第62話 注目×収穫
『次は神饌病院の有志によるチアリーディングです。曲は……』
「みんなー、多少間違ってもいいから、笑顔は忘れずにねー! それじゃあ楽しんでいこー!!」
「「「おーっ!」」」
病院対抗の運動会における目玉の一つ、お昼のチアリーディングが始まった。
私たちは1か月ほどかけて、仕事終わりに頑張って練習をしてきたわけだけど……。
「シア先輩……」
「獅童も笑顔!! 大丈夫だって、別に私は笑ったりしないから。……たぶん」
「せんぱぁい!?」
まったく、往生際が悪いやつだなぁ!
私だって緊張しているんだから……お腹、出てないよね? 大丈夫だよね??
「……先輩こそ往生際が悪いんじゃないですか?」
「うぐっ!?」
だ、だってやっぱりお腹のお肉がスカートに乗ってる気がして……。
くそぅ、全てはモッチーがあんな美味しいお弁当を持ってくるからイケナイんだ!!
「そんなに心配しなくたって先輩はキレイですから……とっても」
「うえぇっ!?」
「おーい! 2人もいっくよー!? はやくはやくー!!」
「はい! 行きます!! ほら、先輩も」
「う、うん。……あの、ありがと、ね?」
爽やかなふわっとした笑顔で「緊張は解れたみたいですね」と呟いた獅童は、さっきまでの憂鬱顔は何だったのって感じの軽やかな足取りで会場に走って行ってしまった。
「おおー。言うべきところはちゃんとキメるところはカッコいいねぇ、シドー君。今のは紫愛っちでもキュンってしちゃったんじゃないのー?」
「やめてよ、兎月ちゃん……やめてよ……」
やだなぁ、顔とか赤くなってないかな?
……うん。これはもう、全部夏の暑さの所為ってことで。
切り替え切り替え!!
さぁ、全力で踊って忘れよう!!
「うーん。これじゃあ、どっちが先輩なんだか分からないねー。まぁアンは面白いからいいんだけどー」
◇
「いやぁ~! 良かったよ、しーちゃん!! ウル君もお疲れ!!」
「ありがとう、モッチー。疲れたぁー!」
「……もうお婿に行けないです」
直前まで色々と緊張していたけれど、獅童が気を紛らわせてくれたお陰で練習通りに踊り切れた。
ただ獅童はと言えば……
「いやぁ、女の子からめっちゃ声援飛んでたな~! ウル君、大人気じゃん」
「なんで僕が……僕はただ皆と同じように踊っていただけなのに……」
もともと中性的な見た目をしているから、ちょっとメイクすればイケるとは思っていたけど、ここまでウケるとは思わなかった。
踊り終わった後に、他の病院の女の子から囲まれてチヤホヤされていたもんなぁ。
「やっぱり私の見立ては間違ってはいなかったようですね!! どうです? 今度はチャイナ服とか、アニメのコスプレしてみません? なんならナース服でも!」
「本気で勘弁してください……」
宇佐美ちゃんもこの結果にはすごい満足顔で頷いていたけど、本人的にはショックだったらしい。
私たちなんかよりもよっぽど「可愛い」とか言われていたし、勘違いした男性に連絡先を聞かれそうになっていた。
「毎日プロテイン飲んだり、筋トレしたりしてるのに……髭すら生えないし……どうやったら男らしくなれるの……」
おぉう……どうやら陰では凄い頑張っていたみたいだね……。
女子力ならぬ男子力?を磨いていたらしい獅童には『可愛い』のワードは禁句だったみたいだ。
「いいじゃないですか、獅童君……私なんて男どもから変な目で見られて……恥ずかしい……お嫁にいけない……」
そして沈んでいる人間がもうひとり。
それは私の後ろで地面に“の”の字をグリグリと書いている、牛尾ちゃんだ。
「う、うん。あれはちょっと可哀想だったね……」
「私もなんかバシバシ写真撮られてた気がするけどー、ウッシーの比じゃなかったしねー」
「流石にアレは、同じ女として同情します……やっぱり男はサイテーですね!」
練習の時からずっと思っていたんだけど、兎月ちゃん監修のチアリーディグは結構ハードな動きをする踊りだったのだ。
つまり飛んだり跳ねたりをしまくるわけで……。
「まぁ、減るもんじゃないから良いんですけどね。もう、慣れてますし。でもそればかり見られるのは、さすがの私でもショックです」
私は牛尾ちゃんとは付き合いも長いし、隣りで着替えたこともあるから分かるんだけど、その……やはり、アレが揺れるのだ。
もう、パン食い競争の時点で前評判が出来てしまったのか、こぞって男どもが牛尾ちゃんのダンスで元気になっていた。
女性は獅童、男性は牛尾ちゃんに熱狂という、私たちがほぼ空気になるような結果となってしまった。
「まぁまぁ、もう終わったことだしさ。元気出そうよ?」
「そうだよー。みんな、ダンス自体はバッチシだったよー!」
「ホントですか!? 頑張って皆さんについていった甲斐がありました!」
「宇佐美ちゃんもジムに通ってから体力ついてたもんね。よく頑張ったよ~」
そうだよ、みんな頑張ったんだし、それでいいじゃない。
私はもう出場する競技は無いし、応援しつつお酒を楽しむぞー!!
「なぁウル君、元気だせって。後で俺が撮ったムービーをコピーして渡してやるからさ」
「……本当ですか!?」
「「「「カメラは没収です!!」」」」




