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第46話 天国×地獄

「ま、私が出来ることなんてメシをおごるぐらいなんですけどね!!」


 既に酔っ払いが騒いでいる一画いっかくや、ジュウジュウと美味しそうな音を立てているテーブルがそこかしこにあふれている店内。

 活気が良く、そこにいる誰しもが楽しそうにしているパラダイス。

 そう、ここは……。


「さぁ、どんどん肉を焼くわよー!!」

「「「「「おぉー!!」」」」」

「いや、別に僕はいいっすけどね。美味しいメシを好きな人……たちと食えるんなら」


 正解はもちろん、みなさん大好き焼肉屋さんだー!!


 たまたまみんなが夜勤や仕事の都合がついた金曜日の夜。

 夏バテを乗り越えるためにも英気えいきを養おうということで、食いしん坊たちがここに集結した。


 メンバーは薬剤師の私と獅童しどう、看護師の牛尾うしおちゃんにリハ科の兎月うづきちゃん。

 それと検査科の宇佐美うさみちゃんにジムトレーナーのモッチーという総勢6名が、アッツアツに熱せられた網を前にスタンバイしている。


「まぁまぁ、紫愛さんが可愛い後輩である獅童さんにお礼がしたいって言っているんですから」

「そうだよー。女の子からご飯のお誘いだよー? ありがたく思ってー?」

「ですです。私なんて誰にもお誘い頂けないのに……」

「そうなん? 宇佐美さんも結構モテそうだけど」

「モッチー先輩、彼女の過去には触れないであげてください……」



 ワイワイと騒ぎながら、それぞれが食べたいものを注文をしていく。

 私は塩系統から食べるのが好きなので、それらが書かれているメニューを片っ端から選んだ。


「えっとー、塩タンでしょー。あとはネギ塩カルビは外せないから~」

「あっ、私も塩タン食べたいです」

「アンは塩キャベツ! 大盛で!!」

「私は焼酎の水割りで……」

「俺はキムチ盛り合わせで」

「僕はそれらを分けてもらえれば……」

「「「「「分けないよ?」」」」」

「えぇぇえぇ……」


 獅童は何を言っているのだ。

 自分の肉は自分の肉。他人の肉は他人の肉、でしょう?

 そんなこと、子どもでも知ってるぞー?


 納得がいかない顔をしている獅童は無視され、粗方あらかた注文が終わった。

 そしてそう待たずに、最初に頼んでおいたドリンクが運ばれてきた。

 今回は友達だけなので、各々が好きな飲み物を頼んでいる。



「――それでは、みなさん。飲み物は行きわたりましたか?」

「「「「「はーい」」」」」

「よし! では長ったらしい挨拶は抜きで!」

「「「「「応!」」」」」

「素晴らしき肉と酒、そして友に! 乾杯~!!」

「「「「「乾杯!!」」」」」


 お互いにジョッキをぶつけ合い、うたげのゴングを鳴らす。

 さぁ、楽しい肉祭りの開始だ!!



 ◇


「だからさぁ、それ私の肉だって言ってんじゃん!!」

「うえぇっ!? そうでしたっけ? すみませんシア先輩」

「ちょっと、獅童君の肉が私の境界線超えてますよ」

「アンの境界線にも被ったからコレはもうアンのお肉~♪」

「あ、店員さん! 焼酎水割りのお代わりくださ~い」

「キムチうめー」

「僕、もうヤダこの人達……!!」


 なにを情けないことを言っているのだ獅童は。

 ここは肉と血が舞う戦場ぞ!?

 切り刻まれた肉が炎に焼かれ、辺りには煙が立ち込める光景はまさに地獄!

 いや……この戦いが好きな者にとっては、これこそが天国やも知れぬ……。


「んんーっ、塩タンがコリッコリしてるぅ~!!」

「この食感はタンでしか味わえないですよね。この肉と塩の旨味がまたビールと合います」

「ああっ、ウサミー! ソレはアンが育てた塩カルビだよー!」

「もぐもぐもぐ。す、すみませーん! もぐもごもご……」

「カクテキうめー」

「僕のご飯大盛……来ない……」


 牛尾ちゃんの言う通り、このタンの歯ごたえの良さとネギのシャキシャキが口の中で賑やかにリズムをとっている。

 そして肉の甘み、塩、ネギの辛味とレモンの酸味。そしてビールの苦みという味覚のハーモニーが見事な調和をとって、私という指揮者を喜ばせてくれる。


 そして最後にご飯をかきこむ!!

 そう、ご飯というオーディエンスが揃ってこそ、このオーケストラは完成するのだ……!!


 ――って私、ご飯頼んだっけ? まぁ、いっか!

 次はカルビいってみよー!!


「僕のごはん……どこ……」



 ◇


 さぁさぁ、いよいよカルビたんの登場ですよ!!

 色ヨシ、脂の入り加減ヨシ!

 厚すぎず、大きすぎない程よい大きさにカットされたカルビのタレが、満を持してやって参りました。

 それを一枚一枚、丁寧に網の上に優しく置いていく。


 ――じゅわぁああぁ……。


 キメ細やかな肉質の合間に閉じ込められていた脂が、炭の熱で溶かされてボタボタと網の下へと落ちていく。

 醤油ベースのタレと合わさった肉汁が炭の上に落ちると、瞬時に蒸気となって私たちの前に帰ってくる。


 それはまるで脂をのせて戻ってくる鰹のよう。

 もうそれだけでご飯が食べられるほどに芳しい香り。

 あぁ、早くカルビたんを口の中にお迎えしたい……。



「みんな、焼き加減は各々で見ること。人の肉には一切の手出し無用だよ!」

「紫愛さん、了解です!」

「たとえ焦げたとしても自己責任! アンの事は関知無用!!」

「事前にお手洗いは済ませました」

「オイキムチも食べた」

「白米……美味しい……」


 だいたい焼肉に行くと焼肉奉行(ぶぎょう)様が湧いて出てくるが、残念ながら私たちの前には不要な存在だ!

 それがたとえ善意だったとしても、好みの焼き加減は人それぞれなので、押し付けは逆に迷惑なのである。


 それが私が育った飯野いいの家の焼肉家訓(かくん)

 絶対の鉄のおきてなのである……!!


「まぁ上司が居るとか、時と場合によるけどね~」

「楽しくワイワイ食べられれば、私は別にどちらでも」

「肉が奪われなければアンも別にいっかなー」

「私も焼酎水割りが許されるなら……」


 飲み会、宴会はみんなが楽しく飲食出来ればだいたいは許されるもんだしね。

 だいたい迷惑だと言われているのは、自分ルールや空気をぶち壊す言動なんだろうし。


 ってそんなことをやっている間に、お肉の第一陣が焼けてきた。

 私は割とレアめが好きなので、両面に焼き色がついて軽く煙が上がってきた頃に取り上げている。


「……今っ!!」


 トングを使って肉をサッ、サッと裏返していく。

 うん。綺麗に網目状に焼き色がついていて、焦げ具合も丁度いい感じだ。

 あとは軽く火が通ったら完成!!


「しーちゃんって、焼肉に並々ならぬこだわりをもってるよな……」

「もしかして、シア先輩がこの中で実は一番肉奉行なんじゃ「ん? 獅童くぅん、なにか言ったかなぁ?」……何でもないです」


 別に人に迷惑も強制もしていないんだからいいじゃないか、まったく。


 それでは……カルビたんよ、私の中においで!!






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