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廃棄寸前な私は社畜メシでマリアージュを探す〜ざまぁよりうまぁを添えて〜  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!
最終章 あ〜、凄いグルメなウンチクっすね。この間見た雑誌の内容とソックリ〜!
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第64話 不在×不覚

 烏丸(からすま)課長が不在の穴を()めるために、午前中は調剤(ちょうざい)室のヘルプに入っていた私。

 簡単にお昼ご飯も食べたし、午後は病棟(びょうとう)の業務を張り切ってやっていこう!


 今日は緊急入院の人もいなかったし、午後は私が担当していた蟹田(かにだ)さんっていう患者さんの退院対応をすればオッケーだね。

 退院後に飲んでもらうお薬は数日前に用意してナースステーションに保管しておいたし、特に今から急ぎでやることはないはず。


 ……あ、でも入院中に何回かお薬が変更になっていたし、看護師さんから蟹田さんの退院連絡がきたら念のためにもう一度説明しに行こうっと。



 午後のスケジュールを脳内に浮かべながら、大量の荷物や資料を持ってナースステーションに入る。

 今日も相変わらず、様々な職種のスタッフがステーションの中を(いそが)しそうに動き回っていた。


 パッと見でも分かるほどに、みんな揃って疲れた顔をしているなぁ。

 私も今日は運動会の翌日っていうのと、午前からいつもと違う作業をしていたからなんだか疲れたよ……。



 凝り固まった首をコキコキと鳴らしながら、(すみ)っこにある薬剤師専用のいつものスペースへ。

 自分専用の椅子に座ってカタカタとパソコンで仕事を始めた私は、蟹田さんの退院時間までいつも通りに過ごしていた。


 ――だったのだが。



「飯野さん……ちょっと」

「え? はい。どうしたんですか、辰巳(たつみ)師長?」


 業務を始めて1時間ほど経った頃、この内科病棟の看護師長である辰巳師長さんが私に声を()けてきた。

 普段は院内の安全管理という業務も兼任(けんにん)しているだけあって、とっても仕事に厳しい人だ。

 だけど最近になって私の母の幼馴染おさななじみだったことをカミングアウトしてきた師長は、どうも私に馴れ馴(なれな)れしいというか……娘みたいな扱いをするようになってきていた。


 だけど、今日の師長さんは真剣(しんけん)な表情で――



「ちょっとどういうことか聞きたいんだけど……今日、蟹田さんの退院日だったでしょう?」

「え? あ、はい。その予定で準備しましたけど」


 基本的に、看護師さんには入院患者さんの退院手続きが終わったら私を呼んでもらうようになっている。

 薬の説明が必要だったり、特殊なお薬は直接渡すことがあるからだ。


 だから今回も、蟹田さんにお薬の説明に行くつもりだったんだけど……。

 もしかして退院直前で薬の変更でもあったのかな?


「今、退院した蟹田さんから電話があってね。家でお薬を確認したら、中身がいつもと(ちが)うって言うのよ」

「……えっ? ちょ、ちょっと待ってください。退院したって蟹田さんがですか!? それって、これから退院するはずのかたですよね!?」


 さっきから師長の言葉の言い回しが変だと思っていたけど、私の聞き間違えじゃ無ければ、蟹田さんはもう退院したってこと!?

 それに薬の中身が違うって……私、まだお薬も渡していないんだけど!?


「え? それはどういうことかしら? 蟹田さんが早めに退院するって、午前中の内に薬剤部には連絡(れんらく)したはずなんだけど。看護師はいつも通り、ナースステーションに置いてある退院薬をお渡ししたって……」

(うそ)っ……私、それ聞いていません!」


 午前中といえば、私は獅童(しどう)と一緒に点滴(てんてき)の調剤をしていた(ころ)だ。

 病棟担当者である私に連絡も無しで勝手に退院するなんて、薬を飲まない患者さんとかを除いて今まで無かったはず。

 って、今はそれよりも……。


「あの、誰がいつ、誰に連絡したかって分かりますか? あと蟹田さんの退院薬の間違まちがいについては、薬剤部でも迅速(じんそく)に処理しますので……」


 まずは患者である蟹田さんの安全が第一だ。

 えぇっと、カルテで連絡先と……あと事実確認と……?

 あぁ、もう! 落ち着け、私!!


「……紫愛ちゃん。貴女、全然落ち着けていないわよ? 連絡ミスに関しては看護部でも調査するから。まずは事故対応マニュアルに従って、正確に処理を「辰巳師長! あの、看護部長から内線電話です!」なによ、もう。まったく、このタイミングで……」


 事故マニュアル……それってどこにあるんだっけ……?

 ――じゃない、だからまずはカルテで、薬剤部長に連絡して……。


「はい。……分かりました。今からそちらに向かいます。――はい。本人も今近くに居ますので、大丈夫です。それでは、失礼します……」


 違う……落ち着け……落ち着いて……!


「紫愛ちゃん、こんな時に悪いんだけど……」

「なんで? 私、ちゃんと確認したのに……どうして……」

「飯野さん!」

「――ッ!? えっ?」


 いきなり何なのっ!? 早くお薬をどうにかしないと……!


「今、看護部長から連絡があったんだけど……貴女、今日の午前中は注射(ざい)の調剤をしていたのよね?」

「え……? はい。し、しましたけど」



 だから私は違うよ……聞いてないんだよ?

 そんなことよりも、早く患者さんに連絡をしなくっちゃなのに……。


「あのね、今の電話で聞いたんだけど……今日病棟に届いた点滴に、異物が入っていたらしいのよ。それに、中身が処方箋しょほうせんの内容とも違うんじゃないかって。色も変だって看護部の方に連絡が上がってきてるのよ」

「――えっ? いぶ、つ……?」


 ちょっと待ってよ、どういうことなの?

 今度は私が調製した点滴が……?


「それで薬剤部に連絡したら、今日の担当は飯野さんだって」

「ちがっ、いや、作ったのは私だけど……そんな、まさか!!」


 そんな初歩的なミス、するわけが……しかも獅童とダブルチェックしたはずなのに!?


「ちょっと、誰のミスかなんて後回しよ! まずは対処が先! ほら、蟹田さんへの連絡は誰かに頼んでおくから、私たちは先に点滴の確認をしに行くわよ。退院薬はひとまず調剤室に伝えて、正しいお薬を準備して貰ってちょうだい」

「は、はい!」


 辰巳師長のげきで冷静さを取り戻した私は、言われたとおりに従って対処を進めた。

 そしてその点滴を使う予定だった病棟に、師長と一緒に向かう。


 もし、本当に全部私が間違っていたとしたら……。

 患者さんの病状がそれで悪化していたら……。

 私が原因で亡くなりでもしたら……。


 心臓が今までに経験したことが無い速度でバクバクいっている。

 頭は何をどうしたら良いのか分からなくって、グルグルする……。


「飯野さん、しっかりするのよ! こういう時に大事なのは、ミスに対してどう冷静にベストに近いフォローをするかなのよ。なんでミスが起きたかなんて、それが終わってからにしなさい?」

「……はい。分かりました。すみません……」


 こんな立て続けにミスをするなんて、今まで経験したことも無かった。

 取り乱しちゃったけど、師長の言う通りに落ち着いて行動しなきゃ……。


 ミスの見つかった病棟に到着すると、ナースステーションの中に置いてある点滴のもとへ向かう。

 担当らしい看護師さんは、怒りの形相ぎょうそうで私たちを(むか)えた。


「ねぇちょっと。これはさすがに有り得ないミスなんじゃないの? もしかしてアナタ、新人なワケ!?」

「っ!? す、すみません……」

「はいはい。気持ちは分かるけど、いったん落ち着きなさいよ。まずは状況を説明してくれる?」


 第一声から責められると思っていなかった私は、怒鳴(どな)り声にビックリして反射的に謝ってしまった。

 そんな私を師長がフォローしてくれたけど……。


「……飯野さん。残念ながら、これは確かにオーダー(処方)とは違う薬剤よ。それにコアリングが起きてるわ」


 師長は少し悲しそうな表情で、持っていた点滴を私に渡してきた。

 受け取ったソレを私も見てみると、師長の言った通り透明(とうめい)(ふくろ)の中には黄色い液体が入っていた。


 師長が言ったコアリングというのは、注射針によって傷つけられたゴム栓の破片が点滴の中に混入してしまう現象だ。

 天井(てんじょう)の照明にかかげてみると、袋の中にある小さな(つぶ)が光を受けて、チラチラと影を作りながら浮いているのがよく分かる。


「――そんな!? それに、点滴ルームで確認した時はこんな色じゃなかったんです!」


 誰の点滴にどんな薬剤を入れたかなんて、全ては記憶してはいない。

 だけど処方と違った薬剤を入れてこんな色をしていたら、さすがに私か獅童がその場ですぐに気付いているはずなんだよ!


「でも実際にはこうやって、貴女がミスった点滴が病棟に届いているのよ!? アンタはそれをどうやって説明するつもりなの!?」

「そ、それは……」

「はい、ストーップ。今はそういう言い合いをしている場合じゃないからね?」


 そ、そんな……?

 私は……私が全部やって……??


「わ、私は。ご、ごめんなさ……」


「ちょっと貴女、顔色が……」

「やだ、紫愛ちゃん!? 大丈夫っ!?」


 うそ……なんでこんな時に……あたまがフラ……


「やだっ、(たお)れちゃうわっ……誰かドクター呼んでっ!」

「いや、これってただの貧血じゃ……」

「違っ、この子、持病がっ!!」



 私がどうに……か、しなくっちゃ……



 ――私はそのまま意識を失い、その場で崩れるように倒れ込んでしまった。

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