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汝は人狼なりや。  作者: 独斗咲夜
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壱日目-前半戦

~壱日目のあらすじ①~


※つべに載せている動画の説明欄より引用→https://www.youtube.com/watch?v=CR4uFIt_paI


宝石職人である父親の様子を見るため、夜に工房を訪れる事を習慣にしている女子高生、宮葉燐‐ミヤバ リン‐。しかし最近、何処からか視線を感じるといった小さなストーカー被害に悩まされていた。せめて付き添ってくれるボディーガードがいてくれれば…そう願った宮葉は町中のとある交番に助けを求める。そこで出会った若い警官、笹木尚也-ササキ ナオヤ‐は彼女に対し唐突に『頼れる知り合いを紹介する』と言ってきて―――

大神町(おおがみちょう)ーーそこは、四方を山に囲まれた小さな町。町の郊外にある巨大なダムが、海に面していないこの町の貴重な水資源機構として日々黙々と働いている。

町には複数の住宅街の他に、小さな商店街や公園、学校等が建ち並んでいる。日中は人で賑わう町中も、夜になれば途端に闇に包まれ静まり返る。そしてこの町の夜空には満月しか登らない(・・・・・・・・)。煌々と輝く丸い月が、眠りにつく大神町の町全体を粛々と見守るのだ。

そんな夜の町を歩く1人の少女。まばらに建てられた古い電柱の明かりが、スマートフォン片手に道を歩く少女の姿を燦々と照らしていた。少女が歩く度に、ツインテールに結ばれた鮮緑色の髪がふわりふわりと揺れ動く。黒のパーカーに黒の短いズボン、おまけに黒いマスクを身に付けたその姿は、闇夜に紛れるにはあまりにも適している格好だ。申し訳程度のネオンカラーのラインが、夜の中に消えてしまう彼女の存在を辛うじて周囲に示していた。

ふと、少女の足が途中でピタリと止まった。スマートフォンに向けていた顔を上げて周囲を見渡す。何やら気配を感じたのだ。それはまるで、誰かに見られているかのような感覚。耳につけていたイヤホンも片方だけ外してキョロキョロと辺りに視線を配った。だが、周囲に人の気配はない。隠れるような場所もあまりない。強いて言うなら電柱の陰辺りが怪しいのだが、後ろを振り返り注意深く観察してみても人影すら見当たらなかった。気のせいかと考えた少女が小さく息を吐いた。白と黒で構成されていたキャップを被り直し、再び歩き始める。

しかし、先程と同じ気配がすぐに少女の後ろから近づいてきた。少女の足が再び止まり、今度は勢いよく後ろを振り向いた。やはり人影は見当たらない。今度は確かに後ろから視線を感じたのに。視線の先にあるのは、仄かな電柱の蛍光灯の明かりと、闇と交わっている影ばかりだ。少女が盛大にため息を吐いた。完全にうんざりと言った表情だ。イヤホンを改めてつけ直し、少し早足で先を急ぐ。今度はもう視線を気にすることなく、目的地まで無心で走っていくことにした。例の謎の視線をいちいち気にしていては事が進まないからだ。さっさと目的の場所に到着して一安心したかった。

そのせいで少女は気づかなかった。一目散に走った事で気づくことが出来なかったのだ。

電柱の蛍光灯による明かり。その光で照らされたアスファルトに浮かぶ影。その影の形が“狼”のような姿となって、少女と並行する様に走っていた事に。

狼の影は明かりが照らされている箇所を少女が走る度に浮かび上がった。大きさは大型犬程か。影でありながら赤く光る瞳が少女の姿を横目で静かに睨み続けていた。

しばらくしてから目的の場所、改め家に帰宅した瞬間、少女は疲労しきった身体を門の前で一旦休ませた。はぁはぁと荒い呼吸を整えた後、素早い動きで門を開き敷地内に滑り込む。その時既に視線は感じなくなっていたが、あの時の視線を思い出した少女は急ぎ足で家の玄関へと向かっていった。狼の影は何処にも見当たらない。そうこうするうちに少女は玄関の扉を開けて家の中へと消えて行った。

狼の影は何処にも見当たらない。

その代わりーー門の外に伸びる影の中から(・・・)、1人の人間の姿がにゅるりと伸びて出てきた。黒くボサボサな短髪に、先程の少女よりも真っ暗な服に身を包んだ背の低い人間だ。その者はジッと少女の消えた家を見つめた後、再び影の中へ(・・)沈み消えて行った。

満月の光が町全体を静かに照らし続ける。

大神町の夜はまだ始まったばかりだ。



****



大神町某所 某交番ーー



「だーかーらー!この私にボディーガードをつけて欲しいってお願いしてるの!!貴方警官でしょ?これぐらいのお仕事引き受けられるでしょ!?ねぇ!!?」


そう言って声を荒らげるツインテールの少女。憤怒一色に染まった表情の彼女が、怒りに任せて勢いよく机を叩く。ダァンッとけたたましい音が鳴り響き、彼女の前に座る小太りの警官が情けなくひぇっと悲鳴をあげた。室内は冷房が効いているにもかかわらず、小太りの警官の額には大粒の汗がこれでもかと浮かんでいた。単純に暑いからなのか、はたまた冷や汗なのかは不明だが。

時は7月。夏に差し掛かり、日中の町には太陽の光が燦々と降り注いでいた。町中を歩く人々の多くが半袖を身に付ける中、仕事に向かうサラリーマン等は悲しきことに長袖のスーツ姿でアスファルトの上を歩いていた。そうした者は大抵抑えきれない汗を延々とハンカチで拭い、それでも耐えきれない者は上着を脱いで袖をまくる等の対策を行っていた。そんな灼熱のアスファルト地獄など露知らず、この交番の部屋の中はクーラーによる冷房がガンガンに効いていた。その程度は、入り口の扉を開けた瞬間、室内の冷気がぶわっと外に漏れ出る程だ。長くいれば逆に寒く感じるのではないかとさえ思えてしまう。そんな室内でさえ汗をかく小太りの警官は、何処から取り出したのかタオルで額を拭うと、少女を宥めるように手で制しながら必死の形相で言った。


「ですから、ストーカー被害に遭っているという証拠が無ければ、こちらも動く事が出来なくてですね……」

「証拠ならここにちゃんとあるでしょ!?私が夜な夜な町を歩く度に視線を感じてるって証言が!!まさか、この私が嘘ついてるって思ってるんじゃないでしょうね!?」

「めめめ、滅相もない!ただ、それはあくまで証言でして証拠ではないので……もっとこう、物理的な証拠があればご希望通りうちの警官を護衛に付けるんですが……」

「はぁ!?何よそれ!?こんなに私が主張してるのに、証拠が無いって理由で見捨てる訳!?ほんっと警察って無能なのね!いざと言う時に真っ先に動けないだなんて、信じられないわ!!」


まさに売り言葉に買い言葉。小太りの警官が応える度に少女がギャンギャンと反論するように喚き散らす。事態が平行線―どちらかと言うと小太りの警官側が押されているのだが―になりつつある状況に、小太りの警官は情けなく涙目になりながら眉をしかめた。


そもそも、事の発端は数分ほど前に遡る。

突然この交番を訪れた少女。名前は宮葉燐(みやば りん)。鮮緑色のツインテールが特徴的な少女だ。彼女がこの交番に来た理由はただ1つーー『ボディーガードをつけて欲しい』だった。

彼女曰く、最近夜に出かける際に謎の視線を感じるので、いつ襲われても大丈夫なようにボディーガードをつけてほしいと言うのだ。何故夜に出かけるのかと尋ねると、父親の元を尋ねる為だと彼女は答えた。曰く、彼女の父親は宝石職人の端くれで、仕事熱心なためいつも家に帰らず工房に引きこもっているらしい。彼女はそんな父親の事を心配して、様子を見るために工房を訪れているのだ。では何故わざわざ夜に行くのか、昼は駄目なのかと小太りの警官が尋ねると、学校をサボっていると思われて叱られる為夜に行くしかないと宮葉は答えた。母親は居ないのかと尋ねると、憤然とした態度で数年前に亡くなったと宮葉は言った。その時の顔がまさに鬼の形相だったので、小太りの警官がそれ以上彼女の母親について追及することは無かった。触れてはいけない話だと瞬時に察したからだ。

ここまで諸々の話を1人で聞き続けた小太りの警官だったが、彼女の話だけではやはりボディーガードを派遣させることは難しかった。この交番にストーカー被害を訴える被害者達は彼女以外にも少なからず存在している。彼ら彼女らの場合は、無言電話やら名誉毀損の文書の送付及び監視行為の告白など、目に見える形で被害が生じているのがほとんどだ。しかし宮葉の場合、あくまで視線を感じる(・・・・・・)程度の被害に留まっている。これが明確に待ち伏せや押しかけ等に発展していればまた話は変わるが、証拠の少なさや被害の小ささ―正確には曖昧さと言うべきか―が原因で即座に判断を下すことが出来ないのだ。そのため小太りの警官は先程からその旨を伝え続けているのだが、当の宮葉本人は納得出来ないらしく、押し問答と呼ぶにふさわしい膠着状態が続いていた。こういう頑なに自分の意見を譲らない相談者も無論少なくはない。が、小太りの警官としては、そう言った人間を相手にするのが正直苦手だった。彼女の様な人を相手にするのは()の方が得意なのだから。

はてさてどうしたものか、と小太りの警官が頭を抱えたその時、不意に交番の入り口の扉がガラガラと音を立てて開かれた。そこから暑そうにパタパタと手をあおぎつつ中に入る、1人の若い男。服装からして同じく警官なのだろう。黄緑色の髪を軽く後ろで結んでおり、同じく黄緑色の瞳が室内にいる宮葉と小太りの警官をそれぞれ交互に見つめた。


「先輩、戻りましたよー……って、あぁ失礼。お取り込み中っすか?」

「さ、笹木!!丁度良いタイミングで帰ってきてくれたな!!この方の話を聞いてやってくれないか!?少し野暮用が入ったから、俺は少し失礼する!!」


笹木と呼ばれた若い警官相手にそう捲し立てると、小太りの警官は慌ただしく立ち上がり、机を回って交番の入り口へと駆け寄った。そのまま縺れるように外へ飛び出していく小太りの警官。思わず唖然とした様子で口を開く宮葉。小太りの警官の去る姿を呆然と見ていた笹木とやらは、困ったように苦笑いを浮かべながら「あちゃー、逃げられちゃった。」とだけ呟いた。宮葉が警戒する様に無意識的に後ずさりをする。突然現れた挙句、急に小太りの警官に全てを押し付けられたのに、何故か彼はニコニコ笑顔を全く崩していないのだ。突然知らない相手に事を押し付けられた宮葉としては怪しむ以外に出来る行動が思いつかなかった。そんな宮葉を横目で見つめながら、笹木とやらは警官帽を被り直して彼女に言った。


「あぁ、ごめんねお嬢さん。あの人自分の手に負えない事が起きると、俺に全部投げつけちゃう所があるんだよ。でも、ああ見えて子持ちの立派なお父さんでもあるんだよ。だから、正直びっくりしたかもしれないけど、今回だけは労いも含めて許してあげてくれないかな?」

「え?あ、えっと……そもそも、あんた誰?警官、なのよね……?」


宮葉が再度後退しつつ、訝しげな表情を見せながら彼に尋ねた。もしかしたら警官のコスプレをした不審者かもしれないと疑ったからだ。まぁそんな上手い具合にそのような事件が起きるはずもないのだが――笹木と呼ばれた若い男は朗らかに笑うと、なんの躊躇いもなく机の上に腰掛けながら宮葉に言った。


「あはは!そうだった。ごめんね、自己紹介遅れちゃって。俺は笹木尚也(ささき なおや)、さっきの人の部下みたいなもんだよ。お嬢さんは?」

「……み……宮葉、燐。」

「宮葉さんか、なるほど。じゃあ重複する感じになって申し訳ないけど、改めてお話聞かせてもらってもいいかな?あの人、何の説明も無しに投げ出しちゃったからさ。」


笹木はそう言うと、先程まで宮葉が座っていた椅子を指さし、座ってと言うように手で仕草を送った。相変わらず怪訝な表情のままの宮葉だったが、笹木も変わらず笑顔のままこちらを優しく見つめてくる。拭いきれない幾何かの怪しさがあるが、今更ここで逃げ出したりしても自分の抱えている問題の解決には何も繋がらない。仕方が無いので、宮葉は小さく息を吐くと大人しく椅子に座り直した。それを見て満足したのか、笹木は机から降りると軽快な足取りで机を回り、先程小太りの警官が座っていた場所にドカッと座り込んだ。


「ふぅ……やっぱ形式には従わないとね。変にだらしないところ見せると上司に怒られちゃうし。」

「……はぁ……」


笹木の見せる何処か警官らしくない雰囲気を前に、宮葉が若干引いた様子で短く応える。そんな反応をされても笹木は殆ど笑顔を崩さず、宮葉に小太りの警官へ行った話をする様に促した。宮葉は盛大にため息を吐いたが、ここまで来たらもう後戻りは出来ない。ので、宮葉はやや諦めた様に眉をひそめつつ全てを再び話し直した。話をする最中、小太りの警官とは異なり、笹木は終始うんうんと頷き相槌を打つばかりだった。小太りの警官はことある毎に質問をこちらにぶつけていたのに。宮葉が大体を話し終えた頃に、笹木はようやく彼女に質問をし始めた。1つずつ丁寧に。宮葉の怒りに触れるような質問をしてしまった時はすぐに謝罪しつつ別の質問に切り替えて。気づけば宮葉は微塵も怒ることなく笹木に一通り話をし終えていた。笹木と話した際は不思議と落ち着いた気持ちで話すことが出来たのだ。こんなに冷静に話が出来たのはいつぶりだろうか。小太りの警官と話した際は室内に絶えず怒号が響き渡っていたと言うのに。大体の事を理解した様子の笹木は、椅子の背もたれに深く腰掛けながら彼女に言った。


「成程ねぇ……人の姿もないのに、視線を感じる、かぁ……それは確かに怖いね。特に君は女の子だから、余計に怖い思いしてるでしょ?」

「!そ、そうよ!だからお願い!夜の間だけでいいから、私にボディーガードを……」


思わず期待で胸を躍らせた宮葉がガタッと椅子から立ち上がる。そんな彼女を落ち着かせるように手で宥めると、笹木は不意に自身のズボンのポケットをガサゴソと漁り始めた。そして、そこから素早く1台のスマートフォンを取り出し、目にも止まらぬ速さで何やら操作をし始めた。パッと見はごく普通のスマートフォンだ。警官がスマートフォンを弄る姿など見たことが無い。最近は時代の流れに応じて専用の端末を配布している所もあるらしいが、一般人視点で見ると仕事中にもかかわらずそんなことをしていいのかという疑問がどうしても生じてしまう。故に宮葉はすかさず笹木に突っかかるようにツッコミを入れた。


「何で急にスマホ弄ってんの?仕事中でしょ?警官がスマホ弄って大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫!これはお巡りさん用の端末だよ。今知り合いに連絡してるから、ちょっと待っててくれるかな?」

「お、お巡りさん用……?ってか、知り合いって何?私はただボディーガードが欲しいって話を……」


飲み込みきれない状況を前に、これでもかと頭の中に疑問符が浮かび上がる宮葉。そんな彼女の目の前に人差し指を軽く当てると、笹木は器用に片手でスマートフォンの操作を行いながら彼女に言った。


「流石に俺にもお巡りさんの仕事があるから、君一人に集中して手を尽くしてあげるのはちょっと難しいんだ。でもね、俺の知り合いなら、君のボディーガードを喜んで受け入れてくれると思うよ……機嫌を損なわなければ、の話だけど。」

「……?」


笹木の意味深な発言を前に、宮葉が眉をしかめながら首を横にかしげる。すると、不意に笹木の持つスマートフォンからピロンッと軽快な通知音が鳴り響いた。それにすかさず反応した笹木がスマートフォンに視線を向ける。そして、宮葉に向かってニコッと一際明るい笑顔を見せながら笹木は何故か嬉しそうに言った。


「俺の知り合いの人、ボディーガード引き受けてくれるって!でも一旦詳しい話聞きたいから会いたいってさ。どうする?」

「……え?え!?ちょ、ちょっと待って!話急過ぎない!?その知り合いって誰よ!?信頼出来る人なの!!?」


笹木から唐突に告げられた話に、驚いた宮葉が思わず声を荒らげてしまう。件の知り合いとやらが何者なのかも知らないにもかかわらず、あまりにも勝手にそしてあっさりと連絡が行われた事実を飲み込みきれなかったからだ。しかし、慌てふためく宮葉とは対照的に、笹木は笑顔を崩さないままのんびりとした口調で彼女に言った。


「大丈夫、無問題だよ!頼りがいのある強い人だから……って言っても信用出来ないよね。だったらやっぱり1回直接会ってみた方がいいよね!それじゃあ決まりだ、早速行こうか!」

「行こうかって何!?何処に行く気なのよ!?ってかそもそも勝手に話進めないで頂戴!!?ねぇ聞いてる!?」


ぎゃんぎゃんと騒ぎ立てる宮葉をよそめに、笹木は優しく彼女の手を握るとエスコートするかの如く共に外へ歩き出した。扉を開けた瞬間、外界の暑い空気がむわっと足元から全身目掛けて広がっていく。そう言えば今日は外が暑い日だったと、冷房のせいで感覚がおかしくなっていた身体が否応なしにその事に気付かされる。反射的に宮葉が手を振り払おうとしたが、笹木が意外にも強い力で手を引いているため簡単にはほどけなかった。そうこうするうちに、笹木は宮葉の身体を1台の自転車の後ろ側にひょいっと乗せた。これはよく道すがら見ることが多い、警官が使うタイプの自転車だ。本来ならば荷台らしきものがある場所に宮葉の身体が横向きに乗せられ、笹木は慣れた手つきで素早くサドルに乗った。


「丁度自転車余ってて良かったね。しかも荷台外した状態で。これならすぐに目的地に行けるよ。」

「ま、待って!私2人乗りとかした事ないんだけど!?ってか、警官が自転車2人乗りするのはダメでしょ!?ねぇ、待って!話聞きなさいよ!!!」

「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない!ほら、ちゃんと掴まって。落ちない様にね。」


宮葉の度重なる苦言も気にすることなく、笹木がペダルに足を乗せてそのまま自転車を発進させる。突然の揺れやら動きやらに驚きを隠せない様子の宮葉が、自分の座っている箇所の空いているスペースを掴み必死にバランスを取った。前向きならともかく、荷台の構造上横向きに乗せられたのだ。普通に2人乗りをするよりは少しばかり体幹の強さが求められてしまう。落下しないようにバランスをとる事に夢中になった宮葉は、次第に口数も少なくなりぎゃあぎゃあと喚き散らすことも無くなった。そんな彼女の前で悠々と自転車を漕ぐ笹木の周りから、町の住民達の奇妙なものを見るような視線がぐさぐさと突き刺さる。

眩い程の太陽光が、アスファルトに飛び出した1人の警官と1人の女子高生の身体をこれでもかと照らし続ける。季節は夏真っ盛り。セミの懸命な鳴き声が、ブザーの如くけたたましく鳴り響いていたのだった。



****



大神町某所ーー



「……はい、到着。お疲れ様、宮葉さん。」


キィッとブレーキ音を鳴らしながら笹木の運転する自転車がゆっくりと止まる。突然訪れたバランスゲームがようやく終わりを告げ、疲れきった様子の宮葉が若干よろけながら荷台から降りた。誤って彼女が転ばないよう、笹木がその体を何時でも支えられるように片手を伸ばす。宮葉がその手を疎ましげに振り払うと、笹木は分かりやすく苦笑を見せながら肩を竦めた。が、特に何かを言うとこもなく、自転車をゆっくりと手で押しながら呟く。


「とりあえずこっからは歩きで。それじゃあ行こうか。」

「あの……そろそろちゃんと話してくれないかしら?あなたの言う知り合いって一体誰なのよ?なんかその……ヤクザとかそう言う系統の人間だったりしないでしょうね?」

「まさか!お巡りさんがそんな危ない人達とお友達みたいに見える?ちゃんとした人達だから安心してよ……性格はちょっと難ありだけど。」


怪訝な表情を見せる宮葉を横目に、笹木がカラコロと笑いながら何気なく歩みを進める。少し休んでいた宮葉が慌てて彼の後を追いかけると、数歩進んだ先、お洒落な洋式の壁に面した大きな門が見えてきた。鉄製のそれは宮葉の身長よりも高く、背の高い笹木と比べても首の下辺りまでの高さは確実にある。笹木は自転車を近くの壁にかけてから鍵を閉めると、なんの躊躇いもなくその門を押し開いた。キィ、と軽く軋んだ音を立てながら門が開かれ、笹木がスタスタと中へ入っていく。宮葉は一瞬入る事を躊躇したが、先に進んだ笹木に手招きされ、渋々同じように中に入った。

門のすぐ先には、平屋建ての建物の入り口があった。見たところ縦に長い形らしく、壁には所狭しと焦げ茶色の煉瓦が敷き詰められている。玄関と思しき扉の上側中央には、海外で見かける様な鉄製のドアノッカーがついていた。何処か洋風な雰囲気のある建物を前に、宮葉が首を左右に傾げながら笹木に言った。


「何ここ……平屋?今どき珍しいわね。インターホンとかもないし。」

「そうかもね。でも敷地自体は結構広いらしいよ……まぁその話は別にいいか。佐倉さーん、いるー?」


笹木が玄関の前に立ち、ドアノッカーをコンコンと数回鳴らした。慣れているのか、全く躊躇いの無い行動に何故か宮葉の心臓が緊張でドキドキと高鳴る。笹木の言う知り合いが急に出てくる可能性があったからだ。どうか怖い人ではありませんように、と宮葉が心の中で必死に祈り続ける。

しばらくした後、ぎぃ…と鈍い音を立てながら玄関の扉が開かれた。ハッと目を見開いた宮葉が反射的に身体を強ばらせ身構える。そして、開かれた扉の奥から現れたのはーー


「……子供……?」


そう、宮葉よりも一回りも二回りも小さい子供だった。小学生ぐらいだろうか、三つ編みのおさげと可愛らしいワンピースが特徴的な少女が宮葉達の顔をジッと見上げている。純粋な気持ちで満ちたあどけない瞳を前に宮葉が思わずたじろぐと、すぐに扉の奥からパタパタと駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。その直後、少女の後ろから今度は優しく慈愛に満ちた女性の声が聞こえてきた。


「こらこら。扉は勝手に開けちゃ駄目っていつも言ってるでしょ?ほら、お部屋に戻って皆と遊んでらっしゃい。」

「……うん、分かった。」


少女がその声に素直に応え、そそくさと中へ消えていった。そして、そうこうするうちに扉がより大きく開かれ、もう1人の声の主の姿がはっきりと見えるようになった。暗闇でも分かるほど色の濃い桃色の髪をサイドアップにまとめており、前髪は器用に三つ編みが施され桜を模した髪飾りで留められている。黒を基調としたロングドレスに首には十字架の首飾り。まさに修道女の様な見た目だ。家の周りや壁がやけに西洋寄りなのも納得できる気がした。先程佐倉と呼ばれた修道女のような女性は笹木達の姿を見ると、クスッと優しく微笑みながら彼らに言った。


「あら笹木さん、こんにちは。そちらの方が例の?」

「そうそう。あの子達(・・・・)に会わせてあげようと思って。どこにいるの?家ん中?」

「2人とも外でいつもの鍛錬中よ。もう数時間ぐらいはやってるみたいだけど。」

「相変わらず、揃いも揃って真面目だねぇ……分かった。とりあえずこっちから声掛けてみるよ。」

「ねぇ、ちょっと待って!また勝手に話進めないでよ!!あの子達?この人があんたの知り合いじゃないの?」


あまりにも滑らかに進む話を前に、宮葉がすかさず笹木に食ってかかる。すると、佐倉と呼ばれた女性は頬に手を当てながら、何処か呆れた様子で笹木に言った。


「あらやだ。笹木さんったら、また何も説明せずに連れてきたの?勿体ぶらずにちゃんと教えてあげてくださいな。その方がスムーズに話も進むでしょうに。」

「いやいや、何も知らない状態からの種明かしが1番楽しいんじゃないですか。あの子達が相手なら尚更。」

「もう……そんな調子でまた怒られて殴られても知りませんよ。」


女性はそう言ってため息を吐くと、何一つ状況を呑み込めていない宮葉の方に顔を向けた。髪色は特徴的だが、何回見てもどこか神聖な雰囲気を纏っている人だ。化粧も控えめで、細い桃色の瞳が真っ直ぐ宮葉の姿を見つめていた。思わず宮葉がピシッと背筋を伸ばすと、女性は柔らかく微笑みながら彼女に言った。


「ごめんなさいね。笹木さん、ちょっとマイペースな所があるから……あぁ、自己紹介がまだだったわね。私は佐倉美桜(さくら みお)よ。この孤児院を運営してるの、宜しくね。」

「孤児院?ここ、孤児院なの……ですか?」


途中までタメ口寄りの口調になっていた宮葉が、ハッと目を見開き慌てて敬語に言い直す。その様子が微笑ましく思えたのか、佐倉は変わらず柔らかな笑顔を見せながらこくりと頷いた。

そう言えば、先程扉を開けたあの子供は、佐倉と比べても顔つきや髪の色が大きく異なっていた。最初は普通に彼女の子供なのかとも思ったが、孤児院と言われればあの子がここに居る理由も何となく察せた。宮葉自身は、既に母親こそ居ないものの、父親はいるので孤児という訳では無い。故に孤児院に来たのは今が初めてだ。孤児院ってこういう場所なのか、と宮葉が関心を抱く中、笹木が警官帽を被り直しながら宮葉の肩をポンッと軽く叩いて言った。


「じゃあそろそろ、あの子達に会いに行こうか。宮葉さんもいい加減知りたいでしょ?俺の言う知り合いの人のこと。」

「あ、結局この女の人じゃないのね……本当よ。さっさと連れてって頂戴。これ以上振り回されるのも、時間を無駄にされるのも嫌だわ。」


宮葉の言葉に笹木が苦笑い混じりに頷くと、佐倉は「殴られない様に気をつけてね。」とだけ言い残しそそくさと扉を閉めてしまった。閉める衝撃でドアノッカーがカタンッと硬い音を立てる。笹木は宮葉に付いてくるよう手で仕草を送ると、玄関から片側に伸びる石造りの小道を歩き始めた。

大粒の石を疎らに敷き詰めたその小道は、孤児院である建物の横を沿うように伸びていた。その道すがら、欠けた煉瓦の壁に子供が描いたであろう落書きを見かける。クレヨンで乱雑に描かれたそれは、ここが本当に孤児院であることを示す印のように消されることなくそこに残されていた。無論子供の落書きなので、お世辞にも上手とは言い難い。が、そんな絵の中に一つだけ抜きん出て美しく描かれた絵を宮葉は見つけた。兎の絵だろうか。雑に描かれた絵に比べても、異様なほど精密に白い兎の絵が描かれている。この孤児院に住む子供達の中に、天才の絵描きでもいるのだろうか。思わず宮葉がその絵をジッと見つめていると、先を進んでいた笹木が宮葉に声をかけてきた。付いてきていない事に気づき呼びかけているのだ。我に返った宮葉が慌てて壁から離れて笹木の元に近づく。

小道を進むにつれ、2人は木々の生い茂る森のような場所に辿り着いた。孤児院の建物は気づけば既に見えなくなっており、小鳥のさえずりや木々の隙間を通り抜ける風の音しか聞こえない。ここ大神町は規模こそ小さいがそこそこ現代的に繁栄している町だ。そんな場所でこんなに自然に溢れた場所に巡り会えるとは。そう言えばここに来たばかりの時に笹木が“敷地自体は広いらしい”などと言っていた気がする。最初はどういう意味か分からなかったが今ならわかる。こんなに木々の生い茂った庭、と言うより森が建物の後ろ側に広がっているのだから。


「なんかここ……木が多過ぎて、すごく薄暗いわね。本当にこの先に例の人達がいるの?」

「佐倉さんの話通りならね。もうすぐで抜けるから、後ちょっとの辛抱だよ。」


お互いにそんな会話をしながら、ひたすら小道を進むことおよそ5分。遂に足元の小道の石が途切れた。その先に視線を向けると、宮葉は自身の目に映った光景に思わずポカンと素っ頓狂な表情を浮かべた。

小道の先に広がる、木々の開けた小さな庭のような場所。その更に先には古びた教会の様な建物。苔や木の根っこなどの自然の植物が壁にびっしりと張り付いている。しかし、宮葉の目が奪われたのはそちらの方ではない。彼女の目が見たのは、その教会の手前側で、2人の人間がお互いに激しい乱闘を繰り広げている光景だった。

1人は黒い長髪を白いリボンで二つ結びにした、小柄な少女。宮葉の着ている制服と同じものを着ている彼女は、夏だと言うのに黒の長袖インナー、そして黒のハイソックスと言う暑そうないでだちをしている。もう1人は、黒と白で構成されたジャージを羽織った大柄な体格の青年。長い兎の耳のような飾り付きの頭巾を被っており、こちらも何故か長袖長ズボンと暑そうな見た目をしている。明らかに体格差があり過ぎる2人だったが、両者共々ほぼ互角の戦いを繰り広げていた。

少女が鋭い拳を叩きつけようとすると、青年が素早く己の腕や足でその拳を払い除ける。彼女の打撃の隙をついて青年が足払いをしかけるが、少女は高所から降りる猫のごとく、バランスを崩して倒れかけた身体をくるりと捻りながら体勢を立て直す。仕返しと言わんばかりに少女が鋭い蹴りを繰り出すが、やはり青年はそれを素早く躱しカウンターを仕掛けて――少女の身軽なフットワークと愚直なまでの連続攻撃、そして青年の繰り出す巧みな回避と反撃。両者の繰り広げる激しい乱闘は、子供同士のプロレスごっと称するにはあまりにもレベルが違い過ぎていた。佐倉が先程鍛錬がどうのこうのと言っていたのを思い出す。これは確かに鍛錬と呼ぶのがふさわしい規模だ。少女の着ている服が宮葉と同じものなので、彼女の方は恐らく同年代か先輩に値する年頃だろう。まさか、笹木が話していた“知り合い”はこの2人の事だろうか。呆然とした様子の宮葉があんぐりと口を開けていると、笹木が軽く咳払いをしながら例の2人に声をかけた。


「おーい!宇佐美くーん、ハルちゃーん!お取り込み中の所悪いけど、ちょっといいかーい?」


笹木が躊躇いもなく2人の元へ近づく。すると、それまで乱闘中だった2人の動きが途端にピタリと静止した。それは丁度、少女の身体が青年の頭目掛けて飛びついた瞬間でもあった。視線だけを笹木に向けながら、ハルちゃんと呼ばれた少女が素早く青年から離れて地面に着地する。その衝撃で少女の足元にあった小石が何個か飛び散った。少女の手がすかさずそのうちのひとつを手に取る。それを見た瞬間、宮葉の中の本能的な危機感が隠れろと彼女に命令してきた。反射的に宮葉が近くの木の陰に身を隠す。その直後、少女は手に持った石をギュッと握りしめ、野球選手顔負けのフォームでそれをぶん投げながら大声をあげた。


「さあぁああああさあああぁぁぁきぃぃぃいいいっ!!!!!」

「えっ…ちょ、あぶなっ!!」


ぶぉんっ。

小石を投げる上では有り得ないほど露骨に聞こえた、空気を切り裂くような音。笹木が咄嗟に身体を横にそらし、小石の射線上から身を躱した。警官としての運動能力が功を奏した瞬間だった。もしそこにいるのが宮葉であれば躱す事は出来なかっただろう。小石はそのまま真っ直ぐ飛ばされ、宮葉の隠れた木の幹にドスッと勢いよく激突した。あまりにも勢いがあり過ぎたのか、石のぶつかった、と言うよりは突き刺さった衝撃で木がガサガサと揺れ動き、大量の葉っぱが宮葉のいる地面目掛けてドサッと落下してきた。驚いた宮葉が悲鳴をあげる。小石は木の幹に深深と刺さっており、その箇所から微かに木くずの煙さえ漂っている。この木が他と比べて一回り大きくなければ、木を貫通して身体を貫いていたんじゃないか。そう思わせるほどの凄まじい威力だった。ここまでの流れがほんの数秒の間に起きたのだから、宮葉としては尚更驚きが隠せなかった。どうやら笹木にとっても予想外だったらしく、彼も唖然とした様子で宮葉の隠れていた木を見つめていた。すると、小石をぶん投げた張本人が笹木に向かって指をさしながら声を荒らげて叫んだ。


「笹木てめぇ!!また俺に黙って勝手に仕事押し付けやがったな!!?佐倉さんとウサギだけに話通すなって何度言えば分かんだよ!!ぶん殴んぞこの野郎っ!!!」

「ハル、落ち着け。殴るのは良いが後にしろ。」


今にも笹木めがけて殴りにかかる勢いの少女を、大柄な青年が後ろから羽交い締めにする形で制止させる。小柄な少女は抵抗する様にじたばたと暴れているが、流石に体格差のせいで抜け出すことは出来ないようだ。交番に来たばかりの宮葉よりもけたたましく暴れる少女を前に、葉っぱ塗れの宮葉が思わずフラフラとその場に崩れ落ちる。先程以上に状況が上手く飲み込めないのだ。あんなに小柄な少女の手から、豪速球レベルの小石の投擲が行われた事実が受け入れられない。それに、パッと見は大人しそうな雰囲気があるのに、ひとたび口を開ければ口調は乱暴だし一人称は俺だしで凄まじいギャップを覚えてしまう。葉っぱを払うのも忘れて宮葉が座り込んでいると、笹木は苦笑いを見せながら若干後ずさりしつつ少女に向かって言った。


「あはは、ごめんってば!ハルちゃんに連絡しても既読無視されると思っちゃったからさ。」

「人を勝手に薄情者扱いすんじゃねぇよ!!だぁあもう離せよウサギ!!あいつの顔面一発殴らねぇと気が済まねぇ!!」

「だから落ち着けって。さっきも言ったが、殴るのは後にしろ。」

「宇佐美くん、ナチュラルに俺を殴る事許さないであげて?お巡りさんこれでもお仕事中だから殴られるのはちょっと……」


笹木は降参するかのようなポーズでそう言うと、宮葉の元に近づき彼女の頭についた葉っぱを軽く払い除けた。それによりようやく我に返った宮葉が、バッと顔を上げながら笹木に尋ねる。


「ね、ねぇ……まさか、例の知り合いの人達って……」

「あぁごめんね、色々と遅くなっちゃって。紹介するよ……この小さい子が狗井遥(いぬい はるか)ちゃんで、大きい子が宇佐美翔(うさみしょう)くん。君のボディーガードを引き受けてくれる人達だよ。」

「俺は引き受けたって言ってねぇよ!!ウサギが勝手に受け入れただけだわ!!」


笹木の笹木の説明に対し、少女――狗井がすかさず声を荒らげて反論する。その度に笹木の元へ駆け出しそうになるが、咄嗟に青年――宇佐美がそれを止める。それにより少しは落ち着いたのか、狗井は握り締めていた拳を緩めてぐぬぬと悔しそうに歯を食いしばった。笹木に支えられながら宮葉がよろよろと立ち上がる。ようやく宮葉の姿を視認した宇佐美が、宮葉を2人の近くまで連れてきた笹木に向かって声をかけた。


「笹木さん、その人が例の被害に遭ってる人ですか?」

「そうそう!宮葉燐さんって名前。君達と同じ大神学園(おおがみがくえん)の子だよ……歳も同じじゃないかな?」


ね?と確認する様に宮葉の顔を見つめる笹木。宮葉は頭に残っていた葉っぱを退けると、乱れた髪を整えながら狗井と宇佐美の顔を交互に見つめた。この2人がこれから自分のボディーガードになるのだ。一見普通の高校生だが、諸々の流れからしても中身が普通ではないことぐらい宮葉も分かっていた。怯える様に宮葉が笹木の背後に隠れると、宇佐美はやっぱりかと言わんばかりにため息を吐いた。そして、軽く狗井の頭を小突きながら彼女に苦言を呈した。


「ハル、依頼人が怯えてる。すぐに気づけなかったのもあるけど、急に石投げたりするのはどうかと思うぞ。」

「はぁ!?何で俺が全面的に悪いみたいな事言うんだよ!?元はと言えば笹木がちゃんと話通さなかったのが悪いって――」

「ハル。」


宇佐美の短いながらも圧のある声音に、反射的に殴り掛かりそうになった狗井がピタッと動きを止める。狗井はもどかしげに口と眉を引くつかせたが、諦めたのか拳を下ろし深く息を吐いた。あんなに暴れていた狗井をいとも容易く宥められるだなんて。髪を整え終えようやく落ち着きを取り戻した宮葉が感心した様子で宇佐美の顔を見つめる。その視線に気圧されたのか、それに気づいた様子の宇佐美がさりげなく目線を横にそらした。


「まぁようやくこうやって対面できた事だし、とりあえず一旦孤児院の方に戻ろうか。ここで立ち話もアレだし、ね?」

「お前なぁ……勝手に来ておいて勝手に仕切んなよ。ったく……」


話を切り替えるように手を叩く笹木に対し、狗井がうんざりと言わんばかりに眉をひそめた。狗井にとっても笹木は少々厄介な人間の様だ。宮葉自身も振り回されてきた方なのでその気持ちは少しばかり理解出来る。が、笹木はそんな狗井の反応に対し特に何かを言うでもなく、警官帽を被り直しながらくるりと踵を返した。そのまま来た道をスタスタと戻る笹木。置いてかれると思った宮葉が慌ててその後を追いかけた。出会って間もない狗井達と共に居る勇気がまだ無かったのだ。下手に機嫌を損なわせて殴られるのは御免だった。そんな宮葉達の後ろ姿を見つめながら、狗井と宇佐美がお互いの顔を横目で窺い合う。このままここで立ち尽くす訳にも行かないので、仕方なく2人も笹木達の後を追って孤児院に戻ることにした。時刻は既に夕方に差し掛かり、夕暮れの淡い光が開けた教会前の庭を静かに照らしていた。



***



孤児院室内ーー



「……さて。それじゃあ改めてご対談と行こうか。ごめんね、ここまで長引かせちゃって。」


長机の横に置かれた椅子に堂々と座りながら笹木がそう言った。その隣には宮葉が、2人と向かい合う位置には狗井と宇佐美が隣合う形で座っていた。それぞれの前にミルクティーの入ったお洒落なティーカップが置かれている。おまけに4人の中央には焼きたてのクッキーが山盛りに並べられた、これまたお洒落な皿が置かれていた。佐倉が4人のために焼いてくれたようだ。当の本人は子供達の世話をしなければいけないと言ってどこかに行ってしまった。出来れば彼女も傍にいて欲しかったのだが、急に来訪した身としては流石にそこまでのわがままを言う訳にはいかない。笹木が宮葉に代わって事の顛末を狗井達に話し始めた。狗井達がその話を聞く最中、宮葉はミルクティーを啜りながらこっそり部屋の中を見渡した。

孤児院の中は玄関口と同様西洋風の雰囲気を纏っていた。広めの玄関から伸びる細長い廊下。ランプの様な構造の電灯が等間隔に壁に置かれているが、夕暮れなのも相まってか少し薄暗く感じられる。その廊下に面する形で部屋が複数隣合うように並んでいる。そのうちのひとつ、玄関から2番目に近い位置の部屋に現在宮葉達は入っていた。狗井曰くリビングにあたる部屋らしい。確かにリビングらしく、食事を取る為の長机や本などが敷き詰められた大きな棚、そして寛ぐ用のソファーなどが置かれている。天井には豪華な作りのシャンデリアがあり、赤い絨毯と真紅色の壁を眩い光で煌々と照らしていた。部屋の片隅に子供用の玩具らしきものが詰め込まれた箱もあったので、恐らく孤児(こども)達の遊び場にもなっているのだろう。長机の近くにある入口とは別の扉は台所に繋がっている様だ。佐倉がそこからクッキーを載せた皿とティーカップ一式を持ってきた事から何となくそう察した。こうして見ると他の部屋がどうなってるのかも気になるが、そんな宮葉の好奇心を遮るように笹木が彼女に声をかけてきた。


「……って感じで。宮葉さん、説明はこんな感じでいいかな?」

「ん?あ、あぁ……別にいいんじゃないかしら。助かるわ、ありがとう。」

「気にしなくていいよ。こういうのはお巡りさんの仕事だからね。」

「よく言うぜ。本当は面倒だから俺達に仕事押し付けたいだけだろ?」


笹木の言葉に対し、狗井が呆れたと言わんばかりの口調でツッコミを入れた。ボリボリと豪快にクッキーを頬張る姿は、小柄で可愛らしい見た目にそぐわずワイルドにも程があった。クッキーを飲み込もうとミルクティーをがぶ飲みする狗井を前に、笹木は首を左右に振りながらおどけるような口調で彼女に言った。


「まさか、とんでもない!俺がただその為だけに君達にこの話を持ち込んだとでも?」

「為だけにって……その言い方だとちょっとは認めてるだろ。やっぱ1回殴っていいか?」

「まーたそうやってすぐ暴力に移る〜。いいから俺の推測を聞いてよ……今回の件、例のごとく人狼(・・)が絡んでると思うんだ。」


笹木の口から出た“人狼”という言葉。その言葉を聞いた瞬間、皿の上に伸びかかっていた狗井の手がピタッと静止した。宇佐美も飲んでいたティーカップをゆっくりと戻し、2人揃って真剣な眼差しで笹木の顔を見つめる。急に態度が急変した狗井達を前に、宮葉が3人を交互に見比べながらオロオロと視線を泳がせた。何かを察した様子の狗井が、椅子に深く背もたれながらため息混じりに呟く。


「はぁ……お前のそう言う勘、大抵外れたことねぇからなぁ……でも、マジで言ってんのか?」

「勿論だよ。冗談は言っても嘘は言わない性分(タイプ)だからね、俺は。人狼絡みだと、流石の君たちも黙っちゃいられないでしょ?」

「ちょ、ちょっと待って!人狼って何よ!?ゲームの話……じゃないわよね?」


話についていけないと感じた宮葉が、慌ててその場から立ち上がり2人の話をさえぎった。人狼なんて言葉はボードゲームにあるあのゲームでしか聞いたことがない。何で今になってその名前が出てくるのかと、宮葉の中でそんな純粋な疑問が浮かんでいた。そんな彼女に対し、お前何も知らねぇんだなと言うように狗井が大きくため息を吐いた。その反応が気に食わなかったのか、宮葉が少し苛立たしげに眉を顰める。怒って暴れても狗井に物理的に反撃されそうなので反論まではしなかった。そんな宮葉を宥めるように、笹木はティーカップを手に持ち中身を一口啜りながら彼女に言った。


「まぁまぁ落ち着いてよ、宮葉さん。詳しく話すとちょっと面倒になるんだけど……要するに、異能力を持った人間って感じかな。ざっくり言うとね。」

「異能力を持った人間……?ちょっと、空想と現実を混合させるのはやめて頂戴。頭おかしい人に見えちゃうわ。」

「確かにこいつ自身は頭おかしいけど、嘘はついてねぇぜ。人狼ってのはそういうもんだ。」


笹木に突っかかりかけた宮葉に対し、狗井がすかさず淡々と言葉を挟み込む。が、最初の一言が心にナイフのごとく突き刺さったらしく、笹木は目を伏せながら冷や汗混じりに苦笑いを浮かべた。話が飲み込めず首を傾げる宮葉に対し、宇佐美が小さく息を吐きながら彼女に話し始めた。

曰く――人狼とは、かなり昔からこの町にのみ存在する、不思議な能力を持つ人達のことらしい。人狼の特徴のひとつが、普通の人間には見えない“狼”と呼ばれる存在を従えている点にある。人狼が異能力を使えるのもこの“狼”がいるのが原因らしい。“狼”は宇佐美達曰く霊的存在に近いものらしく、普通の人間の目には見えないし触れることも出来ないとの事だ。その性質を利用してか、能力を駆使して悪事を働く人狼が多いのだと、笹木が宇佐美の話に補足する様に言った。異能力とか霊的存在とか、宮葉としては色々と突っ込みたい点がある。が、とりあえずそういう人間がいるのだということはようやく理解出来たので大人しく椅子に座り直す。

しかし、その最中に宮葉はふと気がついた。笹木に限らず、狗井と宇佐美もやけに人狼について詳しくないか、と。目に見えず触れることも出来ない“狼”の存在を、どうして3人がこまで詳しく知っているのか。深く考えなくてもすぐに分かることではあるが、どうしても宮葉は直接3人に確認したかった。1人ですぐに受け入れる勇気が無かったのが理由の一つだ。そのため、彼女はすぐに3人に尋ねた。


「あの……あんた達、揃いも揃ってやけに詳しいわね。その、人狼って奴について。なに?そういう系を専門に扱ってる訳?」

「専門も何も……俺ら(・・)自身が(・・・)その人狼(・・・・)って奴だし(・・・・・)。」


宮葉からの問いかけに対し、狗井があまりにもあっさりと真実を暴露した。宮葉の顔が途端にさぁっと青ざめる。やはり自身の勘は当たっていた。ここにいる3名全員が人狼なのだと。自分達が人狼であるのいうのなら、人狼の事を知っているのも納得だ。そして、人狼は何かしらの特殊能力を持っていると宇佐美達は話していた。一般人である宮葉とは異なる世界に生きる人間が、目の前に3人もいるこの状況――何の抵抗手段もない宮葉が正気を保てるはずがなかった。慌てて椅子から立ち上がり、その場から離れて部屋の隅まで勢いよく逃げ出す。そして宮葉は、3人をそれぞれ指さしながら大声で叫んだ。


「嘘つき、このバカ警官!!あんた、ヤクザとかの危ない人と関わりないみたいな事最初に言ってたじゃない!!それなのに、思いっきり悪い人達と関わりあるじゃない!!どういうことよコレ!!?私の事騙したわね!!?」

「待て待て待て!!誰が悪い人達だ!!?何勝手に悪い奴認定してんだよ、てめぇ!!」

「落ち着いてよ宮葉さん!俺達は確かに人狼だけど、悪い人狼じゃないよ!むしろ、悪い方を取り締まる側の人狼だよ!!」

「嘘よ、絶対嘘!!そう言って私を惑わして仲間に取り込む気でしょ!?絶対騙されないんだから!!」

「だーかーらー!!そんなアホくせぇこと俺達がする訳ねぇだろうが!!おいコラ、どこ行くんだよ!?ここまで来て逃げようとすんな!!」

「嫌あああ!!!こっちに来ないで、あっちいって!!」


完全に錯乱状態でドタバタと部屋の中を逃げ回る宮葉を、狗井と笹木が慌てて落ち着かせようと追いかけ回す。わぁわぁと途端にやかましくなる部屋の中、宇佐美だけは座ったまま3人の慌ただしい様を静かに眺めていた。もう手に負えんと言わんばかりに頭を抱えて眉をしかめながらだが。

そして数分後――宮葉は狗井に背中から取り押さえられ、強引にソファーの上に座らされていた。自分よりも少しだけ背の低い狗井だが、やはり腕力は宮葉よりも圧倒的に強かった。逃げようともがく宮葉を必死に押さえながら狗井が声を荒らげる。


「だぁああ!!もう暴れんなよ、こんな狭い部屋ん中でよぉ!!いいから落ち着いて話聞けって!!」

「いーやーよー!!化け物と一緒にいるのは嫌ー!!離してー!!」

「あはは…化け物、かぁ。まぁ異能力使えるってなったらそうなっちゃうよねぇ。いっそのことここで“狼”出して、危害加えないこと教えてあげた方が…」

「それだと逆に悪化しますよ、笹木さん。ここはとりあえず、俺が。」


肩を回して意気揚々と何かを企む笹木を制するように、椅子から立ち上がった宇佐美が彼の前に出る。宇佐美はそのまま宮葉達のいるソファーの端にしゃがむと、暴れる宮葉の顔を真っ直ぐ見つめながら彼女に言った。


「宮葉さん、とりあえず落ち着いて聞いてください。俺達は確かに人狼です。でも、笹木さんの言う通り、あなたに危害を与える気は全く無いし、仲間に取り込む気も毛頭無いです。ただ、あなたが人狼の被害に遭っている可能性があるなら、同じ人狼としてそれを見過ごす訳にはいきません。」

「で、でも……結局最後には裏切るんでしょ?あんた達がどういう能力使うのかは知らないけど、どうせ私を殺せるぐらいの力はあるんでしょ!?漫画とかで見る異能力持ってる人間なんて、みんなそういうもんだし。」

「……あなたを裏切った所で何の得にもなりませんよ。それに、俺達は人殺しの為に能力を使う訳じゃない。人を守るために自分の能力を使うんです。」


宇佐美の真剣な眼差しと迷いのない言葉を前に、あれだけ暴れていた宮葉の身体がゆっくりと弛緩する。彼の血のように真っ赤な瞳にここまで真っ直ぐ見つめられると、最早何も言えなくなってしまうのだ。ようやく落ち着いたと判断した狗井が、体の拘束を解いて宮葉の隣にあぐらをかいて座り込んだ。宮葉は狗井と宇佐美の顔を交互に見ると、ソファーの上で体育座りになりながら宇佐美に言った。


「そ、そもそも!本当に私が人狼に狙われてるとは限らないじゃない!もし相手がただの人間だったらどうするのよ!?」

「その時はちゃんと相手に謝罪します。もしそれでもあなたの気が済まなかったら、笹木さんに全部文句言ってやってください。人狼が犯人だと推測した笹木さんに全責任があるんで。」

「宇佐美くん、度々俺に対して辛辣過ぎない?……まぁ別にいいけどさ。」


笹木がそう言いながら小さくため息を吐く。どこか悲しげな顔をしてはいるが、目が笑っているあたり心の底から傷ついている訳では無いようだ。宮葉がやや引き気味に眉を顰めると、隣に居た狗井が宮葉の肩に手を回し笹木の方を指さしながら彼女に言った。


「でもよ、笹木の勘はアテにしていいぜ。百発百中……とまではいかねぇけど、9割ぐらいはマジで当たるからな。人狼絡みの時は特に当たるし。」

「えぇ……勘に頼る警官とか初めて見たんだけど。本当に信用していいの?」

「あれぇ、おかしいなぁ?なんか俺全然信頼されてないんだけど。」

「今日会ったばかりの人なんですよね?それだったら仕方がないですよ……それに、半分ぐらいは自業自得な気が……すいません、これ以上は言わないでおきます。」


わざとらしく泣き顔を浮かべる笹木に対し、途中まで何かを言いかけた宇佐美が素早く咳払いで誤魔化す。笹木は仰々しく天井を仰いだが、帽子を深く被りながら椅子を3人の近くに寄せてそこに座り込んだ。背もたれを前にしているため、そこに腕を乗せて肘をかける。そして、ようやく落ち着きを取り戻した室内で笹木は己の考えを詳しく話し始めた。


「話戻すけど……俺が思うに、犯人がこのまま宮葉さんを影から見るだけで終わる訳がないと思うんだよね。宮葉さんの話だと、数週間は監視行為を続けてるらしいし、そろそろ本格的に動き始める頃合だと思う。ストーカーにしてはかなり慎重な気もするけど。」

「むしろ数週間もよく耐えれたよなお前。親には話さなかったのかよ?」

「話したところで何の手助けにもならないわよ。私のお父さん、仕事熱心でバカ真面目だから、私の心配してる場合じゃないもの。」

「家族の人に相談するのも本当はひとつの手なんだけどね……そこに関しては今回は考えないでおこう。という訳で、ハルちゃんと宇佐美くんには、しばらく宮葉さんの護衛をお願いしようと思うんだ。護衛のタイミングは宮葉さんの判断で構わないよ。不安なら夜の時以外にも頼めばいいし。」

「……夜だけで結構よ。外に出てる時にしか感じないから。」


宮葉が少し弱々しい口調でそう答える。暴走し過ぎた反動で疲労が溜まってしまったのだろう。顔を伏せながら座る宮葉の背中を、狗井が労う様に優しくさする。同い年の女子にしては乱暴な子だと思っていたが、なんだかんだで根は優しくもあるようだ。宮葉が小さく息を吐くと、笹木は「じゃあ大体の流れはそれで決まりかな。」と呟きニコッと小さく微笑んだ。

部屋の壁にかけられた鳩時計が夜の6時を告げる。その音を聞いた瞬間、宮葉がハッと我に返った様子でガバッと顔を上げた。慌てた様子でスマートフォンを取りだし、時刻を確認する。


「やっば……!もうこんな時間!?早く家に帰らないと……」

「あれ?宮葉さんのお家、門限とかある感じなの?」

「そういう訳じゃないけど、お父さんの居る工房までが家からちょっと遠いのよ!このぐらいの時間に家に帰らないと、いつもの時間に工房に行けなくなるわ!とりあえず今日は警官、あんたが工房まで送り届けて頂戴!自転車もあるから余裕でしょ?」

「えぇ?ようやくボディーガードの件がまとまった所なのに……まぁしょうがないか。パトロールついでって事で今日は送ってあげるよ。」


バタバタと準備を進める宮葉を横目に、笹木が頬をかきながらのんびりと立ち上がる。すると、宮葉はそんな笹木の手を引っ張りそそくさと部屋から出ようとした。危うく足がもつれて転びかけた笹木が、慌てて宮葉の足取りに合わせて外に飛び出す。狗井達も送迎の為に部屋を出ると、宮葉はアワアワと靴を履きながら2人に向かって言った。


「じゃあおチビ、あとノッポ!ボディーガードは明日の夜からお願いするわ!今日はもう帰るから、また明日!」

「お、おい待て。おチビって俺のことか!?俺の名前は狗井だ、いーぬーい!!」

「私、人の名前覚えるの苦手なのよ!おチビの方が分かりやすいし覚えやすいでしょ?……って、あぁもう時間が無いわ!!明日以降宜しくね、おチビとノッポ!!」


宮葉は最後にそう言い放つと、笹木の手を引いたまま慌ただしい足取りで玄関の扉を開けた。笹木が狗井達に向かって手を振る姿が、バタンッと閉められた扉の外へ消えていく。玄関口に残された狗井と宇佐美は、お互いの顔を見つめながら言葉を交わし合う。


「結局……ハルはボディーガード、引き受けるのか?」

「しょうがねぇだろ。笹木がああ言う時は大抵その通りだし……何より、あいつもあいつで困ってるみたいだし。放っておく訳にもいかねぇだろ。」

「……それもそうだな。」


そんな会話をしているうちに、別の部屋に待機していた佐倉が2人の元に近づいてきた。彼女の周りには8名ほどの子供たちが寄り添う様にくっついて歩いていた。佐倉が狗井達に話は済んだか等の質問をし、諸々応えると夕飯の準備をするために子供たちと共にリビングへ戻っていった。狗井達もその後に続き、狗井は子供たちの相手をするためにリビングに残り、宇佐美は佐倉の手伝いをするために佐倉と台所へ向かって行った。

急な訪問者により少しだけ騒がしかった孤児院に日常的な静かさが戻り始める。残されたミルクティーは狗井達が無理やり全て飲み干し、クッキーは子供たちの腹の中へ数秒と経たないうちに消えていったのだった。



***

ピクシブ版→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15084719

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