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第40話 地味×嫌味

 焼きとり屋『No慚愧You(ノーザンギョウ)』にて始まったお疲れ会。

 みんなが程よくアルコールが回った頃、宇佐美うさみさんの口から爆弾発言が飛び出した。


「実習中に何度か食事に誘われて……当時の私も浮かれてしまって。そのままの流れで、私は猪田さんと付き合うことになったんです」


 ウェーブの掛かった髪を手で撫でながら、アセアセと話す宇佐美さん。

 まさか……この大人しそうな彼女が、私よりも先に彼氏を……!?


「紫愛さん、お気持ちは分かりますけど、今は抑えて……」


 おっと、私と同じく彼氏が居ない牛尾ちゃんにいさめられてしまった。

 同志からの諫言かんげんは大人しく聞かなくっちゃね。


「んんっ、ごめんっ! えっと、それじゃあ学生時代から宇佐美さんは猪田いのだ先輩とずっと付き合っていたの?」


 そんな人を私の策略ではないとはいえ、結果的におとしいれてしまったのはちょっとマズかったかな……?

 でも宇佐美さんはあの惨状を見てスッキリしたって言っていたよね?

 今も楽しそうにしながら、お代わりした焼酎の水割りをジョッキでカポカポと飲んでいるし。

 ……っていうかお酒のチョイスが中々(しぶ)いな!?


「はい。2年ほど、でしょうか。実習が終わってからも、お互いの都合がつく日にデートをしていたのですが……私の両親がそろそろその彼氏さんを紹介しろと言い出しまして」

「おおぅ。それはまぁ、ご両親としては娘の彼氏がどんな人か知りたいよねぇ」

「それでそれで? ウサミーとイノブタ野郎はどうしたんですー?」

「それが……」


 どうやら宇佐美さんも両親の意見はもっともだと思い、さっそく猪田先輩に相談したらしい。

 そもそも宇佐美さん的には最初から結婚前提のお付き合いだと思っていたらしいし、当時既に2人とも社会人として別の病院で働き始めていたので、このタイミングで恋人から婚約者にランクアップしたいと話したというワケか。


「そうしたら、彼……猪田さんから『お前みたいな検査技師より、ボクと同じ薬剤師以上の奴としか結婚するつもりはない。それに、ボクに釣り合いそうな奴を見つけたから』と一方的に別れを告げられてしまって……」


 黒く綺麗な瞳が、深淵の様な底の見えない黒一色に染まっていく宇佐美さん。

 初めてできた恋人……それも幸せな結婚を夢見て交際を続けた、最愛の人に裏切られてしまった。

 そんな彼女は今、手に持っていたジョッキをメキメキと握り潰しそうとしている。


「お、落ち着いて宇佐美さん! 気持ちは分かるから!! ……彼氏は居たことないけど」

「宇佐美さん、私のレバー串あげますから、ほら食べて! あと紫愛さんはさり気なく自虐なんて入れないでくださいっ」

「ウサミー、次! 次何飲むっ!? ほら、ジョッキはもう空だからさっ? その手は一旦離そうよー!?」


 ヒビが入りそうなジョッキを女3人がかりでどうにか彼女の手からぎ取って、その代わりにレバー串を握らせる。

 串ごと食い千切りそうな宇佐美さんをどうにかなだめつつ、ひとまず落ち着いて話の続きをするように促してあげた。


「私、あまりにもショックで……それからはもう、恋愛は考えないようにしてひたすら仕事に打ち込むようになったんです。それで数年経ったし、心機一転も兼ねてあの人を見返そうと思って転職して来たんですけど……」

「アイツはあんな調子だったと」

「はい……しかもどうやら私の事はすっかり忘れていたみたいで、入職して半年近く経っても全く気付かれませんでした。後から調べて知ったんですが、彼には私以外にも彼女さんが複数居たみたいでしたし、どうせ私なんか遊びだったんですよ。ちょっと外見が変わった程度で私の事は分からなかったようですし……」


 そういって宇佐美さんは自分のスマホを取り出して操作をすると、画面をコチラに見せてきた。

 そこに映っていたのは……。


「え? 誰この日本人形……?」

「かわ、いいですね。ちょっと……いえ、かなり真面目で清楚な気はしますが」

「あははは、ウサミーは地味だったんだねー」

「ちょっと、兎月ちゃん!」

「いや、紫愛さんの日本人形って例えも中々……」


 え? 日本人形って可愛くない?

 確かに写真の中の宇佐美さんは、陰湿でどんよりとした空気がただっていそうなくらいの地味女だけどさ。

 いいじゃない、それでも彼氏がいたんだから。

 それに今はイメチェンしてこんなにも可愛くなっているんだし。

 ……そう考えると、なんだかムカついてきたな?


「あはは、いいんです。私でも地味で不気味だと思いますし。でも、彼は純粋そうなところが好きって言ってくれてたんですけどね……ははは」

「……なんかあの人に対する仕打ち、足りなかった気がしてきた」

「奇遇ですね、紫愛さん。私もですよ」

「アンもー。いっそのこと、院長にあの腐った根性を叩き直してもらった方がいいですよー」


 まったく、恋人に理想を押し付けておいて、飽きたら直ぐにポイ捨てなんてクズ過ぎる。

 どうせイノブタの言う《《釣り合う女》》だって、清純さの欠片も無いチャラい女だったんだろうな。

 せいぜい、その女と一緒に地獄にでも落ちるがいいさ。


「……でも、猪田先輩って別に彼女が出来たようなこと、言ってなかったと思うよ? いたら絶対に自慢するようなタイプだったし」

「たしかに、自己顕示(けんじ)欲が高そうですよね」

「うげー。本当にチャラい人だなー。どうせその女の人だって、イノブタと同類で遊びまくってる人なんじゃないかなー?」


 あー、分かるわかるぅー。

 しっかし、アレと同じレベルって相当酷い女だな~。

 絶対に友達とかにしたくないタイプだわ。

 私はマトモな友達に囲まれていて良かった~。


 3人の友人を眺めながら、私はウンウンと頷きながらお酒をグビっと飲んだ。



「それがどうも……お相手はこの病院の薬剤師さんだったみたいで……」

「「「えっ……?」」」

「『俺が担当する新人、俺をキラキラした目で見てるんだよ。やっぱ分かる奴には分かるんだよな』って」

「「……んんっ!?」」

「『アレは俺に惚れてるわ。ちょっと俺が色々と教育して仕込んでやらねーと』とも言ってました」

「ごめん、宇佐美さん。ごめん、ちょっとストップ。し、紫愛さんが……」

「『そこそこ美人だけど、俺並みに背が高ぇ女でさ。男を知らなさそうだから丁度いいわ~』って吐き捨てるように……」

「宇佐美さん、もうその辺で……紫愛さんが撃沈してます……」


 き、聞きたくないワードが……次々と爆撃されていく……。

 嘘でしょう……? 先輩はあの時、そんな風に私のことを……?


「教育……仕込む……」

「紫愛さん! 忘れましょう!! そして何も聞かなかったことに!」

「あぁー、これはちょっと笑えないねー」

「す、すみません。私ったら調子に乗って余計なことを……!」



 あは、あははははは!!

 男を知らなさそうな都合のいい女って、私のことぉ……!?


 ――大将、この店で一番強い酒が……酔えるお酒が欲しいです……!!







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