかも)」


『いい加減状況を考えたらどうだ? たった一人で我々を相手にできると思っていたのか?』


「女の子は体も心もタフじゃなきゃいけないのよ。ローズマリーにいてそんなことも知んないの?」


岩や雪の塊を利用しながらリオはなるべくミランダと距離を取る。獲物から考えても相手が得意なのは近距離戦闘である。戦闘力に差がある以上、相手の得意な土俵で戦うのは危険でしかなかったのだ。


「とにかく今はあの女の動きを抑えて……。!!」


リオは戦艦を見上げて目を見張る。主砲が動き出しているのだ!


「ちょ! 待ってって! 研究所攻撃したらメガヤバいんだって!」


『君の負けだ』


リオは悔しさを滲ませながらも手法に向かって二丁の銃を連射する! しかし、戦艦の主砲を落とすにはブラスター銃では威力が足りなかった。


「クッソ! ライフルがあれば!」


『君たちの負けだ』


ミランダのほくそ笑む言葉にリオは歯を食いしばる。それと同時に彼女の視線の先にある戦艦が大きく輝いた!

 実体の時の癖でリオは思わず眩い閃光に手で目を覆う。ようやく収まった光と同時にリオにとっては想定外の声が届いた。


『ど、どういうことだ!? 応答しろ!』


ミランダの声にリオは改めて戦艦を見上げる。そこにあったのは爆散しながら崩れていく戦艦の姿だった。


「どういうこと? 主砲の暴発?」


考えられる事象をリオは思い浮かべるが、それは最悪なものとして姿を現した。


『フェフェフェ! 随分と面白そうなことしてるなぁ? オイも混ぜてくれよぉ? えぇ?』


無理矢理ねじ込まれたような通信から届く不気味な笑い声と妙な口調。しかしリオの眼前にはそれ以上に恐怖させる存在が現れていた。

様々な技術を盛り込んだ機体、そして巨大な右腕……それは一年前にジュラヴァナ星宙域で見た怪物とも呼べるBEだった。


「……クジャ……ホワイト……」


眼前に現れたとてつもない存在にリオは硬直せざる得なかった。

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