小さな作戦会議
新しいドアに手をかけ扉を開くと秋の訪れのような枯れた葉っぱの匂いが風とともに流れていく。
このまま気持ちい風を堪能していたかったが優先順位が先だ。つむぐと僕は一緒に外へ踏み出した。
周りを見渡して見たが、平日の夕方にしては人が少ないような…まぁ、土地それぞれなんだろう。前の近所はこのくらいになると学生は下校時間だから少しはいるのかと思ってたけど。まぁいいに越したことはない。
スマホで近くの公園を探してみるとラッキーなことにすぐ近くに小さな休憩所とも言える場所を見つけた。
すぐにベンチに腰をかけ、つむぐも同様横に座った。
「ふぅ、これちゃんとつむぐと話ができるね」
「家だと母親がいつ食いついてくるかわからないしな。これからは散歩の時と家族が寝静まった頃にまた話そう」
なんか秘密の作戦会議みたいなだ。自分の受け入れっぷりに驚いてないと言ったら嘘になるが実際に起っている事なんだ。逆に面白くなってきた。こうなりゃやけだ、ノってみるしかない。こんな経験二度とないかもしれないしな。
「やけに食いついてくるじゃん。サスペンスを見過ぎじゃないの? 」
「いつかその喉仏噛み切ってやるからな」
「冗談だって。じゃぁ本題に入る前に一応確認なんだけど、つむぐは本当に事故なんかなく人間に殺されたって事であってる? 」
「何度も言わせるな。間違ってない。殺される瞬間、その目は虚だった。逆に俺なんて眼中にないような、どこか遠くを見つめてた」
顎に手を乗せ思考を巡らせる。本当に殺されたのはさて置き、その何者かによって殺害された事は間違いなさそうだ。
虚な瞳だったっていうのがどうも気になる。つむぐを殺そうとしているのに本人を見てなかったって事だろうか。
つむぐはただの障害物に過ぎなくて本当はその奥にいる誰か別の…いや、そんなことあるわけないか。
きっとサスペンスの見過ぎだな。
「犯人って捕まったのかな。殺人を犯したんだ、ニュースとかにならないのかな? 」
「さぁな。俺の人生はそこで終わってんだ。その後なんて知らねえよ」
流石大人と言うべきか、冷静だなぁ。いや、性格とかにも寄るんだろう。
しかし生まれ変わりといのはどのくらいの期間で生まれ変われるんだろうかとふと疑問に思う。
「望月紡の生年月日はいつなの?」
「生年月日?…そうさなぁ…平成七年の七月七日だ」
「ラッキーセブン過ぎでしょ。てか七夕だ!織姫はいなかったの?」
「お前にしてはいい嫌味だな。生憎俺は生涯独り身で織姫様とは縁がなかったよ」
自嘲染みた声色でつむぐは地面の蟻を見ており、子犬の顔ではなかった。
その時、つむぐと話すときは顔を見ずに声に耳を傾けて話した方がスムーズに話せることを僕は学んだ。
「殺されたのはいつなの?確か前世は二六歳なんだよね?アラサー待ったなしだね」
「うるさいクソガキ。アラサーはそう言うのに敏感なんだ。それにまだアラサーじゃねえ」
「敏感になる前に死んでて良かったんじゃないの? 」
「お、お前には人の心はないのか! 」
つむぐは喉をグルルと鳴らして怒りを表していた。流石に少し言い過ぎたと自分を叱咤した。
いつ生まれ変わったのかは多分今年だろうな。つむぐはまだ子犬だ。
話が逸れてしまったがいつ殺されたのかによって生まれ変わるまでの時間を割り出すことができるだろうから、帰ったら母さんに聞いてみよう。
まだ彼のことを何も知らない。当然だ。
家に帰るまでの波なき道はイチョウが黄色なら色ずに始めていた。