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第22話 食の女神×白衣の天使

 空腹に耐えながら、深夜まで続く残業から無事に生還しました!!

 ……生還したものの、家にある食材がほぼ尽きていて再び絶望の淵に。


 独り暮らしのマンションに帰宅してから食料の買い忘れに気付いたんだけど、今から買いに戻る気力はもう残っていないよ~。


 もう無気力になった私は、玄関でグデ~っと横になる。

 こんな時に優しい彼氏が居れば、ご飯を出してくれるかもしれないのに……。


「仕方ない。こうなったら家にあるもので間に合わせますか」


 足だけを使って靴を脱ぐと、ナメクジの様に廊下をずるずるとうようにしてキッチンへと移動する。

 1DKのマンションと言っても、私の部屋のキッチンは廊下のわきに設置されている簡単なモノだ。

 そこにある棚を片っ端から開けて、何か残っていないかあさってみる。


「う~ん、目ぼしいモノはあんまり無いなぁ。有ったのは災害用に取っておいたパックのご飯と、缶詰ぐらいかぁ……」


 今からった料理なんて当然作る気も無いし、取り敢えずはこれで十分かな?

 頭の中で今ある材料を使った組み合わせにおける最適解を探す。

 うーん……よし、今晩のメニューはこれにしよう!



「さぁて、いっちょ作りますか! まずはお湯を沸かして~っと」


 最初に取り出したのは、冷蔵庫に常備していた自家製の合わせだし。

 小鍋にこの液体を入れて、コンロにかける。


 その間に、パックご飯をレンジの中へ。

 えてパックのふたに書いてある温め時間より20秒だけ短めにセットして、温めボタンをポチっと押してスタート♪


 後はご飯が温まるまでの時間で、キッチンにある物を使った簡単な調味料を作っておく。

 お母さんが実家で栽培した金ゴマ、市販の醤油とみりん、砂糖を少々。そしてごま油をポタポタと数滴垂らす。

 材料はたったこれだけのお手軽なタレだ。


 そうしている間に鍋は軽くフツフツと沸騰してきたし、レンジの中のご飯も温まったみたい。

 準備はこれで完了、調理時間はたったの5分クッキング!!


「ふふふ、なんて私は料理上手なんでしょう~。あぁ、はやく誰か素敵な旦那様が迎えに来てくれないかなぁ……」


 ――って危ない危ない。空腹と疲労で変な妄想をしちゃってた。

 ご飯が冷めないうちに、さっそく仕上げに取り掛かろう。


 どんぶりにご飯を盛って、その上に非常食の缶詰にあったホタテの貝柱を乗せる。

 更にお茶漬けの素をパラパラと振りかけてっと。

 そして獅童から頂いた、シロギスの昆布締めを軽くあぶったものを形が崩れないように優しく重ねていく。

 練りワサビと自作したタレを乗せたら、仕上げに鍋で温めた出し汁をだぱぁ~っとかけて完成だ!


「よぉっし! 簡単お手軽、あり合わせと頂き物で海鮮お茶漬けが出来たよ……これは今の私に作れる、至高の一品だわ!」


 一人用のローテーブルの上には、ホカホカと湯気の立った温かいお茶漬けが乗っている。

 これだけで今の私には豪華なご飯に見えてくるね……。


「では、冷めないうちに。いただきます!」



 この世の恵みと食の女神様に手を合わせて感謝を捧げると、箸を持って勢いよくかきこんでいく。

 お行儀よくお茶漬けを食べる作法なんて知らないし、今の私にはマナーを気にする余裕も無い。

 ただひたすら、この目の前の御馳走を味わうのみ!!


「んあぁあぁあ!! 美味しい~!! し、み、る、わぁ~」


 心と身体に染み渡るこの感動を、女神様が居るであろう天を向いて雄叫びを上げた。

 ……いちおう、近所迷惑にならないように小声でね。

 でもこれは、是非ともマンションに住む皆さんにお伝えしたい!

 シロギスのお茶漬けは最高に旨いぞー、と。


「えっ、コレ本当に私が作ったお茶漬けなの? 下手すりゃお店で出せるレベルよ??」


 冷静に考えれば、このお茶漬けのメインとも言えるシロギスを調理したのは、その道のプロである小料理屋『喰心房くいしんぼう』の大将だ。

 第一、私がやったのはそれを使ってダシをかけただけだしね。

 ――でも今は、そんな小さなことはどうでもいい。


「昆布締めにすることで旨味がギュッと詰まるのかしら。炙ってあるから皮の風味も良いアクセントになってるわね。それがアツアツの出し汁に熱せられてふわふわ、ホロホロになってて、ご飯と一緒に解けて……あぁ、美味しいぃ~」


 それと忘れてはいけないのが、缶詰のホタテ貝柱。

 この子が魚介の旨味を掛け算の様に、爆発的に増やしてくれている。


 同じ生まれ育った海から一度は離れ離れになった彼らが、茶碗の中のダシの海で運命的な再会をした。

 自分の脳内ではシロギスとホタテがもう離さないと抱き合い、周りではかつおやコンブが拍手喝采。

 そして2人(?)は熱いキスを……。


 私はその感動的なシーンを脳裏に描き、気付けば両の目からツツーっと涙を流していた。


「良かった……良かったねぇ……」


 1人用のローテーブルで、深夜にお茶漬けを食べながら号泣する女。

 もちろん、慰めてくれる相手も、ハンカチを差し出してくれる家族も居ない。

 だけど、私は言い表せない感動を、ご飯を、存分に噛みしめていた。


「ふぅ……御馳走様でした。あとで獅童とモッチーにお礼の連絡をしておこう」


 やっと満たされたお腹をさすりながら、床に寝転がる。

 壁掛け時計に視線を移せば、時刻は既に1時を過ぎていた。


 お風呂は……今日はいいや。メイクだけ落として今日は寝よう。

 もうまぶたが落ちかけた顔と化粧をどうにかスッキリさせて、寝間着に着替えてからベッドに潜る。


「おやすみなさぁい」


 目を閉じて数分後。

 疲労感と満腹感で満たされた私は、あっという間に夢の世界へと旅立っていた……。



 ◇


 そして新しい朝が来た。

 いつも通り5時半に起床し、朝のシャワーを浴びてスッキリ覚醒させる。

 やっぱり朝に浴びるシャワーは気持ちいいね。


 濡れた長い髪をバスタオルで水気を取りながら、下着姿で朝ご飯の準備。

 戸棚に残っていた非常食のビスケットをかじりながら、濃い目のインスタントコーヒーをゆっくりチビチビと飲む。

 今日の朝ご飯のメニューはこんな感じだ。


「ありがとう、牛尾うしおちゃん。ありがたく使わせてもらうよ」


 ポチャン、と漆黒のみずうみにチョコレートをひとつ。

 精霊が金と銀の斧を持ってくることはないけれど、白衣の天使(牛尾ちゃん)が私に甘い微笑ほほえみをもたらしてくれる。

 ちょっとビターな甘さを感じながら、テレビで最近のトレンドをチェック。


「なんだろう、優雅なモーニングって感じ? やるじゃん、ワタシ♪」


 ふふふ~ん、と思わず鼻歌が出てきてしまう。

 なんだか今日はイイ感じな気がするなぁ。

 仕事が早く終わったら、久々にジムにでも寄って更に女子力を高めようっと。


 あ、そうだ。

 お世話になったことだし、お礼がてらモッチーと獅童にも連絡しておくか。

 今日の占いランキングを観ながら、スマホのLIMEを起動する。


 ――ピロン♪


 ……んんっ?

 噂をしていたら獅童から電話!?

 すっごい不穏なんですけど……まさかまた嫌なことが起こる流れなの!?


 ずっと鳴り続けるスマホを放置するわけにもいかないし、仕方なく出るけど……。


「あ、もしもし!? シア先輩ですか?」

「はい……飯野だけど。獅童くん、どうかした?」


 あぁ、なんかもう……この先の流れが読めた気がする。

 どうせまた師長辺りがブチキレてるんでしょう?


「朝出社する時、僕の朝ごはん買ってきてください!!」


 ――ピッ。


 さあっ、今日も頑張って仕事行きますか!





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