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わたしのかわいいようせいさん

ご無沙汰しています。あまり長くはならない予定ですが、ステイホームのお暇つぶしにどうぞ。

(こんなかっこう、はずかしい…!)


由緒ある侯爵家の長女であるリネット・シュルーズベリーは、この日のためにと着せられた美しいドレスのまま、顔を上げることができないでいた。


今年10歳となるリネットはシュルーズベリー侯爵家の唯一の子である。兄と弟がいたが、どちらも既に亡く、弟が生まれる時の産褥で、母は子が望めない身体になった。そのため、現在ただ1人の嫡子として後継となるべく育てられている。男に負けぬようにとの父の方針で、普段は男の子の服を着て、剣の鍛錬をしているリネットが、美しい花々が咲き乱れる庭園に着飾って立ち尽くしているのは、この国の王妃、エリザベートの発案だった。


今代の国王は子沢山で有名であり、全ての子の母親は王妃である。既に5人の子に恵まれているが、その子どもたちと、他の貴族を早くから交流させるべく、子ども好きの王妃が企画したのが「妖精のお茶会」であった。妖精に扮した幼い子どもたちがお茶会で交流を図るという意図なので、付き添いの母親たちは少し離れたところにテーブルが用意され、そちらにいる。子どもたちは別にテーブルがあり、色とりどりのお菓子や珍しい飲み物を楽しみながら過ごしていた。


(どうしよう…)


細かい事情など何も分からないリネットだったが、普段着ない可憐なドレスを着せられ、髪を複雑に飾られ、豪華なお城に連れてこられたあげく独りで知らない所に置いていかれ、短い人生の中でもかつてないほどに緊張していた。


身分に関係なくとはいえ、王族の周りには自然に子どもたちの輪ができている。普段男の子のように養育されているリネットには、同性の友達はいない。かといって異性の中にも入れず居心地が悪い。


ひとり透明になったような心細さに耐えきれず、リネットはそっと庭園の通路を抜けた。


ひとつふたつ生垣を抜けると、まるで別の場所に迷い込んだように静かになり、優美なガゼボがあった。


(お茶会がおわるまで、ここにいよう…)


ガゼボのベンチに腰掛け、周りを見回す。


(お菓子か飲み物、持ってくればよかった。)


植物しかない庭園は子どもには退屈で、すぐに飽きてしまった。かといって、またお茶会に戻りたくはない。お菓子を取りに行きたい気持ちと戻りたくない気持ちの板挟みにうんうん唸りながら考えていた。


「だれ?」


リネットのものではない声が響いた。自分のつま先を見ていたリネットが、声の方向へ視線をむける。その先にはまるで天使のような女の子が立っていた。


「あなたは?」


天使がリネットへと近づいてくる。天使はサラサラと流れる薄い金色の髪を結い上げ、色とりどりの花をあしらった花冠をしており、瞳と同じ薄いブルーのドレスで滑るようにやってきた。


(すごくきれいな子)


リネットは自分の方にやってくる美しい天使のような少女をただ見ていた。見惚れていたとも言える。


「ねぇ、あなたは?」


問いに答えないリネットに、少しムッとしたように天使がもう一度聞く声に、今度こそリネットは答えた。


「あ、わたしはリネット。あなたは?」


リネットが聞き返すと、なぜか天使は首を傾げ一瞬考える素振りをみせた。


「わたし、は…ケイト。」


「あなたもお茶会、つまらないの?」


「あなたも、ってことはリネットはお茶会つまらなかったの?」


「うん。知ってる人がいないもの。ケイトは?」


「同じようなものかな。ねぇ、隣に座ってもいい?こんな小さな靴で足が痛くて。」


リネットは頷くと、隣に少しずれてケイトが座る場所をあけた。ケイトがすぐ隣に座ると、ふわりといい匂いがする。


「どうして女の子はこんなきゅうくつなものを着るんだろう。」


ケイトが口を尖らせる。


「そうだね。せめて中が分かれていれば歩きやすいのに。」


美少女が口を尖らせる顔に、思わずリネットは笑みを浮かべてしまう。


「そうだよ。こんなにヒラヒラする必要あるのかな?」


こんなに綺麗な顔で、美しいドレスを着ているのに、ケイトの口からは不満が漏れる。


「でも、リネットはとても綺麗。」


不満ばかりだった話題が突然変わり、矛先がリネットに向く。天使とみまごうほどの美少女に綺麗と言われ、リネットはおどろいてしまった。普段男の子と同じ服装でも、それだけは淑女らしくとメイドたちに丁寧にくしけずられる髪は、今日は彼女たちによって複雑に編まれ、ハーフアップにされている。亜麻色のその髪を一房、ケイトは桜色の爪でおおわれたしなやかな指先でとる。


「すごい…リネットの髪、サラサラで綺麗…」


にこりとほほえみ、ケイトはリネットの髪をさらりさらりと遊ぶ。目の眩むような美少女に顔を寄せられてささやかれると、まるで悪いことをしているかのようだ。同じことをケイトも考えたのだろう。なんだかおかしくて、2人で顔を寄せ合ってくすくす笑いながら、他愛ない話をした。





花々が咲き乱れる美しい庭園で出逢った天使のような少女。このときのできごとは、成長するにつれ、いつのまにかリネットの奥底にしまわれていった。

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