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廃棄寸前な私は社畜メシでマリアージュを探す〜ざまぁよりうまぁを添えて〜  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!
第9章 ビールの注ぎ方は知っていても、遠慮は知らないんですね(笑)
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第57話 始まり×恥じらい

 私が初恋(はつこい)を完全に心の中の宝石箱に封印(ふういん)してから、だいたい半月ぐらいが経った。

 大路先生の事はもう良い思い出として、大切な宝物になっている。


 私の命を救ってくれた恩人。

 死んだお父さんの代わりに私の家族を支えてくれた義父。

 恋心(こいごころ)を教えてくれた(あこが)れの人。


 ――私の初恋の人って、こんなに重い人だったっけ!?

 う~ん、この後に新しい恋を見つけられるのかな、私……。



 まぁそれはともかく、だ。

 私は今、神饌しんせん町にある運動公園の競技場に来ている。

 理由はもちろん――



『本日は晴天に(めぐ)まれ、こうしてやる気に満ちた(みな)さんの熱意によって大運動会を開催(かいさい)することが――』


 会場の中心にある壇上だんじょうの上で、病院グループの理事長が運動会の開幕挨拶(あいさつ)おこなっている。


 そう、ついに待ちに待った運動会の開幕の火蓋(ひぶた)が切られたのである――!!


「やる気に満ちているのってかなり一部分の人だと思うんだけどなー」

「紫愛さん、どこで誰が聞いているのか分からないんですから、あまりそういったことは……」


 いやぁ、だってねぇ?

 この1か月ぐらいの期間で必死にチアダンスを練習して来たけれど、ぶっちゃけて言えば全部サービス残業みたいなものだからね?

 今日だって休みの日なのに、まるで自分たちが運動会を熱望していたかのような言い方をされると……ちょっと心がモニョる。


「んん~っ! 待ってましたってカンジだよなぁ! 本当に素晴らしいイベントだ!」


 いや、1人だけメッチャ楽しみにしていた人が居たわ。


「モッチー、なんで貴方が一番テンション高いのよ。ていうか、完全に部外者でしょうが」

「そんな冷たいこと言うなって。この日の(ため)に、カメラから晴れる祈祷(きとう)までありとあらゆる準備をしてきたんだぜ?」


 そういって新品ピカピカのデジタルカメラをジャジャーンと見せつけてくるモッチー。

 お前はクリスマスプレゼントを(もら)った子どもか。

 まったく……私のジムトレーナーって理由だけで、わざわざ上司に誘う許可を求めた私の恥ずかしさと苦労を分かっているの!?


 ていうか祈祷ってなにしてるの!?

 それに……まさかそのカメラで、()ずかしい姿の私を()るんじゃないでしょうね!?



 ちなみに今回の私の出番は、病院対抗(たいこう)のリレーとお昼タイムの後にあるチアリーディングだ。

 牛尾(うしお)ちゃんはパン食い競争、兎月(うづき)ちゃんは短距離走。

 そして宇佐美(うさみ)ちゃんは二人三脚(ににんさんきゃく)に出場するらしい。


「ちょっとぉ、紫愛ちゃん! 私のお(しゃく)で飲めないっていうの~?」

辰巳(たつみ)師長……なんで貴女が薬剤部のスペースに居るんですか。それに私は競技出場者なので、お酒は飲めません。……飲みたいけど」


 各病院ごとで仕切られたエリアにはブルーのレジャーシートが敷き詰(しきつ)められ、その中で更に部署ごとに固まっている。

 職場の人たちで集まっているとはいえ、今日は休日なので競技に出ない人たちは師長みたいに朝からお酒を飲んでお祭り騒ぎだ。

 正直私もそっちサイドでワイワイ(さわ)ぎたかったんだけどなぁ。


「飯野ちゃんがこっち側に来るのは、まだ10年は早いわよ~?」

「そうよォ? アタシたちみたいな《《か弱い》》人間ならまだしも、紫愛ちゃんは若いんだから頑張(がんば)りなさァい」

「もぐもぐもぐ。私は運動には向かないから、応援(おうえん)担当。ごくごくごく」


 龍鳳寺(りゅうほうじ)副部長や猿谷(さるや)主任、烏丸(からすま)係長の三大巨頭(きょとう)の面々はすでに持参したオツマミを食べながら、看護部の辰巳師長と一緒(いっしょ)に仲良く談笑している。

 どうやら4人は、この間の猪田(いのだ)先輩(せんぱい)の件で仲良くなったらしい。


「シア先輩、もうこれは僕たち若手の宿命っすよ……諦めて競技頑張りましょう?」

「俺もシーちゃんの応援するぜ~」

「そうだね、獅童(しどう)、モッチー。適当にこなして、さっさと私たちも楽しもうか」


 若手って言っても、薬剤部の中ではここ数年は私がずっと競技に出場させられてきたのだ。

 他の新人はとっくに職場自体を辞めちゃっているし、猪田先輩なんて運動会に来たことすらない。


「大丈夫よォ! もし怪我をしたってここには山ほどの医療スタッフがいるんだからァ」

「そうよ~! 私が自ら紫愛ちゃんを手厚く看護してあげるわ~!!」

「「「「あはははは!!」」」」


 ――この酔っ払いどもめが~!!

 こっちは激しいチアダンスのレッスンに加えて、露出の多いコスチュームを着るためにジムでハードなトレーニングを重ねてきたって言うのにっ!



「せ、先輩。落ち着いてください!」

「大丈夫。大丈夫だよ獅童。ふふっ……ふふふふ」

「こ、怖い……僕、ちょっと飲み物取ってきます!」


 なんだよぉ、逃げることないじゃないか獅童くぅん……。


「まったく、獅童のヘタレめ」

「いやぁ、ウル君の反応がフツーだと思うぜ……?」

「えぇ~、そうかなぁ?」


 私は酔っ払って盛り上がっている上司たちと、脱兎のごとく走っていく獅童を交互に見ながら「私ってすっごいマトモだなぁ」と自画自賛をしていた。



 ◇


 そうして10月の暑い日差しの中で行われる競技はつつがなく進んでいき、私のリレーの順番がやって来た。


 ちなみに最初の方の競技だった短距離走では、兎月ちゃんがぶっちぎりで1位をとって会場を()かせていた。

 そして二人三脚では、宇佐美ちゃんのパートナーがなんと薬剤部のエースである獅童だった。


 宇佐美ちゃんは転勤組だけど《《いちおう》》新人枠ということで、同じく新人である獅童とのペアになったらしい。

 お互いに異性に慣れていないのか、恥ずかしそうに肩を組んでいたのがなんとも微笑(ほほえ)ましかった。

 しかし、定番のネタというものはやはり起こるもので、足を取られた宇佐美ちゃんがバランスを崩して転倒してしまった。

 そこをウチの獅童が、倒れる宇佐美ちゃんの下になって咄嗟(とっさ)(かば)ったのは良いのだが……


「アレはドッキドキの展開でしたね!! 獅童君もやるじゃないですか! ……ベタですが」

「うーん、まぁ獅童らしいっちゃらしいけど。あんなベッタベタになるとはねぇ」


 牛尾ちゃんはキャアキャア騒いでいるけれど、事故とは言えあの2人は大観衆の前で抱き合うような姿を晒す羽目になってしまった。

 私は宇佐美ちゃんの立場だったら、恥ずかしすぎてもう帰っているところだ。


「紫愛っち……本当は宇佐美ちゃんに嫉妬(しっと)しているんじゃないのー?」

「しっ!? 嫉妬ぉ!? ないないない! 絶対にないから!!」


 まさかそんな趣味(しゅみ)は私には無いよ。

 まるで王子様に助けて貰ったかのような宇佐美ちゃんが、ちょっと満更(まんざら)そうでもない顔でニヤケていたのが少し気になっただけ。


「さて、私は自分のリレーを頑張るから。応援よろしくね!?」

「ふぅ。紫愛さんは仕方がないですねぇ」

「頑張れー、紫愛っち! ちゃんと素直になるんだよー?」


 アナウンス係に呼ばれた私は運動場のトラックに移動する。

 って、兎月ちゃんは何の応援だったの?

 リレーの話だよね!?


 ――そんな余計なことを待機場所で考えているうちに、パァンというスタートを知らせる音が会場に鳴り響いた。


「おっと、ボーっとしている場合じゃないよね。しっかりとチームに貢献しなくっちゃ!」



 ――さぁ、飲み食いの為に鍛え上げた私の走りを御覧に入れましょう!

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