第44話 強引×放任
1か月もジムをサボっていたら、専属インストラクターであるモッチーにダメ出しをされました。
更には、どれだけ体力が落ちたのか測定をするように言われてしまい……。
「はい、次もどんどん行くよー」
「ちょっ、待ってよ~。今日は仕事終わってからチアダンスまでやってたんだよ!?」
「おぉ~頑張ってんな。って、チア? しーちゃんが??」
「うん、来月に職場の運動会があってね~」
同じ系列の病院同士ではあるんだけど、運動会ではそれぞれの施設が本気で競い合うから凄い疲れるんだよね……しかも休日にもかかわらず、職員は強制参加だ。
だから中途半端なダンスも許されない。
今もダンス指導の担当になった兎月ちゃんは、ジムのダンス講習に参加して勉強している。
「じゃあしーちゃんもチアのコスプレするってこと!?」
「コスプレって言うな!! ……そうだよー。だから体力向上とシェイプアップをしないとヤバいの!」
だからモッチーには全力で私のバックアップをして貰わないと困る。
だらしのない贅肉がはみ出たコスチュームで、全職員の前でダンスするなんて恥ずかしすぎるよ……。
「これは……俺も本気で支援しないとだな。なぁ、シーちゃん。その運動会って俺も見学できるのか?」
「え……? いや、レンタル出来る運動場でやるから一般の人は……」
「でも俺はしーちゃんの専属だし!!」
なんでこの男はここまで喰い気味で大人の運動会なんかに来たがるのだ?
小学生の子どもを応援する父親じゃないんだから……。
ていうか私の無様な姿を見たいっていうなら本気で止めるぞ!?
「あ、でもシーさんの身内ってことなら大丈夫なんじゃないです?」
「本当ですか宇佐美さん!? よし、なら俺もイケるな!」
「よし! じゃないわよ。宇佐美ちゃんも余計な事言わないの! だいたい、なんでモッチーが私の身内なのよ……」
いくらプライベートでも付き合いがあったり、私の健康バランスのサポートをしてくれているからと言っても、身内じゃなくてせいぜいが友人止まりでしょうに。
どうしても行きたがるモッチーと、大胸筋を鍛えるチェストプレスをしながらどうにかして来るのを止めさせようとする私。
そして無関係そうな顔で隣のレッグプレスをしているイケオジマッチョを食い入るように見ている宇佐美ちゃん。
誰かこの変人たちをどうにかして……!!
その後も私がレッグプレスと腹筋の測定が終わるまで説得を試みたけど、結局友人枠として来ることになってしまった。
なんだかいつもと違って、モッチーの目が本気過ぎて怖かった。
一方の宇佐美ちゃんは彼が来てくれることに歓喜していたけれど。
「んー。まぁこれぐらいだったら、元のメニューまですぐに戻せそうだな」
「はぁーっ、はぁーっ。つ、疲れたぁ……!!」
「シーさん、凄いです~。腹筋とかもうすぐで割れそうだったじゃないですかぁ! ナイス筋肉!!」
私なんてタプタプですよぉとか言いながら、着ていたTシャツをめくってお腹を見せてくる宇佐美ちゃん。
いや、普通に見てもタプタプなんかしていないじゃない……。
っていうか服をたくし上げている所為で宇佐美ちゃんの胸がググッと押し上げられてるよっ!?
まるでグラビアみたいなポージングをするから、その盛り上がりが強調されている。
……くっ、あざとい!!
「ふむ……背筋とのバランスは悪くなさそうだな。腕にも中々の筋肉がついている。宇佐美さんはお仕事は何を?」
――だがモッチーには無効だ!
宇佐美ちゃんのお色気は不発に終わり、その代わりに彼女の全身の筋肉に興味を持ち始めた筋肉馬鹿。
検査技師は重たい機械を持ち運んだりするから、結構鍛えられているんだよね。
「ふええぇっ!? え、えっとぉ」
「あ、宇佐美ちゃん。この望月という男は誰よりも筋肉フェチだから、フツーの色気じゃ釣れないよ……」
「筋肉……フェチ……」
「だからコイツ目的でジムに入るのは……「素敵です!! 私、筋肉ガッチガチな人達が出入りする家で育ったので、筋肉に囲まれて育ちました! だから筋肉が大好きで大好きで……!!」
目をキラキラと輝かせながら、モッチーに筋肉への熱意を語る宇佐美ちゃん。
何が原因か分からないけど、また変なスイッチが入っちゃった!?
ていうか筋肉が出入りする家ってなに!?
実はアスリート一家だったとか?
「あまり人には言えない家業なんですけど……昔はよく筋肉を愛でさせてもらっていたので……」
「宇佐美さん! 是非我がジムに入会しましょう! そして宇佐美さん自身も素敵な筋肉を身に着け、思う存分愛でましょう!!」
「望月さんっ!!」
「え? なにこれ??」
2人はガシっと力強く手を握り合って、良く分からない会話で盛り上がっている。
宇佐美ちゃんなんて顔を真っ赤にして興奮しているし……私はなんだか蚊帳の外だ。
「ねぇ、喋ってないでさ。見学するなら兎月ちゃんがやってるダンスの講座見に行かない?」
「……え? あ、あぁ。そうだったな。じゃああっちのダンスルームに行こうか」
「まったく。私よりも貴方の方が弛んでるんじゃない?」
気の弛みは筋肉の弛みよ。
まったく……そんなので私の面倒を見てくれるのかしら。
私はタオルで全身の汗を拭うと、兎月ちゃんが居るであろうスタスタとダンスルームに向かって行った。




