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廃棄寸前な私は社畜メシでマリアージュを探す〜ざまぁよりうまぁを添えて〜  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!
第9章 ビールの注ぎ方は知っていても、遠慮は知らないんですね(笑)
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第59話 弁当×面倒

「もう機嫌(きげん)を直してよ、しーちゃん……」

「ふんっ」


 牛尾(うしお)ちゃんの()れるお胸様に夢中になっていた男なんて知らないもんね。

 獅童(しどう)なんてついこの間、私に告白して来た(くせ)に他の女の子に見惚(みほ)れちゃうなんて。


「だから誤解ですってシア先輩(せんぱい)~」

「……(うそ)つき」


 私だって好きでこんな絶壁(ぜっぺき)してるんじゃないやい。

 いくら食べても、私の栄養は身長にしか使われないんだから仕方ないじゃないか。


「仕方ない、ここは最終手段だ」

「そうっすね、もうアレしかないっすね」


 ……ん? 最終手段?

 なんだろう。土下座かな??


 コソコソと相談を始めた2人は同時にコクリと(うなず)くと、小走りでどこかに行ってしまった。


「なに? ()げたワケ? 上等じゃない。追いかけっこなら私だって負けないんだから」


 さっきリレーを走ったばかりだけど、もう回復したからイケるぞ私は。

 こうなったら、まな板の良さを骨の(ずい)まで理解させてあげようじゃないの。


 と、思っていたら、2人は別々の方向から(もど)ってきた。

 しかも獅童もモッチーも両手に大荷物を持って。


「おまたせ、しーちゃん」

「ふぃ~、結構重かった……ってどうしたっすか? そんな顔をして」


「いや、どうしたのはこっちのセリフよ。どうしたの、その大量の立派な箱は」


 2人は大きな袋に入った大量の箱たちを、地面に()いてあるビニールシートの上にドサリと置いた。


 いや、見た目はお弁当って分かるけど、去年までの安っぽいプラスチックの容器に入った日の丸弁当とは(おもむき)(ちが)う。

 普通(ふつう)のコンビニとかで売っているやつじゃなくて、専門のお弁当屋さんで作っているようなそこそこお高いやつだ。


 獅童はその一つを取ると、(はし)とお茶のペットボトルを()えて私に手渡(てわた)してくれた。



 なぜ、今年はお弁当が豪華(ごうか)に……?

 って疑問に思っていてもしょうがないので、さっそく箱を開けてみる。


「おおぉ~、今年は随分(ずいぶん)と奮発したなぁ」

「すごいっすよね、コレ。なんでも理事長に孫が生まれたらしくって、それに喜んだ理事長がお祝いを()ねて豪華なお弁当を提供してくれたらしいっす。それも、ポケットマネーで!」


 マジか。どれだけ金持ちなのよ理事長……。

 是非(ぜひ)とも来年も(よろ)しくお願いします。


「で? その豪華になったお弁当より贅沢(ぜいたく)なものを食べている人間が私の目の前に居るわけですが」

「んっ? あぁ、(おれ)のことか? もちろん、みんなでシェアするよ。今回は部外者なのに無理言って招待して(もら)ったんだしな。お礼も兼ねて、俺のオススメのお店にテイクアウトをお願いして持ってきたんだよ」


 そうは言っても、コレはちょっと……。

 地面に敷いてあるシートの上には、重箱に入った料理の数々。

 それもどれも手の()んだ煮物(にもの)揚げ物(あげもの)、和風から洋風、果ては中華(ちゅうか)まで盛りだくさんだ。

 ……季節外れのおせちかっての。


「しーちゃんはどれでも好きなのを食っていいぜ?」

「う、うん。でもなんだか、サバンナに放り込(ほうりこ)まれたシマウマになった気分なんだけど」


 ここは院内のスタッフが集まるスペースだ。

 つまり、他の同僚(どうりょう)たちがいるわけで……


「飯野ちゃん! 当然私にもお裾分けしてくれるわよね!?」

「あらァ? 副部長! この筑前(ちくぜん)()、ビールにとってもあうわァ~!」

「エビフライは私がいただく」

「美味しそうね、烏丸ちゃん! 私も院内の安全管理を代表する者として、味見しなくっちゃ♪」


 こ、この人《上司》たちは……!!


「あ、あの……? しーちゃん、俺はどうしたら……?」

「ダメですぅ~!! これはモッチーが私にって買ってきたんだから、ぜぇんぶ私のですぅ~!!」


 ハイエナなんかに私の豪華お弁当を(ゆず)ってたまるか!!

 貴様らにサバンナの(おきて)(たた)きこんでやろう!!


「おい……俺の分も……ってダメだこりゃ」

「モッチー先輩、(ぼく)のお弁当分けてあげますから……」


「んん~っ、他人が買ったご飯っておいしいよね~!!」



 ひときわ豪華そうなお弁当箱の中には、手のひら大の煮込(にこ)みハンバーグが入っていた。

 私はそれを(だれ)にも(うば)われないように(うで)の中に(いだ)きながら、ハイエナ共から(はな)れる。

 ちなみに病院支給のお弁当には2色そぼろ飯が入っていたから、ご飯の確保もオッケーだ。



「熱々じゃないハンバーグって絶対美味しくない(はず)なのに、なぜかお弁当のハンバーグは冷めていても美味しいんだよね~!」


 我が飯野家では、小さい(ころ)のお弁当にハンバーグは定番だった。

 お父さんやお(じい)ちゃんはお母さんたちが作ったお弁当にハンバーグが入っていると、いつもニコニコ顔で出勤して行っていたぐらいだ。

 ちなみに私は食事制限があったので、ミートボールみたいな小さなやつだったけど、それでも御馳走(ごちそう)だった思い出がある。



「今はたくさん食べられる幸せ……ふふふ、最高じゃあないですかぁ」


 箸でも自然に切れるくらいのしっとりと(やわ)らかい煮込みハンバーグ。

 マッシュルーム入りのブラウンのデミグラスソースがしっかりと染み込(しみこ)んでいる。


 それをひと口(ふく)み、もぐもぐもぐと咀嚼(そしゃく)していく。


「んんん~。美味しっ! 冷めてると味が()く感じる気がする! ってかお肉の美味しさが(すご)いな!?」


 たぶん、凄く良い挽き肉(ひきにく)を使っているではなかろうか。

 (くさ)みなんかもないし、肉の(あま)みすら感じられる気がする。

 デミグラスソースも赤ワインで風味づけられていて、上品な味わいだ。


「そしてこのそぼろご飯も丁度いい味付け!!」


 モッチーが持参したのとは別に病院で用意したものなので、別にこのハンバーグに合わせたご飯ではないけれど、不思議と合う。


 卵のシンプルな(あま)さとも合うし、同じ挽き肉をつかった肉そぼろも味を邪魔(じゃま)することも無い。

 むしろ味の濃淡(のうたん)で丁度いいバランスを取ってくれている。


 思わぬマリアージュに舌鼓(したつづみ)を打っていると、視界の先で変なものが高速で移動しているのが目に入った。


「なぁ」

「ぶふぉっ!? ゴホッゴホッ!!」


 唐突(とうとつ)に来て話し掛けられたもんだから、そぼろが気管に入ってむせてしまった。


「……大丈夫(だいじょうぶ)か?」

「ごふっ、ごほっ……だ、大丈夫です根津(ねづ)課長。ど、どうしたんです? 急に……」


 根津課長は苦しそうにしている私を見て申し訳なさそうにしながらも、「靴下(くつした)……」と言った。


「えっ? 靴下……?」

「貸してくれ」

「ええっ!?」


 要領を(つか)めず、戸惑(とまど)う私に根津課長は私に文字が書かれた小さな紙を手渡した。



「『異性の靴下を片方』……って、あぁ。借り物競争だったんですね。そういえば課長が出場するって言ってたな」

「すまん、一番声を()けやすかったのが飯野だった」


 たしかに、他の部署の女性にいきなり靴下が欲しいって言うのは無理難題だ。

 薬剤部の女性陣は今、モッチーの持ってきたご飯をツマミにお酒をガブガブ飲んでいる。

 だからアチラには声を掛けづらかったのだろうね……。


 ていうか、誰だよ課長を借り物競争なんかに出場させたの。


「はい……ばっちいですけど……どうぞ」

「重ね重ね、すまん……」


 いや、根津課長は全く悪くない。

 ていうか運営側もこんなセクハラ(まが)いなお題を出すなよ……。


 会釈(えしゃく)をするようにお礼を言ったジャージ姿の根津課長は、見事な走りのフォームを見せて競技場へと帰っていった。

 っていうか足早いな!?

 いつも部屋にこもって仕事をしているとは思えないほどのアスリートっぷりだった。


「本当に(なぞ)に包まれているな、根津課長……」


 薬剤部で一番ミステリアスなのは彼かもしれない。

 双璧(そうへき)となる烏丸(からすま)課長とどっちがより変人なんだろうと考えながら、私は食べ終わったハンバーグの容器を片付ける。


 そして次なる獲物(えもの)捕獲(ほかく)するために、己の戦場へ意気揚々と戻るのであった。

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